信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

文字の大きさ
48 / 166
2章 オダ郡を一つにまとめる

48話 ロルフ祭

しおりを挟む
 サブロー・ハインリッヒは、祭りの名前に敢えて父の名を用いることにした。そうすることで、反サブロー連合側の貴族の参加を促したのだが、結果は。

「参加すると表明したのは、カイロ公爵家のルルーニだけか。十中八九、情報収集が目的だな」

「でしょうな。若にしては、ずいぶん軽率な行動でしたな。今更、断るわけにもいきませんぞ」

「ん?断るつもりはない。寧ろ、1人だけでも参加を表明してきたことを評価しておるぐらいだ」

 サブロー・ハインリッヒの言葉に頷き、諌めるロー・レイヴァンドだが返ってきた言葉に驚き、その後を受け、疑問を口にするマリー。

「若様、それはどういうことですか?」

「マリーもロー爺もこちら側の陣営だから向こう側がこれを受け取りどう考えたかわからないのであろう。戦とは頭だ。頭を働かせよ2人とも。向こうの立場で考えてみよ。母上を担ぎワシと対立することを表明した相手だ。罠とは考えんか?」

 サブロー・ハインリッヒの言葉を聞き、ハッとようやくそのことに思い当たるロー・レイヴァンドとマリー。

「若、罠と考えたなら参加しないのが普通では、情報収集とはいえ、持ち帰らなければ何の意味もありませんぞ」

「だから、この男は賢いのだ。罠と知れば静観を選び情報を収集しようとは考えん。飛び込めばどんな被害を被るかわからんのだからな。だが、このルルーニという男は違う。罠と知りつつも招待主が祭りの最中に手をかけることはないと判断した。全くその通りなのだからぐぅの音もでん。それに1人だけ参加というのもな。母上や爺様に信頼されているということだろう。気は抜けんな。こうなれば、アイツらに頑張ってもらねばな」

「サブロー祭ではなくロルフ祭と聞いて、やってくるでしょうか?」

 サブローの言葉を受けて、マリーが不安を口にする。

「それで来ないならその程度の覚悟だったのだろう。だが、ワシは来る気がしている。しかし物事に絶対はない。来なかった時の催し物も考えておかねばな」

「若様は、何通りも手を考えているんですね」

 マリーは、サブロー・ハインリッヒの言葉に頷き、考えることをやめない思考力の高さに脱帽していた。

「自ら考え動かないものに未来は切り開けん。ロー爺にマリーよ。お前たちも与えられた命だけこなしているのではなく考えよ。人の考えを聞くのも楽しいのでな。まぁ、ワシの方が良い作戦であろうから覆せる作戦を持ってきたら評価してやろう。ハッハッハ」

「若、俺は戦でこそ真価を発揮するので」

「私も若様の作戦通り動くのが楽しくて、自分の正体を明かしましたから」

「なんじゃ。つまらん。しかし、それもまた良い。嫌々やるのと進んでやるのとでは、天と地程の差があるからな。そういう点では、マリーのことは信頼している。ロー爺は、戦とやらで挽回するようにな」

「うぐぐ。若は、当主となってから子供らしさがすっかりなくなってしまいましたな。御心労もあるでしょうが軽くできるよう側でお支え致す」

「父を亡くし、母と敵対する羽目となった。心労がないと言えば嘘になるが。父が生きていれば、このオダ郡は変えられなかったであろう。ワシは、父の作ってきたものを壊すことになろうとも民たちに笑顔の絶えない世界とするため武力が必要だというのならこの手を進んで血に染めよう。その先にある平和のためにな」

「若」

「若様」

「2人ともそのような顔をするな。戦となるまでに母と会って話をしたかったのでな。此度、父の名を使ったのは、母も参加しやすいと考えたのだが爺様の俺への恨みは思った以上に根強いようだ。ままならんものよな」

 サブローの覚悟を知ったロー・レイヴァンドとマリーは、8歳の子供が背負うにはあまりにも過酷な事を成し遂げようとしていることに、今まで以上に忠節を尽くすことを誓うのである。

 そして、3日が過ぎた。眼下に広がるのは、千人の参加者とお祭りを見に訪れた民たちや招待を受けたマルケス商会が中心となって、商人たちを束ねて、大工と共に祭りの屋台をテキパキと設営し、料理の良い匂いがしていた。そして招待された貴族の面々には、旧御三家を始めとするサブロー・ハインリッヒの支持を表明している貴族たちが集まり、代表して、ハンネス・フロレンスが挨拶をする。

「若殿、このような祭りに御招待頂き、感謝致します。催し物とやらも楽しませてもらいますぞ」

「あぁ。招待客の方々には、特等席を御用意させてもらった。思う存分、楽しんで、民たちが幸せだと亡き父に届くように、な」

「承知致しましたぞ」

「ロー爺、では案内を任せる。俺は、1人で敵地に乗り込む勇気を示してくれた御仁を迎えに行くのでな」

「はっ」

 サブロー・ハインリッヒは、ロー・レイヴァンドに招待客たちの案内を任せると端の方で縮こまっている男の元に向かう。

「うぬがカイロ公爵家の現当主を務めているルルーニ・カイロであるな?」

「これはこれは、話に聞いていた通りの方ですね。初めまして、ルルーニ・カイロです。もうちょっと多いかと思ったのですが招待に応じたのは本当に私だけのようだったので、萎縮していました。申し訳ございません」

 ルルーニ・カイロ、油断ならない男だな。

 ワシが来るように誘導しよった。

 そして、さりげにこの場に自分以外の反サブロー連合の者はいませんから安心してくださいというのまで、言葉の端に忍び込ませ瞳で訴えかけるか。

 氏郷うじさと以来だな。瞳を見て、只者ではないと感じたのは。

 説明しよう。

 氏郷とは蒲生氏郷がもううじさとのことであり、織田信長の娘婿である。六角家が滅んだ時に蒲生賢秀がもうかたひでが人質として織田信長に差し出したのだが信長はその瞳を見て、普通のものとは違うと大層気に入り、娘を娶らせる約束をした程である。

「構わん。わざわざ、足を運んで頂き感謝する。ワシ自ら、案内致そう」

 こうして、サブロー・ハインリッヒがルルーニ・カイロを案内するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...