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第五部

じいちゃん先生

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「そうでしょうね。ここでも変わりませんよ。

それでも彼がいるだけで、

周りを明るくしてくれるので助かっています」

「そういっていただけると、

私も嬉しいです。

あの子が殺されたって聞いた時には、

信じられませんでした。

警察もマスコミもあの子の容姿と、

両親もいない貧民族なんだから、

殺されても仕方がないというような言い方で、

うちの息子も何度も警察に行ったんですけど、

追い返されてしまって」

「………お辛かったですね」

冥王も表情をゆがめた。

「あの場所は地域住民の間でも危険な場所だからと、

何度も警察や役所にも届けていたんですけど、

聞き届けてもらえず。

だから理由がなければあんな場所には、

近づかないはずなんです。

だからなおさら悔しかったんですが、

冥王様のお話を聞いて、

ここで元気に暮らしているなら安心です」

「牧野君には申し訳ないと思っているんです」

頭を下げる冥王に、

寿尊は両手を振って否定した。

「冥王様のせいではございません。

これもあの子の天命だったのでしょう。

坊主のおかげであの公園も綺麗になって、

半グレ共もいなくなりました。

近くに交番もできましたし、

今は子供が遊んでいても安全です。

まあ、お役に立てたという事でしょう」

寿尊は声をたてて笑った。

その様子を見つめながら、

冥王は静かに口を開いた。

「で、あなたをここに呼んだのは、

天上界からご指名があったからなのです」

「ご指名………ですか」

寿尊が驚く。

「この世界も地上と変わらず、

上下というものがあるんです。

あなたはとても徳が高い魂をお持ちのようだ。

天上界はその様なものをおそばに置きたがります。

別に無理に行くことはございませんよ。

再生を望まれるのでしたら、

すぐに生まれ変わることもできます」

冥王が言った。

「ただし、

天上界にひとたび足を踏み入れましたら、

魂の寿命が尽きるまでは、

そこにおらねばなりません」

「なるほど」

寿尊は黙って聞いていたが、

ゆっくりと頷いた。

「私の感じでは、

すでに寿命も終わりが近づいているようです。

生まれ変わったところで変わらぬでしょう。

こんな爺でもよろしければ、

最後は神の為に尽くしましょう。

そこで一つお聞きしたいのですが」

「何でしょう」

「坊主のここでの様子を知ることはできますか? 

天上界にいても、

坊主が元気でいるか気になります」

寿尊の言葉に冥王は頷いた。

「私は定期的に天上界からの呼び出しで、

そちらに顔を出します。

今までは無視をすることも多かったんです。

神というものは意地が悪いんですよ。

あっ」

冥王はそこまで言って口を手で押さえ、

茶目っ気たっぷりに笑った。

「こんなことを言っては、

あなたも行きづらいですよね。

でも、まあ私もそんな神の端くれです。

あなたがいてくだされば、

お話しに伺うのも楽しみになります」

「お心遣いありがとうございます」

寿尊が頭を下げた。

そんな彼が天上界に迎え入れられたのは、

それからすぐの事だった。
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