信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

文字の大きさ
4 / 166
1章 第六天魔王、異世界に降り立つ

4話 模擬戦

しおりを挟む
 模擬戦が開始された。

 山の上に防衛側として布陣したロー率いる士族たち。

 対して、サブロー率いる奴隷たちは山の下から山を取るための攻撃側である。

 地の利は士族たちにある。

 これもサブローの1つの狙いである。

 能力も上と考えている奴らに地の利まで与えてやって、完膚なきまでに叩きのめされたとあっては、考えを改めるかもしれない。

 これからのオダ郡のことを思えば、彼ら士族の力も当然必要なのだ。

 だがそれは、今のように自惚れて鍛錬を怠る者たちではない。

 そのきっかけとなってくれれば良いと考えていた。

「あの、若様?いつまで肩に乗られているのですか?」

「なんじゃマリー。もしやと思うがワシのことを重いと言っておるのではあるまいな?」

 模擬戦の説明をするだけだと聞いていたマリーは、何故かサブローを肩車させられていた。

「そんな若様が重いだなんてことはありませんよ。でもこんな事が旦那様に知られたら、あわわ」

「マリーよ。先も言ったであろう狼狽えるなと。この全ての責任はワシが取る。安心せい」

「そんな簡単なことではないんですよ?士族と奴隷が揉めただけでもこのオダ郡では死罪を命じられてもおかしくないんですよ。それを模擬戦、しかも若様がやろうとしてるのは、奴隷たちを率いて士族たちをボコボコにするだなんて、最悪若様まで、どんな罰が及ぶか」

 マリーは、自分の心配ではなく変わり者だが奴隷であっても分け隔てなく接し、大切に想ってくれているサブローの心配をしていたのだ。

「ワシの心配とは、な。マリーよ。お前は、良い女子じゃな」

「ななな、何言ってるんですか。もう。本当に知りませんからね」

「安心せい。上手くいけば奴らも父に告げ口などせん」

 サブローには確信があった。

 階級制度において、例え腹が立ったとしても士族の者が奴隷たちにボコボコにやられましたなんて、恥を晒す報告をできるはずがないと。

 誇りが邪魔をして言えないだろうと。

「その自信、若様は本当に変わっておられますよ。本当に旦那様の息子ですか?」

「カッカッカ。それはどういう意味じゃマリーよ。ワシが常識に囚われないうつけと申すか。全くその通りよな。カッカッカ」

 サブローは、日の本にいた時、周囲から空っぽ。

 即ち馬鹿で常識に囚われないうつけと呼ばれていた。

 ここでも、そう言われた気がして、大層気分が良かったのだ。

 そもそも、こんなくだらない階級社会などサブローにとっては糞食らえである。

 サブローにとっては、あえてランクを付けるとするのなら1番上は、子を産み育てることのできる女が1番である。

 その下など皆、似たり寄ったりだ。

「それに人が人を虐げて良い理由など無かろう」

「若様!?それは旦那様の前で絶対に口にしてはなりませんよ。首が飛びますからね」

「カッカッカ」

「笑って誤魔化さないでください。絶対に絶対にダメですからね」

「絶対に絶対はない」

「ダメったらダメなんですからね。お願いだからダメですからね」

 マリーの言葉を受け流しながらサブローは目を閉じ策を講じる。

 その時、まるで空から見ているかのように戦場全体を見渡すことができたのだ。

「なんじゃこれは?」

「どうかなさいましたか若様?」

「いや、何でもない。少し驚いただけじゃ」

 これは使えると思った。

 地の利のある山の上に布陣した士族どもは、兵を12人づつ4部隊に分けて、山の下目掛けて、降りてきていたのである。

 山の上で待ち構えて、我らを討つのが上策。

 それを自ら地の利を捨てているのだ。

 山の上にいるのは、ローとそれを監視するかのように2人がいるだけであった。

 これでは、全く話にならない。

 ゆえにサブローは作戦を変えた。

 降りてくる士族どもを全滅させることにしたのである。

「おい、お主。こっちに来てくれ。全く名前がないというのは不便だな。ワシが名を与えてやろう。ヤスと」

 全くこのガタイの良さとこの真っ黒な色は弥助、そっくりじゃ。

 しかし、そのまま付けるのは、弥助に悪かろう。

 だから此奴はヤスじゃ。

「若様?奴隷に勝手に名前を与えるなんて、全く何を考えているんですか!?そんなことが旦那様に知られたら。あわわわ」

「ええぃ。マリーよ。いちいち、煩いわ。おいお前、おいお前のが混乱するであろうが!」

「領主の御子息様から名前を頂けるとは思いませんでした。大事に頂戴致します」

「硬い硬すぎるわ!ワシはガキじゃ。そんなに畏まらんでも良い。ヤス、お前に1部隊を預ける25人を連れ、左側に回るのじゃ。左右から挟み撃ちにするぞ」

「そんな不遜な態度は取れません。しかし、部隊を分けるのは愚策では?ここは全員で山の上を目指すべきかと」

「ヤスよ。良いからワシに従え。うまく行くはずじゃ」

「はぁ。そこまで言われるのでしたら我々は従いますが」

 その頃、士族どもは12人の部隊を4つに分けて、何処から登ってきても叩き潰すために左右前後から山の下に向かって降りていた。

「しかし、お前も頭が回るよな。監視に2人だけ残して、後は全部、どこから登ってきていても叩き潰せるように部隊を分けるなんてよ」

「当然であろう奴隷どもに遅れをとるわけなどない。12人で50人を倒すことなど容易なことだ。徹底的にぶちのめして、今日のことを領主様に報告すれば、流石にあの変わり者も考えを改めるだろうよ」

「違いねぇや」

「ここはハズレだな」

 そう言って元の位置を戻ろうとした士族どもに襲いかかるヤス。

「御子息様の言う通りとは、ここでお前たちには脱落してもらうぞ」

「林の中に隠れていたってのかよ。ふぐっ」

 被害を失わずに12人の士族を脱落させることに成功したヤスたちはさっきまでと違い勝てるのではないかと自信に満ち溢れていた。

「いける。これはいけるぞ」

 サブローは、山の下にある左右の林に目を付けた。

 ここに25人づつ兵を伏せ。

 片方を自らが名を与えたヤスに率いらせ、奇襲をかけた。

 これが成功して、被害を出さずに12人づつ24人の士族を脱落させた。

 そして次は、前後から山の上に戻ろうとしていた12人の部隊に左右から挟撃を仕掛けて、数の暴力でこれも制圧する。

 残った12人は山の上に戻ることになるがその時には既に36人が脱落しているのである。

「若様は、ひょっとしてとんでもない戦術の才があるのかもしれませんね」

「どうだ見直したかマリーよ。カッカッカ」

「いえ、気のせいですね。きっと」

「なんじゃ。もっと褒めてくれても構わんのだぞ」

 そこにヤスが報告しにくる。

「御子息様、こちらも上手いこと行きました」

 ヤスがドヤ顔の代わりに親指を立ててきたので、こちらも返しておく。

 全く、色んな手指のサインがあるらしく。

 それらを覚えるのも大変だったな。

 これはサムズアップというらしい。

 まぁ、よくやったの代わりである。

「まだ油断してはならんぞヤス。終わっていないからな。我らは完膚なきまでの勝利を手にするのだ。全軍、これより山を取る。ワシに続け」

「動くのは私なんですけどね」

「細かいことを申すなマリーよ。カッカッカ」

 山の上に戻った士族たちはいつまでも戻ってこない部隊のことを奴隷どもを殲滅していると考えて、山の上で、勝利を確信したかのように踏ん反り返っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...