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2、元聖女、「うちに来い」と言われる

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(……あ、でも、戴冠はともかく跡継ぎについては、先に結婚して出産してから進学や留学……という選択肢だってあったんだわ。
 女性君主のライフプランって男性のそれよりも確立されていないし、もっとメアリーの考えも聞いて、しっかり話し合えば良かったのかな。
 宰相の息子はやめた方がいいと思うけど……)


 裏切りに対しての怒りはあるけど、その一方でついつい『どうしたらよかったのか』を考えてしまう。

 ちなみに、あの糾弾きゅうだんの場、ぶっちゃければ私1人の魔力で全員相手に抵抗できないわけではなかった。
 ただ、メアリー自身が自分の意思で私を追放すると決めたことはショックだったし、周りの男性たちの態度的にも、ヨランディア王国そのものに対して気持ちが一気に冷めてしまったのだ。


 あと、年増聖女って言われたのも地味にショックでした。
 なんでも、他の国じゃ近頃は聖女も若くて美人なのがデフォらしいです。知るかー。



(それにしても、15年間国を治めて、35歳で追放か……)


 私は、かつて聖地で共に学んだ学友たちの顔を思い出した。
 女性であの大学に進学させてもらえる人は本当にまれで、私の学友も男ばかり。
 王太子や王子、将来の宰相候補や聖職者候補、軍幹部候補などなど……。

 今でも交流や仕事でやり取りがある人もいるけど、ない人も、みんなそれぞれの国で活躍しているんだろうなぁ。
 間違っても私のように追放なんてされていないことを祈る。


(…………なんて、全然連絡ないけどしょっちゅう評判が聴こえてくるものね)


 ふと、その顔を思い出すと、苦さと甘酸っぱさが混じった気持ちになる。
 もう戻れない青春時代の記憶に浸っていると、背後から馬のひづめの音が聴こえてきた。


(────?)


 こんな道で誰が馬を飛ばしているの?
 疑問に思いながら振り返った。


(────!!!???)


 え、えーと??

 私の目がおかしくなっていなければ、さっき顔を思い浮かべたばかりの人が馬に乗ってこちらに走ってきているように見えるんだけど……??

 きっと、たまたま似ているだけよ。
 黒髪なんて珍しくもないじゃない。

 こっちを見ている気がするのも気のせい。
 見覚えのある紋章の装飾が馬についてるけど。
 後ろにお付きの人?が何騎もついてるけど……。


「…………ルイーズ!!!」


 うわぁ呼ばれた!!

 あっという間に馬が追い付いてきて、馬上の人はさっと馬から下りると、


「ルイーズ!! 無事か!!」


といきなりガバッと正面から抱き締めてきたのだった。


「!!???!?!??」


 びっくりして思わず、その整ったご尊顔のあごに頭突きを食らわしてしまう。


いだだっ!!! 何をするっ!!」

「こ、こっちの台詞よっ!!
 なんで、なんでここにっ……あなたがっ……!
 ウィルフレッドがいるのよ!!」


 15年ぶりに会ったのにすぐにわかった。
 私よりちょうど頭ひとつ高い背丈。
 黒曜石のような漆黒の髪に、青みがかった瞳。
 端正さと野性味が奇跡のバランスで同居する、神が作り上げたような美貌。
 ……老けたと言ってやりたいところだけど、歳を重ねて大人っぽさと色気が加わり、一瞬ドキリとする。

 ウィルフレッド・オブシディアン・グライシード。

 私と同い年で、いま35歳。
 大陸の東南東に位置する、グライシード王国の国王を務め、領土を拡大し、武闘派国王として名を上げている。
 その彼が、なんでこんなところに!?

 お付きの人たちが続々追い付いてくる。すごい形相で。

 あ、やってしまった。この人たちの目の前で国王の顎に頭突きをしてしまった……と頭を抱えそうになったけど、ウィルフレッドは彼らを目で制止する。そして私に向き直った。


「迎えにきた」

「はい?」

「ヨランディアの王女と宰相らが、おまえの追放を企てているという情報を得た。
 この国に着いたときにはもう追放されてしまっていたと聞き、慌てて迎えにきたんだ」

「いや…………なんで…………」

「行くところがあるか? ないだろう」

「ないわけじゃ……亡くなった母の祖国を頼ろうと思って。遠いけど」

「だったらグライシード王国うちに来い」

「ぎゃっ!!!」


 いきなり抱き上げたかと思うと、ひょいっ、と自分の馬に乗せてしまった。
 待って国王、お立場的に行動考えようよ。
 ……なんて思ってる間に、彼はさっさと私の後ろに乗ってしまう……というか彼の膝の間に私のお尻がすっぽり入る形で固定された。
 ちょっと、近いんですが?
 私たち性別違うの忘れてないか国王陛下?


「迎えにきたって……何で?」


 そう言う私の視線の先で、たったひとつ持ってきたトランクもお付きの人が回収していく。
 あーこれは、拒否権はないってことなのね。


「だって、私は……」
「大事な学友だからな」
「学友……だけど……」
「行くぞ」


 有無を言わさずウィルフレッドの足が馬の腹を蹴り、馬たちは踵を返すように走り出す。

 そう、私たちの関係は大学の学友。それ以上でも以下でもない。
 このウィルフレッドが、35年の人生でただ1人、この私に求婚してきた人だということを除けば。
 ────そして、私はその求婚を断っている。

 なのに、15年後の今、ぴったりと彼の体温を感じながら馬で運ばれていく……。

 気まずいことこの上なくて、苦い思い出がよみがえり、胸がちりちりと痛んだ。


     ***
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