信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

文字の大きさ
50 / 166
2章 オダ郡を一つにまとめる

50話 相撲で大興奮する民たち

しおりを挟む
 集まった千人の参加者による相撲だったが、順調に進んで行き、一回戦が終わり、半分の500人が脱落し、2回戦でさらに半分の250人が脱落、3回戦終わりで125人が脱落し、残りは125人となったところで、1人シードとなり無条件で上がれることとなる。選ばれたのは。

「おいどんが不戦勝でごわすか?」

 この独特な話し方をする大男は、力士を彷彿とさせる筋肉質の身体をしていて、ここまで、投げ技で軽々と相手を投げ飛ばして地面に地をつけて圧倒的強さを証明した。その結果、誰もまだ戦いたくないということで、4回戦と5回戦の連続不戦勝となった。

「不服か?」

「おいどんとしては、戦いたいでごわすがそれが皆の総意なら謹んで受けるでごわすよ」

 ここまで圧倒的な強さを見せたこともあり、民からは、彼の不戦勝が決まると不評の嵐である。

「おい、何でアイツの試合が見られないんだよーーーーー」

「不戦勝とかせずに試合をみせてくれーーーー!」

 すっかりと男たちが汗を飛ばしながら組み合う姿に熱狂している民たち。

「鎮まれ皆の者。彼の者の試合が見たいのは、ワシも同じだ。しかし、勝ち残った者が彼とどんな戦いをするのか見てみたいとは思わんか?楽しみに待とうではないか」

 渋々納得する皆の前に1人の少年が現れる。この少年は、商人の産まれながら先程の大男との出会いを機に次男坊組合に加入した者で、名をセル・マーケットという。

「うおおおおお!セルーーーーー!頑張れーーーー!」

 一際大きな声援を送っているのは、彼の父だ。そんなセルの相手は、2回りほど大きな体躯の持ち主だった。

「ブハァ。なんだぁ。小せぇなぁ。一思いに捻ってやらぁなぁ」

「僕には負けられない強い思いがあるんだ。簡単には負けないぞ」

 誰もが小さいセル・マーケットが体躯の男に投げられて終わりだと思っていた。しかし、そうはならない小回りを生かして、足を重点的に攻める。

「うおおおおおお。良いぞ。そこだいけーーーーーセル!!!!」

 彼の声援を機として、今まで黙って見ていた民たちも声を出し始めた。

「おいおい。でかい巨体を生かして、投げ飛ばせーーーーちんたらしてんじゃねぇぞ!」

「キャー、小さくて可愛いわ。頑張ってーー」

 体躯の男は疲れてきていた。

「ハァハァハァ。ちょこまかちょこまかと動くんじゃねぇ」

「小さい僕でも大きい男に勝てるって希望を与えるんだ」

 疲れて膝にきていた体躯の男に渾身のタックルをかますセル・マーケット。

「うがぁぁぁぁぁぁぁ」

「嘘だろ。デカブツ、何負けてやがんだよ。応援してた俺の気持ちを返せ!」

「あの小さい子、勝ったわ。凄い。凄いわ」

「セルーーーーーー!!!最高だ。いやぁ2人とも良い試合だったぞ!!!!」

 敗者を罵る者もいれば、敗者を讃える者もいる。しかし、当の2人は。

「手をどうぞ」

「チクショーが負けちまったぜ。坊主、やるじゃねぇか。体格差を覆して勝ったんだからよぉ。必ず優勝しろよなぁ」

 セル・マーケットが手を差し伸べ、その手を取り立ち上がる体躯の男。その姿を見て、戦いもせずに罵っていた者たちは、自分の行いに恥じ入っていた。次の瞬間には、2人を讃える拍手が審判を務めていたサブロー・ハインリッヒから贈られた。

「いやぁ。これだから相撲は面白い。誰もが体躯の男の勝ちだと思っていたことだろう。それを覆し勝利した少年よ。大したものだ。名を聞こう?」

「さっサブロー様に、ほ、褒められるなんて、そ、そんな。ぼ、ぼ、僕の名前は、せ、セル・マーケットって、い、い、言います」

「そうか。ではセルと体躯の男よ。2人の正々堂々とした戦いを褒め称える拍手を贈ろう」

 こうして4回戦が終わり63人となり、5回戦が終わって32人となった。ここで、独特な話し方をする筋肉質の大男の試合になる。

「うっひょお。待ってたぜー。さっきの男みたいに負けないでくれよ。俺の期待はもうお前だけなんだ」

「見て、あの筋肉。一体どれだけ鍛えたらあんなふうになるのかしら。あの鎖骨のあたりとか凄いわ」

 そして、この独特な話し方をする大男の相手は。

「おいどんの相手は、お主は。久しぶりでごわすな?」

「クソッ。よりにもよってポンチョと当たるとはな。俺の運もここまでか」

 対戦相手の男は同郷の男で、この独特な話し方をする大男の知り合いだった。

「クソッ。重すぎんだよ。テメェは」

「どうしたでごわす?その程度でごわすか?」

 軽く捻ると一回転して、地面に寝転がらされる同郷の男。

「勝者、ガタイの良い男!」

 サブロー・ハインリッヒが彼の登録名で勝利を告げた。こうして、6回戦が終わり16人となり、7回戦が終わり8人となり、8回戦が終わって、勝ち抜いてきた強者が4人となった。

 独特な話し方をして、ここまで圧倒的な強さで、男たちを投げ飛ばしてきた登録名、ガタイの良い男。小さい身体を活かして、大きい身体の持ち主には真似できない小回りで、翻弄させて全体重を乗せた渾身のタックルが武器の少年セル・マーケット。ここまで外掛けという技のみで、相手を引き倒してきた登録名、村一番の色男。相手に攻撃する隙を与えず攻撃をし続け、相手を土俵の外に追い出して勝ち残ってきた登録名、攻撃は最大の防御ですが何か文句あります。名前などある人間は、珍しく。名前ありで残ったのは商人のセル・マーケットだけである。残りの3人は農民。農作業で培った体力と恵まれた身体を惜しまず使って勝ち上がってきた。

「ここで一度、休憩を挟みたいと思う。ここまで勝ち上がった4人には、最高の状態で最高の試合をしてもらいたいのでな。残り二試合となったが皆の奮闘を期待している」

 サブロー・ハインリッヒの言葉で、ここで一度インターバルを挟むこととなるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...