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◇26◇ 【ペラギア視点】報告
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◇ ◇ ◇
リリス・ウィンザーに初めて会ったのは、前職のいろいろなしがらみをどうにか整理して、私が本来の夢だった女優を目指し、この劇団に入ったときだった。
まだこどもだったのに、素人目にも明らかに1人だけレベルが違う上手さで……(もう23だけど前職の知名度があるからなんとかなるんじゃないかしら)なんて思っていた私の甘い考えは崩れ去った。
たった12歳なのにリリスはこんなに上手だ。一方の私は女優を志したのが10代後半、そしてもう23歳だ。
敗北感にしばらく打ちのめされ、それが必死に努力するきっかけになった。
リリスがいなかったら私は、もっと早くつぶれていたと思う。
1人圧倒的に上手いリリスがなかなか主役になれなかったのは、単純にまだ幼かったからだ。
そんな中、リリスが殺陣もものすごくうまいことに気づいた演出家が、『ハルモニア・エルドレッドを題材にした劇はいかがだろう?』と提案した。
ハルモニア・エルドレッドは、王国屈指の豪商エルドレッド商会の創業者で、この男社会のなかで成功した数少ない女だ。
武闘派の女傑でも知られ、若い頃は海賊と渡り合っていたとかで、それまでに何度も演劇の題材になっていて知名度も高く、大衆の人気もある人物だった。
その稽古で、私は目を見開いた。
確かに美人で、演技もうまくて、なんでもできるリリスだったけど、主役になった瞬間……何というのか、光り輝いたのだ。
ああ、これは、みんな夢中になる。そう確信した。
長年の夢を叶えたというのに、張り合うとか闘うとかそういう気持ちさえなくなりそうな自分に、怯えた。
衝撃だった。
◇ ◇ ◇
「…………だから、いったい何やってんですか、ペラギアさん」
「真相の究明?」
「いやいやいやいや……当事者に相談もなく!!」
「あんた、行方不明だったじゃない」
「行方……不明? でしたね、そういえば」
ほんと。べらぼうな美人のくせして普段はこういうノリなのよね。
「…………で、あんたが連れてきてるこの2人とはどういう関係?」
「ああ、すみません、ご紹介が遅れました。
いまいろいろあって、私がお世話になっている、マクスウェル様とシンシアさんです」
「マクスウェル・ファゴット。ファゴット侯爵のご長男ね」
「…………なんで知って?」
マクスウェル・ファゴットは軽く咳払いをした。
「……こんなところでお会いするとはな。
リリス。一時期ペラギア嬢は、国王陛下とお付き合いがあって、社交界にも出入りしてたんだよ」
「え!?」
「確かに、5年ほど前に女優になったとは聞いていたが……新聞社やら権力者やら何やら動かすほどの力は引き続き持っていたということか」
「脅したわけじゃないわよ?
いまだに私の信奉者があちこちにいるってだけよ。
で、リリスはなぜファゴット侯爵のところに?」
「ああ、その、それは……」
少し、リリスは言いよどむ。
「……おかしな話なんですけど、私がファゴット侯爵の長女にすごく似ていて、まぁ1度間違えられて、なんとなくそのご縁でおうちに置いてもらっています」
「どういうご縁よ」
マクスウェル・ファゴットと、シンシアと呼ばれた侍女らしい女と、顔を見合わせて、なんだかハラハラした様子。
ちょっと言えないことがあるみたい。何やってんのかしら。ヤバイことに巻き込まれてないでしょうね?
「…………新聞記事を読んだなら、その前提で話すわね。
ラミナがあんたを襲う原因になった貴族について、探偵と、名前は言えないけど昔の顧客に調べてもらってるの」
「いったい、何者なんですか?」
「その貴族自体は下っ端よ。
どうも、王宮の中でもけっこうアレな集団に属してるみたい。
まぁ、それははっきりわかったらまた新聞に書かせるけど」
「なんでまた新聞に」
「あんたを劇団に戻すためよ。
それ以外あると思ってんの?」
「えっ…………」
リリスは戸惑ったような顔をした。
そうよね、こういう子なのよ。
役者馬鹿のくせに、自分が持ってるものの価値に鈍感。
自分が唯一無二の役者だってこと、わかってないのよね。
「ほんとですか!!
リリス様、劇団に戻れるんですね!?」
横にいたシンシアが身をのりだしてきた。
「具体的にはいろいろ越えなきゃいけないハードルはあるわ。
でも、一番大きいのはリリスの名誉回復。少なくとも劇団の中の連中には、濡れ衣だったって納得させたわ。で、このあと、連中に一人一人謝らせようかと思うんだけど」
「良かったです、リリス様!!
やっぱりリリス様は舞台で輝いていないと!!」
シンシアが喜びの声をあげる中、リリスは、まだ戸惑うような顔をしている。
「…………大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫なとこまでもってくわよ。
あと、ごめん、話が遅れてしまったわ。
もうひとつ、あんたに伝えなきゃいけない大事なことがあるの」
「え?」
「あんたの母親、亡くなったわ」
◇ ◇ ◇
リリス・ウィンザーに初めて会ったのは、前職のいろいろなしがらみをどうにか整理して、私が本来の夢だった女優を目指し、この劇団に入ったときだった。
まだこどもだったのに、素人目にも明らかに1人だけレベルが違う上手さで……(もう23だけど前職の知名度があるからなんとかなるんじゃないかしら)なんて思っていた私の甘い考えは崩れ去った。
たった12歳なのにリリスはこんなに上手だ。一方の私は女優を志したのが10代後半、そしてもう23歳だ。
敗北感にしばらく打ちのめされ、それが必死に努力するきっかけになった。
リリスがいなかったら私は、もっと早くつぶれていたと思う。
1人圧倒的に上手いリリスがなかなか主役になれなかったのは、単純にまだ幼かったからだ。
そんな中、リリスが殺陣もものすごくうまいことに気づいた演出家が、『ハルモニア・エルドレッドを題材にした劇はいかがだろう?』と提案した。
ハルモニア・エルドレッドは、王国屈指の豪商エルドレッド商会の創業者で、この男社会のなかで成功した数少ない女だ。
武闘派の女傑でも知られ、若い頃は海賊と渡り合っていたとかで、それまでに何度も演劇の題材になっていて知名度も高く、大衆の人気もある人物だった。
その稽古で、私は目を見開いた。
確かに美人で、演技もうまくて、なんでもできるリリスだったけど、主役になった瞬間……何というのか、光り輝いたのだ。
ああ、これは、みんな夢中になる。そう確信した。
長年の夢を叶えたというのに、張り合うとか闘うとかそういう気持ちさえなくなりそうな自分に、怯えた。
衝撃だった。
◇ ◇ ◇
「…………だから、いったい何やってんですか、ペラギアさん」
「真相の究明?」
「いやいやいやいや……当事者に相談もなく!!」
「あんた、行方不明だったじゃない」
「行方……不明? でしたね、そういえば」
ほんと。べらぼうな美人のくせして普段はこういうノリなのよね。
「…………で、あんたが連れてきてるこの2人とはどういう関係?」
「ああ、すみません、ご紹介が遅れました。
いまいろいろあって、私がお世話になっている、マクスウェル様とシンシアさんです」
「マクスウェル・ファゴット。ファゴット侯爵のご長男ね」
「…………なんで知って?」
マクスウェル・ファゴットは軽く咳払いをした。
「……こんなところでお会いするとはな。
リリス。一時期ペラギア嬢は、国王陛下とお付き合いがあって、社交界にも出入りしてたんだよ」
「え!?」
「確かに、5年ほど前に女優になったとは聞いていたが……新聞社やら権力者やら何やら動かすほどの力は引き続き持っていたということか」
「脅したわけじゃないわよ?
いまだに私の信奉者があちこちにいるってだけよ。
で、リリスはなぜファゴット侯爵のところに?」
「ああ、その、それは……」
少し、リリスは言いよどむ。
「……おかしな話なんですけど、私がファゴット侯爵の長女にすごく似ていて、まぁ1度間違えられて、なんとなくそのご縁でおうちに置いてもらっています」
「どういうご縁よ」
マクスウェル・ファゴットと、シンシアと呼ばれた侍女らしい女と、顔を見合わせて、なんだかハラハラした様子。
ちょっと言えないことがあるみたい。何やってんのかしら。ヤバイことに巻き込まれてないでしょうね?
「…………新聞記事を読んだなら、その前提で話すわね。
ラミナがあんたを襲う原因になった貴族について、探偵と、名前は言えないけど昔の顧客に調べてもらってるの」
「いったい、何者なんですか?」
「その貴族自体は下っ端よ。
どうも、王宮の中でもけっこうアレな集団に属してるみたい。
まぁ、それははっきりわかったらまた新聞に書かせるけど」
「なんでまた新聞に」
「あんたを劇団に戻すためよ。
それ以外あると思ってんの?」
「えっ…………」
リリスは戸惑ったような顔をした。
そうよね、こういう子なのよ。
役者馬鹿のくせに、自分が持ってるものの価値に鈍感。
自分が唯一無二の役者だってこと、わかってないのよね。
「ほんとですか!!
リリス様、劇団に戻れるんですね!?」
横にいたシンシアが身をのりだしてきた。
「具体的にはいろいろ越えなきゃいけないハードルはあるわ。
でも、一番大きいのはリリスの名誉回復。少なくとも劇団の中の連中には、濡れ衣だったって納得させたわ。で、このあと、連中に一人一人謝らせようかと思うんだけど」
「良かったです、リリス様!!
やっぱりリリス様は舞台で輝いていないと!!」
シンシアが喜びの声をあげる中、リリスは、まだ戸惑うような顔をしている。
「…………大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫なとこまでもってくわよ。
あと、ごめん、話が遅れてしまったわ。
もうひとつ、あんたに伝えなきゃいけない大事なことがあるの」
「え?」
「あんたの母親、亡くなったわ」
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