信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

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2章 オダ郡を一つにまとめる

130話 グラン商会の最期

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 マーズ・グランは、イライラしていた。
 トガクシから一向にサブロー・ハインリッヒの暗殺報告が届かないこと。
 娘がフリーダム盗賊団という貴族どもから金を奪う大馬鹿者になっていたこと。
 反乱貴族が思うよりも使い物にならないこと。
 突然、撤退する連合軍の連中。
 娘に嘘を吹き込み利用せざるおえない状況になったこと。
 サブロー・ハインリッヒのせいで、商売が立ちいかなくなったこと。
 全てに対して、イライラしていた。

「ブラッド、お前が言ったのだぞ!トガクシの頭領を酩酊状態にして、利用すればクソガキを殺せるとな」

「マーズ様の御期待に応えられず申し訳ございません。ですが間も無く良い報告が届くはず。トガクシは狙った獲物は逃さないと聞き及んでおります。今は情報収集の段階なのでしょう」

「そんな事は知らぬ。あのクソガキを直ぐにでも殺してもらわねば、黒幕が俺だと知られれば、命は無いのだぞ」

「御安心なさいませ。この闇行燈の地下なら絶対に安全。誰も来れますまい」

「信じるぞブラッド」

 このブラッド、現在は非合法な薬の開発など闇に手を染めている闇医者であるが元々は、正真正銘本物の医者だった。
 よくある話である。
 同僚の妬みによって、担当した患者のハニートラップに引っかかり、セクハラで訴えられて、現在に至る。
 この世界の女性の地位は、少々特殊である。
 底辺ではあるが、人権のない下女や奴隷と違い、そういうのはきちんとある。
 むしろ厳しい。
 それは、女性が嫁ぐことを前提として考えられているからである。
 ゆえに相手を選べないという人権はないが、守るための法律はある。
 まぁ特殊なのである。

「会長、こちらに居られましたか。トガクシの頭領がお越しになられていますが如何なさいますか?」

「ようやく。ようやく。あのクソガキを殺したのか。ここに通せ」

「マーズ様、お待ちくだされ。何かおかしい。トガクシの頭領は、俺の薬で寝込んでいるはず」

「そのことか。俺に接触してきた男も頭領だと名乗っていた。代理だろう」

「マーズ様がそうおっしゃるのでしたら問題は無いか」

 しかし、現れた男を見て、ブラッドは焦り始める。

「どうしたブラッド?」

「いえ、何も(何故、あの薬で昏倒させていたトガクシの頭領がここに?まさか、俺を追って。いや、マーズ様の様子を見るに代理か?ここまで似せられる何かしらが居るということか。先ずは出方を)」

「貴殿の任務の破棄のお願いに参った」

「な、な、な、何、言ってんだ!お前らは金が必要だろう?良いのか?」

「ほぉ。何故、我らに金が入り用だと?」

「お前たちのボ」

「マーズ様!(この男は馬鹿なのか?ここでそんなことを言えば、我らが関与していることがバレる。警戒心を持ってもらいたいものだ)」

「兎に角、この暗殺は、危険だと判断した」

「待て!お前たちのボスがどうなっても良いのか!その病は、お前たちの里を訪ねた医師しか知らんぞ!」

「ククク」

「何がおかしい!」

「いや、尋問せずともペラペラ喋る奴は、これだからやりやすい。止めたのに残念だったな闇医者。馬鹿な主を持って」

「ぐっ。やはり俺のことを覚えていたか」

「俺様が馬鹿だと?テメェ、本当にどうなってもしらねぇぞ」

「娘が受けた依頼を親が取り消しに来たまでのこと。これで、俺が誰かわかるだろう?」

「ま、ま、まさか!?どういうことなんだブラッド!」

「察しの悪いお前でもわかっただろ!コイツは、本物のトガクシのボスだ」

「な、な、な、何だと!?ブラッド、きちんと薬で昏倒させていたのではないのか!」

「何から何まで話すなどマーズ様がそこまでおしゃべりだとは思わんかったわ!」

「もう良いか悪人ども。俺がここに来たのは依頼を受けたからだ。御館様からな」

「御館様だと?お前がボスでは無いのか?」

「ククク。確かにトガクシのボスは俺だ。だが俺たちはとある人物に仕えることを決めた」

「とある人物だと?」

「ククク。気になるか?」

「誰なんだそいつは!」

「サブロー・ハインリッヒ。このオダの領主様だ」

「!?狙いは俺の首か!殺されるのがわかってて、留まる俺様じゃねぇ。お前ら、やれ」

 何処からともなくグラン商会の雇う護衛が現れたが、皆、いきなりその場で血を流して倒れた。

「な、な、な、何が起こった!?」

「毒だ」

「ご明察だ闇医者。お前などと関わりを持たなければ死ぬことも無かった哀れな魂だな」

「クソッタレ!狙いは、マーズではなく俺の方だったか」

「トガクシは受けた恨みを忘れん。その身で償うがよい」

「ガハッ(あぁ、本当に俺の人生って、なんだったんだ。人を助けたくて医者になった。同僚たちより頭一つ飛び出て、妬ましさに罠に嵌められ、闇医者に身を奴して。これが悪事に手を貸した報いか。ゴフッ。ゴフッ。あぁ、もう良い。これで楽に)」

「ひぃっ。全て、ブラッドの仕業だ。俺様は。俺様は関係ない。だから許してくれよ、な。な。な」

「安心せよ。お前の命は取らん。俺は、な」

「あばば」

 殴られて気絶したマーズ・グランを担いで、この場を後にするモリトキ。
 悪事に手を染め続けたグラン商会は、この日終焉を迎える。
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