身代わり婚約者になった元悪役令嬢役女優、塩対応しかしてないのになぜか溺愛されてます。

真曽木トウル

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◇38◇ 大公殿下の望み

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「も、申し訳ございませ……」

「なぜ謝る。このような火傷を負うような事態の報告は受けておらぬが、かなりの深手だったのだろう?」

「は、はい……」


 大公殿下は間近で私の火傷を見る。
 ああもう、終わった。なんといえば良いんだろうか。


「……これは、ギアンには?」

「い、いえ……?」

「そうか。ならば、まだ言わずとも良い。私も誰にもいわぬ。
 ……この怪我ならばだいぶ寝込んだのであろう。そういえば4月頃一時学園を休みがちな時期があったと報告が上がっていたな。その頃か。痛かっただろう」


 ……マ、マレーナ様ではないということは、バレていない?
 いや、でも、本物のマレーナ様には火傷はないし!!


「大きな怪我をして心境がかわったというところか。私などはこの通り、全身戦場で負った傷だらけだが、そんなことはなんの慰めにもなるまいな。だが」


 ぽん、と、大公殿下は私の頭に手を置いた。


「安心するがいい。近年は傷病軍人のための治療法が進んでおる。また東方のとある国では、火傷などの傷跡さえも治せる名医もおるのだ」

「…………え?」

「医師を呼ぶ金なら出そう。見た目も動きも、時間はかかるが綺麗に治すことができる。それまで嫁入りを遅らせればよい」

「は、はい…………ありがとう……ございます」


 …………大公殿下、優しい。
 良心が死ぬほど痛い。


 でも、きっと治療費はものすごく高額だろう。
 さすがに私がそんなものを受けるわけにはいかないから、マレーナ様に受けたことにしてもらえば、なんとかなる、だろうか……。

 大公殿下がギアン様に言わないという言葉を信じれば、だが。


「…………大公殿下はそれで、よろしいのですか?」

「べつに。そなたらを見ていて、いつぞやとは、まるで違う様子なのでな。
 覚えているか。そなた昔、ベネディクトの貴族は銀髪でないといけないなどと申して、ギアンに灰分の多い石鹸で髪の毛を脱色させたのだぞ」

「……………………!!??」


 マレーナ様ー!!
 何やってんですかー!!!
 いじめだ……いじめ以外の何ものでもない……。


「……本当に、昔のわたくしの了見の狭きことには恥じ入るばかりでございますわ。
 ギアン様には……ご迷惑ばかりおかけして……」

「まぁ、自分からやると言って方法を調べてきたのはギアンのほうだがな。
 そなたらが12歳のときか。
『黒髪に産まれたからだなんて、言い訳ですわ!! 貴族たるものきちんとした髪色にしなければおかしいのです』
と、そなたが言うので、懸命にベネディクトの大人が髪の色を変えるやり方を調べたようだ」

「まことに、まことに、申し訳なく…………」

「ギアンめ、石鹸を髪に塗ったくり、海岸で長い時間太陽の日差しを浴び続けていた。
 しかし、そこまでしても、少し暗い金髪になるのがせいいっぱいでな。
 髪も頭皮もぼろぼろになってしまって、元通りになるのにずいぶんかかったな、あのときは」

「…………本当に、申し訳ございませ……」

「すまぬ。昔のことでいじめすぎた。
 いまギアンとそなたがうまくいっているのなら、それで良いのだ」


 本当に本当にすみません……。私じゃないけど。マレーナ様だけど。マレーナ様本気で許せん。

 ……いや、それにしても、普通その時点で婚約破棄しないか?
 ギアン様が、そんな酷いことされてもマレーナ様のことを好きだったということ?


「…………なにかおかしなことを言ったと思ったか?」

「……はい。その……もう少し、家柄はもちろんのこと能力などを問われるのかと」

「ただでさえ他国に狙われやすい国だからな。
 姉弟仲良く、といえばこどもっぽく聞こえるかもしれぬが、レイエスにとってこの先数十年が大切な時期、大公家一丸となることが必要なのだ。なにせ、まだ火種もある」

「火種?」

「どこかで話そうと思っていたのだがな。
 私の息子がおったろう?」

「ああ、はい。9歳とも思えないほど利発で……」

「血が繋がっておらぬ」

「はい?」

「よって、重臣である夫の家のほうの跡継ぎだ。
 私はまだ子を産んでおらぬ」


 …………なん、ですと?


「まぁ、30年前に叙爵を受けてからも、我が国は何かと大変でな。戦いに次ぐ戦いで、結婚などなかなかできなんだ。
 そなたの婚約の少し前に、前の妻を亡くしたばかりの今の夫を迎えたのだ。
 …………そうやって、戦いにばかり励んできたことを神が咎めてでもおるのか。結婚以来、まったく懐妊の気配がない」

「そう、なのですね…………」

「これが、火種だ。
 国としてはいつまでもそういうわけにはいかぬゆえ、ギアンが王立学園を卒業後、士官学校を出て22歳になったところで大公世子、すなわち世継ぎとして正式に定めるつもりでおる。
 まぁ、それからも女としてギリギリまであがくつもりではおるがな」


 ハハッ、と大公殿下は笑った。


「そなたがいずれ嫁いでくるのはそういう国だ。
 なかなかに安定とは言いがたいが、どうか理解してほしい」

「……はい」


 マレーナ様が聞いたらどんな顔をするだろう。
 では自分は大公妃になれるのかと、喜ぶだろうか?
 もしマレーナ様が私の目の前で喜んだら……私、ぶん殴っちゃいそうな気がする。


「…………あの、わたくし」


 なんと言えばいいのか。なにか言わなきゃと思って言った言葉で逆に人を傷つけてしまうことだって多い。だから何も言わない方がいいんだろう。


「……お子を授かることを、祈りますわ」


 だから、なんでそういうときに限って口から出ちゃうのそういう言葉。


「心より、お祈りします」

「フフッ、そうか」


 殿下は私を抱き締めながら、再び、私の頭をよしよしと撫でた。

 いま気がついたけど、ちょっと大公殿下、酔ってた。



   ◇ ◇ ◇
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