信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

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2章 オダ郡を一つにまとめる

52話 横綱の誕生

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 ガタイの良い男の圧倒的強さに、領民全員が唖然となった。

「勝者、ガタイの良い男!」

 準決勝第一試合はドラマがあった。

 それに引き換え、第二試合はというと、ものの一瞬だ。

 村一番の色男の外掛けをもろともせずにガタイの良い男は、そのまま豪快に投げ飛ばした。

「あんなのとセルはやり合うのか?もう良い、ここまでで、セル。棄権するんだ!」

 セルの父は、ガタイの良い男と対峙することになる我が子のことを想い、棄権を勧める。

 しかし、当のセル・マーケットはというと。

「流石、ポンチョさんですね。当たるとしたら決勝でしか当たれないと思っていました」

「おいどんもセル殿の戦いぶりを見て、ずっと戦いたいと思っていたでごわすよ」

「負けませんよ」

「勝つのは、おいどんでごわす」

 サブロー・ハインリッヒが決勝戦を前に2人に声をかける。

「セル、それにガタイの良い男よ。お前たちは、千人の頂点を決める大舞台に立った。ワシは、お前たちを臣下に迎え入れることを約束しよう。しかし、勝負は勝負。頂点は決めねばな。2人の熱い戦いをワシも楽しみにしているぞ」

「サブロー様、有難きことでごわす」

「必ずや良い戦いにしてませます。そして勝つのは僕です!」

「ハッハッハッハ。セル、お前はここまで恵まれた身体をまた相手に堂々と戦い抜いてきた。今は、耳を観客席の方に傾けてみよ」

 サブロー・ハインリッヒの言葉で、セル・マーケットは、初めて観客席の方に意識を向ける。

「セル!もう良いんだ。もう。父さんは、お前を誇りに思う」

「おい親父さん。何言ってんだ。アイツは、今や俺たち全員の希望だ。アイツなら、あのガタイの良い男を地につけるかもしれないってな。それにアイツの親父なら最後まで応援してやらねぇとな」

「あぁ、そうだな。親が子供を信じなくてどうすんだ。目が覚めたよ。セル!思いっきりいけー。そして打ち倒して、優勝だ!」

「勝ったらお姉さんが結婚してあげるから頑張って~~~」

「いやいや、何処がお姉さん何だ?」

「何よ!良いじゃない!飛び散る汗。ぶつかる音。泥だらけになる姿。キャー。もっと見せて~」

 セル・マーケットは、自分がすごく応援されていることに驚いていた。

「驚いたか?だが、それがお前が歩んできた道だ。お前は間違いなく強者だ。そして、今最も応援されている。ワシよりも知名度が上がったかも知れんな。ハッハッハッハ」

「そ、そ、そ、そんなサブロー様よりも知名度があるなんて、ことは無いですよ」

「そう、謙遜せずとも良い。誇れ、お前は強い。そして、今度は選手の休憩席の方に耳を傾けてみるが良い」

 サブロー・ハインリッヒの言葉に従いセル・マーケットは、選手の休憩席の方に耳を傾ける。

「うおおおおおお!アイツを倒してくれ!!!お前だけが俺たちの敵を討てる。俺たちはお前を応援するぞセル!」

「ブハァ。あのちいせぇガキが決勝戦に進出とは。いや、ちぃせぇガキは失礼だな。セル、お前ならそのとんでもなく強い奴も打ち倒してくれると俺は信じてるぜ!」

「小僧。いやセル!簡単に負けるんじゃねぇぞ!お前が敵わなかったら誰がその男を止めるんだ!勝ってきやがれ!」

 セル・マーケットは、その言葉を聞き選手たちにまで自分が応援されていることを知る。

「どうだセルよ。この場では間違いなくお前が誰よりも有名人だ」

「おいどんは、随分と嫌われたでごわすな。でも、負けるつもりはないでごわすよセル殿」

「サブロー様、緊張を解きほぐしてくださって、ありがとうございます。ふぅー。師匠、胸を借りさせてもらいます!」

「セル殿、来るが良いでごわす」

「2人とも良い気迫だ。やはり相撲はこうでなくてはな。これより決勝戦を始める!ここまで数々の力士たちを投げ飛ばしてきた破壊者、ガタイの良い男に対するのは、観客の声援と負けた力士たちの期待を背負いし男、セル・マーケット!」

 サブロー・ハインリッヒの気合いの入った言葉で決勝戦が始まる。

 先に仕掛けたのは、セル・マーケットだ。

「師匠はここまで、投げ飛ばしを狙ってきた。なら敢えて、飛び込ませてもらいます」

 ガタイの良い男は、セル・マーケットの渾身のタックルを受け止め、持ち上げようとまわしを掴もうとするがもう既にそこにセル・マーケットは居ない。

「流石でごわすな。翻弄される訳でごわすよ」

「師匠には通じませんか」

「翻弄されないようにするなら動かないのが1番でごわすからな」

 ガタイの良い男と互角の戦いを繰り広げているセル・マーケットに、一際大きな声援が飛び交う。

「キャー。男たちがパンパンってぶつかる音。素敵!」

「セル!!!良いぞ。その調子だ!」

「良いぞ。ここまで互角じゃねぇか!」

 しかし、この声援が集中しているセル・マーケットの耳に聞こえることはない。

 そして、今までと違いなってきてくれない師匠に対して、セル・マーケットも打つ手が無くなってきていた。

「どうしたでごわす。疲れるだけでごわすよ」

「師匠の言う通りですが、これが僕の小さい身体を使った基本戦術ですから。しまった!」

「やはりダメージが大きかったようでごわすな。満身創痍の中、ここまでよく頑張ったでごわすよ」

 ガタイの良い男は、セル・マーケットを内掛けによって、仰向けに倒した。

「勝者、ガタイの良い男!お前こそが横綱だ!」

 2人を讃える歓声と拍手が巻き起こる。

「セル!良い勝負だった。挑戦を続けたお前を本当に誇りに思う。うっうっうっ。クソ。セルの方が悔しいってのに俺の方が涙が出てきやがらぁ」

「あの男。いや横綱か。横綱を相手にここまで持ったのはお前だけだ。カッコよかったぜ小僧!」

「キャー。お祭りだけじゃなくて、毎日でも開いて欲しいわ!2人とも素敵!」

「無理だったか。流石、横綱だぜ。チクショー。お前がNo. 1だバカヤロー」

 サブロー・ハインリッヒが締めの言葉を言う。

「ここまで、盛り上がって、ワシも久々に興奮した。領民たちにも楽しんで貰えて、何よりだ。今一度2人に盛大な拍手を」

 サブロー・ハインリッヒの言葉に、一部を除くその場にいた全員が惜しみない拍手を送る。

 拍手をしなかったのは、ただの農民や商人が褒め称えられていることに納得できていないサブロー・ハインリッヒに流れで協力することを決めた貴族であった。
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