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楽しい王都見学
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馬車を降りて、目抜き通りをお父さまと一緒に歩く。
さすが王都。
ひと、ヒト、人。にぎやかで活気にあふれていた。
石畳が敷いてあるので、歩きやすいわ。
荷物を運ぶ馬や馬車も滞ることなく動いている。
いろいろな店の軒先にあるカラフルな品物が目を刺激する。甘い匂いに、香ばしい香り。何の匂いだろう。食欲をそそる匂いだわ。
青々とした野菜が並んで、果物たちが私を呼んでいる。私を食べてってオーラが出ているじゃない。
食堂やカフェもある。可愛らしい雑貨屋に魔法道具。そして、いつも行く本屋。建物が寄っておいでよと誘惑してきます!
これは危険だわ。どんどん買い食い、買い物したくなってきた。燃えるわ。本屋もぜひのぞきたいけど、今回は無理かな。ゆっくり時間をかけて本屋は攻めたいもんね。待っててね、本屋さん。
さて、次はどこのお店を見ようかな。
思わず体が熱くなって、腕まくりをしそうになったが、はっと気がついてやめておいた。
ここはうちの領土じゃないしね。ドレスだし、誰かに見られていたら赤っ恥よ。
セーフだったわ。ここは気品とか必要な街だったわね。
それでも好奇心に負けて、ちょこちょこと通りを行ったり来たりしていたら、お父さまが苦笑していた。
「どうだ? アリス。久しぶりの王都だろう? どう思う?」
お父さまは私の反応を覗き込んだ。
「今まで買い食いや本屋にしか興味がなかったのですが……、これから開拓して町をつくるという視点で見ると……、すっごく新鮮でした」
お父さまは嬉しそうに私の話の続きを待っていた。
「改めて王都をみて思ったのは……、よく整備されているってことでしょうか」
お父さまは目を細めた。
「いたるところに石畳が敷いてあります。舗装されているため、やはり歩きやすいし、物の往来もよくなっていると思います。うちの町も舗装されてはいますが、すべての道ではありません」
「そうだな。道の整備か……」
「あと、気が付いたことは、軒先に簡易的な屋根をつけて日差しを遮るのはどうでしょう。カラーを統一するといいかもしれません。雨の日や夏は便利になりますし。通りの広さを確保すれば、軒先にパラソルをだしてもいいかなと思います」
ちょっと洒落た可愛い街並みにならないかしら?
うちの町は活気はあって、買い物も楽しいんだけど、ホッとする場所が足りない気がしたのよね。
「そうだな、なるほど。たしかに天候に左右されず買い物がしやすいな」
お父さまはうなずいた。
「また家が密集している地域では、観光客が全く来ませんが……。もし住まいの集まる地域において、観光客を誘致したいと住民から希望があれば、例えば家の窓枠の外側に花の鉢をおくとか、家の壁の色を数種類に限定して景観を揃えるというのもいいかもしれません」
「ほう、具体的に言うと、どういうイメージかな」
お父さまの眼がキランと光った。
お父さま、やる気ですね。観光客にお金を落としてもらえれば、万々歳ですからねえ。
「もともとうちの領地では白い壁の家が多いですから、行政が少しお願いするだけで街並み自体が観光スポットになったりするかもしれません。青い空に白い家。そして緑が植えられている窓辺。屋根の色は赤茶に……にですね。もちろん色とりどりの屋根でもそれはそれでありなのかもしれませんが。そうするといつまでも見ていたい街並みになるんじゃないかなっておもったのです」
私は頭を捻りながら提案した。
「なるほど、うちの町は貿易や商品取引の町という印象が強いが、町並みを整備して観光方面も推していくと言うわけか」
うちの町は貿易や商品取引が盛んなため、両替商の店も多いんだけど、なんとなく町の印象がばらばらなんだよね。
売るために個性的にしているというのはあると思うんだけど。街並みの色や景観を揃えたら、もっと観光客が来そうな気がするの。
ちょっと高いところから、丘とかにビュースポットとか作ってもいいし。
「それは一案としてですけれどね……。工業や貿易、商業のどれか一つだけに頼らないほうがいいかなと思うのです。王都から無理難題を課せられている現状もありますから」
お父さまは「たしかに」と渋い顔でつぶやいた。
「あと、王都は市場と町の距離が近いため、市場からの新鮮な食べ物をその場でさばくということを売りにした店が町にいくつも並んでいますよね」
「ああ、そうだな。新鮮さを売りにしている店が繁盛しているな」
「そう、そこなんですよ。お父さま」
私は店先でお客を呼び込もうとする店をお父さまに案内する。
「今日の朝獲れたての魚だよ。うまいよ、うまいよ。すぐに調理するよ」
店の人たちは通りを歩く人たちにどんどん声をかけていく。
魚や海産物が店の前にあり、食べたいものを選んだら、店の人に伝えて、その場でオーダーするシステムのようだ。
魚や貝を軒先の網で焼いているから、香ばしい食欲を誘う匂いがあたりに漂っている。
うっかり店に寄りたくなっちゃうわ。これは罠よ。
「うちの領地にある、海の町にも、観光客が入れるような市場や商店街をつくって……。こんなふうに新鮮な海の幸を自分たちで選んで食べられる店を作ったりしてもいいですよね。そうしたら、海の町もさらに活性化するかと思うのです」
お父さまはニコリと笑った。
「海の町と住宅地の観光化か。いいところに目をつけたな。あとは、その予算をどうするかってところだよなあ」
「そうですね。それは、私の領地開拓の進み具合を待ってもらうしかないですね」
お父さまはすまなそうな顔をした。
大丈夫ですよ。あっという間に開拓してきますからね。お任せください。
私は笑って見せた。
「ところであの副教皇、私たちを目の敵にしてませんでしたか」
「……そうだな」
お父さまは何か考えているようだ。
「困りますねえ、あんなふうだと」
私はやれやれと首を振った。
いつもお父さまはああいう輩を相手にしているのかと思うと、すごいと思ったの。
「うちの領地には金があると思っているからだろうなあ。たしかに、うちの町にある教会は領主の私とも仲が良く助け合い、領民ともうまくやっているが……。王都の教会は国の教会の権力が集まるところでなあ。うちにある教会がラッセル領を仕切れていないことが気に入らないようだ」
お父さまは町の外れの方にある小さな教会を見つめている。
「人々の信仰を政治に利用するのは、危険かと……」
「権力と言うのは中毒性があるからな。それにうちの教会主は、聖職者らしく、それこそ領民寄りだからな」
「うちの教会主と副教皇とは、まるで正反対……なのですよね」
お父さまは黙ってしまった。
自分で制御できない力は扱わないのが魔法でも原則だ。そんなことをしたら命を失う危険がある。
だから私は毎日限界突破を目指しているんだけど……。
副教皇はそんなに権力を集めて、どうするというのだろう。扱いきれない権力は、身を亡ぼすのでは? なんてね。余計なお世話か。
「あ、あれ?」
黒い馬と黒い髪を町の中で見つけて、私は思わず声を発してしまった。
なんかこう、カッコいいのって、目がいっちゃうということ、あるよね?
やはり目立つのよ、あの馬! さすがブラックナイト(仮)。半端ないオーラが滲んでいるに違いないわ。彼はスターよ、スター。生まれついてのスターに違いない。
やはり、欲しいなぁ。
ブラックナイト(仮)に熱い視線を送る。目があった気がする! きゃー。
「ん? どうしたアリス」
「ああ、黒い馬と黒い髪の人を見つけたんです。黒い有名な馬と言ったら、ブラックナイトじゃないですか。だから、もしかしてあれはブラックナイトかもしれないって思っていて……、先日、森で見かけたときがあって、うちの馬にしたいなって狙っていたところなんです」
「黒い髪の人? 男か?」
お父さまの顔がゆがむ。
「はあ、黒い髪の人は男性だと思いますが。それより、馬なんですけど。お父さま、みました? ほら、あれ、ブラックナイトっぽくないですか? うちで飼うことができたら楽しいと思いませんか」
「うちの娘につきまとう男がいるのか!」
だからそこじゃないですって。ほんとうにもう。
私は呆れてお父さまを見つめた。
「ううん、ああ、ブラックナイト。いい馬だな。うん、機会があったら手にいれたいな」
お父さまが棒読みする。なんかショック受けてる? 面倒な父だな。
私が言いたいのは馬ですよ、馬。超絶カッコいいのに。なんか投げやりじゃないんですか、その返事。
まあいいですけど。お父さまはブラックナイトに興味なかったのかしら。
あの馬、黒くてつやつやした毛並み。足の筋肉も筋肉の筋も素晴らしく……、尾っぽもフリフリ。もう、きゅんとします。
もちろん、うちのマカミが一番ですけどね。白いふわふわに埋もれて、くつろぐ。マカミは神って思いますよ。守護神ですけどね。
「ちょっと、よそ見しないでおくれよ。危ないだろ!」
魚売りのおばちゃんの怒号が響いてきた。
どうしたのかな。なんでおばちゃん怒ってるの?
私はお父さまから再び黒い馬と人のほうへ視線を戻す。
ああ、どうやら黒髪の人、おばちゃんにぶつかっちゃったみたい。
かわいそうに。魚が道路に散らばってます! きょうの売り上げに関わるので、おばちゃん、すんごい怒って顔が赤いです。
馬は? 馬は平気かしら。黒い馬が気になって仕方がない。
私が黒い馬の方を見ると、馬は首を高く上げて、「ブルルルル」と小さな声で鳴いた。
どうやら無事っぽい。よかった、よかった。
「アリス、おまえも前を向かないと危ないよ」
お父さまに促され、仕方なく馬を見るのをあきらめた。
ああ、いい毛並みのお馬さんだったわ。眼福よ。たぶん、やっぱりあれはブラックナイトね。魔力を持っているの。いいわあ。ほしいわ。
お父さまをじっと見る。
「なんだ、あいつがそんなに気になったのか」
「はい……。あんな素敵な……うま」
「もう言うな。私が何とかしてやるからな。かわいそうなアリスよ」
お父さまは一人で涙をにじませている。
もしもし、馬が欲しいってそんなに深刻でしたか? かわいそうなんですか? 何か誤解してませんか? 気のせいでしょうか。
お父さまが勝手に湿っぽいので、空気を変えるべく、私は周りを見回した。
あら……、古本市できたときはなかったのに……。新しいカフェや出店がなんか増えてない?
可愛らしい雑貨屋さんも、魔法薬のお店もできてる! 今度フィリップもつれてきたいな。喜ぶわよ、きっと。
街歩きは新しい発見ができるのがいいわよね。足取りも軽やかになる。
なんか知らないスパイスの匂いがする。
ええ? なにこれ。真っ赤じゃない! 食べられるの?
私は樽の中にくぎ付け。いろいろな野菜が入っている。うーん、これ、辛いのかしら。それとも甘いの?
「おとうさま、ずいぶん珍しい料理や変わった品物をあつかっている店が増えてますね。うちの町でも見たことがないものもあります」
唐辛子がバケツに山盛りになっているのが売られていた。
あんな量の唐辛子どうするのかな。だからあの樽の中が真っ赤なのね。
唐辛子だけど、うちの領土の唐辛子より二倍くらい大きい。
大辛なのかしら。激辛なのかしら。食べられるの?? お腹壊さないのかな。
「ああ、そうだな。アリスはよその国に行ったことがないからな。隣のヘカサアイ王国のものだと思う。私も昔隣国に留学していたことがあるから、知ってるけどな」
お父さまは顎を手で撫でて、眉をひそめている。
しかし、王都のど真ん中なのに、外国の食べもののお店が多くない? 流行りなのかしら。でも、貿易拠点の街じゃないし、一過性の流行りの食べ物屋さんがこんなに出店……。なんだか王都がゆっくり変容しているみたい。一体いつからなのかしら?
その割に両替のお店は増えてない感じがする。
昔からある小さな両替の店の前には列ができていた。並んでいる人の多くは外国の人のようだ。
ということは、最近外国の人たちが多くなったってこと?
街行く人もいつもの王都の商売人の服装とデザインがすこしちがう感じがした。
なにが違うんだろう? よく似ているんだけど、通気性がよさそうな生地? スリットがあることかな?
ちょっとしたことなんだけど、気になった。
変わった建物もあったので、ふらふらと寄っていってみた。
雰囲気的に教会っぽいけれど、王都の教会とは違って、テーマカラーが濃いグリーンだった。
できたばかりの建物らしく、きれいだった。
ドアが開いていたので、ちらっと見てみると、静寂さと荘厳さで圧倒される。よく磨かれた床にダークグリーンの絨毯が長く伸びている。
3段の階段があり、祭壇らしいものが奥にある。
もしかすると、外国の人向けの教会のようなものなのかもしれないな。うちの教会とも王都の教会とも違う雰囲気がする。
右をみると、うちの領土にもある、普通の小さな教会があった。
うちの国の教会は赤かブルーなんだよね。色の違いは規模によると聞いたことがある。ここは赤がイメージカラーらしい。赤い旗が入り口に建てられており、内部には赤い絨毯が敷いてあった。
しっかりした石造りの建物で、崩れた様子はない。むしろ建てたばっかりって感じだ。開いているドアから覗いてみたが、中が荒れていて、めちゃくちゃになっているわけでもなかった。むしろ花がたくさん飾ってあったり、窓ガラス全てがステンドグラスだったりして、王都らしい華やかな感じ。
ただ……、んん? 屋根がドーム型になっていて、大聖堂や普通の教会とは違うつくりになっている。向かいの外国っぽい教会の屋根に似ているような……。変ね、ここ王都なのに。
お父さまも首をひねっていた。
「教会も、うちの教会より派手ですが、別に崩れているってわけじゃないですよね。さっき見た大聖堂もすんごく立派です。他にも街中で建設中の教会も見かけましたが、規模が大きいですねえ」
「そうだな、教会は派手で、立派だな……。しかも、小さな教会の数も多いな。こんなに街中にいらないのではないかとも思うが。異教徒のための教会もあるようだし。この教会もそうだが、建物の形も今までのものと違う雰囲気だ……。副教皇は何を企んでいるんだろう」
お父さまは心配そうに小声でつぶやいた。
何かが王都で起きている。そんな気がした。
重い沈黙に耐えられなくなって、私は道を急いだ。
「ああ、あれじゃないですか? おとうさま」
1軒の店の前に3重にもぐるっと人が並んでいた。
予約の方はこちらからというプラカードを見つけ、私はお父さまを引っ張っていった。
お目当てのフルーツバーは女性であふれかえっていた。お父さまは、若い女性のパワーにびっくりしている。フルーツバイキングだから、みんな目の色を変えて、皿に山のように盛っているんだよね。なくなったら終わりっていう目玉になっているフルーツもあるみたい。
かという、私の皿もフルーツ山盛り。軽食のサンドイッチやピザ、パスタもあるから、女性に連れられてきた男性もお腹を満たすことができるシステムになっている。
お父さまの皿はパスタとピザがメインだ。フルーツは添え物程度だ。
「このお店はフルーツメインなんですよ」
「そうなのか、だから果物しかないんだな」
「いやいや、他にもあるじゃないですか。でも、お父さま、ここではフルーツを食べないと損しますよ」
ここにもうちの領地にはないフルーツがたくさん並んでいた。種類を覚えて帰らないと! どこで手に入るかな。
ふと、お父さまの方をみると、店の女性たちはお父さまを見てうっとりしている。黙っていれば美中年。イケオジってやつだ。さすがお父さま。
でも、見られて食べづらそうですけどね。
お父さまがみんなの鑑賞用になっているうちに、私はライバルがいなくなったスイーツをたくさんもらってきますからね。お父さま、ありがとう。
フルーツや可愛らしいケーキの種類は紙にメモをした。おいしそうなフルーツをこそっとマジックポケットに入れるという手もあったけど、そういうことはいけないんですよ。食べ放題のマナーを守らないといけません!
「もうお腹もいっぱいです。お父さま、お土産を見ましょうか」
もう喉元近くまでたべちゃったじゃない。美味しすぎるのも罪ですよね。
このお店で食べられるすべてのものをちょっとずついただきました。
いやあ、すんごいたべた。満足。ううん、そうじゃなくて。大変勉強になりましたわ。
注目を浴びすぎていて、居づらそうにしていたお父さまは、ほっとしたように席を立ち、店内のお土産コーナーに立ち寄った。
お母さまとフィリップにあめがけのイチゴをゲット! 簡単な調理だけど、見た目がいいもんね。食べ歩きもできるように串にさしてある。
うちの町でスタンド販売してもいいよね。
パイナップルとかでもいいし。
店内にはカラフルな綿あめやポップコーンもある。やっぱり可愛い食べ物たちは人気みたい。
お土産用にもピッタシ。焼きたてのパンケーキはいかがという張り紙をみて、家族用と使用人用のお土産として購入した。
みんな喜んでくれるかな。
厨房長やキッチンのメンバーの勉強にもなるので、出先ではいつも多めに食べもののお土産を買うことにしているの。作り方を研究してもらって、うちの領地でも流行らせちゃおうという魂胆ですよ。
異文化でも、新しいものでも、食べ物ならトライしやすいってあるよね。それから料理をする人と言うのは新しい食材が好きだったりするのよ。
私もおいしいものが食べられて一石二鳥! 三鳥!
こういう地道な活動(食べ歩き)が町を活性化させているといっても過言ではありませんよ。たぶん……ね。
マカミにはクッキーと巨大なボールを買った。マカミのお土産はいつも難しいんだよ。何が欲しいのかわからないし。一番しっぽをふりふりしてくれるのって、一緒に遊んだり、おやつ食べたりしているときだから……。
べつに私たちと同じような食べ物のお土産でいいのかなと思ったり……。今回はチョコレートのクッキーにしてみたよ。マカミはチョコレートが好きだからね。
神様には何がふさわしいのかわからないけど、マカミはいつも嬉しそうに受け取ってくれるから好き。いつも私のそばにいてくれるし。大好き。
店を出ると、まだまだ行列は続いていた。
さすが人気店。もうすぐ夜になるというのに……。
ふと店の前の看板を見ると、夜のメニューが!
なるほど。店もなかなかやりますな。
思わずうなってしまった。
未練がましく店の前にいる私をお父さまが引っ張って歩き出した。私とお父さまは、人通りの少ない路地に入り、立ち止まった。
「さて、お父さま、お土産を貸してください」
ささっと人の目がないことを確認。
「アリス、ありがとう。助かるよ」
パンケーキやクッキーが悪くならないようマジックポケットに収納した。この中なら、湿気ないし、冷めないからね。
マジックポケットを開けてびっくり!
うわああ、ブラウン! なんでここにいるんですか!
ブラウンが中にいました。ごめんなさい。
「私ごと、王都へお出かけとは……。ほんとやることが雑ですね」
「すいません……」
ブラウンの毒舌。身に染みるわ。でもね、ブラウンは裏表がないし、私のためにいつも尽くしてくれているのを知っているから、いいの。
そう、私が雑なんです。反省だわ。気をつけないとね。
私がびっくりしていると、ブラウンがお土産を受け取った。
「先にいただいてもいいですか?」
ブラウンが鼻を鳴らす。パンケーキの甘い匂いに気が付いたのだろう。
「もちろん!」
私がいうと、ブラウンは嬉々としてお茶の準備を始めた。
私はブラウンに手を振ると、ブラウンも笑顔を返してくれた。
マジックポケットを閉じると、お父さんは不思議そうに私をみている。ちょっとだけ落ち込んでいたのがばれたらしい。
「何かあったのか?」
「実は、ブラウンごと、王都に来てました」
お父さまは私のことを冷ややかに見る。
今度はブラウンがいるかマジックポケットの中を確かめてから、移動します。だからそんな目で見ないで!
さすが王都。
ひと、ヒト、人。にぎやかで活気にあふれていた。
石畳が敷いてあるので、歩きやすいわ。
荷物を運ぶ馬や馬車も滞ることなく動いている。
いろいろな店の軒先にあるカラフルな品物が目を刺激する。甘い匂いに、香ばしい香り。何の匂いだろう。食欲をそそる匂いだわ。
青々とした野菜が並んで、果物たちが私を呼んでいる。私を食べてってオーラが出ているじゃない。
食堂やカフェもある。可愛らしい雑貨屋に魔法道具。そして、いつも行く本屋。建物が寄っておいでよと誘惑してきます!
これは危険だわ。どんどん買い食い、買い物したくなってきた。燃えるわ。本屋もぜひのぞきたいけど、今回は無理かな。ゆっくり時間をかけて本屋は攻めたいもんね。待っててね、本屋さん。
さて、次はどこのお店を見ようかな。
思わず体が熱くなって、腕まくりをしそうになったが、はっと気がついてやめておいた。
ここはうちの領土じゃないしね。ドレスだし、誰かに見られていたら赤っ恥よ。
セーフだったわ。ここは気品とか必要な街だったわね。
それでも好奇心に負けて、ちょこちょこと通りを行ったり来たりしていたら、お父さまが苦笑していた。
「どうだ? アリス。久しぶりの王都だろう? どう思う?」
お父さまは私の反応を覗き込んだ。
「今まで買い食いや本屋にしか興味がなかったのですが……、これから開拓して町をつくるという視点で見ると……、すっごく新鮮でした」
お父さまは嬉しそうに私の話の続きを待っていた。
「改めて王都をみて思ったのは……、よく整備されているってことでしょうか」
お父さまは目を細めた。
「いたるところに石畳が敷いてあります。舗装されているため、やはり歩きやすいし、物の往来もよくなっていると思います。うちの町も舗装されてはいますが、すべての道ではありません」
「そうだな。道の整備か……」
「あと、気が付いたことは、軒先に簡易的な屋根をつけて日差しを遮るのはどうでしょう。カラーを統一するといいかもしれません。雨の日や夏は便利になりますし。通りの広さを確保すれば、軒先にパラソルをだしてもいいかなと思います」
ちょっと洒落た可愛い街並みにならないかしら?
うちの町は活気はあって、買い物も楽しいんだけど、ホッとする場所が足りない気がしたのよね。
「そうだな、なるほど。たしかに天候に左右されず買い物がしやすいな」
お父さまはうなずいた。
「また家が密集している地域では、観光客が全く来ませんが……。もし住まいの集まる地域において、観光客を誘致したいと住民から希望があれば、例えば家の窓枠の外側に花の鉢をおくとか、家の壁の色を数種類に限定して景観を揃えるというのもいいかもしれません」
「ほう、具体的に言うと、どういうイメージかな」
お父さまの眼がキランと光った。
お父さま、やる気ですね。観光客にお金を落としてもらえれば、万々歳ですからねえ。
「もともとうちの領地では白い壁の家が多いですから、行政が少しお願いするだけで街並み自体が観光スポットになったりするかもしれません。青い空に白い家。そして緑が植えられている窓辺。屋根の色は赤茶に……にですね。もちろん色とりどりの屋根でもそれはそれでありなのかもしれませんが。そうするといつまでも見ていたい街並みになるんじゃないかなっておもったのです」
私は頭を捻りながら提案した。
「なるほど、うちの町は貿易や商品取引の町という印象が強いが、町並みを整備して観光方面も推していくと言うわけか」
うちの町は貿易や商品取引が盛んなため、両替商の店も多いんだけど、なんとなく町の印象がばらばらなんだよね。
売るために個性的にしているというのはあると思うんだけど。街並みの色や景観を揃えたら、もっと観光客が来そうな気がするの。
ちょっと高いところから、丘とかにビュースポットとか作ってもいいし。
「それは一案としてですけれどね……。工業や貿易、商業のどれか一つだけに頼らないほうがいいかなと思うのです。王都から無理難題を課せられている現状もありますから」
お父さまは「たしかに」と渋い顔でつぶやいた。
「あと、王都は市場と町の距離が近いため、市場からの新鮮な食べ物をその場でさばくということを売りにした店が町にいくつも並んでいますよね」
「ああ、そうだな。新鮮さを売りにしている店が繁盛しているな」
「そう、そこなんですよ。お父さま」
私は店先でお客を呼び込もうとする店をお父さまに案内する。
「今日の朝獲れたての魚だよ。うまいよ、うまいよ。すぐに調理するよ」
店の人たちは通りを歩く人たちにどんどん声をかけていく。
魚や海産物が店の前にあり、食べたいものを選んだら、店の人に伝えて、その場でオーダーするシステムのようだ。
魚や貝を軒先の網で焼いているから、香ばしい食欲を誘う匂いがあたりに漂っている。
うっかり店に寄りたくなっちゃうわ。これは罠よ。
「うちの領地にある、海の町にも、観光客が入れるような市場や商店街をつくって……。こんなふうに新鮮な海の幸を自分たちで選んで食べられる店を作ったりしてもいいですよね。そうしたら、海の町もさらに活性化するかと思うのです」
お父さまはニコリと笑った。
「海の町と住宅地の観光化か。いいところに目をつけたな。あとは、その予算をどうするかってところだよなあ」
「そうですね。それは、私の領地開拓の進み具合を待ってもらうしかないですね」
お父さまはすまなそうな顔をした。
大丈夫ですよ。あっという間に開拓してきますからね。お任せください。
私は笑って見せた。
「ところであの副教皇、私たちを目の敵にしてませんでしたか」
「……そうだな」
お父さまは何か考えているようだ。
「困りますねえ、あんなふうだと」
私はやれやれと首を振った。
いつもお父さまはああいう輩を相手にしているのかと思うと、すごいと思ったの。
「うちの領地には金があると思っているからだろうなあ。たしかに、うちの町にある教会は領主の私とも仲が良く助け合い、領民ともうまくやっているが……。王都の教会は国の教会の権力が集まるところでなあ。うちにある教会がラッセル領を仕切れていないことが気に入らないようだ」
お父さまは町の外れの方にある小さな教会を見つめている。
「人々の信仰を政治に利用するのは、危険かと……」
「権力と言うのは中毒性があるからな。それにうちの教会主は、聖職者らしく、それこそ領民寄りだからな」
「うちの教会主と副教皇とは、まるで正反対……なのですよね」
お父さまは黙ってしまった。
自分で制御できない力は扱わないのが魔法でも原則だ。そんなことをしたら命を失う危険がある。
だから私は毎日限界突破を目指しているんだけど……。
副教皇はそんなに権力を集めて、どうするというのだろう。扱いきれない権力は、身を亡ぼすのでは? なんてね。余計なお世話か。
「あ、あれ?」
黒い馬と黒い髪を町の中で見つけて、私は思わず声を発してしまった。
なんかこう、カッコいいのって、目がいっちゃうということ、あるよね?
やはり目立つのよ、あの馬! さすがブラックナイト(仮)。半端ないオーラが滲んでいるに違いないわ。彼はスターよ、スター。生まれついてのスターに違いない。
やはり、欲しいなぁ。
ブラックナイト(仮)に熱い視線を送る。目があった気がする! きゃー。
「ん? どうしたアリス」
「ああ、黒い馬と黒い髪の人を見つけたんです。黒い有名な馬と言ったら、ブラックナイトじゃないですか。だから、もしかしてあれはブラックナイトかもしれないって思っていて……、先日、森で見かけたときがあって、うちの馬にしたいなって狙っていたところなんです」
「黒い髪の人? 男か?」
お父さまの顔がゆがむ。
「はあ、黒い髪の人は男性だと思いますが。それより、馬なんですけど。お父さま、みました? ほら、あれ、ブラックナイトっぽくないですか? うちで飼うことができたら楽しいと思いませんか」
「うちの娘につきまとう男がいるのか!」
だからそこじゃないですって。ほんとうにもう。
私は呆れてお父さまを見つめた。
「ううん、ああ、ブラックナイト。いい馬だな。うん、機会があったら手にいれたいな」
お父さまが棒読みする。なんかショック受けてる? 面倒な父だな。
私が言いたいのは馬ですよ、馬。超絶カッコいいのに。なんか投げやりじゃないんですか、その返事。
まあいいですけど。お父さまはブラックナイトに興味なかったのかしら。
あの馬、黒くてつやつやした毛並み。足の筋肉も筋肉の筋も素晴らしく……、尾っぽもフリフリ。もう、きゅんとします。
もちろん、うちのマカミが一番ですけどね。白いふわふわに埋もれて、くつろぐ。マカミは神って思いますよ。守護神ですけどね。
「ちょっと、よそ見しないでおくれよ。危ないだろ!」
魚売りのおばちゃんの怒号が響いてきた。
どうしたのかな。なんでおばちゃん怒ってるの?
私はお父さまから再び黒い馬と人のほうへ視線を戻す。
ああ、どうやら黒髪の人、おばちゃんにぶつかっちゃったみたい。
かわいそうに。魚が道路に散らばってます! きょうの売り上げに関わるので、おばちゃん、すんごい怒って顔が赤いです。
馬は? 馬は平気かしら。黒い馬が気になって仕方がない。
私が黒い馬の方を見ると、馬は首を高く上げて、「ブルルルル」と小さな声で鳴いた。
どうやら無事っぽい。よかった、よかった。
「アリス、おまえも前を向かないと危ないよ」
お父さまに促され、仕方なく馬を見るのをあきらめた。
ああ、いい毛並みのお馬さんだったわ。眼福よ。たぶん、やっぱりあれはブラックナイトね。魔力を持っているの。いいわあ。ほしいわ。
お父さまをじっと見る。
「なんだ、あいつがそんなに気になったのか」
「はい……。あんな素敵な……うま」
「もう言うな。私が何とかしてやるからな。かわいそうなアリスよ」
お父さまは一人で涙をにじませている。
もしもし、馬が欲しいってそんなに深刻でしたか? かわいそうなんですか? 何か誤解してませんか? 気のせいでしょうか。
お父さまが勝手に湿っぽいので、空気を変えるべく、私は周りを見回した。
あら……、古本市できたときはなかったのに……。新しいカフェや出店がなんか増えてない?
可愛らしい雑貨屋さんも、魔法薬のお店もできてる! 今度フィリップもつれてきたいな。喜ぶわよ、きっと。
街歩きは新しい発見ができるのがいいわよね。足取りも軽やかになる。
なんか知らないスパイスの匂いがする。
ええ? なにこれ。真っ赤じゃない! 食べられるの?
私は樽の中にくぎ付け。いろいろな野菜が入っている。うーん、これ、辛いのかしら。それとも甘いの?
「おとうさま、ずいぶん珍しい料理や変わった品物をあつかっている店が増えてますね。うちの町でも見たことがないものもあります」
唐辛子がバケツに山盛りになっているのが売られていた。
あんな量の唐辛子どうするのかな。だからあの樽の中が真っ赤なのね。
唐辛子だけど、うちの領土の唐辛子より二倍くらい大きい。
大辛なのかしら。激辛なのかしら。食べられるの?? お腹壊さないのかな。
「ああ、そうだな。アリスはよその国に行ったことがないからな。隣のヘカサアイ王国のものだと思う。私も昔隣国に留学していたことがあるから、知ってるけどな」
お父さまは顎を手で撫でて、眉をひそめている。
しかし、王都のど真ん中なのに、外国の食べもののお店が多くない? 流行りなのかしら。でも、貿易拠点の街じゃないし、一過性の流行りの食べ物屋さんがこんなに出店……。なんだか王都がゆっくり変容しているみたい。一体いつからなのかしら?
その割に両替のお店は増えてない感じがする。
昔からある小さな両替の店の前には列ができていた。並んでいる人の多くは外国の人のようだ。
ということは、最近外国の人たちが多くなったってこと?
街行く人もいつもの王都の商売人の服装とデザインがすこしちがう感じがした。
なにが違うんだろう? よく似ているんだけど、通気性がよさそうな生地? スリットがあることかな?
ちょっとしたことなんだけど、気になった。
変わった建物もあったので、ふらふらと寄っていってみた。
雰囲気的に教会っぽいけれど、王都の教会とは違って、テーマカラーが濃いグリーンだった。
できたばかりの建物らしく、きれいだった。
ドアが開いていたので、ちらっと見てみると、静寂さと荘厳さで圧倒される。よく磨かれた床にダークグリーンの絨毯が長く伸びている。
3段の階段があり、祭壇らしいものが奥にある。
もしかすると、外国の人向けの教会のようなものなのかもしれないな。うちの教会とも王都の教会とも違う雰囲気がする。
右をみると、うちの領土にもある、普通の小さな教会があった。
うちの国の教会は赤かブルーなんだよね。色の違いは規模によると聞いたことがある。ここは赤がイメージカラーらしい。赤い旗が入り口に建てられており、内部には赤い絨毯が敷いてあった。
しっかりした石造りの建物で、崩れた様子はない。むしろ建てたばっかりって感じだ。開いているドアから覗いてみたが、中が荒れていて、めちゃくちゃになっているわけでもなかった。むしろ花がたくさん飾ってあったり、窓ガラス全てがステンドグラスだったりして、王都らしい華やかな感じ。
ただ……、んん? 屋根がドーム型になっていて、大聖堂や普通の教会とは違うつくりになっている。向かいの外国っぽい教会の屋根に似ているような……。変ね、ここ王都なのに。
お父さまも首をひねっていた。
「教会も、うちの教会より派手ですが、別に崩れているってわけじゃないですよね。さっき見た大聖堂もすんごく立派です。他にも街中で建設中の教会も見かけましたが、規模が大きいですねえ」
「そうだな、教会は派手で、立派だな……。しかも、小さな教会の数も多いな。こんなに街中にいらないのではないかとも思うが。異教徒のための教会もあるようだし。この教会もそうだが、建物の形も今までのものと違う雰囲気だ……。副教皇は何を企んでいるんだろう」
お父さまは心配そうに小声でつぶやいた。
何かが王都で起きている。そんな気がした。
重い沈黙に耐えられなくなって、私は道を急いだ。
「ああ、あれじゃないですか? おとうさま」
1軒の店の前に3重にもぐるっと人が並んでいた。
予約の方はこちらからというプラカードを見つけ、私はお父さまを引っ張っていった。
お目当てのフルーツバーは女性であふれかえっていた。お父さまは、若い女性のパワーにびっくりしている。フルーツバイキングだから、みんな目の色を変えて、皿に山のように盛っているんだよね。なくなったら終わりっていう目玉になっているフルーツもあるみたい。
かという、私の皿もフルーツ山盛り。軽食のサンドイッチやピザ、パスタもあるから、女性に連れられてきた男性もお腹を満たすことができるシステムになっている。
お父さまの皿はパスタとピザがメインだ。フルーツは添え物程度だ。
「このお店はフルーツメインなんですよ」
「そうなのか、だから果物しかないんだな」
「いやいや、他にもあるじゃないですか。でも、お父さま、ここではフルーツを食べないと損しますよ」
ここにもうちの領地にはないフルーツがたくさん並んでいた。種類を覚えて帰らないと! どこで手に入るかな。
ふと、お父さまの方をみると、店の女性たちはお父さまを見てうっとりしている。黙っていれば美中年。イケオジってやつだ。さすがお父さま。
でも、見られて食べづらそうですけどね。
お父さまがみんなの鑑賞用になっているうちに、私はライバルがいなくなったスイーツをたくさんもらってきますからね。お父さま、ありがとう。
フルーツや可愛らしいケーキの種類は紙にメモをした。おいしそうなフルーツをこそっとマジックポケットに入れるという手もあったけど、そういうことはいけないんですよ。食べ放題のマナーを守らないといけません!
「もうお腹もいっぱいです。お父さま、お土産を見ましょうか」
もう喉元近くまでたべちゃったじゃない。美味しすぎるのも罪ですよね。
このお店で食べられるすべてのものをちょっとずついただきました。
いやあ、すんごいたべた。満足。ううん、そうじゃなくて。大変勉強になりましたわ。
注目を浴びすぎていて、居づらそうにしていたお父さまは、ほっとしたように席を立ち、店内のお土産コーナーに立ち寄った。
お母さまとフィリップにあめがけのイチゴをゲット! 簡単な調理だけど、見た目がいいもんね。食べ歩きもできるように串にさしてある。
うちの町でスタンド販売してもいいよね。
パイナップルとかでもいいし。
店内にはカラフルな綿あめやポップコーンもある。やっぱり可愛い食べ物たちは人気みたい。
お土産用にもピッタシ。焼きたてのパンケーキはいかがという張り紙をみて、家族用と使用人用のお土産として購入した。
みんな喜んでくれるかな。
厨房長やキッチンのメンバーの勉強にもなるので、出先ではいつも多めに食べもののお土産を買うことにしているの。作り方を研究してもらって、うちの領地でも流行らせちゃおうという魂胆ですよ。
異文化でも、新しいものでも、食べ物ならトライしやすいってあるよね。それから料理をする人と言うのは新しい食材が好きだったりするのよ。
私もおいしいものが食べられて一石二鳥! 三鳥!
こういう地道な活動(食べ歩き)が町を活性化させているといっても過言ではありませんよ。たぶん……ね。
マカミにはクッキーと巨大なボールを買った。マカミのお土産はいつも難しいんだよ。何が欲しいのかわからないし。一番しっぽをふりふりしてくれるのって、一緒に遊んだり、おやつ食べたりしているときだから……。
べつに私たちと同じような食べ物のお土産でいいのかなと思ったり……。今回はチョコレートのクッキーにしてみたよ。マカミはチョコレートが好きだからね。
神様には何がふさわしいのかわからないけど、マカミはいつも嬉しそうに受け取ってくれるから好き。いつも私のそばにいてくれるし。大好き。
店を出ると、まだまだ行列は続いていた。
さすが人気店。もうすぐ夜になるというのに……。
ふと店の前の看板を見ると、夜のメニューが!
なるほど。店もなかなかやりますな。
思わずうなってしまった。
未練がましく店の前にいる私をお父さまが引っ張って歩き出した。私とお父さまは、人通りの少ない路地に入り、立ち止まった。
「さて、お父さま、お土産を貸してください」
ささっと人の目がないことを確認。
「アリス、ありがとう。助かるよ」
パンケーキやクッキーが悪くならないようマジックポケットに収納した。この中なら、湿気ないし、冷めないからね。
マジックポケットを開けてびっくり!
うわああ、ブラウン! なんでここにいるんですか!
ブラウンが中にいました。ごめんなさい。
「私ごと、王都へお出かけとは……。ほんとやることが雑ですね」
「すいません……」
ブラウンの毒舌。身に染みるわ。でもね、ブラウンは裏表がないし、私のためにいつも尽くしてくれているのを知っているから、いいの。
そう、私が雑なんです。反省だわ。気をつけないとね。
私がびっくりしていると、ブラウンがお土産を受け取った。
「先にいただいてもいいですか?」
ブラウンが鼻を鳴らす。パンケーキの甘い匂いに気が付いたのだろう。
「もちろん!」
私がいうと、ブラウンは嬉々としてお茶の準備を始めた。
私はブラウンに手を振ると、ブラウンも笑顔を返してくれた。
マジックポケットを閉じると、お父さんは不思議そうに私をみている。ちょっとだけ落ち込んでいたのがばれたらしい。
「何かあったのか?」
「実は、ブラウンごと、王都に来てました」
お父さまは私のことを冷ややかに見る。
今度はブラウンがいるかマジックポケットの中を確かめてから、移動します。だからそんな目で見ないで!
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