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2章 オダ郡を一つにまとめる
32話 進軍準備
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王都キュートスクで、ルードヴィッヒ14世より、タルカ郡を攻める大義名分を得たサブロー・ハインリッヒであったが、内にも多くの敵を抱える状況で、進軍準備は思いの外、進んでいなかった。
サブローは頭をフル回転させて、この現状を打開するべく、ロー・レイヴァンドを通して、協力すると連絡のあった気骨ある貴族の話をしていた。
「若、貴族家の多くが、此度の戦への従軍を拒みましたが、1人だけ兵を率いて参戦すると俺を通して連絡がありました」
「であるか。それで、不利なワシを助けるため参加を表明した物好きな貴族家は誰ぞ?」
「先先代の領主ロルフ様に仕えたフロランス家です。呼び掛けに答え、領内の兵、5百を率いて参戦すると」
「ほぉ。先先代ということは、ワシは会ったことはないが爺様に仕えていたということだな?」
「はい。現在の当主は、ハイネル・フロランスという18歳の青年です。彼の父であるハンネスとは戦場で何度も背を預け合った仲で、信頼できる御仁です。それに息子に家督を譲ってからも領内の治安と治世に一役買い、領内の安定に務めた方です」
「ほぉ。まだそのような男が眠っていたとは、な」
「ラルフ様は、自分の意に沿わない人間は、徹底的に遠ざけましたから。辺鄙な土地を与えられてもハンネスは、コツコツと土地を耕し、商人を呼び込み、物資を流通させ、付いてきた民たちに不自由ない暮らしをさせ、オダ郡の者でありながら全てのことに不干渉を貫いていたのですが、この度、真っ先にこうして手紙を送りつけてきました」
「心境の変化というわけではないな」
「恐らく、何処か若にロルフ様を重ねているのかと」
「爺様か。ロー爺から聞いた程度しか知らぬがよく出来た領主だったそうだな?」
「はい。ロルフ様からラルフ様に代替わりして、遠ざけられたものは数知れません。その弊害を受けた1人であるフロランス家が若の器を図ろうとしているのかと」
「であるか。だが、それほど内政に長けた人物が味方に付いてくれれば、これ程心強いことはないな」
「それは間違い無いかと」
「なら一筋縄では行かなさそうだな」
マリーが扉をノックして、入ってきた。
「失礼します若様。ハザマオカ砦に敵影は無し。御命令通り、マッシュ・キノッコ将軍を大将に右翼にヤス様、左翼にタンダザーク様が配置に着陣しました」
「であるか。マリーよ。御苦労であった。しばし休むが良い」
「お気遣いありがとうございます。若様?」
お礼の後、何か言いたげにこちらを見るマリーに話してみよとの意味を込めて、返すサブロー。
「どうした?」
「マッシュ・キノッコは、敵だった男です。信頼して、ハザマオカ砦の総大将を任せて良いのでしょうか?」
「不安か?」
「不安でないと言えば嘘になります。いくらロー様が古くから知っているとはいっても降将に対して、大役を任せるなど、何かあれば」
「何もない」
「「えっ?」」
マリーとローがほぼ同時に驚いた声を上げた。
「ワシが何のためにあのハザマオカで、デイルを散々に打ち破ったと思っているのだ。奴は、あれで臆病で慎重な男だ。原因がわからぬ以上、迂闊に攻めて人員を減らすことは、やめて守りを固めるだろう。だからこそ、この間に領内の不穏分子の一切排除に踏み切ったのだからな。あくまで、マッシュたちには、ワシの考えを潜り抜けて、デイルが攻めてきた時の保険よ」
「若は、デイルは攻めたくても攻められないと?」
「あぁ。そのための見せ札の役目がマリーの魔法だったのだ。街の中でいきなり突風が起こって首が飛べば、それは魔法だと認めることになる。だが、ハザマオカ砦でならどうだ?」
「成程、若様が執拗に風の悪戯と宰相様に報告していたのがようやく理解できました。それは、ハザマオカ砦内なら突風が起こっても同じ言い訳をするためですね?」
「マリーよ。賢くなったではないか。ほれ、近うよれ金平糖をやろう」
「わーい。私、これ好き。って、うぅ。また金平糖に釣られてしまいました」
「ワッハッハ」
「若は一体、何手先を見通しているのですか?」
「考えられる可能性の全てに対応できるように策は練るものだ。最も、正確な情報があれば、もっと良いのだがな。この世界にも情報に長けた忍びの者が居れば良かったのだが」
「正確な情報か。若、それなら商人を使うのは如何か?」
「商人か。成程、良いところに目を付けたなロー爺よ」
「商人が正確な情報を持っているのですか?」
「マリー、不思議がるのも無理はないが、商人は、街から街へ商品を売り歩いている。ということは、それだけ多くの情報を仕入れる機会に恵まれているということだ」
「なっ成程。若様の説明でようやく理解できました」
「ロー爺、協力してくれそうな商人を見繕うのだ」
「はっ」
「マリー、うぬは最近働かせすぎたからな暫し休むが良い」
「ありがとうございます。ですがロー様も私もいなくて、若様きちんとお客様の接客できますか?」
「問題ないと言いたいところだが居てくれると助かるのは事実だな」
「では、私が補佐します。ロー様は、若様から頼まれたことを」
「承知した。若のことは、マリーに任せよう」
「ロー爺よ。ワシを子供扱いするでない」
「子供でしょう」
「子供ですな」
「ぐぬぬ。今に見ておれ」
暫くして、家の主を呼び出すベルが鳴り響くのだった。
サブローは頭をフル回転させて、この現状を打開するべく、ロー・レイヴァンドを通して、協力すると連絡のあった気骨ある貴族の話をしていた。
「若、貴族家の多くが、此度の戦への従軍を拒みましたが、1人だけ兵を率いて参戦すると俺を通して連絡がありました」
「であるか。それで、不利なワシを助けるため参加を表明した物好きな貴族家は誰ぞ?」
「先先代の領主ロルフ様に仕えたフロランス家です。呼び掛けに答え、領内の兵、5百を率いて参戦すると」
「ほぉ。先先代ということは、ワシは会ったことはないが爺様に仕えていたということだな?」
「はい。現在の当主は、ハイネル・フロランスという18歳の青年です。彼の父であるハンネスとは戦場で何度も背を預け合った仲で、信頼できる御仁です。それに息子に家督を譲ってからも領内の治安と治世に一役買い、領内の安定に務めた方です」
「ほぉ。まだそのような男が眠っていたとは、な」
「ラルフ様は、自分の意に沿わない人間は、徹底的に遠ざけましたから。辺鄙な土地を与えられてもハンネスは、コツコツと土地を耕し、商人を呼び込み、物資を流通させ、付いてきた民たちに不自由ない暮らしをさせ、オダ郡の者でありながら全てのことに不干渉を貫いていたのですが、この度、真っ先にこうして手紙を送りつけてきました」
「心境の変化というわけではないな」
「恐らく、何処か若にロルフ様を重ねているのかと」
「爺様か。ロー爺から聞いた程度しか知らぬがよく出来た領主だったそうだな?」
「はい。ロルフ様からラルフ様に代替わりして、遠ざけられたものは数知れません。その弊害を受けた1人であるフロランス家が若の器を図ろうとしているのかと」
「であるか。だが、それほど内政に長けた人物が味方に付いてくれれば、これ程心強いことはないな」
「それは間違い無いかと」
「なら一筋縄では行かなさそうだな」
マリーが扉をノックして、入ってきた。
「失礼します若様。ハザマオカ砦に敵影は無し。御命令通り、マッシュ・キノッコ将軍を大将に右翼にヤス様、左翼にタンダザーク様が配置に着陣しました」
「であるか。マリーよ。御苦労であった。しばし休むが良い」
「お気遣いありがとうございます。若様?」
お礼の後、何か言いたげにこちらを見るマリーに話してみよとの意味を込めて、返すサブロー。
「どうした?」
「マッシュ・キノッコは、敵だった男です。信頼して、ハザマオカ砦の総大将を任せて良いのでしょうか?」
「不安か?」
「不安でないと言えば嘘になります。いくらロー様が古くから知っているとはいっても降将に対して、大役を任せるなど、何かあれば」
「何もない」
「「えっ?」」
マリーとローがほぼ同時に驚いた声を上げた。
「ワシが何のためにあのハザマオカで、デイルを散々に打ち破ったと思っているのだ。奴は、あれで臆病で慎重な男だ。原因がわからぬ以上、迂闊に攻めて人員を減らすことは、やめて守りを固めるだろう。だからこそ、この間に領内の不穏分子の一切排除に踏み切ったのだからな。あくまで、マッシュたちには、ワシの考えを潜り抜けて、デイルが攻めてきた時の保険よ」
「若は、デイルは攻めたくても攻められないと?」
「あぁ。そのための見せ札の役目がマリーの魔法だったのだ。街の中でいきなり突風が起こって首が飛べば、それは魔法だと認めることになる。だが、ハザマオカ砦でならどうだ?」
「成程、若様が執拗に風の悪戯と宰相様に報告していたのがようやく理解できました。それは、ハザマオカ砦内なら突風が起こっても同じ言い訳をするためですね?」
「マリーよ。賢くなったではないか。ほれ、近うよれ金平糖をやろう」
「わーい。私、これ好き。って、うぅ。また金平糖に釣られてしまいました」
「ワッハッハ」
「若は一体、何手先を見通しているのですか?」
「考えられる可能性の全てに対応できるように策は練るものだ。最も、正確な情報があれば、もっと良いのだがな。この世界にも情報に長けた忍びの者が居れば良かったのだが」
「正確な情報か。若、それなら商人を使うのは如何か?」
「商人か。成程、良いところに目を付けたなロー爺よ」
「商人が正確な情報を持っているのですか?」
「マリー、不思議がるのも無理はないが、商人は、街から街へ商品を売り歩いている。ということは、それだけ多くの情報を仕入れる機会に恵まれているということだ」
「なっ成程。若様の説明でようやく理解できました」
「ロー爺、協力してくれそうな商人を見繕うのだ」
「はっ」
「マリー、うぬは最近働かせすぎたからな暫し休むが良い」
「ありがとうございます。ですがロー様も私もいなくて、若様きちんとお客様の接客できますか?」
「問題ないと言いたいところだが居てくれると助かるのは事実だな」
「では、私が補佐します。ロー様は、若様から頼まれたことを」
「承知した。若のことは、マリーに任せよう」
「ロー爺よ。ワシを子供扱いするでない」
「子供でしょう」
「子供ですな」
「ぐぬぬ。今に見ておれ」
暫くして、家の主を呼び出すベルが鳴り響くのだった。
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