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出発です! ただし、王子と町散策ですけれど…… 3
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ウルマのところで商業地域の授業をたっぷり受けた後、私たちは農協へ向かって歩き出した。
王子の顔は収穫があったようで嬉しそうだ。
「トラウデンの発展は素晴らしい。そして、施策、管理をしているラッセルはすごいと思ったよ」
「はあ……。ありがとうございます。父に伝えておきます」
歩いて数分、農協に到着です。町の中枢付近に公的機関となる教会、学校、役所、農協、商工会議所などを揃えているの。そのほうが分かりやすいし、みんなも便利でしょ。
農協の建物には麦穂のシンボルマークが描かれた旗が立てられています。温かみのある、薄いピンク色をした建物で、花壇には花が咲いていた。
「王子、アリスさま、ようこそおいでくださりました。私は代表のサカゴクと申します」
サカゴクが深々と礼をする。
「今回は忍びなので、堅苦しいことは抜きにしてほしい」
王子は頬の力をゆるめた。
「はい……、ではよろしくお願いいたします」
サカゴクは王子に返答すると、私をみた。
だから、ただの元婚約者だから。ちっとも仲良くないからと私は訴えようと首を大きく横に振ったが、サカゴクはあからさまに喜んでいた。
いや、そこ喜ばないで。ねえ、それ、勘違いだから。
サカゴクは両手でハートを作って私にそっと見せた。
だから、もうカトリーヌ様という新婚約者が王子にいるんだって。マカミ、そこで寝てないで、ちょっとなんとか言ってやって!
私の心の叫びはマカミにもサカゴクにも通じてないようです。
「サカゴク、あのね、王子には新しい婚約者であるカトリーヌ様って方がいらっしゃるのよ」
私の顔は引きつる。
「ああ、そうなんですね。それなら、また王子が婚約破棄されればいいじゃないですか」
サカゴクが私に小さい声で囁く。
「いや、そんなに簡単に行かないでしょ」
「結婚じゃないですから、できますよ。結婚すると、離婚は難しいですけどね」
サカゴクが王子に確かめるように顔を見た。
王子は「そうですね。いまは……、アリスとは大変親しい仲で、いわば大親友ですよ」と言った。
どの口が言うんだろう。
私は呆れて眉をひそめた。
「天候にも恵まれ、またラッセル様が農地改良をして、ここ数年ぐんと穀高が増えました。国内流通に関しては王都などはほぼ横ばいですが、輸出分がその分伸びまして……。農民のやる気がそのまま収入になるようになってきていました」
「……きていたが?ってことか」
王子は唇を一文字にした。
「サカゴク、ちょっと……」
「お嬢様、止めないでください。一番最初に困るのは弱いものなんです」
サカゴクは硬い表情になった。
「今日は公式ではない。正直なところを教えてほしい。困っているなら困っていると」
王子も真剣に応えます。
王子、チャランポランなボンクラ頭の人ではなかったのですね。うーん、新発見! いい加減な人が王子だったら、後継者として大迷惑ですからね。頭を使うことができる人でよかったよかった。
上から目線で見ていたのがバレたのでしょうか。王子は嫌そうな顔をしました。
「この町はこの前まで平和で、努力すれば夢が叶えられる町として、近隣では憧れの地だったのです」
え? そうなんですか。大げさに言ってませんか? 私は身近な都会くらいと思ってましたよ。
「ああ、たしかに治安もいいしな。商売で一旗あげようとするなら王都よりもトラウデンがいいと聞く」
王子はうなずいた。
「ラッセル様ができるだけ商売が繁盛し、初めて商売を起こす場合もハードルが低くなるよう税金を低めにし、低利で貸付され、街の発展に尽力されているのです」
王子は腕組みをしながら、真剣に耳を傾けていた。
「ところが、ここ最近、王都から税金や教会税がますます増税され……。ラッセル様や私たち組合がなんとか調整しておりましたが、これ以上のことがあると、市井にも影響し始めそうです。人々の暮らしを守るためにも、王子……、なんとか頑張ってください」
サカゴクの訴えを真摯に聞いていた王子は少しだけ顔を歪ませたが、すぐに笑顔になった。
「約束する。人々の暮らしが第一だ」
王子はサカゴクの手を握った。
「王子……、よろしくお願いします」
サカゴクは王子に触れられ、感動しているようです。
その後も農協にある資料や最近の新しい作物など一通り紹介され、王子は満足そうでした。
私も最初は人ごととして(適当に)聞いてきいたのだけど……。
これって、領地開拓にも使えるじゃないって気が付いたの。
これから領地開拓にでるし。作物の種類や取れ高とか知っておいた方がいいもんね。いやぁ、勉強になりました。
「サカゴク、後で屋敷に新しい苗と種を届けておいて。それと、荒れた土地でもよく育つ作物も」
「はい、承知しました。お嬢様」
サカゴクはうなずいた。
「あとは、教会だけですね」
「そうだな」
王子は眩しそうに手を額にかざした。
今日は天気もよいけれど、風が全くなくて暑いです。ほんの少し外にいただけで、じんわりと汗が滲んできました。
「王子、ちょっと失礼しますね。究極魔法・風、微風」
私は小さな声で風魔法を発動させました。王子の周りだけ一方方向から風を送ります。
婚約破棄された相手だから、強風にしてやる!なんてことは思いません。ちゃんと微風です。私のところは、髪型が崩れてしまうので、超微風にしました。
うーん、涼しい。
風が全くないというのも、きついですね。
町のみんなも暑そうです。夕方までに風が吹くか、一雨来ないなら、私が散水しましょう。
王子は一瞬ギョッとしていましたが、普通の顔になりました。
「……アリスは、(究極)魔法が使えるのですね」
「はい、まあ、少し(種類としては究極魔法のみ。生活魔法は苦手)ですけど。王子も使えるでしょ? 王族だし」
王子をよく見ると、魔力の量が絶大なのがわかります。背中に滲む魔力量、すごいです。それに私と違って、器用そうだし、うらやましい限りです。きっといろんな魔法が使えるんだろうなあ。
「いや、僕は究極魔法はまだ……、完璧ではないから。アリスはすごいなあ」
王子はにっこり微笑んだ。
え? 怖い、怖い。なんですか。その笑顔。
「さ、さあ、教会へ急ぎましょうか」
なんだか嫌な予感がしたので、会話を打ち切り、私はさっさと歩きました。
小さな教会の前で、王子の足は止まり、上をみつめた。
何か思い詰めているようです。
イケメンでも、魔法量が絶大でも、悩み事ってあるんですねえ。
私が王子のことを仰ぎ見ていると、王子に気づかれて笑われました。笑った顔が可愛く見えたのは気のせいです。
「行こうか、アリス」
王子は大きく息を吸った。
「はい。おじいちゃん先生、テンメル教会主はいつもこの時間礼拝堂にいらっしゃるかと……」
私はマカミを抱きかかえた。
開け放してある重ためのドアをくぐると、礼拝堂のなかはひんやりしていた。ステンドグラスから太陽の日の光が床に伸びている。色とりどりに床を染めている様とこの静寂な空気が好きだったことをアリスは思い出した。
おじいちゃん先生は、誰かと話していた。大きい方……。わたしより10センチくらい高いかも。
女性です、女性。歳はわたしより少し年上かな。茶髪のロングヘアで、後ろ髪はあごのラインのところで縛っています。女性らしい身体ですが、全体的に力強い感じがして、運動神経の良さがわかります。う、うらやましい。
スカートやドレスではなく、動きやすいガウチョのようなスタイルで、半袖から出ている腕はこんがりと日に焼けています。海の民の方でしょうか。ベルトにあしらわれた民族柄の刺繍があちらのものによく似ています。
「おお、アリス」
テンメル教会主はアリスたちに気が付き、声をかけてくれました。私は思わず会釈です。
「アリス、こちらはピュララティス王国の、ラティファ様だよ」
ラティファはアリスの方を向き、豪快な笑顔を見せた。
「わたしのことはラティファと呼んでください」
やはり、海の民だったのね! 海の民は熱い血の持ち主が多く、またさっぱりとした気質の人が多いと言われているの。日に焼けた肌も衣装も納得です。
「ラティファ様、こちらはラッセル候の長女アリス様だ」
「よろしくおねがいします。アリスとお呼びください」
ラティファ様は緑の瞳が印象的で、体から生気があふれ出ています。笑顔がよく似合い、目鼻立ちがはっきりしている女性です。
海の民の方とは初めてお知り合いになれたので、うれしいな。ぜひピュララティス王国の話が聞きたいわ。魔法とか、本とか、美味しいものとか。
「で、こちらは?」
ラティファ様は王子の方を向きました。そうですよね、気になりますよね。なんていえばいいのかしら。
気まずい雰囲気が漂います。
「こちらは……」
テンメル教会主が口ごもる。そうよね、おじいちゃん先生だって、まさか、この国の王子でアリスの元婚約者とか、婚約破棄されたとか言えないもの。
「お久しぶりです。テンメル教会主。……アンソニーです」
王子がわざとらしい笑顔で空気をぶち割った。
「アンソニーはアリスとどういうご関係? わたし、婉曲に聞くとか、まどろっこしくて無理なんだよね。なんであんたはアリスと一緒にいるの? ねえ、我がいとこ殿」
ラティファの目がキラキラ輝いている。もしかして、恋バナ好きなのかもしれないわ。恋愛小説も読むかしら……。でも、王子とは、残念だけど、そういう関係じゃないのよねえ。
「それは……、なんと言っても今も親しい仲だからですよ。大親友ですからね。ね、アリス」
アリスのほうにアンソニーはわざと手を伸ばし、ラティファの前で手をつないで見せた。
「……」
ええっと。大親友って、手をつなぐんでしたっけね? というか、私たち友達でもないですよね。
あと、「いとこ」とか言ってなかった?
眉根をハの字にしていたら、ラティファは面白そうに笑った。
「あれだろ、婚約破棄したっていうやつだろ。こっちにも情報網はあるからな、報告が来てるぞ。アリスも大変だったな、かわいそうに」
ラティファは頭の上で手を組んで笑った。
「ラティファも意地が悪い」
アンソニー王子は黒い笑みを浮かべている。え? 二人とも仲良しさんなの?
「理由はどうであれ……、王子が婚約破棄したのが悪いんだろ。アリスの何が不満だ? こんなに可愛らしくて、魔力も甚大なのに。アリスもこの国じゃ居づらいだろう? 気分を変えるのにピュララティスに遊びにきたらいい。歓迎するぞ」
王子の顔は収穫があったようで嬉しそうだ。
「トラウデンの発展は素晴らしい。そして、施策、管理をしているラッセルはすごいと思ったよ」
「はあ……。ありがとうございます。父に伝えておきます」
歩いて数分、農協に到着です。町の中枢付近に公的機関となる教会、学校、役所、農協、商工会議所などを揃えているの。そのほうが分かりやすいし、みんなも便利でしょ。
農協の建物には麦穂のシンボルマークが描かれた旗が立てられています。温かみのある、薄いピンク色をした建物で、花壇には花が咲いていた。
「王子、アリスさま、ようこそおいでくださりました。私は代表のサカゴクと申します」
サカゴクが深々と礼をする。
「今回は忍びなので、堅苦しいことは抜きにしてほしい」
王子は頬の力をゆるめた。
「はい……、ではよろしくお願いいたします」
サカゴクは王子に返答すると、私をみた。
だから、ただの元婚約者だから。ちっとも仲良くないからと私は訴えようと首を大きく横に振ったが、サカゴクはあからさまに喜んでいた。
いや、そこ喜ばないで。ねえ、それ、勘違いだから。
サカゴクは両手でハートを作って私にそっと見せた。
だから、もうカトリーヌ様という新婚約者が王子にいるんだって。マカミ、そこで寝てないで、ちょっとなんとか言ってやって!
私の心の叫びはマカミにもサカゴクにも通じてないようです。
「サカゴク、あのね、王子には新しい婚約者であるカトリーヌ様って方がいらっしゃるのよ」
私の顔は引きつる。
「ああ、そうなんですね。それなら、また王子が婚約破棄されればいいじゃないですか」
サカゴクが私に小さい声で囁く。
「いや、そんなに簡単に行かないでしょ」
「結婚じゃないですから、できますよ。結婚すると、離婚は難しいですけどね」
サカゴクが王子に確かめるように顔を見た。
王子は「そうですね。いまは……、アリスとは大変親しい仲で、いわば大親友ですよ」と言った。
どの口が言うんだろう。
私は呆れて眉をひそめた。
「天候にも恵まれ、またラッセル様が農地改良をして、ここ数年ぐんと穀高が増えました。国内流通に関しては王都などはほぼ横ばいですが、輸出分がその分伸びまして……。農民のやる気がそのまま収入になるようになってきていました」
「……きていたが?ってことか」
王子は唇を一文字にした。
「サカゴク、ちょっと……」
「お嬢様、止めないでください。一番最初に困るのは弱いものなんです」
サカゴクは硬い表情になった。
「今日は公式ではない。正直なところを教えてほしい。困っているなら困っていると」
王子も真剣に応えます。
王子、チャランポランなボンクラ頭の人ではなかったのですね。うーん、新発見! いい加減な人が王子だったら、後継者として大迷惑ですからね。頭を使うことができる人でよかったよかった。
上から目線で見ていたのがバレたのでしょうか。王子は嫌そうな顔をしました。
「この町はこの前まで平和で、努力すれば夢が叶えられる町として、近隣では憧れの地だったのです」
え? そうなんですか。大げさに言ってませんか? 私は身近な都会くらいと思ってましたよ。
「ああ、たしかに治安もいいしな。商売で一旗あげようとするなら王都よりもトラウデンがいいと聞く」
王子はうなずいた。
「ラッセル様ができるだけ商売が繁盛し、初めて商売を起こす場合もハードルが低くなるよう税金を低めにし、低利で貸付され、街の発展に尽力されているのです」
王子は腕組みをしながら、真剣に耳を傾けていた。
「ところが、ここ最近、王都から税金や教会税がますます増税され……。ラッセル様や私たち組合がなんとか調整しておりましたが、これ以上のことがあると、市井にも影響し始めそうです。人々の暮らしを守るためにも、王子……、なんとか頑張ってください」
サカゴクの訴えを真摯に聞いていた王子は少しだけ顔を歪ませたが、すぐに笑顔になった。
「約束する。人々の暮らしが第一だ」
王子はサカゴクの手を握った。
「王子……、よろしくお願いします」
サカゴクは王子に触れられ、感動しているようです。
その後も農協にある資料や最近の新しい作物など一通り紹介され、王子は満足そうでした。
私も最初は人ごととして(適当に)聞いてきいたのだけど……。
これって、領地開拓にも使えるじゃないって気が付いたの。
これから領地開拓にでるし。作物の種類や取れ高とか知っておいた方がいいもんね。いやぁ、勉強になりました。
「サカゴク、後で屋敷に新しい苗と種を届けておいて。それと、荒れた土地でもよく育つ作物も」
「はい、承知しました。お嬢様」
サカゴクはうなずいた。
「あとは、教会だけですね」
「そうだな」
王子は眩しそうに手を額にかざした。
今日は天気もよいけれど、風が全くなくて暑いです。ほんの少し外にいただけで、じんわりと汗が滲んできました。
「王子、ちょっと失礼しますね。究極魔法・風、微風」
私は小さな声で風魔法を発動させました。王子の周りだけ一方方向から風を送ります。
婚約破棄された相手だから、強風にしてやる!なんてことは思いません。ちゃんと微風です。私のところは、髪型が崩れてしまうので、超微風にしました。
うーん、涼しい。
風が全くないというのも、きついですね。
町のみんなも暑そうです。夕方までに風が吹くか、一雨来ないなら、私が散水しましょう。
王子は一瞬ギョッとしていましたが、普通の顔になりました。
「……アリスは、(究極)魔法が使えるのですね」
「はい、まあ、少し(種類としては究極魔法のみ。生活魔法は苦手)ですけど。王子も使えるでしょ? 王族だし」
王子をよく見ると、魔力の量が絶大なのがわかります。背中に滲む魔力量、すごいです。それに私と違って、器用そうだし、うらやましい限りです。きっといろんな魔法が使えるんだろうなあ。
「いや、僕は究極魔法はまだ……、完璧ではないから。アリスはすごいなあ」
王子はにっこり微笑んだ。
え? 怖い、怖い。なんですか。その笑顔。
「さ、さあ、教会へ急ぎましょうか」
なんだか嫌な予感がしたので、会話を打ち切り、私はさっさと歩きました。
小さな教会の前で、王子の足は止まり、上をみつめた。
何か思い詰めているようです。
イケメンでも、魔法量が絶大でも、悩み事ってあるんですねえ。
私が王子のことを仰ぎ見ていると、王子に気づかれて笑われました。笑った顔が可愛く見えたのは気のせいです。
「行こうか、アリス」
王子は大きく息を吸った。
「はい。おじいちゃん先生、テンメル教会主はいつもこの時間礼拝堂にいらっしゃるかと……」
私はマカミを抱きかかえた。
開け放してある重ためのドアをくぐると、礼拝堂のなかはひんやりしていた。ステンドグラスから太陽の日の光が床に伸びている。色とりどりに床を染めている様とこの静寂な空気が好きだったことをアリスは思い出した。
おじいちゃん先生は、誰かと話していた。大きい方……。わたしより10センチくらい高いかも。
女性です、女性。歳はわたしより少し年上かな。茶髪のロングヘアで、後ろ髪はあごのラインのところで縛っています。女性らしい身体ですが、全体的に力強い感じがして、運動神経の良さがわかります。う、うらやましい。
スカートやドレスではなく、動きやすいガウチョのようなスタイルで、半袖から出ている腕はこんがりと日に焼けています。海の民の方でしょうか。ベルトにあしらわれた民族柄の刺繍があちらのものによく似ています。
「おお、アリス」
テンメル教会主はアリスたちに気が付き、声をかけてくれました。私は思わず会釈です。
「アリス、こちらはピュララティス王国の、ラティファ様だよ」
ラティファはアリスの方を向き、豪快な笑顔を見せた。
「わたしのことはラティファと呼んでください」
やはり、海の民だったのね! 海の民は熱い血の持ち主が多く、またさっぱりとした気質の人が多いと言われているの。日に焼けた肌も衣装も納得です。
「ラティファ様、こちらはラッセル候の長女アリス様だ」
「よろしくおねがいします。アリスとお呼びください」
ラティファ様は緑の瞳が印象的で、体から生気があふれ出ています。笑顔がよく似合い、目鼻立ちがはっきりしている女性です。
海の民の方とは初めてお知り合いになれたので、うれしいな。ぜひピュララティス王国の話が聞きたいわ。魔法とか、本とか、美味しいものとか。
「で、こちらは?」
ラティファ様は王子の方を向きました。そうですよね、気になりますよね。なんていえばいいのかしら。
気まずい雰囲気が漂います。
「こちらは……」
テンメル教会主が口ごもる。そうよね、おじいちゃん先生だって、まさか、この国の王子でアリスの元婚約者とか、婚約破棄されたとか言えないもの。
「お久しぶりです。テンメル教会主。……アンソニーです」
王子がわざとらしい笑顔で空気をぶち割った。
「アンソニーはアリスとどういうご関係? わたし、婉曲に聞くとか、まどろっこしくて無理なんだよね。なんであんたはアリスと一緒にいるの? ねえ、我がいとこ殿」
ラティファの目がキラキラ輝いている。もしかして、恋バナ好きなのかもしれないわ。恋愛小説も読むかしら……。でも、王子とは、残念だけど、そういう関係じゃないのよねえ。
「それは……、なんと言っても今も親しい仲だからですよ。大親友ですからね。ね、アリス」
アリスのほうにアンソニーはわざと手を伸ばし、ラティファの前で手をつないで見せた。
「……」
ええっと。大親友って、手をつなぐんでしたっけね? というか、私たち友達でもないですよね。
あと、「いとこ」とか言ってなかった?
眉根をハの字にしていたら、ラティファは面白そうに笑った。
「あれだろ、婚約破棄したっていうやつだろ。こっちにも情報網はあるからな、報告が来てるぞ。アリスも大変だったな、かわいそうに」
ラティファは頭の上で手を組んで笑った。
「ラティファも意地が悪い」
アンソニー王子は黒い笑みを浮かべている。え? 二人とも仲良しさんなの?
「理由はどうであれ……、王子が婚約破棄したのが悪いんだろ。アリスの何が不満だ? こんなに可愛らしくて、魔力も甚大なのに。アリスもこの国じゃ居づらいだろう? 気分を変えるのにピュララティスに遊びにきたらいい。歓迎するぞ」
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