冷遇王女の脱出婚~敵国将軍に同情されて『政略結婚』しました~

真曽木トウル

文字の大きさ
87 / 90

後日談1ー2:【ウィルヘルミナ視点】

しおりを挟む
   ◇ ◇ ◇


「────それでは、トリニアス王国の王女および貴族の子女につきまして、年始から第5王女オリヴィアと女子2名を、来年の9月から第6王女カトリーナと男子3名女子2名を、ベネディクト王国の王立学園にお預けできればと存じます。
 貴国のご厚意まことにありがたく、心より感謝申し上げます。
 なにとぞよろしくお願い申し上げます、クロノス王太子殿下」


 私ことトリニアス王国国王(に、なってしまった)ウィルヘルミナは緊張を隠しながら背筋を伸ばし、腰を折って頭を下げる。

 対峙するベネディクト王国の王太子クロノスは、変わらぬクールな眼差しをこちらに向けた。


「こちらこそ、今後両国の関係を築いていくにあたり良いきっかけを頂けたと思います。
 以後引き続きよろしくお願いいたします。国王陛下」


 眼鏡で隠しきれないけた外れの美以上に、上に立つ者のオーラを備えていて、さらりと余裕をもって返すその様子にさえ私は気圧けおされてしまう。


(多分はたから見たらどっちが『国王』なのかわからないわね)

と、心中軽く自嘲した。


 私ウィルヘルミナは、今までのトリニアス王家の姿勢を反省し、残された妹王女たちの教育のために留学を考えた。

 幸い、オリヴィアもカトリーナも和平交渉の際にこのクロノス王太子に夢中になっていたので、
『ベネディクト王国に留学してみない?』
と持ちかけたら大喜びで飛びついて、勉強嫌いの2人がただいま猛勉強している。

 ただ、この留学にあたりクロノス王太子からはいくつか条件を付けられた。
 王女の留学だけじゃなく、高位貴族の子女の留学を毎年受け入れる、という提案もその一つ。
 もちろんただの厚意というわけじゃなくて、将来的にトリニアス王国の上層部に親ベネディクト勢力を広げていくのが狙いだと思う。
 ただ今は、こちらとしてもその申し出はありがたかった。


「どうぞ、あとは晩餐までお身体をお休めください。後ほどお部屋にお茶をお持ちいたします」

「は、はい。お気遣いありがとうございます。それでは、失礼いたします」


 同行させていた将校とともに会議室を退出し、廊下に出た途端、深く息をついた。
 口から魂が抜けそうだ。
 王女と貴族令息令嬢の留学の話をしに来ただけなのに、あの王太子と話すとごっそり集中力を消費する。


「……部屋に戻るわ」
「大変お疲れさまでございました」


 若い将校フィドラーは、自分も肩に力が入っていたらしく、ホッと息をつく。


「他国の首脳にお会いする際は気が張りつめますね。特にこちらの王太子殿下は」

「あの人、結構目の付け所が細かくて、誤魔化し効かない感じだものね」


 むしろ最近は、ホメロス宰相の方が手心を加えてくれる。
 親戚になったから……なわけはなく、私がベネディクト王国に友好的な点を買ってくれているということだろう。


(……まぁ、頼れる国がなかなかないんだけどね)


 相変わらずヒム王国、アドワ王国、ノールト王国の3国は、私の戴冠をよく思ってはいない様子だ。

『ただ、その中でもヒム王国は大陸随一の先進国としての面子がございます。難癖をつけての戦争を仕掛けるなど、できないでしょう。
 ……そういう意味では、アルヴィナ殿下の結婚を口実にベネディクト王国に近づきつつ、ヒム王国ともそれなりに関係を築くのが良いのではないでしょうか?
 その2国との関係があれば、アドワ王国、ノールト王国も簡単にこちらには手が出せないと存じます』


 トリニアス軍の新しい幹部陣からはそう助言をもらった。

 アルヴィナ姉様の暗殺をたくらんだ軍上層部を一掃できたから、情報や上奏がスムーズに上がってくる。
 本音は『国王が未熟な分、自分たちががんばろう』かもしれないけど。


「そういえば、あの王太子殿下は、陛下とお立場が似ているのでしたね」

「アルヴィナ姉様が言ってたわね。前王太子の不祥事で18歳の時に立太子されたんだったかしら。
 ……あれで私と3つしか違わないのよ。
 私、3年後ああなってる自分が想像できないわ」


(これがアルヴィナ姉様だったなら、あの王太子の前でも物怖じせず挑めたかしら?)


 今さら考えても仕方がないことだけど、そんな風に思ってしまった。

 その姉はといえば、こちらの国では大変平穏な結婚生活を送っているようだ。
 そういえば、私が来る機会があれば王宮で会いたいとか言っていたけれど、まぁ今回は急な来訪だし……。


「────ウィルヘルミナ!」


 ……部屋に戻ったら、なんか姉がいる。
 にこやかに、侍女から出されたお茶など飲んでいる。
 誰に聞いた、と一瞬思ったけど普通に王宮から連絡行った感じね。


「珍しいわね、姉様1人? 旦那は?」

「夫は宰相閣下とお話ししているところなの。久しぶりね、元気だった?」

「……うん。まぁ。
 これは?」


 テーブルの上に並べられた、色とりどりの飾りつきでラッピングされた包みに目をやる。
 国王への手土産にしては、やたらと可愛らしく女子力高い。


「あなたが来るって聞いてお土産を用意したの。
 これは夫の実家の領地のお菓子で……アルコール入りなのだけど、もし大丈夫ならダンテス兄様にと思って」

「アルヴィナ姉様があの人に気を遣うことないと思うけど」

「そうかもね。でも何か、私があげたい気分なの。あなたの分もあるわ。他のお菓子も」

 周到なことだ。
 まぁ、ありがたく政務の間につまませてもらおう。

「じゃ、私から送っとくわ。で、こっちの包みは?」

「私が焼いたの。食べてみて?」

「焼いた?」


 姉と『焼く』という言葉が結びつかなくて、何だろうと首をかしげながらラッピングの紙を開き、箱を開ける。
 中にあったのは黒い煉瓦れんがのような物体だった。


「焼いた……?」

「うん。今回はうまくできたと思うの。夫も美味しいって言ってくれて。騙されたと思って食べてみて?」

「いや、黒いんだけど??」


 正確に言うと黒っぽい茶色。食べ物なの?これは?
 それが何かすでに聞いていたらしい侍女が、その煉瓦のようなものにナイフをいれ、スライスして皿に載せ、私の前にスッと置く。
 切断面を見ると、何となくケーキらしいのだけど。
 というか、姉が焼いた?
 フォークで端の方をほんの少しちぎり、恐る恐る口にいれる。


「……!」
 ウィスキーの香りと混ざった、何とも言えない良い香りが口の中に広がる。
 控えめな甘さと、主張するほろ苦さ。妙な中毒性のある味だった。


「美味しいでしょ??」

「確かに美味しい……けど……何これは?」

「ウィスキー入りのチョコレートケーキよ。ウィルヘルミナは絶対好きな味だと思って」

「チョコレート、か」


 そういえば、母がそんな飲み物があると教えてくれた気がする。南の大陸のカカオという実から出来る、とても美味しい飲み物だと。
 トリニアスにも一時期輸入されていたのだけど、ベネディクト王国との関係が悪化してからは途絶えたのだとか。


「……ていうか、姉様自分で焼いたって言った? これ?」

「ええ。厨房に立ったこともなかったから最初はいっぱい失敗したけど、最近はお菓子も上手に作れるようになったのよ」

「メイド……いるわよね?」

「いるわよ? でも自分で作ってみたかったの。すごく楽しいのよ」


 国を動かす要だった女性が、そして本当なら今ごろは私の代わりに女王だった人が、お菓子作りが楽しい、か。

 重臣たちが聞けば眉をひそめるかもしれない言葉だけど、私にはその姉様の楽しみが、とても尊いものに感じられた。

 さらにケーキを口に運ぶ。
 やっぱり美味しい。

 こういう、みんなの日常、そして一瞬のささやかな幸せを守りたくて、私は王になったんだ。


「……そうね。トリニアスに輸入してもいいかもね、チョコレート。あと、この使ってるウィスキーも」

「本当!? これも夫の実家の領地のお酒なの」


 そう言う姉の笑顔を、とても綺麗だと私は思った。

   ◇ ◇ ◇
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...