冷遇王女の脱出婚~敵国将軍に同情されて『政略結婚』しました~

真曽木トウル

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54、王女に不穏な来客

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   ◇ ◇ ◇


 結婚披露パーティーが近づく中で、さらに新しいドレスを仕立ててもらうことになった。

 きっかけは先日、イーリアス様に可愛い愛馬を紹介してもらい、新しく乗馬服をつくったことだ。

 その時同時に
「結婚披露パーティーのドレスもいかがですか?」
と彼に言われたのだ。

 確かにパーティーでは、最初ウェディングドレスを着て出て、その後で別のドレスに着替えるという段取りになっている。

 だけど、すでに買っていただいたイブニングドレスもあるので、
「大丈夫では……?」
とも言ったのだけど、

「新しいドレスを着ている殿下を私が見たいので」

と言われ、つい嬉しくなって承知してしまった。

 最近は少しずつ、イーリアス様の言葉がストレートになってきている。
 触れ合えない分言葉で伝えるしかないから、私に対する好意の言葉を封印していた間は、実はつらかったらしい。

 一方で、私も、イーリアス様からのそのストレートになった言葉を、受け止められるようになってきていた。

 以前の私だったら……女性として扱われる言葉を、たとえそれが夫からの愛情表現であってもうまく受け止められずにいたかもしれない。
 愛情を伝えるのを待ってくれたことが、慣らしにつながったのだと思う。
 喜びさえしている自分の変化に、時々驚いてしまう。


 ────この日、エルドレッド商会のドレス職人とお針子の方々が邸にやってきて、私は作りかけのドレスを身体に当てて細部の確認をしていた。

 今回のドレスも素晴らしいものになりそうで、胸が高鳴る。


 エルドレッド商会の面々が帰ったあと、イーリアス様が
「ドレスの方はいかがですか?」
と声をかけてきた。
 彼は今回のドレス、必要な時以外は完成まで見ないと決めているのだ。


「とても順調です。皆さんとても腕の良い方々ですね……!」
「仕上がりを楽しみにしております」
「はいっ、ぜひっ……その」


 不意に、無意識にイーリアス様の腕に触れていた。
 一瞬、お互いに動きが止まったけど、ゆっくりとイーリアス様が私の手に触れる。


「あ、あの……すみません」
「何も謝ることは」


 王宮でお茶に誘われたあの日、イーリアス様をかわいいと思ってしまってから、私の無意識にも何か変化が起きたらしい。

 端的に言えば……人間、かわいいと思うものにはつい触れたくなる……みたいだ。

 触れられる側としてはまだまだなのに、夫につい触れてしまう。触れたくなってしまう。


(たぶん、また我慢、させてるのよね)


 なぜイーリアス様が触れ合う練習を夜ではなく朝で、と言っているのか、薄々はわかってきた。
 たぶん、夜だと歯止めが利かなくなるからだ。


「休日に申し訳ないですが、本日は少し所用で出ます。夕方には戻って参りますが」

「はいっ」


 今日のイーリアス様の服装は軍服でなく、高位貴族の紳士らしい外出着だ。


(うん、やっぱり素敵)


 傷を含めて恐さを含んだ美形、そしてまとっている威圧感は、貴族らしい格好をすると、威厳へと変換される。
 いつも思っていることだけれど、私の夫はこんなに素敵な男性なんだと改めて思う。

 誕生日プレゼントに私が選んだタイとタイピンを身に着けてくれているのが嬉しい。


「やっぱり、こういう姿のイーリアス様も素敵です……」


 思ったままのことを口にしたら、一瞬目が泳ぐ。

 そういうイーリアス様もかわいいと思ってしまう。

 表情の変化は相変わらず少ない。
 だけど、仕草だとか細かい目の動きだとか雰囲気だとかに集中すれば、結構わかるようになってきて楽しい。


「では行ってまいります」
「いってらっしゃいませ」


 イーリアス様を見送り、彼が乗って出ていく馬車を見送って、思わず私はフフッと笑ってしまった。

 邸の中に戻る。
 彼が帰ってくるまでは何をしようかな。
 本でも読んでいようかしら。


(アイギス様が貸してくださったミス・メドゥーサの小説、本当に面白いのよね……)


 恋愛などかと思ったら『ミステリー小説』というジャンルでとても有名な方なのらしい。
 中盤まで読んで3人登場人物が死んでもまだ犯人が全然見当もつかないので、何度も最初から読み返してしまう。


『伏線がなかなか巧みなので、見つけるのは難しいですが、結末を知った時には「やられた!」という感じがあるのですよ』

 アイギス様はそう言って『もうある程度降参しながら読んでいます』と笑っていた。

 私も途中でそうなってしまうかも?なんて考えていたら、馬車の車輪の音がした。


(……? 今日は誰も来客はなかったはずよね??)


 イーリアス様が何かで戻ってきた、とかかしら?
 そう思ってまた外に出ると、閉めた門の外で馬車が止まっている。


(…………?)


 護衛人とナナが同時に出て、馬車の御者に確認しに行く。
 アポイントなしの訪問者??
 まだ暗殺者がいなくなったとは限らない今、かなり恐い。

 やがて、ナナが困惑した顔でこちらに戻ってきた。


「あのう、殿下……」
「どうかしたの?」
「特に先触れもなかった来客なのですが、追い返しますか?」
「ううん……お相手による、かしら?」
「イーリアス様の元上官の奥様、を名乗っています。ですが、護衛の方にもあたしにも確かめられないので……」


 それは……困る。
 素性が不確かな人を家に入れることはできない。


「イーリアス様がご不在だと言ってお断りしてもらえないかしら?」
「それが、その、旦那様が不在なのを知っているようなのです」
「…………?? ますます不穏なのだけど」
「つまり、その」


 正直これを言って良いのかわかりかねるといった様子で、ナナは続けた。


「旦那様の昔の恋人だと……おっしゃるのです……」
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