19 / 23
第3章
温風
しおりを挟む轟焔が空を切り裂く。
「いやぁこんな使い方もあるんだなぁ!!知らなんだ!」
と感心しながらその切れ目に入る伝轟。
「よぉ!!!帰ったぞぉー!」
伝轟の次に裂け目から炎心がそう言いながらひょいっと顔を出した。
と思ったら姿が消えていた。
「あれ?」
次に控えていた礼々が恐るおそる裂け目から抜け出す。
それに続く残りの2人。
「……!!!!」
炎心は既に地面にのめり込んでいた。
そして伝轟より遥かに小柄な子が彼の目の前に仁王立ち、長い前髪で隠れてはいるがすごい形相で睨みつけている。
その近くにこれまた見知らぬ男が1人のめり込んでいる炎心をただじっと見つめていた。
「(カ、カオス…!!!)」
そしてこの状況に何も動じない春組の2人…咲恵は更に戸惑いまくった。
「遅い…」
ポツリと吐き出した言葉にかなりの念が込められている。
「よぉ!霖(りん)!遅くなってすまなかったなぁ!」
そんな姿を尻目ににっかりと笑い対応する伝轟。
「遅すぎマス。これで敵に襲来を受けたらどうするんデスか?怨みマスよ?」
早口でボソボソと返答をする霖と呼ばれる者。
「なぁに、霖と聚(しゅう)がここにいれば何とかなるだろ!」
「何とかなりまセン。そういうめちゃくちゃな考えやめてくだサイ。」
「霖ちゃんごめんね…こっちで色々と…」
友愛が間にはいって霖に謝った。
「分かってル。凱即(がいそく)が来て粗方話は聞いてル。」
相変わらず早口で返答をする霖。
「凱即は…?」
礼々は辺りを見渡して彼を探した。
「凱即君なら秋組に伝えに行ったよ。」
男が答えた。
「実は春にはもう1人いてね、それが凱即。事が起きた時直ぐに夏組にその事を知らせに行ってくれたの。」
友愛が咲恵に凱即について何も言ってなかったことを詫び、簡潔に教えてくれた。
「聚、そいつ助けなくていいカラ。」
そいつとは間違いなく炎心の事である。
「うん」
即答で返事をする聚。
「(即答っ………)」
伝轟と炎心とは全くと言っていいほどテンションが違う2人。
「そんな事より」
「(そんな事より!!!)」
「春が君デスね…?」
ちらりと視線を伝轟に担がれている春幸に向け、すぐに戻す。
「あぁ、春の所はもうボロボロだ。しばらくこっちで預かる事にしたんだが…」
「場所は確保してありマス。」
まるでそうなることが分かっていたのだろうか。
「おう!ありがとうな霖!!」
「早く行きまショウ。これ以上そのむさ苦しい腕に担がれている春が君が可哀想で見ていられまセン。」
「はっはっはっはー!!」
「その笑いやめてくだサイ。唾が飛んでマス。」
「(何この会話!!!!!!)」
咲恵は2人の温度差にパニックを起こした。
「2人はとにかくその傷を手当しないと。咲恵さん?…も限られた時間ではありますがゆっくりと休んでください」
こちらですと聚が案内を始めた。
伝轟と霖は何かを言いながら咲恵達とは真逆の方へ歩いていった。
炎心はそのままである。
「(炎心さんは大丈夫なのこれ…)」
「彼なら大丈夫です。いつもの事ですから」
聚は咲恵の心を見透かしたように独り言を呟く。
夏組との対面が衝撃すぎたが、夏組がいる所は春組がいた場所とは全く違う雰囲気である。何よりも違うのは気候と植物達。
気温は明らかに高く、歩いていると少しずつ汗が滲み始めた。生い茂る植物達は簡単に言えば南国に生息してそうなものばかり。
春の草花はそこまで主張してこなかったがここにある草花はどれもカラフルでハッキリした色合いである。
「(ここが…夏の世界)」
暑いのは嫌だが雰囲気は好き。
そんなことを考えながらなるべくこちらの歩幅に合わせて歩く聚について行った。
辿り着いた場所には神殿のような建物が建っていた。
「ここは春のところとほとんど同じなんだ…」
「さ、中へ。」
大きな扉を通り広間へ。
「友愛ちゃん、礼々君はすぐ治療するからここで待ってて」
「ありがとう」
「かたじけない」
笑顔で答える友愛も平静を装ってる礼々も見るからに疲れ切っていた。
「(…なにか声をかけた方がいいのかもしれないけれど…)」
なんて声を掛けたらいいのだろうか。
咲恵は少しの間だけ考え込んだ。
慰めの言葉?
労いの言葉?
「(春幸…春幸なら2人になんて声を掛けるの?)」
「咲恵さんはこちらへ。」
聚は再び歩きだす。
慌てて咲恵もついて行く。
「じゃあまた後でね咲恵!」
「うん…また」
気丈に振る舞う友愛。
「(結局言葉なんてかけられなかった…)」
そんな自分に落胆をしつつ広間を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
繰り返しのその先は
みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、
私は悪女と呼ばれるようになった。
私が声を上げると、彼女は涙を流す。
そのたびに私の居場所はなくなっていく。
そして、とうとう命を落とした。
そう、死んでしまったはずだった。
なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。
婚約が決まったあの日の朝に。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語
紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。
しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。
郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。
そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。
そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。
アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。
そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる