冷遇王女の脱出婚~敵国将軍に同情されて『政略結婚』しました~

真曽木トウル

文字の大きさ
18 / 90

18、王女は意思を表明する

しおりを挟む
   ◇ ◇ ◇


「おはようございます、王女殿下」

「おはようございますっ!」

「…………お元気でいらっしゃいますね」

「そうでしょうか?」


 朝は早く起きて湯浴みをした。
 念入りに肌のお手入れをして、化粧をし、朝食後にやってきたイーリアス様を出迎えた。

 落ち込んだ気持ちはまだ残っていて、空元気を出してみたり。

 昨日の糾弾にどう思ったのか、イーリアス様の顔はいつも通り表情が出にくくてわからない。


「さぁ、参りましょう、イーリアス様」
「はい。お連れいたします」


 ────まずは、イーリアス様とともに、こちらの国王陛下へのご挨拶を短時間で済ませた。

 次にクロノス王太子と重臣の方々へのご挨拶となった。
 王政の上層部と王族が一堂に会している。

 ちなみに、場所は、昨夜私が盗み聞きした会議室。

 円形の巨大テーブル、今日は中央正面に王太子殿下、その左隣に宰相閣下。

 私の1つ上、20歳だという王太子殿下は、その空間でそこだけ光を放っているような、相変わらずの絶世の美男子ぶり。
 銀髪にアイスブルーの瞳のその美しさに
(……なんだか大粒のダイヤモンドみたいだわ)
と思う。
 隣に座る、70を越えてらっしゃるであろう宰相閣下もまた別種のオーラを放っているので、2人並ぶと圧がすごい。


 私たちが椅子にかけると、王太子殿下が、口を開いた。


「アルヴィナ王女殿下。
 改めて、我が国のイーリアス・クレイド・ホメロス将軍とのご婚約をお祝い申し上げます。
 幸せな結婚となること、末永いご多幸をお祈りし、また、正式な和平を結んだばかりの両国の関係にこの結婚がより良い影響をもたらすことを期待しております」


 和平交渉の時よりも柔らかい口調でそうお祝いを述べる。


「お言葉、大変ありがたく頂戴いたします、クロノス王太子殿下。
 このたびは素晴らしい男性と良いご縁をいただいたと大変嬉しく思い、喜んでベネディクト王国に参りました」


 そこで言葉を切り、大きく息を吸った。


「トリニアス軍は2年半前に貴国の領土へ侵攻いたしました。
 その際に貴国の兵を戦死させ財産を奪ってしまいましたことを、わたくしも、現王家一同も、非常に申し訳なく思っております。
 それにも関わらず、わたくしにこのような機をいただけたことは大変ありがたく、個人の幸せのみならず、ぜひこれが両国の関係改善につながればと考えておりますわ」


 ……トリニアス王家は本当は不穏なことを考えていますが、私が動かなければ、そして殺されなければ、何も害はないはず。


「ではアルヴィナ殿下、これからよろしくお願いいたします。
 結婚式までは王宮にご滞在ください。何か不足や不都合があれば遠慮なさらず周囲の者に伝えていただけますか」

「お心遣い、まことに感謝いたしますわ。では王太子殿下のお言葉に甘え、ひとつここで皆様にお伝えしたいことがございます」

「何なりとおっしゃってください」


 私は立ち上がり、背筋を伸ばした。

 盗み聞きしていたことがばれるわけにはいかないし、下手に私がイーリアス様をかばうようなことを言えば、イーリアス様があらぬ誤解を受けるかもしれない。

 言えることがあるとしたら、私自身がこの結婚を望んでいるということだ。


「恥をさらすようですが、わたくし、イーリアス様と初めてお会いしたとき、階段から落ちかけておりまして」


 列席者の1人が思わず吹き出しかけて、あわてて口をふさいだ。
 少し、空気が緩んだ気がする。


「それで危うくイーリアス様に命を助けられたのです。
 おかげででしょうか、恥ずかしながらわたくしは殿方を恐がりがちではあったのですが、お会いして間もないのに、イーリアス様のお側は、とても安心するのです」


 たとえベネディクト王国からクロノス王太子殿下とのご縁談があったとしても、そもそも私は王太子殿下と関係が築けただろうか。
 目が潰れそうなほどの絶世の美男子で、冷たく見えつつも礼儀正しい方だと思っているけれど、それはイーリアス様に感じる思いとは全然違う。


「率直に申しまして、ベネディクト王国の皆様の中には、トリニアス王女のわたくしがなぜイーリアス様の求婚を受けたのか、何か目的あってのことではないかとお疑いになる方がいらっしゃるのでは、と、危惧しております。
 ですが、わたくしはこちらを唯一無二のご縁と思い、この国に参りました。
 信頼していただけるよう行動で示して参りますので、どうぞ見守っていただけますとありがたく存じます」


 私は、「お伝えしたいことは以上になります。ご清聴くださりありがとうございました」と一礼して席に着いた。


「王女殿下、お話しいただきありがとうございます。ではホメロス宰相より何かありますか」


 クロノス王太子殿下に振られた宰相閣下は、ふむ、としばし考える様子を見せて、起立する。


「改めましてアルヴィナ王女殿下。ベネディクト王国にようこそいらっしゃいました。
 わが孫、しかも次男にはもったいないほどの良縁にて、大変な喜びであると同時に大きな責任を感じております。
 幸せな家庭を築いていただけるよう、精一杯の尽力をさせていただきます」


 にこやかに、さらりと言い切り、着席した。
 昨日イーリアス様に思い上がりと言った時の冷ややかさは微塵も感じさせない。

 老練な政治家だから、私のことを
『王位継承権を保持したままの方が利用価値が高いのに』
ぐらい考えていてもおかしくはないけれど、それでもイーリアス様のお祖父様だ。できるだけ良い関係は築きたい。


「結婚式は2か月後を予定しておりましたが、諸々の事情から可能な限り早め、急ですが1週間後と決定いたしました。
 トリニアス王家の方をご招待できないこと、お詫び申し上げます」

と、再び王太子殿下。

「いえ。わたくしの事情を鑑みてのご判断、大変ありがたく存じますわ。元々、日取りと内容、出席者・招待者についてはベネディクト王国に一任というお話でしたし」


 招待しても国王陛下と王妃陛下はまず来なかっただろうから、問題はないはずだ。


「ウエディングドレスはトリニアスよりご持参と伺いました。式には王都の大聖堂を使用いたします。
 披露宴は後日、王宮の大広間にて行い、そちらにはトリニアス王家の方をご招待いたします」

「お心遣い、まことにありがたく存じますわ」


 元婚約者との結婚予定があったからすでにトリニアス王家でウエディングドレスは作っていた。
 イーリアス様には悪いけど、国民の税金で作られたドレスだから大切に着たい。

 こちらの承諾にうなずいた王太子殿下は、イーリアス様の方に目を向けた。


「それから、ホメロス将軍」

「はっ」

「貴方には2週間の休暇を与えます」

「は? しかし」

「王女殿下はまだ王都にいらしたばかりです。
 結婚の前後、身の回りを整えるのに、ある程度時間は必要でしょう」

「しかし、それは……。
 いえ、王太子殿下のお気遣い、まことにありがたく存じます」


 おそらくだけど……王太子殿下は、私の身辺を守るためにイーリアス様に休暇をと言っているのだろう。


「王太子殿下。
 お心遣いとてもありがたく存じます。
 わたくしからもお礼申し上げますわ」


 私は微笑みながら言い、一方でうるさい心臓の音がイーリアス様に聞こえてしまわないかひどく心配になってしまった。

しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...