冒険者令嬢は王子の寵愛より討伐に夢中

真曽木トウル

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14、地上帰還

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「……さて、急いで帰るか」


 さっきの言葉が急に照れくさくなってしまったディノは、レクシィに背を向け、泥で塞がった壁を〈鎌爪脚シックル・クロウ〉で切り裂いた。
 道は呆気なく開通する。
 魔王が封印されてしまい、魔道具として機能しなくなったからだろう。


「そうですね。
 魔獣たちが、さっきとは別の場所から地上に出てしまっているかもしれませんものね」

「おまえはまだ全然闘う気なんだな」


 改めて二人は、来た道を戻る。
 封印ゆえだろうか、これまで灯っていたランプの魔力炎はすべて消えてしまっていた。
 だが、引き続きレクシィの頭上に浮いて光り続ける魔法石が、照明の代わりになり、問題なく走り続けられた。
 モンスターたちとも遭遇するが、行きと違って戦闘せずに突破する。

 
「なんだか……やはり魔獣が少ない気がするんだが」

「気になりますね、急ぎましょう」


 ほどなくして二人はダンジョン入り口までたどりついた。
 行きは狂乱状態のモンスターたちがひしめいていた場所だが、今は一頭もいない。
 死骸もごっそりと減り、残っているものも大半の肉が食われた後だった。

 明かりの役割を終えたことを察したのか、魔法石はレクシィの手元に戻り、彼女はそれをポケットにしまった。


「〈貫通牙ピアシング・ファング〉」


 上を向いたレクシィが、ダンジョンの入り口の結界に再び穴をあける。
 入る前に決めていた通り、穴から結び目のついた縄が降りてきた。
 レクシィとディノがそれに掴まると、騎士団によって引っ張りあげられていく。

 間もなく、二人は結界の上に出た。年長の騎士たちが駆け寄ってくる。


「皆、ご苦労。半冠ティアラは一部損傷はあるものの無事奪還した」

「殿下、ご無事のお帰り何よりにございます」

「地上は異常なしか?」

「ああ、異常……なしといえば、なしと申しますか……ありといえばありのような……」

「? 何だその歯切れの悪い答えは」

「いえ、敷地内で新たに亀裂が発生し、魔獣たちが這い出てきたのです、が」


 その時外から
「おおおーよしよし! かっわいいなぁおまえたち!!」
という、ディノとレクシィにとって聞きなれた人物の声が聞こえてきた。


「……なるほど、だいたい把握した」
「……そういうことでございます、殿下。では国王陛下にご報告申し上げてまいります」


 先ほどレクシィが壊したところから、ディノたちは外に出てみる。

 荒れ果てた庭園の中に、大魔獣小魔獣たちがいるが、驚くほどおとなしくなっている。

 その中心に、

「よしよしっ、地上に出てしまってビックリしただろう?
 みんな、もうすぐダンジョンにもどしてやるからなぁ。おおおっ。こら舐めるなくすぐったいぞぉっ」

などと言ってご機嫌で魔獣たちを撫でている男がいた。

 王国随一のテイムスキルの持ち主であり、元亜竜級冒険者でもあるタイラント家当主……つまりレクシィの父である。


「お父様ー! 帰りましたよー!」
「お? レクシィ!」


 レクシィが声をかけると、タイラント公爵はなついた魔獣たちをゾロゾロと引き連れながらこちらにやってきた。
 公爵本人は無自覚ながら、その圧に、ディノは若干引く。


「殿下、お疲れさまでございました。
 レクシィどうだったのだ、ダンジョンの中は?」

半冠ティアラは奪還して、取り急ぎ国王陛下にご報告することが……お母様は?」

「戦闘はなかったのでな、裏方で手伝いをしているようだ。
 レクシィ、おまえは今日もとっても重要な任務を果たしたのだからな!
 何を言われても胸を張るのだぞ!」


 魔獣大好きなタイラント公爵は生きた魔獣たちに囲まれて大変ご満悦のようである。


「あっ、そうだレクシィ、この子たちはまだ人間を襲ってはいないからな? 生きてダンジョンに戻してやってくれ?」

「でも、このダンジョン自体、どう処理するかまだ決まっていないのでは?」

「で、では! もし制圧クリアすることになったら、最も近いダンジョンに移してやれば良かろう! 私がいれば皆、暴れる危険もなく移動させることができるし……」

「その辺りも、国王陛下のご判断次第ですね」

「行こう、レクシィ。公爵の話は長い」


 ディノがレクシィの手首を掴んで、建物の中へ戻るよう促した。
 ……その時。


「ディ、ディノおおおおおおおっ!!!」


 これまた、ディノとレクシィにとっては聞きなれた人物の声、それも滅多にないほど取り乱した声が聞こえてきた。
 ディノは頭を抱える。


「……姉上も目覚めたか……」

「ディノっ、ディノっ、無事だったのですねっ」


 ドレスのスカートを持ち上げ、懸命に走ってくるのは、気絶していた王太子、プエルタ王女だった。

 パーティの最中は氷のような美しさ、モンスター襲撃の際は凛とした表情を見せていた彼女だったが、今は涙でぐしゃぐしゃになった顔で走ってくる。
 普段のプエルタ王女を知っている人間たちならギョッとすることだろう。


「ディノ、ディノディノディノディノディノおおおおおお!! 無事で良かったああああっ!!」


 ……さらには飛び付くようにディノに抱きつき、その勢いで押し倒す形となった。


「あの、姉上、騎士団の皆が見て……」

「ああ、私の天使! この世の奇跡! 最愛の弟! 半冠ティアラなんてどうだっていいですわっ、よかった、ディノ、よかった……!!」


 普段のプエルタの態度から姉弟不仲説が流れていたが、それは大きな間違いで、プエルタが冷たくしているのはレクシィに対してのみである。
 次期国王として厳しい教育や試練にも耐え抜き、誰もが認める力量をつけつつあるプエルタ王女。
 その唯一の弱点が、十歳下の弟ディノを溺愛しすぎていることであった。
 ちなみに当のディノはとっくに姉離れしており、むしろ人前でやられるのが本当に嫌なので、姉に抱き締められながら目が死んでいる。


「ああ、そうですわ……レクシィ・タイラント!
 あなた、こんなに可愛いディノをわたくしが気を失っている間に危険なダンジョンに連れていくなど、どういうことですの!」

「姉上。落ち着いてください。レクシィは俺の気持ちを汲んでくれたのです」

「それにしても……!」

「レクシィと二人でこの作戦に臨むことができて、俺は本当に良かったのです。彼女は俺の最高の相棒です。もうそれ以上おっしゃらないでください」


 それより、と、ディノはプエルタの身体を引き剥がしながら続ける。


「とても重要なご報告があるのです。
 取り急ぎ、国王陛下、王妃陛下、そして殿にお聞かせしたいことが」


 ディノが『姉上』から『王太子殿下』に言い換えたことでことの重要さを察したらしいプエルタが、表情を引き締め「わかりましたわ。参りましょう」と言った。


     ***
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