冒険者令嬢は王子の寵愛より討伐に夢中

真曽木トウル

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10、ティアラを目前にして

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「こちらが侵入することを見越しての親切、ですかね?」


 レクシィも特に驚く様子はない。
 このダンジョンにはわざわざランプに明かりを灯して道を歩きやすくするような知的生命体がいる。
 それが半冠ティアラを奪わせた犯人かはわからないが。

 彼女の口角が上がるのを、ディノは見逃さなかった。


「強敵の可能性があるか?」

「少なくともここまで私の魔力探知に引っ掛かっていないので、二つに一つですね。
 魔力探知に引っ掛からないほど魔力がない……たまたまダンジョンを見つけて入り込んだ冒険者か、この私に対しても魔力を隠せるほどの強者か」

「ああ。で、もしも冒険者なら、灯りは自前で持ってくるだろうし、わざわざ後からくる者たちのために道を明るくしておいてやったりなんてしないんだろう?」

「よくできました」

「おい」

 ふふふっ、と笑うレクシィ。明かりに照らされたその顔は、美しい狩人の顔になっていた。さっきから心なしか声も弾んでいる。
 『無駄な殺生はしない』はずの真竜級冒険者が、巨大モンスター討伐に嬉々として出向く理由。それは何より、強敵と戦える喜びゆえなのだろう。


「そうだな。早く進もうか」


 ディノとレクシィはダンジョンの中を歩きだした。

 魔力炎が灯ったランプは、モンスターたちを刺激しない程度に間隔を空けてもうけられていた。
 暗くはあるが、歩くのに支障はない。水がたまっている場所や足場の悪いところはあるが、まぁ想定内だ。


「殿下、あれを」

「石造りの階段だな。ダンジョンに入った軍が作ったにしては手が込んでいる。ここはもとは遺跡だったのか?」

「かもしれませんね。遺跡がダンジョン化することもよくありますし」

「地下遺跡か。もったいない。ダンジョンになる前に発見されていればなぁ」


 十数段ほどの階段を踏みしめながらディノは言う。
 石造りの階段は、各段がきれいに整えられており、どれほど昔かはわからないが当時の技術の高さをうかがわせた。


「最初に降りたところより十層ぐらい下に半冠ティアラはあるようだと言っていたな。
 十層というのは、ダンジョンとしては深い方なのか?」

「まぁまぁです。もっと深いダンジョンはたくさんありますよ。
 すごく深くて広いダンジョンの場合、数日とか数週間かかる前提で、登山みたいに食料その他諸々たくさん抱えて入る場合もあるんです。
 私は食料現地調達派ですけど」

「最後の一言要らなかったが?」


 そんなこんなで二人は慎重に各層を降りていく。

 階段は、層ごとにもうけられている。
 時々二百年前の冒険者や兵士のものらしき白骨が転がり散らばっている。
 古代のものと思われるトラップもあり、うっかり踏んで罠を作動させてしまったりもしたが何とか切り抜けた。

 入り口近辺に魔獣たちは集まっていたのか、道中のモンスターは拍子抜けするほどすくない。
 出くわせば襲いかかってくるのだが、基本的には命は奪わず気絶させた。血の匂いを広めることのないように。


「良い感じですね、殿下。初めてのダンジョンにしては上出来です」

「そ、そうか?」


 疲れた頃にそうレクシィに言われ、思わず声がうわずった。
 レクシィと二人きりだ、と、時々意識してしまいそうになるのを無理矢理押さえ込み、冷静になれと自分に言い聞かせる。舞い上がってはいけない。浮き足立ってはいけない。

 モンスターなど恐くない……。いや、危険なのはわかっている。歴戦の騎士でも真竜級冒険者でも、出会う敵によっては命を落とす。命があっても手足など失うことも普通だ。
 それでも。
 ディノにとっては死ぬことよりも、レクシィに失望される方が恐い。


「…………さて。
 おそらくこの下の階層に入れば、半冠ティアラがありそうですが」


 二人の目の前には、これまでで一番大きな石造りの階段があった。
 幅も広く、段数もけた違いに多い。大事な場所へと続く階段だとその姿で物語っているようだ。
 

「ランプに明かりを灯した者には、ここまで会わなかった。つまりここに、半冠ティアラとともにそいつが待っているということか」

「ですね。殿下」

「魔力探知にはかからないか?」

「ええ。ですが、むしろ気配は感じます。
 私たちがここまで来たことには気づいているようですね」


 その階段をおりようと、レクシィが慎重に足をかけたその時。


「─────美しいな」


(!?)


 二人の背後から妙にねっとりした男の声がかかった直後、ディノの身体は弾き飛ばされていた。

───────
4月25日も午後の更新になります。
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