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第19話「選ばれるのが怖くて、選ぶのが怖い」
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春の雨が、王都の石畳を静かに濡らしていた。
私は書斎の窓辺で、昨日から何度も同じ問いを繰り返している。
——私は、どちらに“選ばれたい”んだろう。
——そして、私は“誰を選びたい”のだろう。
レオン様からの指輪。
ユリアン様が編んでくれた花冠のリボン。
どちらも、そっと机の上に置かれたままだ。
視線を逸らすように、ふと窓の外に目を向ける。
その瞬間——
見覚えのある後ろ姿が、庭園を歩いているのが見えた。
「……シアン?」
⸻
「クラリス!」
振り向いた彼の顔は、昨日と変わらないのに、
なぜか少しだけ、遠くなったように見えた。
「久しぶり。最近、あまり顔を見なかったから、どうしてるか心配で」
「……ごめんね。ちょっと、いろいろあって」
「うん。知ってる」
彼の声は静かだった。
「レオン様と……それから、王子と。
君のまわりには、すごい人たちが増えてきた」
「……」
「でも、俺には君が“難しい顔をする”回数が増えたように見えるよ」
私は言葉に詰まる。
「もし……その指輪も、花冠も、どちらも迷ってるなら——」
シアンがそっと私の手を握った。
「俺が“どちらも壊してしまいたい”って思ってること、知ってて」
「……シアン……」
「でも、壊す代わりに、君を連れ出したくなるんだ。
どこか遠くへ。誰にも見つからないところで、ただ一緒に笑って過ごしたくなる」
彼の手は、あたたかくて、優しかった。
「……でもそれじゃ、君の人生を奪うことになる。
だから俺は、ここで待つ。“クラリスが選ぶ自分”を信じて」
⸻
その夜。
レオンとユリアンは、王宮内の書院で静かに向き合っていた。
まるで偶然を装ったようでいて、互いに狙っていたような邂逅。
「……レオン様。あなたは本気で彼女を奪うと、言った」
「君もだろう。違うのは、私のほうが“先に気づいていた”というだけだ」
「気づいていたけれど、動かなかった」
ユリアンの声は穏やかだが、明確な批判を含んでいた。
「クラリス嬢は、誰かに“選ばれる”ことに怯えている。
彼女が選べるようになるまで、“誰か”が手を差し伸べてあげなければいけない」
「それが“君”である必要はない」
「では、あなたがその手を最後まで握ってくれますか?」
レオンの目がわずかに細められる。
「君は、他人の心に入り込むのがうまい。
だが私は、彼女の“不安”ごと包む覚悟がある」
ふたりの間に沈黙が落ちる。
そして、ユリアンは静かに言った。
「……僕は、彼女に“恋”を捧げるつもりです。
あなたが“責任”を捧げるというなら、僕は“情熱”で勝負する」
その言葉に、レオンははじめて小さく息をついた。
「面白い。ならば——クラリスが選ぶまで、正々堂々、戦おう」
夜の書院。
誰にも知られず、しかし確かに宣戦布告が交わされた。
⸻
その頃、クラリスは部屋の窓辺で、そっと目を閉じていた。
胸の奥に浮かぶのは、
微笑むユリアン。
誓うレオン。
そして、待っているシアン。
——私が、傷つけてしまうのは誰なんだろう。
答えは、まだ見えなかった。
私は書斎の窓辺で、昨日から何度も同じ問いを繰り返している。
——私は、どちらに“選ばれたい”んだろう。
——そして、私は“誰を選びたい”のだろう。
レオン様からの指輪。
ユリアン様が編んでくれた花冠のリボン。
どちらも、そっと机の上に置かれたままだ。
視線を逸らすように、ふと窓の外に目を向ける。
その瞬間——
見覚えのある後ろ姿が、庭園を歩いているのが見えた。
「……シアン?」
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「クラリス!」
振り向いた彼の顔は、昨日と変わらないのに、
なぜか少しだけ、遠くなったように見えた。
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彼の声は静かだった。
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「でも、俺には君が“難しい顔をする”回数が増えたように見えるよ」
私は言葉に詰まる。
「もし……その指輪も、花冠も、どちらも迷ってるなら——」
シアンがそっと私の手を握った。
「俺が“どちらも壊してしまいたい”って思ってること、知ってて」
「……シアン……」
「でも、壊す代わりに、君を連れ出したくなるんだ。
どこか遠くへ。誰にも見つからないところで、ただ一緒に笑って過ごしたくなる」
彼の手は、あたたかくて、優しかった。
「……でもそれじゃ、君の人生を奪うことになる。
だから俺は、ここで待つ。“クラリスが選ぶ自分”を信じて」
⸻
その夜。
レオンとユリアンは、王宮内の書院で静かに向き合っていた。
まるで偶然を装ったようでいて、互いに狙っていたような邂逅。
「……レオン様。あなたは本気で彼女を奪うと、言った」
「君もだろう。違うのは、私のほうが“先に気づいていた”というだけだ」
「気づいていたけれど、動かなかった」
ユリアンの声は穏やかだが、明確な批判を含んでいた。
「クラリス嬢は、誰かに“選ばれる”ことに怯えている。
彼女が選べるようになるまで、“誰か”が手を差し伸べてあげなければいけない」
「それが“君”である必要はない」
「では、あなたがその手を最後まで握ってくれますか?」
レオンの目がわずかに細められる。
「君は、他人の心に入り込むのがうまい。
だが私は、彼女の“不安”ごと包む覚悟がある」
ふたりの間に沈黙が落ちる。
そして、ユリアンは静かに言った。
「……僕は、彼女に“恋”を捧げるつもりです。
あなたが“責任”を捧げるというなら、僕は“情熱”で勝負する」
その言葉に、レオンははじめて小さく息をついた。
「面白い。ならば——クラリスが選ぶまで、正々堂々、戦おう」
夜の書院。
誰にも知られず、しかし確かに宣戦布告が交わされた。
⸻
その頃、クラリスは部屋の窓辺で、そっと目を閉じていた。
胸の奥に浮かぶのは、
微笑むユリアン。
誓うレオン。
そして、待っているシアン。
——私が、傷つけてしまうのは誰なんだろう。
答えは、まだ見えなかった。
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