信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

文字の大きさ
81 / 166
2章 オダ郡を一つにまとめる

81話 サブローvsモンテロ

しおりを挟む
 一騎討ちを受けると聞き出てきたモンテロ・ハルトは、驚きを隠しきれなかった。
 何故なら、そこには腰に2本の刀を帯びたサブロー・ハインリッヒが立っていたからである。

「フハハハハ。俺も全く舐められたものだ。8歳のガキ。それも敵大将自ら一騎討ちを受けるなど。俺は、てっきりロー・レイヴァンドが出てくると思っていたんだが」

「それは、期待に添えなくて申し訳なかった。だが、これはワシの爺様が仕掛けた内乱だ。覚悟を決めたうぬをワシ自ら討ち取ることで、動揺を与えてやろうと思ってな」

「それで死にに来たのか。天はまだ俺を見捨てはしなかったようだ。サブロー・ハインリッヒ、俺が生き残るために死ね!」

「モンテロ・ハルト、うぬを討ち取り、爺様に愚かな選択だったと後悔させてやろうぞ」

 ここで、少し説明を挟みたい。
 サブロー・ハインリッヒの腰にある2本の刀についてである。
 これは、本能寺の変で、織田信長と共に消失したと伝わる名刀で刀身70センチを超える太刀で、実休光忠《じっきゅうみつただ》、元の名を三雲光忠《みくもみつただ』と言い、刀匠として名高い長船光忠《おさふねみつただ》作と伝わる刀であり、織田信長が本能寺の変で最後まで帯刀していた刀と伝わっており、刀身が長いことから恐らく自刃の際にも使われた名刀と推測される。
 そして、もう1本の刀も同じく織田信長と共に本能寺の変にて消失したとされる刀身25センチ程の短刀で薬研藤四郎《やげんとうしろう》と言い、刀匠の藤四郎吉光《とうしろうよしみつ》作の短刀である。
 逸話ではあるが主君の腹を決して斬らないと伝わることから最後まで、切腹には用いられなかっただろうと推測の元、先程述べた実休光忠が織田信長の自刃の際に切腹で使われた刀であると推測されている。

 さて、この2本の刀が何故こちらの世界に来ているのか。
 それは、サブロー・ハインリッヒの誕生まで遡る。
 サブロー・ハインリッヒの母であるマーガレット・ハインリッヒは、かつて女の身で将軍になれる程の武の才覚があった。
 そのマーガレット・ハインリッヒがサブロー・ハインリッヒの懐妊の際に2本の刀が敷地内にある先代領主の墓地に突き刺さる夢を見た。
 それを見て、マーガレット・ハインリッヒは、笑いながら流石私の子ね。
 この子もきっと武の才覚があるんだわと笑ったそうだ。
 そして、その夢を頼りにロルフ・ハインリッヒが全く訪れなくなった先代領主ラルフ・ハインリッヒの墓を訪れるとそこに夢で見たキラキラと光る2本の刀があったのである。
 マーガレット・ハインリッヒは、これを大切に保管するとロー・レイヴァンドがサブロー・ハインリッヒに剣の稽古を付ける際に渡したのだ。
 その時のサブロー・ハインリッヒの顔は、大層喜びに満ちていた。

 フッ。
 まさか、あの時は再びこの刀を手にすることなどあろうかと思ったが、よくぞ再びワシの元に来てくれた光忠に藤四郎。
 この世界でも、うぬらを存分に振るわせてもらおうぞ。

「ガキが一丁前に太刀を振り回すじゃねぇか」

「これでもレイヴァンド卿に鍛えられているのでな。それにワシの愛刀も帰ってきたのでな」

「だが所詮ガキが持つに勿体無い刀だろうよ!」

 モンテロ・ハルトの猛攻を凌いでいるサブロー・ハインリッヒ。

「若様!やはり、早かったのです。ロー様!もう我慢できません」

 マリーは、サブロー・ハインリッヒのピンチに弓を手に取り、モンテロ・ハルトを射抜こうとした。

「やめよマリー!お前は、若の顔に泥を塗るつもりか!若も先程、申しておったであろう。ここで若、自らがモンテロ・ハルトを討ち取る意味を。若を信じよ!」

「それで若様が死んでは、元も子もありません。私は、それだけは絶対に阻止しないと。若様を失う最悪の事態だけは、絶対に避けないといけないのです!」

 尚も弓を射ろうとするマリーの矢が消える。

「ルミナ!何をしているかわかっているの?」

「サブローにぃちゃんを失いたく無いのは、みんな一緒だよ。でも、これはダメだよ~。今のマリーおねぇちゃんだと冷静さを欠いてるもん」

「若様が危険なのです。冷静でいることなんて、できるわけが無いでしょう!わかったら、私の邪魔をしないで!」

 この間もサブロー・ハインリッヒとモンテロ・ハルトは打ち合っていた。

 こうして、実戦で刀を振るのも本能寺以来か。
 やはり、遠く離れると実践経験が鈍るものだな。
 やれやれ、このような素人の剣術に対応できぬとは、具教の奴に笑われているであろうな。

 説明しよう。
 具教とは、北畠具教《きたばたけとものり》のことであり、南伊勢侵攻の際に織田信長に対して徹底抗戦して、信長を大いに苦しめ、強硬した信長を敗北に追い込み戦を長期化させ、織田信長が次男の織田信雄《おだのぶかつ》を養子に送り込み和睦を結ばせるに至らしめた男である。
 それも7年しか持たず、信長と信雄が送り込んだ刺客によって、その生涯を終える。
 その際北畠具教は、刺客を相手に、100人に手傷を負わせ、19人の敵兵を切り殺した剣客である。

 ワシはな具教、再びお前が敵に回るのが怖かったのだ。
 だが、お前は一瞬も怯むことなく立ち向かったと兵たちから聞いた。
 それを聞き、何と見事な最期であろうかと。
 ワシも最期はそうありたいと本能寺では、光忠を手に最期まで金柑頭に抗えた。
 まぁ、結果は聞くまでも無いだろうがな。
 あの世とやらでは、酒のつまみに語り合いたかったのだが。
 何の因果か。
 まだこうして生きながらえている。
 こちらの世界でのことも酒のつまみに話そうぞ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...