信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

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2章 オダ郡を一つにまとめる

59話 ここからの的当ては予測不可能

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 100位で予選を突破したセル・マーケットの挑戦は、自分の限界を超えて、100メートルの距離に沈んだ。
 セルマーケットは、控え室に戻ると悔しくて涙が出てきた。

「うぐっ。負けるって悔しいな。相撲で僕が打ち負かした人たちも皆、こんな気持ちだったんだろうか。皆、まだまだ余力がある感じだった。僕の挑戦は終わった。良し、泣くのは、もうお仕舞い。切り替えて皆んなの応援しなきゃ」

 どれぐらい1人で泣いていたのだろうか。
 その間、控え室に戻ってくる人は誰もいなかった。
 さぁ、戻ろう。
 今の距離は。

「150メートル!?」

 セル・マーケットが驚くのも無理はない。
 拍手で見送られた後、140メートルまで誰1人脱落することなく来たのである。
 これには、サブロー・ハインリッヒも驚いていた。

 飛び入り参加の女性の中で群を抜いているものがあるとは思っていたがこれ程とはな。

「リリアーナ様、命中ならず。ここで惜しくも脱落となりました。お疲れ様でした。盛大な拍手でお見送りください」

「リリアーナちゃーん、お疲れ様~」

「手本を見せてくれたサブロー様の使用人が霞む活躍だったぜ!」

「まぁ、頑張ったんじゃないかしら娼館のオーナーとして、私も鼻が高いわ」

 リリアーナもセル・マーケットを見習って、静かに応援してくれていた領民たちに頭を下げて、その場を後にする。

 その後も脱落者が続き、クリアしたのは、スナイプ・ハンターと彼が連れてきた者たち20人だけとなった。

「150メートルをクリアしたのは、20人となりました」

 スナイプ・ハンターがとんでもない提案をするのだった。

「サブロー様、この者たちは皆、俺が集めてきた選りすぐりの弓兵です。そこで、お願いがあるのですがここからは、是非マリー殿と勝負がしたい。みんなもあの手本では満足できない距離に来たとは思わないか!」

「良い提案だな。ハインリッヒ卿もまさか本当に女子を弓兵隊の隊長にするとは思いませんが。やれやれ、あの程度の腕前で隊長になるというのなら。彼らの方が幾分か上なのではありませんかな?」

 ニヤケ顔を浮かべながらマリーを小馬鹿にして、俺に恥を欠かせたいであろう貴族の1人がその提案を受けるべきだと言う。

 無論、ワシもこの状況になった時、そうしようと考えていた。
 マリーを打ち負かすことなど不可能だという信頼が。
 スナイプの奴も良い提案をしてくれた。
 これでまた1人、日和見の貴族を追い出せるのだからな。
 だが、既に受けては、こちらの自信が相手に伝わってしまう。

「うーむ。これはあくまでトーナメント戦。勝ち負けが決まってない以上、マリーと戦うのは時期尚早と考えるが。スナイプよ。どうして、そこまでマリーに拘るのだ?」

「見ればわかる。その女は只者ではない。俺がやった芸当を真似することなど造作もない程に。そんな人と切磋琢磨したいと思うことは、行けないことですか?」

「成程、お前がマリーを小馬鹿にするようなそこの貴族と同じなら追い出すところであった。その熱意に免じて、その提案を受けてやろう。マリーよ。構わんな?」

「若様の命とあれば、従いましょう。いえ、それはスナイプ・ハンター様に失礼ですね。いち、射手として、その勝負お受けしましょう。距離は160メートルからで構いませんか?」

「いや、ここは大きく200メートルでどうだ?」

「待ってくれ副頭領。それは、流石にいきなり過ぎだ。距離を伸ばせば、感覚が狂う。ここは、マリー殿の提案の通り、160メートルから受けるべきだ」

「お前がそこまで言うのなら。マリー殿、160メートルからで構わない」

「わかりました。では、私から」

「待たれよ。マリー殿、貴方は30メートルからいきなり遠い距離となる。先ずは準備運動を。!?馬鹿な!?これ程なのか!?」

 マリーの美しくて思わず見惚れてしまう綺麗なフォームから放たれる矢は、見事真ん中の黄色の的を射抜いていた。

「すみません。何か言いましたか?集中していて、聞こえていませんでした。失礼があったら申し訳ありません」

「いえ、何も」

 スナイプ・ハンターを副頭領と呼ぶ、この男はスナイプ・ハンターと子供の頃からの友人で、名前をダニエル・アーチャーと言う。

「アーチャー、な。俺の目に狂いは無いだろう」

「副頭領、我々でどこまで抗えるか。あんなに即座に深い精神集中に移れるなど」

「だからこそ、我々の相手として、不足はない。お前たち、臆するなよ」

 その後も続いていき200メートルで、19人が脱落した。

「副頭領、申し訳ない。この距離が限界だった」

「いや、よく頑張ったアーチャー、それに皆も。後は俺に任せて、ゆっくり休め」

 マリーは、200メートルも真ん中の黄色の的を射抜いた。

「これで、一騎討ちですね。負けませんよスナイプ・ハンター様」

「望むところだ。こちらも皆の期待を背負っている。負けるわけにはいかない」

 スナイプとマリーの勝負を嗾けた貴族はというと。

「何、女如きに負けているのです!勝負を挑んでおいて、負けるなど恥晒しとは思わないのか!」

「少しは静かにしたらどうです。貴方の今の姿は、領民を導く貴族として相応しくないかと思いますよ」

「んな!?ヴェルトハイム卿か。公爵家を堕とされたのも納得。納得。領民は導くものではなく支配するものだ」

「そのような考えは、サブロー様にお仕えするのであれば、改めなければいけません。できないのであれば、早々に立ち去られるべきかと」

「フン。言われなくてもよく分かった。サブローとやらが腑抜けの甘ちゃんだと言うことがな。理想はあくまで理想、現実とは違うのだよ!」

 そんな捨て台詞を吐いて、祭り会場から出ていった。
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