14 / 16
14、地上帰還
しおりを挟む
「……さて、急いで帰るか」
さっきの言葉が急に照れくさくなってしまったディノは、レクシィに背を向け、泥で塞がった壁を〈鎌爪脚〉で切り裂いた。
道は呆気なく開通する。
魔王が封印されてしまい、魔道具として機能しなくなったからだろう。
「そうですね。
魔獣たちが、さっきとは別の場所から地上に出てしまっているかもしれませんものね」
「おまえはまだ全然闘う気なんだな」
改めて二人は、来た道を戻る。
封印ゆえだろうか、これまで灯っていたランプの魔力炎はすべて消えてしまっていた。
だが、引き続きレクシィの頭上に浮いて光り続ける魔法石が、照明の代わりになり、問題なく走り続けられた。
モンスターたちとも遭遇するが、行きと違って戦闘せずに突破する。
「なんだか……やはり魔獣が少ない気がするんだが」
「気になりますね、急ぎましょう」
ほどなくして二人はダンジョン入り口までたどりついた。
行きは狂乱状態のモンスターたちがひしめいていた場所だが、今は一頭もいない。
死骸もごっそりと減り、残っているものも大半の肉が食われた後だった。
明かりの役割を終えたことを察したのか、魔法石はレクシィの手元に戻り、彼女はそれをポケットにしまった。
「〈貫通牙〉」
上を向いたレクシィが、ダンジョンの入り口の結界に再び穴をあける。
入る前に決めていた通り、穴から結び目のついた縄が降りてきた。
レクシィとディノがそれに掴まると、騎士団によって引っ張りあげられていく。
間もなく、二人は結界の上に出た。年長の騎士たちが駆け寄ってくる。
「皆、ご苦労。半冠は一部損傷はあるものの無事奪還した」
「殿下、ご無事のお帰り何よりにございます」
「地上は異常なしか?」
「ああ、異常……なしといえば、なしと申しますか……ありといえばありのような……」
「? 何だその歯切れの悪い答えは」
「いえ、敷地内で新たに亀裂が発生し、魔獣たちが這い出てきたのです、が」
その時外から
「おおおーよしよし! かっわいいなぁおまえたち!!」
という、ディノとレクシィにとって聞きなれた人物の声が聞こえてきた。
「……なるほど、だいたい把握した」
「……そういうことでございます、殿下。では国王陛下にご報告申し上げてまいります」
先ほどレクシィが壊したところから、ディノたちは外に出てみる。
荒れ果てた庭園の中に、大魔獣小魔獣たちがいるが、驚くほどおとなしくなっている。
その中心に、
「よしよしっ、地上に出てしまってビックリしただろう?
みんな、もうすぐダンジョンにもどしてやるからなぁ。おおおっ。こら舐めるなくすぐったいぞぉっ」
などと言ってご機嫌で魔獣たちを撫でている男がいた。
王国随一のテイムスキルの持ち主であり、元亜竜級冒険者でもあるタイラント家当主……つまりレクシィの父である。
「お父様ー! 帰りましたよー!」
「お? レクシィ!」
レクシィが声をかけると、タイラント公爵はなついた魔獣たちをゾロゾロと引き連れながらこちらにやってきた。
公爵本人は無自覚ながら、その圧に、ディノは若干引く。
「殿下、お疲れさまでございました。
レクシィどうだったのだ、ダンジョンの中は?」
「半冠は奪還して、取り急ぎ国王陛下にご報告することが……お母様は?」
「戦闘はなかったのでな、裏方で手伝いをしているようだ。
レクシィ、おまえは今日もとっても重要な任務を果たしたのだからな!
何を言われても胸を張るのだぞ!」
魔獣大好きなタイラント公爵は生きた魔獣たちに囲まれて大変ご満悦のようである。
「あっ、そうだレクシィ、この子たちはまだ人間を襲ってはいないからな? 生きてダンジョンに戻してやってくれ?」
「でも、このダンジョン自体、どう処理するかまだ決まっていないのでは?」
「で、では! もし制圧することになったら、最も近いダンジョンに移してやれば良かろう! 私がいれば皆、暴れる危険もなく移動させることができるし……」
「その辺りも、国王陛下のご判断次第ですね」
「行こう、レクシィ。公爵の話は長い」
ディノがレクシィの手首を掴んで、建物の中へ戻るよう促した。
……その時。
「ディ、ディノおおおおおおおっ!!!」
これまた、ディノとレクシィにとっては聞きなれた人物の声、それも滅多にないほど取り乱した声が聞こえてきた。
ディノは頭を抱える。
「……姉上も目覚めたか……」
「ディノっ、ディノっ、無事だったのですねっ」
ドレスのスカートを持ち上げ、懸命に走ってくるのは、気絶していた王太子、プエルタ王女だった。
パーティの最中は氷のような美しさ、モンスター襲撃の際は凛とした表情を見せていた彼女だったが、今は涙でぐしゃぐしゃになった顔で走ってくる。
普段のプエルタ王女を知っている人間たちならギョッとすることだろう。
「ディノ、ディノディノディノディノディノおおおおおお!! 無事で良かったああああっ!!」
……さらには飛び付くようにディノに抱きつき、その勢いで押し倒す形となった。
「あの、姉上、騎士団の皆が見て……」
「ああ、私の天使! この世の奇跡! 最愛の弟! 半冠なんてどうだっていいですわっ、よかった、ディノ、よかった……!!」
普段のプエルタの態度から姉弟不仲説が流れていたが、それは大きな間違いで、プエルタが冷たくしているのはレクシィに対してのみである。
次期国王として厳しい教育や試練にも耐え抜き、誰もが認める力量をつけつつあるプエルタ王女。
その唯一の弱点が、十歳下の弟ディノを溺愛しすぎていることであった。
ちなみに当のディノはとっくに姉離れしており、むしろ人前でやられるのが本当に嫌なので、姉に抱き締められながら目が死んでいる。
「ああ、そうですわ……レクシィ・タイラント!
あなた、こんなに可愛いディノをわたくしが気を失っている間に危険なダンジョンに連れていくなど、どういうことですの!」
「姉上。落ち着いてください。レクシィは俺の気持ちを汲んでくれたのです」
「それにしても……!」
「レクシィと二人でこの作戦に臨むことができて、俺は本当に良かったのです。彼女は俺の最高の相棒です。もうそれ以上仰らないでください」
それより、と、ディノはプエルタの身体を引き剥がしながら続ける。
「とても重要なご報告があるのです。
取り急ぎ、国王陛下、王妃陛下、そして王太子殿下にお聞かせしたいことが」
ディノが『姉上』から『王太子殿下』に言い換えたことでことの重要さを察したらしいプエルタが、表情を引き締め「わかりましたわ。参りましょう」と言った。
***
さっきの言葉が急に照れくさくなってしまったディノは、レクシィに背を向け、泥で塞がった壁を〈鎌爪脚〉で切り裂いた。
道は呆気なく開通する。
魔王が封印されてしまい、魔道具として機能しなくなったからだろう。
「そうですね。
魔獣たちが、さっきとは別の場所から地上に出てしまっているかもしれませんものね」
「おまえはまだ全然闘う気なんだな」
改めて二人は、来た道を戻る。
封印ゆえだろうか、これまで灯っていたランプの魔力炎はすべて消えてしまっていた。
だが、引き続きレクシィの頭上に浮いて光り続ける魔法石が、照明の代わりになり、問題なく走り続けられた。
モンスターたちとも遭遇するが、行きと違って戦闘せずに突破する。
「なんだか……やはり魔獣が少ない気がするんだが」
「気になりますね、急ぎましょう」
ほどなくして二人はダンジョン入り口までたどりついた。
行きは狂乱状態のモンスターたちがひしめいていた場所だが、今は一頭もいない。
死骸もごっそりと減り、残っているものも大半の肉が食われた後だった。
明かりの役割を終えたことを察したのか、魔法石はレクシィの手元に戻り、彼女はそれをポケットにしまった。
「〈貫通牙〉」
上を向いたレクシィが、ダンジョンの入り口の結界に再び穴をあける。
入る前に決めていた通り、穴から結び目のついた縄が降りてきた。
レクシィとディノがそれに掴まると、騎士団によって引っ張りあげられていく。
間もなく、二人は結界の上に出た。年長の騎士たちが駆け寄ってくる。
「皆、ご苦労。半冠は一部損傷はあるものの無事奪還した」
「殿下、ご無事のお帰り何よりにございます」
「地上は異常なしか?」
「ああ、異常……なしといえば、なしと申しますか……ありといえばありのような……」
「? 何だその歯切れの悪い答えは」
「いえ、敷地内で新たに亀裂が発生し、魔獣たちが這い出てきたのです、が」
その時外から
「おおおーよしよし! かっわいいなぁおまえたち!!」
という、ディノとレクシィにとって聞きなれた人物の声が聞こえてきた。
「……なるほど、だいたい把握した」
「……そういうことでございます、殿下。では国王陛下にご報告申し上げてまいります」
先ほどレクシィが壊したところから、ディノたちは外に出てみる。
荒れ果てた庭園の中に、大魔獣小魔獣たちがいるが、驚くほどおとなしくなっている。
その中心に、
「よしよしっ、地上に出てしまってビックリしただろう?
みんな、もうすぐダンジョンにもどしてやるからなぁ。おおおっ。こら舐めるなくすぐったいぞぉっ」
などと言ってご機嫌で魔獣たちを撫でている男がいた。
王国随一のテイムスキルの持ち主であり、元亜竜級冒険者でもあるタイラント家当主……つまりレクシィの父である。
「お父様ー! 帰りましたよー!」
「お? レクシィ!」
レクシィが声をかけると、タイラント公爵はなついた魔獣たちをゾロゾロと引き連れながらこちらにやってきた。
公爵本人は無自覚ながら、その圧に、ディノは若干引く。
「殿下、お疲れさまでございました。
レクシィどうだったのだ、ダンジョンの中は?」
「半冠は奪還して、取り急ぎ国王陛下にご報告することが……お母様は?」
「戦闘はなかったのでな、裏方で手伝いをしているようだ。
レクシィ、おまえは今日もとっても重要な任務を果たしたのだからな!
何を言われても胸を張るのだぞ!」
魔獣大好きなタイラント公爵は生きた魔獣たちに囲まれて大変ご満悦のようである。
「あっ、そうだレクシィ、この子たちはまだ人間を襲ってはいないからな? 生きてダンジョンに戻してやってくれ?」
「でも、このダンジョン自体、どう処理するかまだ決まっていないのでは?」
「で、では! もし制圧することになったら、最も近いダンジョンに移してやれば良かろう! 私がいれば皆、暴れる危険もなく移動させることができるし……」
「その辺りも、国王陛下のご判断次第ですね」
「行こう、レクシィ。公爵の話は長い」
ディノがレクシィの手首を掴んで、建物の中へ戻るよう促した。
……その時。
「ディ、ディノおおおおおおおっ!!!」
これまた、ディノとレクシィにとっては聞きなれた人物の声、それも滅多にないほど取り乱した声が聞こえてきた。
ディノは頭を抱える。
「……姉上も目覚めたか……」
「ディノっ、ディノっ、無事だったのですねっ」
ドレスのスカートを持ち上げ、懸命に走ってくるのは、気絶していた王太子、プエルタ王女だった。
パーティの最中は氷のような美しさ、モンスター襲撃の際は凛とした表情を見せていた彼女だったが、今は涙でぐしゃぐしゃになった顔で走ってくる。
普段のプエルタ王女を知っている人間たちならギョッとすることだろう。
「ディノ、ディノディノディノディノディノおおおおおお!! 無事で良かったああああっ!!」
……さらには飛び付くようにディノに抱きつき、その勢いで押し倒す形となった。
「あの、姉上、騎士団の皆が見て……」
「ああ、私の天使! この世の奇跡! 最愛の弟! 半冠なんてどうだっていいですわっ、よかった、ディノ、よかった……!!」
普段のプエルタの態度から姉弟不仲説が流れていたが、それは大きな間違いで、プエルタが冷たくしているのはレクシィに対してのみである。
次期国王として厳しい教育や試練にも耐え抜き、誰もが認める力量をつけつつあるプエルタ王女。
その唯一の弱点が、十歳下の弟ディノを溺愛しすぎていることであった。
ちなみに当のディノはとっくに姉離れしており、むしろ人前でやられるのが本当に嫌なので、姉に抱き締められながら目が死んでいる。
「ああ、そうですわ……レクシィ・タイラント!
あなた、こんなに可愛いディノをわたくしが気を失っている間に危険なダンジョンに連れていくなど、どういうことですの!」
「姉上。落ち着いてください。レクシィは俺の気持ちを汲んでくれたのです」
「それにしても……!」
「レクシィと二人でこの作戦に臨むことができて、俺は本当に良かったのです。彼女は俺の最高の相棒です。もうそれ以上仰らないでください」
それより、と、ディノはプエルタの身体を引き剥がしながら続ける。
「とても重要なご報告があるのです。
取り急ぎ、国王陛下、王妃陛下、そして王太子殿下にお聞かせしたいことが」
ディノが『姉上』から『王太子殿下』に言い換えたことでことの重要さを察したらしいプエルタが、表情を引き締め「わかりましたわ。参りましょう」と言った。
***
75
あなたにおすすめの小説
【短編】子猫をもふもふしませんか?〜転生したら、子猫でした。私が国を救う!
碧井 汐桜香
ファンタジー
子猫の私は、おかあさんと兄弟たちと“かいぬし”に怯えながら、過ごしている。ところが、「柄が悪い」という理由で捨てられ、絶体絶命の大ピンチ。そんなときに、陛下と呼ばれる人間たちに助けられた。連れていかれた先は、王城だった!?
「伝わって! よく見てこれ! 後ろから攻められたら終わるでしょ!?」前世の知識を使って、私は国を救う。
そんなとき、“かいぬし”が猫グッズを売りにきた。絶対に許さないにゃ!
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました
竹桜
ファンタジー
誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。
その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。
男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。
自らの憧れを叶える為に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる