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下巻 第二章 (1)
しおりを挟む午後五時少し前、下上警視正に天美のことを報告し、その打ち合わせを終えた競羅は、派手なドレスを着た格好で、御雪と一緒に二人のアメリカ人男性と、立川駅近くにあるホールバー、ガルルである話し合いをしていた。
二人とも、身長は一九〇センチ以上を超えているであろうか、体格のよい男性であった。基地での身分は共に軍曹で、白人の方がジャック、黒人の方はバークと名乗っていた。
実は、このコンパのような話し合いは、競羅が手を打ったものであった。先ほどの御雪との話し合いのあと、彼女は、さっそく、ある相手に電話で連絡を取っていた。
そのとき、競羅は思っていた。
〈急なことだから、出ない可能性もあったね。けどね、出てもらわないと困るのだけど〉
彼女がそう思ったのも無理はない、電話はすでに、コールを二十回以上鳴らしていた。
〈まずいね。しかし、ほかに手はないし。また、あとで、かけ直すか〉
通話ボタンを切りかけたとき相手の返事の声がした。彼女は相手に向かって言った。
「和美か、あんた、いてくれたのだね」
「その声は競羅ね、音で起こされちゃったわ」
「何を言っているのだよ。すでに午後二時を回っているよ」
「だから、そろそろ、起きようとしていたところだったのよ」
電話の相手、和美は、けだるそうな口調で答えた。
「それは悪かったね。実はあんたに頼みがあってね」
「頼みって、オトコ?」
和美はストレートに問いかけた。その反応に競羅は内心で手ごたえを感じながら、
「参ったね、お見通しかよ。空軍基地に所属する男の友達を紹介してもらいたいのだよ」
と答えた。彼女の話している女性、和美は、趣味は外国人男性遊び、それが、こうじて、実益をかねて、現在は米軍基地近くに住んでいるのだ。
「わかった、それで、いつがいいの?」
「それが、今からなんだよ、二時間以内に、えーと、どこで会うのがいいかな?」
「今、あなたは、どこにいるの?」
「世田谷だよ」
「だったら、立川あたりがいいかな、いかした店が多いから。そうね、ガルルなんかどう」
「こっちは知らないけど、あんたが推薦する店なら、そこでいいよ」
「それで、何人ぐらい、行かせればいいの」
「四、五人ぐらいだけど」
「四、五人かあ、うーん、できないこともないけれど、時間がないし面倒だなあ」
「頼むよ。今度、埋め合わせをするから」
「もちろん、オトコだよね。あたいの好みであるガイジンの」
「その通りその通り、この間、六本木でみかけてね、知り合ったのだよ。イタリア製のコートが似合う、いかした奴だよ。そいつでよければね。あと、注文をつけるのだけど、体格がよくて、現在、お金に困っている奴の方がいいね」
「みんな、体格はいいわよ。兵隊さんなのだから」
「だから、そこでも、特に、そのー、身長も体重も人並みを超えた。とにかく、どうしても、今、大金を欲しがっている奴を頼むよ」
「わかった、あなたの友だちを含めて、お金の話が出たということは、エネルギッシュな男性たちに、サービスをたっぷりしてもらいたいのでしょう」
和美の声は淫びを帯びていた。
「ああ、そうだよ。今、急に盛り上がったね。そいつら田舎もので、今夜の電車で、帰ってしまうからね、その前にどうしても、がっしりとした外人たちと、派手な遊びをしたい、というものだから、あんたを思い出してね」
競羅はよどみなく答えた。これも才能か、よくこんな、でまかせを言えるものである。
「なるほど、よくわかったわ。でもね、ご期待にそえられるかどうか、わからないわ。お金に困ってると言われても、そこまでは、よく知らないから」
「そこが、大事なのだよ」
「何とかしてみるけど、そうなると時間がないから、四、五人は無理かもしれないよ」
「わかった、それで、確認をするけど、合流場所は立川のガルルという店だね。申し訳ないのだけど店の予約の方も、あんたに頼めるかい」
「わかりました。しかし、競羅はいつも強引なのだから、それより、約束を忘れないでよ。その六本木のオトコを、必ず紹介してくれることを」
というような前振りがあったのである。
結局のところ、やはり、無理な招集だったのか、時間内には二人しか集まらなかった。
なお、御雪を連れてきたのは英語が話せない彼女の通訳としてである。
だが、そんな心配は無用であった。二人の男性のうち一人、白人のジャックは、日本語が、たんのう、だからであったからだ。
「何だ、今日、僕たちを呼び出したのは、そんなことだったのか」
ジャックは、目の前の酒も口につけない彼女たちの態度や、その用件に、がっかりしていた。色々と期待をしていたのであろう。
「そんなことではないだろ。とにかく、こっちの情報では、間違いなく、さらわれた少女が、大使館から、空軍基地へ護送されているのだよ」
「それが、間違いっていうことはないのかい?」
「ないね。あんたらは一人の少女をさらったのだよ!」
「僕たちは、誇り高きアメリカンだよ。ジャパニーズガールを、人知れずにさらう、そんな、恥知らずな人間じゃない!」
ジャックも一歩も引かなかった。
「だから、そのことについて、話し合おうと思っているのだよ」
「話し合うって?」
「血の巡りが悪い人だね。その、さらわれた少女について決まっているだろ。あんたらの所属している基地の、どこかに捕まっている」
「まだ、そんな文句をつけるのか。だいたいね、どうして、ジャパニーズガールをさらう必要があるのだよ? そのガールが政府が欲しがるような特殊な存在ではあるまいし」
「今、あんた、何を言った?」
ここで、競羅の目が厳しくなった。
「何って、どうして、さらう必要があるのかと、聞いただけだよ」
「そのあとだよ。余分な言葉を付け加えただろ、政府がなんとかと」
「ああ、政府が欲しがるような特殊な存在でもないのに、か」
「それだよ。実は本当は言いたくなかったけど、その少女、普通の人間ではないのだよ」
「普通じゃないっていったら、アンドロイドか」
ジャックの冗談めいた言葉に、
「OH、ガール、アンドロイド?」
バークが反応した。日本語は理解できないが、ガールという言葉が、何度も出てきたので、興味を感じていたのだ。
「まさか、超能力者だよ」
「競羅さん!」
御雪の厳しい声がした。
「なんだよ、あんた」
「さようなことまでお話しをしてしまっては、大変なことになります」
「けどね、ある程度、手札をさらさないと仕方がないだろ」
「と申しましても」
競羅と御雪、二人のセリフに、ジャックはことの重要さを理解し始めてきた。そして、声のトーンをあげて声を出した。
「なるほど、エスパー、または、サイキックソルジャーか」
「OH、エスパー、サイキック!」
再び、バークも反応した。その鳶色の目も興味津々である。
そのあと、ジャックは、まんざらなさそうでもない顔をして言葉を続けた。
「確かに、アカデミーには、そこそこ、いると聞いているからね」
「アカデミーか。けどね、実際そいつらって役にたつのかい?」
「では、君のいう少女っていうのは?」
「おもいっきり、役に立つに決まっているだろう。でなきゃ、あんたたちの上司が、ここまでして、手に入れようとするかい。あんたが、今、口にもらした言葉から見ても、裏にもっと何かが、うごめいている感じがするけどね」
競羅の言葉に、ジャックは腕を組んだ。考えているのだ。そして、声を出した。
「確かに未熟なエスパーなら、そこまでして動かないな。それに裏か」
「ああ、とんでもないものが裏にいるだろうね。簡単に口には出せないけど」
競羅はCIAと指摘をしたかったが、ここは、まず自重をした。
ジャックも不安げな顔色になったが、興味の方もよりわいていた。
「何にしても、ただのエスパーではないということか。それで、どういう力なのかな?」
「ああ、それかい。その少女の手に触れると、触れた人間にあることが起きるのだよ」
「け、け、競羅さん!」
再び、御雪が声を上げた。
「何だよ、また、邪魔をするのかい」
「さ、さすがに、そこまで話されるのは、承伏できかねます!」
御雪の目は真剣だった。そして、その目を見た競羅は、
「わかった。さすがに、あんたの許可がないと、話せないみたいだね」
御雪をたしなめながら、ジャックたちに向かって、
「悪いけど、ちょいと、席を離れさせてもらうよ。まだ、打ち合わせが、充分ではなかったようだからね」
答えると、その御雪を連れて部屋を出て行った。
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