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◇22◇ 謝恩パーティーの終わり
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「ギアン?」
若い男性の声がかかった。
かなり背が高い男の子が近づいてくる。ギアン様より頭ひとつ分ぐらい大きい。
手足が長くて体格がいいけど、たぶん私やギアン様と同じぐらいの歳だろう。オレンジ色の髪とエメラルド色の瞳で、とても舞台ばえしそうな顔立ちと声だ。
「すまないヴィクター、婚約者が具合が悪くてな」
「そうか。────大丈夫ですか?」
ヴィクターと呼ばれた彼は私に軽く目礼をした。ギアン様の友人だろうか。
「ヴィクターにも紹介したかったが、負担だろうからまたの機会にさせてくれ。ヘリオス先輩の卒業祝いのことか?」
「ああ。先輩、謝恩パーティーの夜の部をばっくれるつもりだったのがクロノス殿下にバレて捕まったらしい。遅くなるけど夜の部が終わってからに時間を変えるってアシュリーが。俺は妻がいるからもう帰るけど」
あまり貴族っぽくない言葉づかいで用件を伝えたヴィクターさん。
男の子たちで先輩の卒業祝いをしようとしていたのか。王太子殿下とも仲の良い人なんだろうか。
「そうか。しかし私も婚約者が……」
「ギアン様」
気に病ませてはいけない。気兼ねなくいけるようにしなくては。
「わたくしはもう失礼いたしますから、どうぞ先輩の卒業お祝いにご出席ください。先輩にとっては今日がたった一度のご卒業なのですから」
「う、うむ……マレーナは大丈夫か?」
「ええ。どうぞお祝いして差し上げて」
一瞬、顔にヴィクターさんの視線を感じてヒヤリとした。
でも、紹介したかった、ということは、まだこの人はマレーナ様に会ったことはないはず。
「じゃあ俺はこれで。
マレーナ様はお大事になさってください」
「お気遣いありがたく存じますわ」
ヴィクターさんが去っていく。
知らない間に気を張っていたのか、無意識にため息をついていた。
「付き合いの長い私の友人だ。男前だろう?」
「どう答えても角の立ちそうな言い方はやめていただきたいですわ」
「ああ、すまない。そういうつもりではなかったのだ。背が高く、目を引く容姿だろう。それにオレンジの髪がうらやましくてな」
なんとなく容姿コンプレックスはギアン様らしくない気がする。
髪色は、自分自身のアイデンティティにもつながるものだろうに。
それを引け目に感じなきゃいけない気持ちをギアン様に植え付けたのは、この国の心ない人間たちか、過去のマレーナ様なのか。
不意に腹が立った。
生まれ持った髪の、何が悪い。
「…………ギアン様の黒髪は綺麗ですわ」
「え?」
「誇って良いものだと思いますわ」
つい口をついて出た。
ギアン様は言葉もなく私をしばらく見つめ……何か切なそうな表情を浮かべた?
次の瞬間その表情は笑顔のなかに消えた。
「そうか!ありがとう!」
「え、ええ」
「もうじき謝恩パーティーも終わるな。
控え室まで送って行こう。
帰りは大丈夫か?」
「ええ。侍女たちもおりますから問題はございませんわ」
「そうか。よかった!」
ギアン様がやたら明るい声で話す。
「夏休みの間は、私は国に戻らなければならなくてな。ただ、もし良ければ一度ぐらい、マレーナを招待したいのだ」
「わたくしを……ですか」
「うむ、考えておいてくれるだろうか」
見つめられるのがきつい。
招待されているのは私じゃなくてマレーナ様なのだ。
「……そう、ですわね。
検討させていただきますわ」
◇ ◇ ◇
若い男性の声がかかった。
かなり背が高い男の子が近づいてくる。ギアン様より頭ひとつ分ぐらい大きい。
手足が長くて体格がいいけど、たぶん私やギアン様と同じぐらいの歳だろう。オレンジ色の髪とエメラルド色の瞳で、とても舞台ばえしそうな顔立ちと声だ。
「すまないヴィクター、婚約者が具合が悪くてな」
「そうか。────大丈夫ですか?」
ヴィクターと呼ばれた彼は私に軽く目礼をした。ギアン様の友人だろうか。
「ヴィクターにも紹介したかったが、負担だろうからまたの機会にさせてくれ。ヘリオス先輩の卒業祝いのことか?」
「ああ。先輩、謝恩パーティーの夜の部をばっくれるつもりだったのがクロノス殿下にバレて捕まったらしい。遅くなるけど夜の部が終わってからに時間を変えるってアシュリーが。俺は妻がいるからもう帰るけど」
あまり貴族っぽくない言葉づかいで用件を伝えたヴィクターさん。
男の子たちで先輩の卒業祝いをしようとしていたのか。王太子殿下とも仲の良い人なんだろうか。
「そうか。しかし私も婚約者が……」
「ギアン様」
気に病ませてはいけない。気兼ねなくいけるようにしなくては。
「わたくしはもう失礼いたしますから、どうぞ先輩の卒業お祝いにご出席ください。先輩にとっては今日がたった一度のご卒業なのですから」
「う、うむ……マレーナは大丈夫か?」
「ええ。どうぞお祝いして差し上げて」
一瞬、顔にヴィクターさんの視線を感じてヒヤリとした。
でも、紹介したかった、ということは、まだこの人はマレーナ様に会ったことはないはず。
「じゃあ俺はこれで。
マレーナ様はお大事になさってください」
「お気遣いありがたく存じますわ」
ヴィクターさんが去っていく。
知らない間に気を張っていたのか、無意識にため息をついていた。
「付き合いの長い私の友人だ。男前だろう?」
「どう答えても角の立ちそうな言い方はやめていただきたいですわ」
「ああ、すまない。そういうつもりではなかったのだ。背が高く、目を引く容姿だろう。それにオレンジの髪がうらやましくてな」
なんとなく容姿コンプレックスはギアン様らしくない気がする。
髪色は、自分自身のアイデンティティにもつながるものだろうに。
それを引け目に感じなきゃいけない気持ちをギアン様に植え付けたのは、この国の心ない人間たちか、過去のマレーナ様なのか。
不意に腹が立った。
生まれ持った髪の、何が悪い。
「…………ギアン様の黒髪は綺麗ですわ」
「え?」
「誇って良いものだと思いますわ」
つい口をついて出た。
ギアン様は言葉もなく私をしばらく見つめ……何か切なそうな表情を浮かべた?
次の瞬間その表情は笑顔のなかに消えた。
「そうか!ありがとう!」
「え、ええ」
「もうじき謝恩パーティーも終わるな。
控え室まで送って行こう。
帰りは大丈夫か?」
「ええ。侍女たちもおりますから問題はございませんわ」
「そうか。よかった!」
ギアン様がやたら明るい声で話す。
「夏休みの間は、私は国に戻らなければならなくてな。ただ、もし良ければ一度ぐらい、マレーナを招待したいのだ」
「わたくしを……ですか」
「うむ、考えておいてくれるだろうか」
見つめられるのがきつい。
招待されているのは私じゃなくてマレーナ様なのだ。
「……そう、ですわね。
検討させていただきますわ」
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