45 / 166
2章 オダ郡を一つにまとめる
45話 押し寄せる人の波
しおりを挟む
反サブロー連合の発足を知って、数日後サブロー・ハインリッヒの居城では、皆口々にサブロー様のために戦いますと民が押し寄せてきたのだ。
話は数日前に戻る。
サブローの居城がある大広場では、民たちが世間話をしていた。
「おい、聞いたか。サブロー様にクーデターを起こそうって輩がいるそうだぞ」
「聞いた聞いた。サブロー様の母君を担いだんだろ確か?」
「いや、サブロー様の祖父に当たるガロリング卿が裏で手を回してるとかなんとか」
「サブロー様は大丈夫かね?」
「タルカとナバルの連合軍を相手取って完封したって聞くし、腐敗した貴族の反乱とか。そもそも成功しねぇだろ」
「でもな。こうやって広場で自由に商売させてもらってる俺たちが恩恵に預かるだけってのもな」
「そういや。マルケス商会がサブロー様のために兵を派遣するって聞いたぞ」
「流石、俺たち商会の希望だよな」
「話は聞かせてもらったでごわす。今、次男坊組合ってのを作って、有志を集めてるでごわす。サブロー様のお陰で暮らしが豊かになりつつあるでごわす。しかし、長男は跡取りとして必要でごわす。そこで、我ら次男坊組合の出番というわけでごわす。どうでごわすか?サブロー様のために一緒に戦わないでごわすか?」
「おっおぅ。ていうかにいちゃん。ずいぶん独特な言葉とガタイの良さだな。その組合を作る前は、何してたんだ?」
「なんのなんの、ただの農民でごわす。毎日、畑を耕して、土をいじっていただけでごわすよ」
「そ、そうか。でも、確かにな。うちの次男坊でも役に立つならサブロー様のためって言いてぇのは山々なんだけどな。流石に戦争だろ。死ぬかとしれないところに息子を行かせるのはな」
「そうでごわすか。残念でごわすが仕方ないでごわすな」
「父ちゃん、俺行くよ。前は、この辺りはグラン商会が幅を効かせて、他の商会を弾圧してた。それに抗ってたのがマルケス商会だ。彼らが矢面に立ってくれたからこそ。僕たちの暮らしは、慎ましくも守られていた。そして、彼ら悪徳商人を追い出して、平和をもたらしてくれたのは、サブロー様だよ。恩を返さないのに商売はしたいだなんて、我儘だよ」
「そうか。お前が決めたなら何も言えねぇな。でもよ。父親として、死ぬかもしれない所に送ることができないって気持ちは理解してくれねぇか」
「ここで手を貸さなくてサブロー様が万が一負けたらこの平和が崩れるんだよ。そんなの俺嫌だよ。父ちゃんも母ちゃんも兄ちゃんもくたびれた表情からやっと解放されたんだ」
「決意は固いみてぇだな。全く誰に似たんだか。行くからには、絶対に勝手なことして死ぬんじゃねぇぞ。このにいちゃんの言うことを聞いて、しっかり務めを果たしてこい」
「父ちゃん!ありがとう。俺、頑張るよ。宜しくお願いします。ガタイの良い人」
「ガタイの良い人でごわすか。それいいでごわすな。そう名乗るでごわすよ。元より名前なんてないでごわすからな」
「そうなの?」
「商人の人や貴族の人みたく、正式な名前があるわけでないでごわすからな。まぁ家族からは、いつもタボっとした外套を羽織ってるからかポンチョと呼ばれているでごわすが。まぁそんな感じで渾名はあるでごわすが正式な名前はないでごわすよ」
「僕たちって農民さんよりは恵まれてたんだね。農民さんが作った食べ物を売ってるのに、その農民さんに決まった名前が無いなんて、不平等だよ」
「それが今までまかり通っていたでごわす。だからサブロー様には、期待してるのでごわすよ。サブロー様にクーデターを起こそうとするやつを見過ごせないでごわす」
「そうだね。俺も頑張るよ」
「頼りにしているでごわす。ようこそ次男坊組合へ、、、、」
「あっ俺の名前は、セル・マーケット。商人らしい名前でしょ」
「そうでごわすな。セル殿のこと歓迎するでごわすよ」
動物を狩るハンターを生業としている集落でもサブロー様に手を貸すべきだと立ち上がった男がいた。
「頭領、動物を狩ることも確かに大事だ。だが、今この時俺たちの生活を良くしてくれたサブロー様に手を貸さないって選択はちょっとあり得ないんじゃねぇのか?」
「話は済んだはずだよ。アタイらは、民のために動物の肉を安価で市場に下ろす。それで十分貢献してるだろうってね」
「それとこれとは話が違うだろう。頭領、確かに戦争だ。人を射ることに抵抗があるのはわかる。でもよ。オダ郡には、弓を専門的に扱える奴は少ないって聞く。その点、俺たちは弓の扱いにかけては長けてる。俺たちが手を貸すことによって、救われる人の命ってのもあるんじゃねぇのか?」
「スナイプ、アンタの言い分もわかる。でもアタイの考えは変わらないよ。どうしてもって言うなら、ここで有志を募って行きな。個人の判断にアタイは任せるさ」
「頭領、感謝する。必ず生きて帰るって約束するよ母さん」
「全く、親を困らせるなんて、とんだ親不孝者だよアンタは。サブロー様のお陰で、商人からのピンハネも無くなった。アタイらの暮らしが良くなってのも確かさ。それに協力したいって有志が居るならアタイは止めないよ。それにアンタの弓の腕前はこの集落で随一だ。遅れを取ることはないだろうさ。気張ってきな」
「あぁ、サブロー様にスナイプありって轟かせてやる」
「大きく出たもんだね。誰に似たんだか」
こうして、いろんな集落や街からサブローが治める直轄地の居城に民が押し寄せたのである。
その数、千。
この数を少ないと思うか多いと思うか。
千人もの民兵が死ぬことも厭わずサブローのため駆けつけたのだ。
それも身分も全く異なる人たちがサブローのためにと心を一つにして集まったのだ。
これは、民からサブローが絶大な信頼を得ている証拠である。
寄せ集めと侮ることなかれ。
話は数日前に戻る。
サブローの居城がある大広場では、民たちが世間話をしていた。
「おい、聞いたか。サブロー様にクーデターを起こそうって輩がいるそうだぞ」
「聞いた聞いた。サブロー様の母君を担いだんだろ確か?」
「いや、サブロー様の祖父に当たるガロリング卿が裏で手を回してるとかなんとか」
「サブロー様は大丈夫かね?」
「タルカとナバルの連合軍を相手取って完封したって聞くし、腐敗した貴族の反乱とか。そもそも成功しねぇだろ」
「でもな。こうやって広場で自由に商売させてもらってる俺たちが恩恵に預かるだけってのもな」
「そういや。マルケス商会がサブロー様のために兵を派遣するって聞いたぞ」
「流石、俺たち商会の希望だよな」
「話は聞かせてもらったでごわす。今、次男坊組合ってのを作って、有志を集めてるでごわす。サブロー様のお陰で暮らしが豊かになりつつあるでごわす。しかし、長男は跡取りとして必要でごわす。そこで、我ら次男坊組合の出番というわけでごわす。どうでごわすか?サブロー様のために一緒に戦わないでごわすか?」
「おっおぅ。ていうかにいちゃん。ずいぶん独特な言葉とガタイの良さだな。その組合を作る前は、何してたんだ?」
「なんのなんの、ただの農民でごわす。毎日、畑を耕して、土をいじっていただけでごわすよ」
「そ、そうか。でも、確かにな。うちの次男坊でも役に立つならサブロー様のためって言いてぇのは山々なんだけどな。流石に戦争だろ。死ぬかとしれないところに息子を行かせるのはな」
「そうでごわすか。残念でごわすが仕方ないでごわすな」
「父ちゃん、俺行くよ。前は、この辺りはグラン商会が幅を効かせて、他の商会を弾圧してた。それに抗ってたのがマルケス商会だ。彼らが矢面に立ってくれたからこそ。僕たちの暮らしは、慎ましくも守られていた。そして、彼ら悪徳商人を追い出して、平和をもたらしてくれたのは、サブロー様だよ。恩を返さないのに商売はしたいだなんて、我儘だよ」
「そうか。お前が決めたなら何も言えねぇな。でもよ。父親として、死ぬかもしれない所に送ることができないって気持ちは理解してくれねぇか」
「ここで手を貸さなくてサブロー様が万が一負けたらこの平和が崩れるんだよ。そんなの俺嫌だよ。父ちゃんも母ちゃんも兄ちゃんもくたびれた表情からやっと解放されたんだ」
「決意は固いみてぇだな。全く誰に似たんだか。行くからには、絶対に勝手なことして死ぬんじゃねぇぞ。このにいちゃんの言うことを聞いて、しっかり務めを果たしてこい」
「父ちゃん!ありがとう。俺、頑張るよ。宜しくお願いします。ガタイの良い人」
「ガタイの良い人でごわすか。それいいでごわすな。そう名乗るでごわすよ。元より名前なんてないでごわすからな」
「そうなの?」
「商人の人や貴族の人みたく、正式な名前があるわけでないでごわすからな。まぁ家族からは、いつもタボっとした外套を羽織ってるからかポンチョと呼ばれているでごわすが。まぁそんな感じで渾名はあるでごわすが正式な名前はないでごわすよ」
「僕たちって農民さんよりは恵まれてたんだね。農民さんが作った食べ物を売ってるのに、その農民さんに決まった名前が無いなんて、不平等だよ」
「それが今までまかり通っていたでごわす。だからサブロー様には、期待してるのでごわすよ。サブロー様にクーデターを起こそうとするやつを見過ごせないでごわす」
「そうだね。俺も頑張るよ」
「頼りにしているでごわす。ようこそ次男坊組合へ、、、、」
「あっ俺の名前は、セル・マーケット。商人らしい名前でしょ」
「そうでごわすな。セル殿のこと歓迎するでごわすよ」
動物を狩るハンターを生業としている集落でもサブロー様に手を貸すべきだと立ち上がった男がいた。
「頭領、動物を狩ることも確かに大事だ。だが、今この時俺たちの生活を良くしてくれたサブロー様に手を貸さないって選択はちょっとあり得ないんじゃねぇのか?」
「話は済んだはずだよ。アタイらは、民のために動物の肉を安価で市場に下ろす。それで十分貢献してるだろうってね」
「それとこれとは話が違うだろう。頭領、確かに戦争だ。人を射ることに抵抗があるのはわかる。でもよ。オダ郡には、弓を専門的に扱える奴は少ないって聞く。その点、俺たちは弓の扱いにかけては長けてる。俺たちが手を貸すことによって、救われる人の命ってのもあるんじゃねぇのか?」
「スナイプ、アンタの言い分もわかる。でもアタイの考えは変わらないよ。どうしてもって言うなら、ここで有志を募って行きな。個人の判断にアタイは任せるさ」
「頭領、感謝する。必ず生きて帰るって約束するよ母さん」
「全く、親を困らせるなんて、とんだ親不孝者だよアンタは。サブロー様のお陰で、商人からのピンハネも無くなった。アタイらの暮らしが良くなってのも確かさ。それに協力したいって有志が居るならアタイは止めないよ。それにアンタの弓の腕前はこの集落で随一だ。遅れを取ることはないだろうさ。気張ってきな」
「あぁ、サブロー様にスナイプありって轟かせてやる」
「大きく出たもんだね。誰に似たんだか」
こうして、いろんな集落や街からサブローが治める直轄地の居城に民が押し寄せたのである。
その数、千。
この数を少ないと思うか多いと思うか。
千人もの民兵が死ぬことも厭わずサブローのため駆けつけたのだ。
それも身分も全く異なる人たちがサブローのためにと心を一つにして集まったのだ。
これは、民からサブローが絶大な信頼を得ている証拠である。
寄せ集めと侮ることなかれ。
1
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる