婚約破棄されましたが、もふもふと一緒に領地拡大にいそしみます

百道みずほ

文字の大きさ
72 / 83

レッツ修羅場 3

しおりを挟む
「お前……。赤の王子は俺の妹と婚約申し込みしているだろう。どういうことかな」
タウルス様の目がキランと光っています。

怒ってます。
それは……、怒っていい案件だと思います。ラティファ様と婚約の打診中に、私に告白とは……。

信じられません。いろんな意味で驚きです。
ラティファ様まで傷つける気ですか。信じられません。
私は赤の王子を睨みつけます。

「この国は……、基本的に男女ともに重婚OKだ。金がかかる、手間がかかることから、重婚しないことを選ぶ民も多いがな。私は……、特に気が強い女が好きなのだ。アリスのように美しい女も、情熱的なラティファも、二人とも欲しくなるとは、計算外だったがな」
赤の王子は私に微笑みます。

こんな状態でも口説いてくるとは……。王子というやつは案外図々しいのかもしれません。重婚ってなんですか……。そんな、大人の関係要りません。無理、無理。私には無理!

「ラティファとアリスを手に入れて、ハトラウス王国の孤立をねらったのか!」
王子が呆れたような声で、確かめます。

「ああ、そうだ。あいつはラティファに婚約を持ち掛けて、南のカルカペ王国、西の国シブラータ王国にも声をかけて、ハトラウスを挟み討ちして撃とうとしていたんだ」

「タウルス、お前もアリスを狙っていただろう? 私は、アンソニーやタウルスがアリスを好きだと言うので、興味を持ったまでだ。アリスの凶行、真逆の容貌。一目見て、お前たちには渡さないと決めた。あれは、私にこそ相応しい」
赤の王子が私の方へゆっくりとやってきます。

「お前は私の手を取るべきだ」
赤の王子の瞳は、深紅色で、キラキラと光っています。
そっと手をとられ、私の身体はびくっと跳ね上がります。

「アリスは俺も狙ってるからな、赤の王子にはやらない。残念だったな」
タウルス様が顎を撫でながら、私をちらっと見た。

「私となら、長く生きられるぞ。平和ボケ、色ボケしたハトラウスや、仲良し主義のピュララティスはいずれ滅ぶであろう」
赤の王子は、私の目をじっと見て、離れません。

王子とタウルスの額に青筋が立っています。
私抜きで、ケンカしてください。
もう、私のことは放っておいて……。ちょっとキャパシティー、オーバーなので、退出してもいいですか? おうちに帰りたい……。

ふと見ると、カトリーヌ様がわなわなとハンカチを握りしめて、三人の男たちを見ています。

「お父さまは、私にアンソニー王子を下さるっておっしゃってました。それなのに……。赤の王子もアンソニー王子も、タウルス様も、アリス、アリスって……」

カトリーヌ様がすくっと立ち上がり、私の前に立ちはだかりました。
「カトリーヌ様?」
バチン
次の瞬間、私の頬が叩かれていました。

「アリス!」
王子が私に駆け寄ります。
「大丈夫です」
私は右頬を抑えます。ジンジンします。叩かれたことは生まれて初めてです。痛いものですね……。な、涙が浮かんできます。

これって、まさに修羅場ってやつでしょうか。
愛読書の本にも王子が婚約者と新婚約者と揉めてる場面がありました。

ちょっと感動です。修羅場、体験しちゃいました。

私、適齢期でモテ期ってこと? 小説の世界みたい……。胸が熱くなります。しかし、頬は痛いです。
失恋の痛みはもっと痛いのかもしれません。

カトリーヌ様は涙を滝のように流しています。
なんだか私が悪いみたい……。ごめんなさい。よくわからない、罪悪感が心の中を綯い交ぜになります。
胸が苦しいです。
どうして、こんなことになったのでしょう。

「カトリーヌ様、アリス様をいじめてはだめよ」
トコトコと小さい子が出てきました。

え? この子だれ?

フィリップよりも小さい……わね。肌が薄い小麦色で、黒いロングのストレートの髪がよく似合っています。

目鼻立ちがクッキリとしていて、将来美人さんになること、間違いなし!

でも、こんな大人の修羅場の中、小さい子が野放しなのは、危ないじゃない? ダメダメ、こっちに来ちゃだめよ。

「お兄さまも、アリス様をいじめちゃダメ。そんなやり方じゃ女の子は喜びません」
女の子は、赤の王子をキッとにらみます。

「イリス……、どこから来た? 部屋にいなさいと言っただろう」
赤の王子は怒った口調でしたが、女の子を見て、一瞬頬を緩めました。諫めながら、イリスって子が来たのが嬉しいみたい。

赤の王子は、不機嫌な顔の人と認識していたので、あー、この人も人間なんだなとか、心から打ち解ける人(女の子)がいるんですねとか、なんだかほっとしました。

しかし、王子という人種は、みんな歪んでいるような気がします。

ちらっと王子と赤の王子を見ました。
「アリス? 何を考えている?」
王子が意地悪そうに口角を上げました。

「何か悪口を考えていたな? 」
王子と赤の王子が口を揃えます。
「ひー、そんなことありません」
私はあわてて女の子の方へ視線を戻しました。

「だって、イリス、お兄さまに会いたくなったんだもん。あと、アリス様と、隣の国の王子さまにも……。お客さまにご挨拶したかったんだもん」
イリス様は上目遣いで赤の王子を見つめます。

「やれやれ、困ったものだ。何かあってからでは遅いのだ。奥で休んでいればいいのに」
赤の王子は相好を崩し、イリスと呼ばれた女の子を迎えに両手を広げます。

「おにいさま~」
女の子が赤の王子の方へ駆けだします。

なんて、可愛らしいの!
お兄さま、大好きなのね。ほのぼのする絵面に思わずほっこりです。フィリップも昔はそうだったのよ。懐かしいわ。
いかん、いま、それどころじゃなかった!

「はじめまして。ヘカサアイ王国第二子のイリスでござぃます」
5、6歳の、少女が私にカーテンシーをしてくれます。

初々しくていいです! 本当ならば、私の方からご挨拶しないといけないのに。いや、拉致られたのだから、気にしないでいいのかしら。こういう時は順番ってどうなのかしら。誰か教えてほしい。

こんな小さい子が悪意なしでご挨拶してくれるのに、失礼な態度はできません。

「はじめまして。ハトラウス王国の、ラッセル公の長子のアリスです」
とりあえず……、私もにこやかにご挨拶をしました。

「アリスさまは……、お噂通り、素敵な方ですわね。お兄さまと結婚されるの? ラティファさまも、アリスさまも私のお姉さまになってくださるのね! わたし、とても嬉しいわ」

イリスさまは頬を赤くしています。
いやいや、あり得ませんから。
私が首を横に振っていると、タウルスさまも首を横にして、否定されていました。

「アリスは私の婚約者ですよ」
王子が冷たい笑みを浮かべています。
相手は小さい子ですよ、王子。やさしくね。

「でも、婚約破棄されて、カトリーヌと結婚されるのでしょ?」
イリスさまは顎を少し上げて、両手を腰に当てました。

「いいえ、カトリーヌ様とは婚約が成立しておりません。そもそも私の意識がないときに仕組まれたのものですから」

「国のために結婚とか考えなくていいの?」
「不要です。外交戦略としての、結婚による平和維持の時代は終わっております」
「へえ、本当に?」
可愛いと思っていたイリスさまの口が歪みます。

見た目に騙されるところでした。5、6歳でも超・優秀な方のようです。

「王子……、外交とは?」
「アリス、君は婚約破棄の後のことは、知らないのかもしれないね……」
王子は寂しそうに私を見ました。

婚約破棄されたあとは、自立するために、領地を守るために奮闘してましたからね。まったく王子やハトラウス王国のことなんか気にもしてませんでした。
自分の人生を確立するために必死ですから。

「ええ、後ろは振り返らないことにしていたんです。すいません」
「当然です。僕が毒を飲まされ、ベッドに伏せている間に、副教皇とヘカサアイ王国の王家の血を引く女性との間にできた、カトリーヌ様との婚約が結ばれたんですから」

「ええ!」
婚約破棄は、王子の意志ではなかったの? 他に好きな人ができたとかではなく、勝手に……しかも外交戦略で? 王子は王家を継ぐことができるただ一人のお方。それなのに毒を飲ませた? 誰がそんなことを……。

「アリスとの婚約解消を拒み続けたせいでしょうね。まさか毒を盛られるとは……」
王子はため息をつきました。

「王子があまりにも素敵だからですわ。それに致死量ではなかったはずです。死人を愛でる趣味はありませんから」
カトリーヌ様がうっとりと王子を見つめています。

「……」
王子が嫌悪感をあらわにします。

「お父様だって、私と王子が結婚した方がハトラウス王国の未来が明るいっておっしゃってましたの。ハトラウス王国を救うにはこれしかないんですの。アリス様には悪いけど、アリス様は赤の王子と結ばれてくださいませ」

王子は軽蔑したようにカトリーヌ様を見ます。
「ヘカサアイ王国が副教皇を使って、ハトラウス王国を乗っ取ろうとしていたのは明白。そんなの断じて許さない」
王子は赤の王子を睨みます。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

「最高の縁談なのでしょう?なら、かわってあげたら喜んでくれますよね!」

みっちぇる。
恋愛
侯爵令嬢のリコリスは20歳。立派な嫁きおくれである。 というのも、義母がなかなかデビューさせてくれないのだ。 なにか意図を感じつつも、周りは義母の味方ばかり。 そん中、急にデビュタントの許可と婚約を告げられる。 何か裏がある―― 相手の家がどういうものかを知り、何とかしようとするリコリス。 でも、非力なリコリスには何も手段がない。 しかし、そんな彼女にも救いの手が……?

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

【完結】王太子に婚約破棄され、父親に修道院行きを命じられた公爵令嬢、もふもふ聖獣に溺愛される〜王太子が謝罪したいと思ったときには手遅れでした

まほりろ
恋愛
【完結済み】 公爵令嬢のアリーゼ・バイスは一学年の終わりの進級パーティーで、六年間婚約していた王太子から婚約破棄される。 壇上に立つ王太子の腕の中には桃色の髪と瞳の|庇護《ひご》欲をそそる愛らしい少女、男爵令嬢のレニ・ミュルべがいた。 アリーゼは男爵令嬢をいじめた|冤罪《えんざい》を着せられ、男爵令嬢の取り巻きの令息たちにののしられ、卵やジュースを投げつけられ、屈辱を味わいながらパーティー会場をあとにした。 家に帰ったアリーゼは父親から、貴族社会に向いてないと言われ修道院行きを命じられる。 修道院には人懐っこい仔猫がいて……アリーゼは仔猫の愛らしさにメロメロになる。 しかし仔猫の正体は聖獣で……。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 ・ざまぁ有り(死ネタ有り)・ざまぁ回には「ざまぁ」と明記します。 ・婚約破棄、アホ王子、モフモフ、猫耳、聖獣、溺愛。 2021/11/27HOTランキング3位、28日HOTランキング2位に入りました! 読んで下さった皆様、ありがとうございます! 誤字報告ありがとうございます! 大変助かっております!! アルファポリスに先行投稿しています。他サイトにもアップしています。

処理中です...