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◇39◇ 【マレーナ視点】どす黒い真意
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◇ ◇ ◇
(…………おかしいですわ)
邸の窓から外を見つめ、『協力者』の皆様からいっこうにご連絡が来ないことに、わたくしはいらだっておりました。
『協力者』の皆様には、『リリス・ウィンザーの父親』がわたくしに脅しをかけてきたこと、何か不穏な動きをしかねないことを伝えております。
いままででしたら、何かおかしなことがありましたら『協力者』の皆様にお知らせしましたらすぐに何らかの対処をしてくださり、わたくしのもとに連絡がくるのです。
それが、まったくくる気配がありません。
(『協力者』の皆様にもなにか不都合なことがあったのでしょうか?)
リリス・ウィンザーの母親が亡くなったこと。
『協力者』の一人が、リリスの事件の犯人と馴染みで、リリスの引き抜きをかけていたのが新聞に暴露されたこと。
思い当たるとしたら、それぐらいですが……。
王太子殿下は、他の国との外交交渉でもうすでに出国されています(カサンドラも一緒に)。
ですので、殿下に関しては事態が大きく動く気配はありませんのに。
わたくしはため息をつき、外出の準備を整えることにいたしました。
…………もう、身代わりが発覚しても、どちらでもかまいません。
マレーナ・ファゴット自身の姿で、王宮に参りましょう。
◇ ◇ ◇
(…………と、思ったら)
わたくしは、身を隠さざるを得ませんでした。
通ろうとした王宮の庭園で、聞き覚えのあるかしましい声が飛び交っていたからです。
……わたくしの、学園の『友人』たちでした。
「マレーナったら……ああだこうだ言って、結局ギアン様のお国からの招待、お受けしたみたいよ」
「知ったのじゃない? 大公殿下が産めない女で、子どもも連れ子だって」
それは初耳でしたが、産めない女、という下品な言い方には眉をひそめました。
そう責められる可能性は、すべての女性にあるというのに。それを言っている彼女自身にさえ起こりうる未来だというのに。
「あーあ、ギアン様さえ射止められれば大公妃になれたのに」
「野蛮人の国だって、お金はあるものねぇ。大公ならベネディクト王国の中でも王族に次ぐ格だわ」
「まぁ、結婚していないなら、いまからだってどうにかなるわよ。マレーナ様のあれやこれや、私たち握っているでしょ?」
……なるほど。
わたくしに同情するような物言いをしていたのは、ただわたくしを見下して悦に入っていたのではなく、ギアン様の悪口を吹き込むという方を重視していたのですね。
わたくしからギアン様を奪おうと考えて……。
ギアン様が将来の大公だと聞いても、わたくしは心を動かされることはありませんでした。
惜しいという気持ちもないのです。
ギアン様には大変嫌われているあなた方に射止められるとは思いませんけれども、せいぜいがんばるとよろしいですわ。
「……あの、マレーナ様、大丈夫ですか……?」
若い侍女が、こちらを心配げに覗き込んできます。
いままであまりわたくしの世話をする立場ではなかった、入ってまもない侍女です。
不思議とそれは不快なものではなく、わたくしは、やんわりと笑って見せました。
「……それよりも、急がねばならぬところがあるのです」
「は、はい!」
侍女はわたくしについてきます。
わたくしは、王宮のなかでも極端に人の少ない廊下を選んで足早に歩き、ある部屋を目指しました。
とある貴族のお部屋が、『協力者』の皆様の本拠地となっているのです。そこに行けば誰かはつかまえることができるでしょう……。
わたくしはその部屋までたどり着きました。
ドアは閉まっています。扉をノックしようとした、そのとき。
「ええ、そうなのです。うまくいきました」
何者かの声が、部屋のなかから聞こえてきました。
なんと、両開きの重い扉が絨毯を噛んで、ほんのわずかに開いていたのです。
(…………うまくいった? 何がですの?)
計画の要たるわたくしは王太子殿下に嫌われて振られてしまい、またリリスの事件に関連して疑われている者も出ているというのに?
「このまえ届きました手紙も間違いなく、マレーナ・ファゴットからのものです。
よって、レイエスに向かったファゴット家一行のなかにいるのは、リリス・ウィンザーで間違いありません」
「では、早急にレイエスに向かおう。
計画通りだ――――ようやくこれで、我らが国政に返り咲くことができる」
「ええ、わたくしどものほうも……」
そういって部屋のなかの人々は、この先の計画を語ります。
その全容を聞いて、わたくしは思わず、へたりと座り込んでしまいました。
……なんということでしょう。
わたくしは、『協力者』たちに利用されるまま、自分の望みとは真逆のことをしていたのです。
空気を読んで声を出さない侍女の手を借り、ようやく立ち上がったわたくしですが、悠長にしている間はありません。
わたくしは、行かなければならない。
「…………いますぐ、レイエスへ参りますわ」
◇ ◇ ◇
(…………おかしいですわ)
邸の窓から外を見つめ、『協力者』の皆様からいっこうにご連絡が来ないことに、わたくしはいらだっておりました。
『協力者』の皆様には、『リリス・ウィンザーの父親』がわたくしに脅しをかけてきたこと、何か不穏な動きをしかねないことを伝えております。
いままででしたら、何かおかしなことがありましたら『協力者』の皆様にお知らせしましたらすぐに何らかの対処をしてくださり、わたくしのもとに連絡がくるのです。
それが、まったくくる気配がありません。
(『協力者』の皆様にもなにか不都合なことがあったのでしょうか?)
リリス・ウィンザーの母親が亡くなったこと。
『協力者』の一人が、リリスの事件の犯人と馴染みで、リリスの引き抜きをかけていたのが新聞に暴露されたこと。
思い当たるとしたら、それぐらいですが……。
王太子殿下は、他の国との外交交渉でもうすでに出国されています(カサンドラも一緒に)。
ですので、殿下に関しては事態が大きく動く気配はありませんのに。
わたくしはため息をつき、外出の準備を整えることにいたしました。
…………もう、身代わりが発覚しても、どちらでもかまいません。
マレーナ・ファゴット自身の姿で、王宮に参りましょう。
◇ ◇ ◇
(…………と、思ったら)
わたくしは、身を隠さざるを得ませんでした。
通ろうとした王宮の庭園で、聞き覚えのあるかしましい声が飛び交っていたからです。
……わたくしの、学園の『友人』たちでした。
「マレーナったら……ああだこうだ言って、結局ギアン様のお国からの招待、お受けしたみたいよ」
「知ったのじゃない? 大公殿下が産めない女で、子どもも連れ子だって」
それは初耳でしたが、産めない女、という下品な言い方には眉をひそめました。
そう責められる可能性は、すべての女性にあるというのに。それを言っている彼女自身にさえ起こりうる未来だというのに。
「あーあ、ギアン様さえ射止められれば大公妃になれたのに」
「野蛮人の国だって、お金はあるものねぇ。大公ならベネディクト王国の中でも王族に次ぐ格だわ」
「まぁ、結婚していないなら、いまからだってどうにかなるわよ。マレーナ様のあれやこれや、私たち握っているでしょ?」
……なるほど。
わたくしに同情するような物言いをしていたのは、ただわたくしを見下して悦に入っていたのではなく、ギアン様の悪口を吹き込むという方を重視していたのですね。
わたくしからギアン様を奪おうと考えて……。
ギアン様が将来の大公だと聞いても、わたくしは心を動かされることはありませんでした。
惜しいという気持ちもないのです。
ギアン様には大変嫌われているあなた方に射止められるとは思いませんけれども、せいぜいがんばるとよろしいですわ。
「……あの、マレーナ様、大丈夫ですか……?」
若い侍女が、こちらを心配げに覗き込んできます。
いままであまりわたくしの世話をする立場ではなかった、入ってまもない侍女です。
不思議とそれは不快なものではなく、わたくしは、やんわりと笑って見せました。
「……それよりも、急がねばならぬところがあるのです」
「は、はい!」
侍女はわたくしについてきます。
わたくしは、王宮のなかでも極端に人の少ない廊下を選んで足早に歩き、ある部屋を目指しました。
とある貴族のお部屋が、『協力者』の皆様の本拠地となっているのです。そこに行けば誰かはつかまえることができるでしょう……。
わたくしはその部屋までたどり着きました。
ドアは閉まっています。扉をノックしようとした、そのとき。
「ええ、そうなのです。うまくいきました」
何者かの声が、部屋のなかから聞こえてきました。
なんと、両開きの重い扉が絨毯を噛んで、ほんのわずかに開いていたのです。
(…………うまくいった? 何がですの?)
計画の要たるわたくしは王太子殿下に嫌われて振られてしまい、またリリスの事件に関連して疑われている者も出ているというのに?
「このまえ届きました手紙も間違いなく、マレーナ・ファゴットからのものです。
よって、レイエスに向かったファゴット家一行のなかにいるのは、リリス・ウィンザーで間違いありません」
「では、早急にレイエスに向かおう。
計画通りだ――――ようやくこれで、我らが国政に返り咲くことができる」
「ええ、わたくしどものほうも……」
そういって部屋のなかの人々は、この先の計画を語ります。
その全容を聞いて、わたくしは思わず、へたりと座り込んでしまいました。
……なんということでしょう。
わたくしは、『協力者』たちに利用されるまま、自分の望みとは真逆のことをしていたのです。
空気を読んで声を出さない侍女の手を借り、ようやく立ち上がったわたくしですが、悠長にしている間はありません。
わたくしは、行かなければならない。
「…………いますぐ、レイエスへ参りますわ」
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