婚約破棄されましたが、もふもふと一緒に領地拡大にいそしみます

百道みずほ

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番外編 テンメル教会主と幼き私

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「先生! どこですか」
私は教会の中を走っておじいちゃん先生を探します。
「アリスさま、お待ちください」
おじいちゃん先生のお弟子さんが私を捕まえようとしますが、そうはいきません。

「せんせー!」
私の呼び声でドアがガチャリと開きました。

「アリス様でしたか。今日もにぎやかですね。お勉強は終わってから、きたのですか?」
おじいちゃん先生は静かに笑った。

「うん! だって、勉強終わるまで行っちゃダメって、セバスもブラウンも怒るんだもん。早く大きくなりたいな」
「そうですか? いまでも十分可愛いですよ」
「だってまだ7歳だもん。いつになったら、勉強しなくていいのかな。私は実験と修業がしたいのに」
私は頬を膨らませた。

「それは、いろいろな知識が後で役に立つからですよ。しっかりお勉強なさってくださいね。そうそう、きょうはお客様が来ているんです。時間によっては究極魔法の修行はきょうは無理かもしれませんが……、アリス様、ここでおまちになりますか?」
テンメル教会主が尋ねる。

「どうしようかしら。ちょっとだけ待ってみるわ」
テンメル教会主は、私の究極魔法の師匠で、いつもはおじいちゃん先生と私は慕っているのだ。

まだ幼い私は退屈に負けてしまうだろうとおじいちゃん先生が言うので、ちょっとムキになる。

「できるわ。だって、わたし、レディですもの」
お澄まししていうと、おじいちゃん先生はクククと笑いながら、近くにいた弟子の一人にお菓子とお茶を出すように命じた。

ここのお菓子は素朴で、素材が生かされていて、とても美味しいの。
わーいと喜んでいたら、
テンメル教会主の後ろからひょこっと男の子が顔を出した。

「アンソニー様。席にお戻りください」
従者があわてて男の子を部屋の中に連れ戻す。

「先生、あの子がお客?」
「そうですよ」

ふーん、かわいそうにね。
きれいな顔立ちとえば、そうかもしれないけど、つまらなそうな顔をしていたわ。

フィリップの方が丸くてぷにぷにして可愛いわね。それに、お父様の方が断然かっこよいわ。

テンメル教会主は私の頭をなでると、また部屋に戻ってしまった。

きょうのおやつは教会でつくられたサブレ。これね、すっごく好き。バターの風味に、サクサクっとしたところ。お菓子でお腹をいっぱいにしたいくらい。

お腹いっぱいにしたら、絶対ブラウンに怒られるし、お母様に告げ口されて、お母様からお説教を頂くことになるから、しないけどね。

でも、お菓子がご飯って、夢のようよねえ。
なんて、のんびりとお茶を飲む。
し・か・し、ひとりでこの部屋にいるって、つまらないわ。

おやつは残念ながらもう食べ終わってしまったの。足をぶらぶらさせたり、お行儀が悪いと怒られそうな姿勢をとってみたりしたんだけど、飽きちゃった。
ドアを開けると、辺りには誰もいない。

キョロキョロ。
私は教会の中をみるけど、何か面白いものはなかった。どうしようかな。

迷っていたら、廊下を歩いてきたお弟子さんと目が合った。
てへ? と笑ってみる。

「アリス様? お暇なのですね……」
お弟子さんは苦笑する。
「うん。ひまひまなの」
「外で遊んできますか?」
「はい! テンメル教会主にお伝えください」
私は教会の外へ駆けだした。


「アサイン、遊ぼ!」
アサインは小間物店で働いています。休憩時間だったのかも。アサインが広場にいるのが見えたので、手を振ります。

「いいよ、アリス」
「アリス様だろ!」
年長のナパスがアサインに注意します。
ナパスは魔法薬店で働いている男の子です。やっぱり休憩中だったみたい。

「いいよ、アリスで。面倒だもん」
わらって言うと、
「ほら、みろ」
アサインが胸を張りました。

「でも本当はダメなんだからな」
ナパスは眉根を寄せます。
ナパスは12歳でみんなの監視役です。町の子どもたちは暇になると広場に集合。そのまま遊びに突入するので、年長者が監督になります。
暇になったら、広場に行けば誰かに会えるというシステムです。

「ララカ、その髪飾り可愛い」
「ええ、アリスもその髪型すてきよ。三つ編みでくるくるまいてある」
「ブラウンがやってくれたの」
仕事の休憩時間に入った女の子たちも集まってきました。

「今日はキレイな石をひろったよ」
友だちの一人が見せてくれた。緑色をした石です。
「これって、エメラルドじゃない?」
「わあ、すごい!」
「どれ、見せて?」
ナパスが石を見つめる。

「そうだね、小さいけど、エメラルドだ。よく見つけたね」
ララカは褒められてうれしそう。
「よし! きょうは、みんなで宝探ししようぜ」
アサインが声をかける。

「私もキレイな石探そう!」
「森へ行こうぜ」
子どもたちは町はずれの森まで冒険することにしました。

森といっても小高い丘を木が覆っていると言った感じのもので、林に毛が生えた程度のものです。
視界良好、不安な要素なし。子どものときはそれでも十分冒険です。

ちなみに、森の奥の、境界線にある塀までがこどもたちの遊び場です。塀は2mほどあり、そこから先に行くには門を出ていくしかありません。

森の中には野イチゴやブラックベリーがなっていて、美味しそう!
子どもたちは自分の手を赤黒く染めながら、夢中になって食べます。これはおやつにカウントされないからね!

そうだ、おじいちゃん先生にも持って行ってあげよう!
私はそっとマジックポケットに入れます。ドレスのポケットにいれなかったのは、この前ブラウンに怒られたから。ははは。大きな紫のシミをつくっちゃった。

「キレイな石、ないなあ」
「宝ものになりそうなものは……」
子どもたちみんなでそこら辺を掘り返します。

「あ、小さいけど、赤いのがついてる!」
「これはルビーかもな」
ナパスはにこにこしながら、小さい子の頭をなでてまわります。

採った貴金属の原石は、家計の足しになったり、貯金に回されたりするので、けっこう子どもたちは本気です。お父さんやお母さんにめちゃくちゃ褒められるからね。

よーし、私も掘るぞ。
なんか、ガツンとシャベルの先が当たります。
おお、この石はなかなか出てこないわ。
ええい、ガツガツと掘ります。手の方がしびれてきました。
みんなが集まってきました。もう後には引けません。どうかちょこっとでも綺麗な石がついていますように!

えい!
両腕を広げて石を持ち上げます。ほっとしたのもつかの間。
「ギャー」
みんなが悲鳴を上げて逃げていきます。

「アリス、にげて! 虫よ、虫」
「石の下にいっぱい虫がいたの」
ええ?何が起きたの?
この石、どうしたらいいの?
私は石を持ったまま、とりあえずみんなと同じ方向へ逃げてます。

みんなでキャーキャーいいながら、町へ向かいました。
ふう、疲れた。
石、重かった……。

「アリス、それでも……、石をもってきたんだね。重かったね。だいじょうぶかい」
ナパスはちょっと呆れているみたい。
「へへへ」
私は照れて笑います。

「せっかくだから、この石洗ってみるね」
「うーん、洗ってもどうかなと思うけど」
ナパスは困り顔です。
何かキラキラがついてるかもしれないし。

「がんばってみる!」
やる気に満ちた私にナパスは申し訳なさそうな顔をする。

「ごめんね、アリス様。そろそろ時間だから」
広場の時計が4時を告げる鐘を鳴らします。

小さい子たちはそろそろ夕飯の手伝いをする時刻で、大きい子たちは夕飯の時刻までもう一仕事です。子どもたちは「またね」といいながら、宝物をもって、家に帰っていきます。

「ちょっと噴水で洗ったら、私も帰るよ。セバスとブラウンに怒られるし」
「うん、気をつけて帰れよ」
ナパスもアサインも振り返りながら手を振ってくれました。

残念。なんとも言えない失望感です。
ごしごし洗っても灰色の石は灰色の石でした。

うーん、何のためにこの石を拾ったんだろう?
ちょっぴり悲しくなってきました。

腰も痛いし、石を抱きかかえて移動したせいか腕も痛い……。





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