13 / 16
13、持つべきものは切り札です
しおりを挟む
「驚きました……確かに魔力を増幅させる力があるのですね、この魔法石は」
翠色の魔力オーラをふりまきながら、魔法石はレクシィの頭上へとのぼっていく。
ひどく焦りが見えるベールゼブフォ。
こちらに駆け寄り手を伸ばすもバシュンと魔力が弾けて拒まれる。
「……そなた、もしや……テュランノスの末裔か!?」
弾かれ焼かれた手を、信じられないという目で見つめる魔王。
ディノはこそっとレクシィに聞く。
「テュランノス?」
「確か、うちの家の姓をある時期の古語で発音したものです」
「魔王、タイラントじゃわからなかったのか……」
「でもそれが、魔法石と何の関係があるんです?」
翠の光を浴びて、足にまとわりつく泥の手の力が弱まってくる。
ディノはそれを思い切り蹴りつけて足から引き剥がした。
「俺の知る限りだが……古来、魔法石は魔力を増幅させる効果ゆえに、人間や魔族ほか知的生命体の間で激しい争奪戦が起きてきた。
だが、どうも魔法石には人格、というほどではないが、持ち主を選ぶ癖があるようなんだ。
特に、人間の中にまれに現れる『勇者』に対してはその力に惹かれることが多いらしく、戦いの土壇場で敵の魔法石が勇者に寝返った、という事例がいくつか王家の歴史書に残っている」
「そうなんですね……。
じゃ、これは魔王陛下じゃなく私が石に選ばれたっていうことで良いです?
勇者じゃないですけど」
「そうだな。
勇者という言葉で引っ掛かってたんだ。
軟派魔王。貴様を封印したのはテュランノス、つまり、レクシィの先祖の勇者だったんだな?」
「そうだったんですか?」
「…………うむ」
ベールゼブフォは過去の敗北を思い出したのか、整った顔にひどく苦々しい表情を浮かべた。
「だとしたら魔法石も、おまえが封印された後に略奪されたのではなく、先に魔法石が勇者側についてしまったために力が弱まって封印されてしまったんじゃないのか?」
うぐ、と詰まった様子を見せるベールゼブフォ。
正解らしい。
「……し、しかし……五百年の時を経てテュランノスがまた余の目の前に現れるなどっ」
「タイラント家はクレタシアス建国よりもはるか前、千年以上昔から勇者を数多く輩出してきた家だ。
徹底した秘密主義で、歴史書からも自らの名を消している上に、歴代当主以外には正確な家の歴史を伝えないなんていう悪癖もあるがな」
「冒険者やってる娘としては、もっと詳しく教えておいて欲しかったですね」
そのようなタイラント家の背景を知るのは、クレタシアス王国でも一握りの人間しかいないのだ。
ベールゼブフォは「ふん」と鼻をならす。
「それがどうした。
多少魔力量の増減があったところで、おまえたちは余の〈丸飲み泥地獄〉の中におるのだ。
聖職者らも引き連れて部隊でやってきた五百年前のあの勇者とはまるで状況が違う。そして勇者もおらぬ」
「いえ。これぐらいの魔力があれば何とかなりそうですよ」
「?」
ニコッとレクシィは微笑み、右手を上にかざした。
左手のそれとは違う金属籠手には教会の紋章が入っている。
レクシィが詠唱を始めると、魔法石がパアアアッ……と一段と強い光を放つ。
同時に、レクシィたちがいる空間の壁に無数の魔法陣が描かれ、回転しはじめる。
「……な、なんだ、これは……」
ベールゼブフォの足元に一際大きな魔法陣が浮かび上がっていて、それがグズグズと足元の地面を崩し、あっという間にその身体を飲み込んでいく。
「私、一級聖職者の資格持ってますから。
やり方だけは習ってたんですよ、魔王の封印」
「なんだとっ……!」
「魔王陛下はお目覚めになったばかりでまだ本調子ではなかったとのことで、私たちは幸運でしたね」
ベールゼブフォの身体はもう、胸の辺りまで魔法陣に飲み込まれ、その下は見えなくなっていた。
「う、ううむ、そなたの力を侮った余が迂闊であった。
さすがは余が見初めたほどの女、惚れ直したぞ!」
「え、まだ言ってるんですか?」
「だからこそ! 見逃せるものか! 余がまたこれより永きにわたり封印されるというのならば……そなたも余と共にっ……」
ベールゼブフォの美しい顔や上半身が急にブクウウウッと膨れ上がり、人呑み毒蝦蟇ほどもある不気味な白い蛙の頭になった。
ぱっくり開けた大口。ビヨオオオオッと長い長い舌がレクシィ目掛けて飛んでくる!
しかしその舌はレクシィに届く前に寸断された。
ディノの〈鎌爪脚〉によって。
ぶつ切りにされた長い舌が、地面に落ちる。
「……レクシィに触れたら殺す。
さっきは言いそびれたがな」
白い巨大蛙は顔を歪め、何か必死で言おうとしたようだが、間に合わないまますべて魔法陣に飲み込まれ、封印されてしまったのだった。
翠色の魔力オーラをふりまきながら、魔法石はレクシィの頭上へとのぼっていく。
ひどく焦りが見えるベールゼブフォ。
こちらに駆け寄り手を伸ばすもバシュンと魔力が弾けて拒まれる。
「……そなた、もしや……テュランノスの末裔か!?」
弾かれ焼かれた手を、信じられないという目で見つめる魔王。
ディノはこそっとレクシィに聞く。
「テュランノス?」
「確か、うちの家の姓をある時期の古語で発音したものです」
「魔王、タイラントじゃわからなかったのか……」
「でもそれが、魔法石と何の関係があるんです?」
翠の光を浴びて、足にまとわりつく泥の手の力が弱まってくる。
ディノはそれを思い切り蹴りつけて足から引き剥がした。
「俺の知る限りだが……古来、魔法石は魔力を増幅させる効果ゆえに、人間や魔族ほか知的生命体の間で激しい争奪戦が起きてきた。
だが、どうも魔法石には人格、というほどではないが、持ち主を選ぶ癖があるようなんだ。
特に、人間の中にまれに現れる『勇者』に対してはその力に惹かれることが多いらしく、戦いの土壇場で敵の魔法石が勇者に寝返った、という事例がいくつか王家の歴史書に残っている」
「そうなんですね……。
じゃ、これは魔王陛下じゃなく私が石に選ばれたっていうことで良いです?
勇者じゃないですけど」
「そうだな。
勇者という言葉で引っ掛かってたんだ。
軟派魔王。貴様を封印したのはテュランノス、つまり、レクシィの先祖の勇者だったんだな?」
「そうだったんですか?」
「…………うむ」
ベールゼブフォは過去の敗北を思い出したのか、整った顔にひどく苦々しい表情を浮かべた。
「だとしたら魔法石も、おまえが封印された後に略奪されたのではなく、先に魔法石が勇者側についてしまったために力が弱まって封印されてしまったんじゃないのか?」
うぐ、と詰まった様子を見せるベールゼブフォ。
正解らしい。
「……し、しかし……五百年の時を経てテュランノスがまた余の目の前に現れるなどっ」
「タイラント家はクレタシアス建国よりもはるか前、千年以上昔から勇者を数多く輩出してきた家だ。
徹底した秘密主義で、歴史書からも自らの名を消している上に、歴代当主以外には正確な家の歴史を伝えないなんていう悪癖もあるがな」
「冒険者やってる娘としては、もっと詳しく教えておいて欲しかったですね」
そのようなタイラント家の背景を知るのは、クレタシアス王国でも一握りの人間しかいないのだ。
ベールゼブフォは「ふん」と鼻をならす。
「それがどうした。
多少魔力量の増減があったところで、おまえたちは余の〈丸飲み泥地獄〉の中におるのだ。
聖職者らも引き連れて部隊でやってきた五百年前のあの勇者とはまるで状況が違う。そして勇者もおらぬ」
「いえ。これぐらいの魔力があれば何とかなりそうですよ」
「?」
ニコッとレクシィは微笑み、右手を上にかざした。
左手のそれとは違う金属籠手には教会の紋章が入っている。
レクシィが詠唱を始めると、魔法石がパアアアッ……と一段と強い光を放つ。
同時に、レクシィたちがいる空間の壁に無数の魔法陣が描かれ、回転しはじめる。
「……な、なんだ、これは……」
ベールゼブフォの足元に一際大きな魔法陣が浮かび上がっていて、それがグズグズと足元の地面を崩し、あっという間にその身体を飲み込んでいく。
「私、一級聖職者の資格持ってますから。
やり方だけは習ってたんですよ、魔王の封印」
「なんだとっ……!」
「魔王陛下はお目覚めになったばかりでまだ本調子ではなかったとのことで、私たちは幸運でしたね」
ベールゼブフォの身体はもう、胸の辺りまで魔法陣に飲み込まれ、その下は見えなくなっていた。
「う、ううむ、そなたの力を侮った余が迂闊であった。
さすがは余が見初めたほどの女、惚れ直したぞ!」
「え、まだ言ってるんですか?」
「だからこそ! 見逃せるものか! 余がまたこれより永きにわたり封印されるというのならば……そなたも余と共にっ……」
ベールゼブフォの美しい顔や上半身が急にブクウウウッと膨れ上がり、人呑み毒蝦蟇ほどもある不気味な白い蛙の頭になった。
ぱっくり開けた大口。ビヨオオオオッと長い長い舌がレクシィ目掛けて飛んでくる!
しかしその舌はレクシィに届く前に寸断された。
ディノの〈鎌爪脚〉によって。
ぶつ切りにされた長い舌が、地面に落ちる。
「……レクシィに触れたら殺す。
さっきは言いそびれたがな」
白い巨大蛙は顔を歪め、何か必死で言おうとしたようだが、間に合わないまますべて魔法陣に飲み込まれ、封印されてしまったのだった。
66
あなたにおすすめの小説
女子高生研ぎ師見習い 悪役令嬢に転生しました❗ 〜農高出身転生者の私、勇者の剣を研いだけど、結局追放されました。よっしゃー!~
みちのあかり
ファンタジー
桜 凛(さくら りん)は調理師を目指す農業高校生。調理クラブの先輩から道具の手入れの大切さを叩きこまれ、研ぎの魅力に目覚める。大好きな恋愛シミュレーションゲームの二次制作をしていたら、なぜかゲームの世界の悪役令嬢リリアの子供時代に転生してしまった。
義母義姉からは疎まれ、母屋にも入れてもらえない日々。学園入学する前に餓死しそうよ!
そんな中、農業高校での実習を思い出し、自給自足の生活を。
恋愛フラグ? そんなものよりまずご飯! 自給自足の子供時代
シャベル片手にコカトリスを倒す!
冒険者なら丁寧な言葉遣いなんて使ってられるか!
やさぐれ街道まっしぐら!
偉い人にも忖度なし!
どんどんレベルを上げましょう!
学園編
元王の養女になったリリア。
勇者達の指導係になったり、魔導具開発したり大忙しの学園生活。
目指すは卒業パーティでの追放劇。
早く勇者達から手を切って追放されたいリリアは無事に追放されるように頑張るけれど、ゲームヒロインちゃんが許してくれません。
カクヨムなどで投稿しています。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる