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◇35◇ はしゃぐギアン様
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◇ ◇ ◇
「…………で、それでその時まだ10歳だったギアンがだな、敵大将の頭上からの不意打ちを決めて」
「姉上、もうやめてください!!」
「いや、さすが大公の子、次期大公の弟、将来レイエス海軍を率いる身に恥じぬ見事な働きぶりと、当時援軍に来ていたベネディクトの元帥も」
「お願いですからやめてくださいと申し上げているでしょう!!」
「なぜだ?
そなたの腕が立つという話なのだから良いではないか。そうそう、11歳のときにはだな……」
…………大公殿下が馬車に一緒に乗ると聞かされて真っ先に警戒したのは、私が偽者でないか怪しんだんじゃないかということだった。
で、現在。
馬車のなかで延々繰り広げられていたのは、大公殿下による弟の自慢話。
わざわざ意識的に塩対応な物言いをしなくても、聞いているだけでいいので、私はめちゃめちゃ楽だ。
それに私的にはこどもの頃のギアン様の話など聞けるので大変お得なので良い……けれど、ギアン様がそろそろ精神的に瀕死っぽい。大丈夫かな。口から魂が出てそう。
いろいろなエピソードは、それはそれは突っ込みどころ満載だ。
まず第一に、その年齢から武力衝突の場にギアン様連れてくの、国際条約的に大丈夫ですか?
ベネディクト王国でも軍に入れるのは15歳からだった気が??(役作りのため軍人に取材したことあり)
マレーナ様を演じている以上、突っ込むわけにいかないけど、突っ込みたい……!!
……でも。国が違うといろいろ常識も違うとはいえ。実際に戦争とか武力衝突になったら、こどもも老人も、非戦闘員も関係なく巻き込まれるんだろうなぁ。
夜会でのギアン様の身のこなしを思い出す。
レイエス大公家はじめ、レイエス人は明らかに戦闘に長けた民族だ。そして歴史的にも周辺の大国に狙われ続けてきた。
その人たちが、ベネディクト王国と、仲良くしようとしている。それは、危険にさらされてきたからこそ安全というものの価値を身に染みてわかっているからなのか。
その重さを、改めて感じる。
「…………そういうわけで、私には自慢の、そして大切な弟なのだ。わかってもらえただろうか」
「いえ。貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございます」
淡々とうなずいたけど、「そうか!」と大公殿下は笑った。
「…………ところで」笑顔のまま、大公殿下の目元が鋭くなる。
「最近ギアンとよく会ってくれるというのは、いったいどういう心境の変化があったのだ?」
(…………きた)
「姉上!!」
「心境は何も変わっておりませんわ。
ただ身体の具合が以前より良くなりましたの」
「そうか。
こちらより派遣した講師らによれば、これまで進講は一度も休みなく、大変真面目に受けていたと聞くが」
「姉上!! マレーナ殿に失礼ですよ!!」
(進講って何? 授業的なやつ?)
「……恥ずかしながら、進講は休んではならないと気を張りつめておりましたが、その分我慢した不調が、そうではない時間に出てしまったようですわ」
「ふむ。確かに、具合が悪そうな時も無理をおして進講に臨んでいたとも聞いている。教室のなかと夜会などとでは、心身への負担もまるで違うものでもあるな。
失礼な聞き方をしたな。すまない」
一旦引き下がった様子にホッとした「だが」と大公殿下は続けた。
「私としては立派な妃など望んではいないのだ」
「…………?」
「私は、ただ、弟の妃となる人が」
「姉上!! もう城につきますよ!!」
そう、ギアン様がさえぎる。
窓から外を見る。
馬車は坂を上りながら、ひとつの大きな門へ向かっていた。
その門の向こうにそびえるのは……。
(……これがレイエスの城……)
ベネディクト王都の王宮よりも遥かに大きい。
石積みと漆喰、それに鋼を組み合わせて築かれた城は、重厚で威風堂々としている。
その主城の周りを、また、けっして小さくはない宮殿や城が囲み、城がひとつの大きな街を造っているように見える。
囲む宮殿のひとつなどは、完全に海に面しているし、壁にある穴は砲撃用だろう。
国を治める王が鎮座する場というよりも、いつでも臨戦態勢の将軍が陣を構えているような…………。
(内陸部じゃなくて、あの港からすぐ近くにあるのが、臨戦態勢って感じだなぁ)
「久しぶりに見た我らの城はどうかな?」
「…………やはり、本当に大きいですわね」
マレーナ様が言いそうな範囲で誉め?言葉を口にすると、「そうだろう、そうだろう」と大公殿下は笑った。
◇ ◇ ◇
城の大広間の場で、私たちは簡単に重臣の皆様に紹介され(また明日、正式な私のお披露目があるらしい)、それから、海の見える宮殿の部屋に案内された。
「…………これは!!
すごいですね!!」
部屋にはいった瞬間、私よりも先に、シンシアさんが声をあげた。
確かにその部屋は、寝室だけでファゴット家のマレーナ様のお部屋より二周りほど広く、私はといえば
(普通にこれだけあったら、お客さんいれて芝居やれるなぁ……)
という感想を抱いていた。
かなり広い舞台を確保できそうだ。
……などと考えている場合ではない。
後ろには部屋に案内してくれたギアン様がいる。
「マレーナ。気にいってくれただろうか?」
「ええ、素敵なお部屋ですわね」
まぁこれぐらいは言わないと礼儀知らずだろう。
実際は素敵どころではないけど。海が、良い(語彙力)
「そうか!! マレーナが気に入ったなら、よかった。このほかに続き部屋もある。
別室に専用の風呂も用意している。それから侍女殿の部屋と…………」
姉上から解放されたからか、こどものようにはしゃぐ声をあげるギアン様が、やっぱり可愛いと思えた。
何度も、マレーナ、と、私のことを呼ぶその声さえ。
◇ ◇ ◇
「…………で、それでその時まだ10歳だったギアンがだな、敵大将の頭上からの不意打ちを決めて」
「姉上、もうやめてください!!」
「いや、さすが大公の子、次期大公の弟、将来レイエス海軍を率いる身に恥じぬ見事な働きぶりと、当時援軍に来ていたベネディクトの元帥も」
「お願いですからやめてくださいと申し上げているでしょう!!」
「なぜだ?
そなたの腕が立つという話なのだから良いではないか。そうそう、11歳のときにはだな……」
…………大公殿下が馬車に一緒に乗ると聞かされて真っ先に警戒したのは、私が偽者でないか怪しんだんじゃないかということだった。
で、現在。
馬車のなかで延々繰り広げられていたのは、大公殿下による弟の自慢話。
わざわざ意識的に塩対応な物言いをしなくても、聞いているだけでいいので、私はめちゃめちゃ楽だ。
それに私的にはこどもの頃のギアン様の話など聞けるので大変お得なので良い……けれど、ギアン様がそろそろ精神的に瀕死っぽい。大丈夫かな。口から魂が出てそう。
いろいろなエピソードは、それはそれは突っ込みどころ満載だ。
まず第一に、その年齢から武力衝突の場にギアン様連れてくの、国際条約的に大丈夫ですか?
ベネディクト王国でも軍に入れるのは15歳からだった気が??(役作りのため軍人に取材したことあり)
マレーナ様を演じている以上、突っ込むわけにいかないけど、突っ込みたい……!!
……でも。国が違うといろいろ常識も違うとはいえ。実際に戦争とか武力衝突になったら、こどもも老人も、非戦闘員も関係なく巻き込まれるんだろうなぁ。
夜会でのギアン様の身のこなしを思い出す。
レイエス大公家はじめ、レイエス人は明らかに戦闘に長けた民族だ。そして歴史的にも周辺の大国に狙われ続けてきた。
その人たちが、ベネディクト王国と、仲良くしようとしている。それは、危険にさらされてきたからこそ安全というものの価値を身に染みてわかっているからなのか。
その重さを、改めて感じる。
「…………そういうわけで、私には自慢の、そして大切な弟なのだ。わかってもらえただろうか」
「いえ。貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございます」
淡々とうなずいたけど、「そうか!」と大公殿下は笑った。
「…………ところで」笑顔のまま、大公殿下の目元が鋭くなる。
「最近ギアンとよく会ってくれるというのは、いったいどういう心境の変化があったのだ?」
(…………きた)
「姉上!!」
「心境は何も変わっておりませんわ。
ただ身体の具合が以前より良くなりましたの」
「そうか。
こちらより派遣した講師らによれば、これまで進講は一度も休みなく、大変真面目に受けていたと聞くが」
「姉上!! マレーナ殿に失礼ですよ!!」
(進講って何? 授業的なやつ?)
「……恥ずかしながら、進講は休んではならないと気を張りつめておりましたが、その分我慢した不調が、そうではない時間に出てしまったようですわ」
「ふむ。確かに、具合が悪そうな時も無理をおして進講に臨んでいたとも聞いている。教室のなかと夜会などとでは、心身への負担もまるで違うものでもあるな。
失礼な聞き方をしたな。すまない」
一旦引き下がった様子にホッとした「だが」と大公殿下は続けた。
「私としては立派な妃など望んではいないのだ」
「…………?」
「私は、ただ、弟の妃となる人が」
「姉上!! もう城につきますよ!!」
そう、ギアン様がさえぎる。
窓から外を見る。
馬車は坂を上りながら、ひとつの大きな門へ向かっていた。
その門の向こうにそびえるのは……。
(……これがレイエスの城……)
ベネディクト王都の王宮よりも遥かに大きい。
石積みと漆喰、それに鋼を組み合わせて築かれた城は、重厚で威風堂々としている。
その主城の周りを、また、けっして小さくはない宮殿や城が囲み、城がひとつの大きな街を造っているように見える。
囲む宮殿のひとつなどは、完全に海に面しているし、壁にある穴は砲撃用だろう。
国を治める王が鎮座する場というよりも、いつでも臨戦態勢の将軍が陣を構えているような…………。
(内陸部じゃなくて、あの港からすぐ近くにあるのが、臨戦態勢って感じだなぁ)
「久しぶりに見た我らの城はどうかな?」
「…………やはり、本当に大きいですわね」
マレーナ様が言いそうな範囲で誉め?言葉を口にすると、「そうだろう、そうだろう」と大公殿下は笑った。
◇ ◇ ◇
城の大広間の場で、私たちは簡単に重臣の皆様に紹介され(また明日、正式な私のお披露目があるらしい)、それから、海の見える宮殿の部屋に案内された。
「…………これは!!
すごいですね!!」
部屋にはいった瞬間、私よりも先に、シンシアさんが声をあげた。
確かにその部屋は、寝室だけでファゴット家のマレーナ様のお部屋より二周りほど広く、私はといえば
(普通にこれだけあったら、お客さんいれて芝居やれるなぁ……)
という感想を抱いていた。
かなり広い舞台を確保できそうだ。
……などと考えている場合ではない。
後ろには部屋に案内してくれたギアン様がいる。
「マレーナ。気にいってくれただろうか?」
「ええ、素敵なお部屋ですわね」
まぁこれぐらいは言わないと礼儀知らずだろう。
実際は素敵どころではないけど。海が、良い(語彙力)
「そうか!! マレーナが気に入ったなら、よかった。このほかに続き部屋もある。
別室に専用の風呂も用意している。それから侍女殿の部屋と…………」
姉上から解放されたからか、こどものようにはしゃぐ声をあげるギアン様が、やっぱり可愛いと思えた。
何度も、マレーナ、と、私のことを呼ぶその声さえ。
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