信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

文字の大きさ
30 / 166
2章 オダ郡を一つにまとめる

30話 激昂

しおりを挟む
 クレーバー宰相がルードヴィッヒ14世を制して、サブローの進言を許可する。

「クレーバーよ。余は黙っていれば良いのだな?」

「これは陛下御自身が私に話を通さずに起こしたこと。責任はお取りになるべきでしょう。それとも洗いざらい皇后様にお話ししましょうか?」

「それだけはやめよ。わかった。クレーバーに従おう」

「こうなる前に相談して欲しかったのですが。私は今回の件、全て寝耳に水ですから。どう転ぶか。その全てをハインリッヒ卿次第です」

「うむ。すまなかった。どうなろうと委細の全てをクレーバーに任せる」

「心得ました」

 サブローが退出して、1人の証人を連れてくる前にルードヴィッヒ14世は、クレーバー宰相と小声でこのように話していた。

「ガハハ。やっとワシの出番ですかな殿」

 クレーバーにとっても豪快で馴染み深い声が聞こえてきた。

「まさか証人にキノッコ将軍を連れてくるとは思いませんでしたよハインリッヒ卿」

「宰相を驚かせてしまい申し訳ありません。ですが、マル卿と共に攻めてきたマッシュほど証人に適切な人物は居ないでしょう」

 クレーバー宰相とサブローのやり取りを見て、マッシュに罵声を浴びせるデイルとドレッド。

「これはこれは、陛下の勅令を無視して、誇りを無くして反逆者に加担したキノッコ将軍ではないですか。ヒヒッ」

「ナバル郡の他の仲間を見殺しにして、捕囚の身隣ながらも死ぬこともを良しとせず寝返った男が証人とは何かの冗談ではないですかな」

 しかしマッシュは、全く意にも介さず、デイルとドレッドに向き合っていた。

「相変わらず嫌味な笑みを浮かべる不気味な御仁ですな。ドレッド様、話し合いではなく武力行使を使った結果、その責任を取り、捕囚の身となったワシに慈悲をかけてくださったのは、殿である。自分だけ逃げようなどとは、許せませんなぁ」

「「裏切り者が何をいう!!!」」

「マル卿にベア卿、その辺にしてもらっても良いですか?それに小競り合いにも同行して、一部始終を見ているのです。これ以上ない証人ではないですか?話を聞かせていただきましょうキノッコ将軍」

 デイルとドレッドの言葉にクレーバー宰相が話が進まないとピシャリと言葉を切ると、証人として連れて来られたマッシュに続きを促す。

「宰相殿に捕囚と身となったワシの話を信じてもらえるかはわからんが、この場において嘘偽りなく話すことを誓おう」

「感謝します。私はキノッコ将軍のこれまでの忠勤を知っています。陛下はどうか分かりませんが少なくとも私は貴方を信じると約束しましょう」

「うむ。余も信じよう」

 クレーバー宰相にチラリと横を見られて、釘を刺されたルードヴィッヒ14世も渋々頷く。

「それでは、話させていただきますぞ」

 マッシュは見たもの起こったことを包み隠さず話した。

 それを聞き終え、ルードヴィッヒ14世は顔を真っ赤にして、デイルを睨みつける。

「なんじゃと!?サブローが全て飲むと言ったにも関わらず、この付け足された言葉のせいで、小競り合いになったと申すのか。デイル!今の言葉に嘘偽りがあるのなら申してみよ!」

「ヒッ。これはサブロー・ハインリッヒが腹いせにキノッコ将軍と話を合わせて、俺を嵌めようとしているのです。信じてください陛下」

「そうか。デイルは、あくまで関係ないと言い切るのだな。では、ドレッドに聞く。余が2人に渡した勅令の中身は覚えているな?」

 ドレッドは少し考えた後、その証拠も既にサブローに握られていることに行き当たり、この場は勝ち馬に乗ることにして、デイルを切り捨てる。

「はっ。陛下より賜った勅令書をマッシュに持たせて、ハインリッヒ卿の元に送り出しました。1つ、奴隷制に反対することを禁じる。2つ、ロルフ・ハインリッヒの妻であるマーガレット・ハインリッヒを陛下への恭順の証として差し出すことの2点でした。どうやらこの俺もマル卿に一杯食わされたようだ。ハインリッヒ卿にマッシュよ。先程の無礼、平に御容赦願いたい」

 ドレッドの変わり身の速さに狼狽えるデイル。

「うっ裏切るのかベア卿!」

「欲を出したのが運の尽きだったなマル卿。同じ準男爵として仲良くしていたが、流石に庇いきれぬ」

「俺だけに罪を着せるつもりなのだなベア卿!アダムス、なんとか言え!俺を助けろ。あのことをバラされたくなければわかっているよな!」

 突然話を振られたアダムスも巻き込まれたくないが娘のために精一杯の弁護をする。

「陛下、もしもこれが真実ならば、どうされるおつもりですか?」

「無論、デイルにはその身を持って、罪を精算してもらうこととなろう」

「そうですか。ハインリッヒ卿、此度は示談という形で、矛を納めてもらいたいのですが如何ですか?」

 サブローは少し考えた後、首を横に振る。

「賠償金は、ナバル郡から頂きたいと思います。マル卿に謀られたとはいえ、ナバル郡が攻めてきたのも事実。こちらは、少なからず資源を消費したのです。その分の補填をしてもらうのは当然のこと。そして、これはこういう勝手な行動をしたら陛下からきちんと相応の罰が与えられるということを広く知らしめなければなりません」

 ドレッドは、サブローの言葉で逆にタルカ郡を攻める好機と捉え、賠償金の件を飲み、攻める協力を申し出る。

「それで許されるのであれば、俺は問題ない。しかし、攻めるとなれば、俺にも協力させてもらいたい。こちらも謀られた被害者なのでな」

 サブローはドレッドの意図を読み、申し出をやんわりと断る。

「いえ、お気持ちだけお受け取りしますベア卿」

 ドレッドは、チッと舌打ちしながらこの場を支配しているサブローに逆らうのは得策ではないと素直に引き下がる。

「そういうのであれば、だが支援が必要ならいつでも言うが良い」

 このやり取りを受け、アダムスもこれ以上は援護できないと肩を落とす。

「アダムス、アダムス、お前もお前も俺を裏切るのだな!」

「最早、情勢は決した。すまない」

「クソクソクソクソーーーーーー。ガキ如きが図に乗りやがって、返り討ちにしてやるからなぁ」

 半狂乱となったデイルに沙汰を下すルードヴィッヒ14世。

「此度のオダ郡を巡るナバル郡とタルカ郡の侵攻について、ナバル郡は、タルカ郡の謀と知らずに加担したとして、オダ郡に対して、収益の7割の賠償金を支払うこと。タルカ郡は、オダ郡に併合とする。この件に納得できないのであれば、個々に争うが良い。但し、双方以外の郡がこれに加担することは認めん。加担した場合は、同様の処罰を降すものとする。良いな」

 デイル以外の郡を預かる領主たちが『異議なし』と言いその場を後にしていく。

 全員が退出した後、ルードヴィッヒ14世は、腰が砕けたかのようにどっしりと椅子に座り、クレーバー宰相に確認する。

「これで良いのだなクレーバーよ」

「はい。これで陛下の勅令を蔑ろにする者は居なくなるでしょう。彼らとて、自らの行いで今ある生活を失いたくはないでしょうから。ですが陛下、これは陛下自身が蒔いた種であることをお忘れ無きよう」

「心得ておる。余はマーガレットを側妃にする好機を己で潰したのだ。余もまたサブロー・ハインリッヒの掌の上で踊っていたのであろう」

「何か言いましたか?」

「いや。何でもない。サブロー・ハインリッヒをガキと侮ったことを悔いておっただけよ」

「そうですか」

 こうして、陛下から大義名分を得たサブローはタルカ郡の攻略を進めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...