追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル

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4、元聖女、また求婚される

   ***


「ほんとにグライシード王国まで連れてこられちゃったんですけど……」

「? 最初からそのつもりだが?」


 馬での強引な長距離移動のあとは、完全に貴賓待遇だった。

 最上級のドレスに着替えさせられたかと思うと、最新鋭の船で河川と海を進む大変快適な船旅。
 それであっという間に着いたのがグライシード王国の港。
 さらに乗り心地の良い最上級の馬車に乗ること2日。

 私は、ウィルフレッドとともに、王城の門に到着してしまった。
 冗談でしょ!?と言いたくなるほどの人数が左右に並んで私たちを出迎えている。

 ウィルフレッドに促され、歩を進める。
 踏みしめるのは真っ赤な絨毯じゅうたん


「……いたたまれない」
「何がだ?」
「いろいろと。このドレスも、あと10歳若かったら似合ったでしょうけど」
「俺の見立てに不満か?」
「じゃないけど……」
「胸を張って皆に顔を良く見せろ。おまえは美しくなった」
「…………は? いや、20歳から35歳よ? さすがにだいぶ劣化が」
「劣化いうな。その雰囲気をぶち壊す物言い15年たっても変わらんな」


 彼としゃべっているとつい、15年前の学生時代の気分に帰ってしまう。
 もう何もかも違う相手なのにね。


「────おかえりなさいませ、国王陛下。
 ご無事の帰還、何よりでございます」

「留守居ご苦労。
 ルイーズ。うちの宰相、ミリオラ女公爵だ。
 俺の伯母にあたる」


 城の入り口で出迎えてくれた、柔和な笑みを浮かべる60歳ほどの女性。
 その名は私も知っている。グライシード王国の有名な辣腕らつわん女宰相だ。
 いかにも“女傑”という感じの人かと思っていたけど、小柄なかわいらしい雰囲気の女性だった。


「はじめてお目にかかります、宰相閣下。
 国王陛下の大学時代の学友、ルイーズ・バルキリー・ディアナ・ヨランディアと申します」


 私が名乗ると、何故か宰相閣下の目の端が輝いた、気がした。


「ヨランディア王国の名高き聖女猊下でいらっしゃいますね。
 ようこそおいでくださいました」

「大変恐縮です。聖女からは解任されてしまいましたが」

「どうぞ、末永くこちらにいらしていただけると幸いです」

「…………??
 あの、私はどういった名目でこちらに呼ばれ(というか連行され)たのでしょうか?」

「そちらはどうぞ陛下よりお聞きください。
 お部屋にご案内をさせましょう」

「…………」


 正直早く知りたいんですが。
 突然連行されて『末永く』とか不穏すぎるので。
 たまたまグライシード王国に高位の聖職者が必要で、私の追放計画の情報を得たからウィルフレッドが迎えに来たってこと……?


(────?)


 不意に空気に違和感を覚え、「あの、宰相閣下!」と私は声をあげる。


「……この城、何か魔物が入ってこないように結界がありますよね?」

「あら、お気づきでしたか?」

「最上階の魔石を中核に城全体に結界を張ってある。それが?」ウィルフレッドが補足してくる。

「魔石の力が弱まっている気がするの。さすがに、私が見たらまずいかと思うけど」

「気になるなら見てくれ」

「……へ? いいの?」


 城の防衛に絡むとこよ? 普通あっさり見せないわよ?


(ウィルフレッド、15年ぶりに再会した学友をちょっと信用しすぎじゃないかしら……)


 そんなことを考えながら、ウィルフレッドに連れられて、私は城の最上階へ……結界の核のもとへと行った。


「………これ?」
「ああ」


 3馬身ほどもある大きな魔法陣の中央に、見上げるほどに大きな魔石が鎮座している。


「これ、少し『手入れ』して良い?」
「ああ」
「じゃあ少しだけ。
 ────〈人の子の産みし力の流れよ、集い巡れ〉」


 私は魔石に魔力を注ぎ、城の周りを巡る魔力の流れを整えた。
 聖職者である私にはかなり短時間で済むこと。とはいえ、少し時間をかければウィルフレッドにも問題なくできることだろう。


「終わったわ。でもだいぶ乱れていたわね、この結界。高位聖職者に欠員でも出ているの?」
「いや、半分ほど追放した」
「つ、追放!? な、なんで??」
「あまりにも腐敗と重臣たちとの癒着が酷くてな」
「ああ……そういう……」


 わかる。うちも、罷免した高位聖職者は結構いた。
 仕事柄、清廉潔白な外面そとづらを取り繕うとストレスがたまるのか……裏で結構えげつないことしてたりして。


「……え、じゃあまさか」
「今は、重要な祭祀は俺が執り行っている」
「原始的な祭政一致体制ね……いや、うちも人のこと言えなかったけど」


 つまり、国王の仕事に祭祀も入ってきて仕事が増えているせいで、結界のケアまで手が回っていなかったのね。


「なるほど。それで祭祀を行う人を必要としているってことね? 私がここに連れてこられた理由がよくわかったわ」

「そうか、受けてくれるか」

「? まぁ、そういう役職ポストなら。学友のよしみですし。私にできることなら……」

「ならば話は早い」


(確かに、そういう仕事なら私が適任だわ。
 でも、聖職者を追放した後なのに私が聖職者として入ると、ちょっとややこしいわよね。
 どうするつもりなのかしら?)


 ……などと考えていたら、スッと、ウィルフレッドがひざまずいた。
 見上げた彼のその美しい眼差しに、一瞬覚えた既視感。


「? ……何よ?」

「ルイーズ・バルキリー・ディアナ・ヨランディア。俺の妃になってくれ」

「…………はい?」


     ***
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