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後日談2:学園生活開始 前編
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濃厚な海老のビスク。
ぷりぷりの生鯛にレモンを効かせたマリネ風サラダ。
旨みたっぷりのアサリの白ワイン蒸し。
赤ワインのソースが彩る鹿肉の柔らかロースト、季節の野菜を添えて。
────ただいまギアン様と私が、王立学園の学生用レストラン特別席でいただいているランチのメニューである。
学生のお昼ごはんというには豪華すぎるけど、どれもこれも口の中と胃がとろけるほど美味しくて幸せ。
「鹿肉って、脂がなくてさっぱりしているけど、旨みはぎゅっと詰まってて……こんなに美味しいんですね。ソースもすごく良いです……!」
「うむ。喜んでくれて良かった! ここのシェフの腕も素晴らしいだろう?」
「毎日こんな贅沢でいいのかなっていうのはありますけど」
「栄養バランスの良いメニューだから気にするな。それにしてもリリスは生の魚にもまったく抵抗はないのだな」
「ええ、生魚は大好きです。
蛸も全然いけますよ。サラダも美味しいですし、オリーブ油煮にするとこれもまた良いです」
マレーナ様は生の魚介を食べるのは野蛮人だと言ったり蛸は悪魔の魚だと言ったりするけど、私はどちらも大好きだ。
「そうか! ではまたレイエスに来たら美味い海鮮をたくさんご馳走しよう! 雲丹もいけるか?」
「ウニって、あのトゲトゲのやつですか? 食べられるんですか?」
「うむ。殻を割ったその中身はとても濃厚で旨い。生でも焼いても良し、そのままでもうまいが肉にも合う。パンにのせるだけでも旨いし、グラタンなどに入れても良い」
「へぇ……食べてみたいです!!」
どんなものか想像もつかないけど、ギアン様がそんなに美味しいというものなら、たぶん私も好きだろう。
私たち、食べ物の好みはかなり合う。
「学園には慣れてきたか?」
「そうですね、何がどこにあるかはだいたい覚えました……。学校自体初めてなので、いろいろ新鮮です」
2年遅れの1年生として入学したので、同学年はみんな2歳下。ギアン様とマレーナ様は3年生だ。
「困っていることなどはないか? 何かあったら何でも言え」
困っていること……は、なくもないけど、できれば大事にしたくなかった。
「……大丈夫です。そういえば、大公殿下のお具合はいかがですか?」
「来週には懐妊かどうかはっきりするそうだ」
「そうなんですね。はー……ドキドキしますね。待望のお子さん……本当にそうだったらどんなに嬉しいでしょうね」
「リリスは……どうだ?」
「え? どうって」
「……ああ、いや。なんでもない」
デザートに可愛いプディングを食べて、ギアン様とのランチの時間は終わった。
「今日も放課後はすぐに稽古に向かうのか?」
「はい」
「ではまたいつもの時間に迎えにいく。遅くなるので気を付けてくれ」
放課後と休日は、私は勉強と稽古漬けになる。
それもあってか、ギアン様は学園にいる時間はとにかくランチに毎日誘ってくるし、稽古帰りに迎えに来てくれる。
レストランを出て、ギアン様と離れ〈淑女部〉(←男女別学になっていて女子側のほうをこう呼ぶ)の校舎に入ったとたん、一気に冷たい視線が私に刺さってくる。
(うーん。相変わらずだな)
それは
『平民育ちから突然ファゴット侯爵家に引き取られ、姉妹の婚約者を奪ったいかがわしい女』
に向けられる眼差しだった。
「またギアン殿下とこれ見よがしに食事していたのよ、あの方。しかも特別席で」
「婚約解消されたマレーナ様のお気持ちを何もお考えにならないのね」
「確かにマレーナ様と同じお顔ですけど、本当に品のない……」
ひそひそ聴こえる声。
まぁ、わざわざ私に聴こえるように話しているんだろうなと思う。
マレーナ様の元取り巻きの3年生たちが中心になって、私の悪い噂を吹聴して回っているらしい。
────数年前からこういうストーリーラインの小説や演劇が巷で流行っている。
品行方正な高位の貴族令嬢の家に、平民育ちや下位貴族の家育ちの娘が引き取られてくる。
事情としては養女だったり、父が愛人に生ませた子だったり、父の再婚で継母の連れ子としてやってきたり。
そういう娘は、品行方正な貴族令嬢(主人公)とは対照的に、男受けする容姿を持ち、性的に奔放に行動し、その性的魅力で周囲の男性たちをとりこにする。
挙げ句の果てに、主人公の婚約者を奪い婚約を破棄させてしまう。
そうした踏んだり蹴ったりの主人公が、その持ち前の知恵や能力をつかったり他の男性の力を借りるなどして、元婚約者と寝取った娘とを破滅に追い込んで、そののち主人公は幸せになる。
婚約者をとるのはともかく、性的に奔放なのってそんなに罪か?という素朴な疑問は置いておいて。
(……この学園のご令嬢たちも、そういうわかりやすいストーリーで、私とマレーナ様のことを理解してるんだろうなぁ……)
たぶん、双子として生まれ、片割れが誘拐された……というのは、あまり皆信じてくれてはいないのだろう。流行りのストーリーラインから外れてしまうから。
私自身、見てくれた人を幸せにしたくて舞台の上で虚構の世界を作り出してきた。
その経験から、人が生きていく上で心を癒す虚構の物語は絶対に必要だと考えている人間だ。
だけど…………だからこそ実感していることがある。
人間はみんな、自分で思っているほど、虚構と現実の区別がついてはいないのだ。
(…………さすがにギアン様に助けを求めたら何とかしてはくれるだろうけど、ちょっと大事になりすぎるし、できればあんまり恨みを買わずに友達を作りたいんだけどな)
それが最近の私の唯一『困ったこと』だった。
◇ ◇ ◇
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