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5、元聖女、売り言葉に買い言葉
***
「……だからさぁ……なぜまた求婚……」
「そういう役職なら受けると言っただろう?
王妃という役職のオファーをいまおまえにしている」
「15年たつとずいぶん求婚もドライになるのね(求婚の言葉はあんまり進化してないけど)」
求婚後、そのまま私は、ウィルフレッドの私室に連れてこられていた。
彼のプライベートな空間に入るのは初めてじゃない。学生寮の部屋には入ったことがある。
でも、当たり前だけど一学生としての寮の部屋はあくまで画一的なものだ。
国王としての彼の部屋は、重厚さもありながら調度品に彼の好みが出ていて、何だかとても新鮮だった。
ちなみに、私の前に出されているのは昨今流行りの紅茶などではなく、私たちが学生時代好きだったお酒。
いや、覚えててくれたのは嬉しいけどさ。
そういうわけで国王と元聖女、15年ぶりの一対一飲みしています。
「いざという時に王の代わりを務めるのは誰だ?」
「そりゃ、王太子か、王の配偶者……って、教会から独立した王直属の祭祀専門の役職だっていいでしょ? っていうか……」
ウィルフレッドの言葉につい乗りそうになったのをぎりぎりで踏ん張って、私は疑問に思っていたことを問い返した。
「国王なのに、なんでまだ結婚してなかったの」
「15年間忙しかった。死ぬほどな」
「…………まぁ、人が結婚していない理由なんて大体そんなもんよね」
「15年前に誰かが受けてくれていたら違ったろうけどな?」
「じんわり、人の罪悪感を突いてくるわね……」
国王がやっていいことですか、それ。
(まだ私のことが好きっていうわけでは……ないわよね? 15年もたっているし、さすがにそれはない、はず)
「でも、その、跡継ぎとか……必要なんだし。
もっと若い子のほうが良いでしょ?」
「ほぉ? 俺の記憶によれば、学生時代のルイーズは、貴族制の中で若い女が子どもを産む道具のように扱われることを憤っていたように思うが」
「……よく覚えてるじゃない」
「俺も、子を産ませるためだけの王妃なら迎える気はない。跡継ぎは王族からの養子で良い。
それより、グライシードは俺の代になってから、先々代・先代の時に他国に奪われた領土をすべて取り返した。
これから先しばらくは、しっかり防衛と内政を固めるのに重要な時期だ。
だからこそ」
不意にウィルフレッドが私を見る。
まるでその眼に、射抜かれた気がした。
「今の俺に必要なのは、国を動かし守る力がある、信頼できる相棒だ。
それこそ、誰でもいいわけじゃない。
この世でおまえだけだ、ルイーズ」
最後の言葉にドキリとしてしまって、あわててお酒をくいっと一気にあおる。
……急に、酔いが回った。
馬鹿ね。あのとき、恋愛感情を抱かれてショック受けてたのは私自身じゃない。
なんで15年もたって、今さらその相手にドキドキしているのよ。
(……そうよ。
ウィルフレッドは私の経歴とか力とか……そういうものを信頼してこの話を持ちかけているのよ。
女扱いしないでくれている。
それって、15年前の私が望んだ通りでしょ。
それに、もし私が断ったら、きっと今度こそ他に誰もいない……)
資源豊かなグライシード王国は、各国にそれを狙われ、先々代と先代の国王の時に多くの領土を奪われていた。
取り戻した後だからこそ、ウィルフレッドがしっかり守りたいのはわかる。
そんな中で、信頼できない人間に権力を持たせたくないことも、経験不足の王妃では駄目だというのもよくわかる。
たぶん彼の求める人材は、私しかいない。
「どうした。俺より酒に強かったくせにずいぶんフラフラしているな。弱くなったか」
「悪かったわね。
聖職者だったから15年間一滴も飲んでないのよ。
……男の人とだって付き合ったことない。
どうせあなたは、どっちも達者なんでしょうけど」
「いまさら男とそういう関係になるのが恐いのか?」
ええ、図星ですとも。
それが大事な友人のあなたなら、なおさら。
「だったら『白い結婚』にしてやっても良いぞ?」
「…………あなたは私のことよく覚えてくれてるわよね。
でも、私だって、覚えてることあるのよ」
「ん?」
「何でもないわよ!
そっちこそ、簡単に『白い結婚』でも良いとか言わないでよ。
跡継ぎ問題の厄介さ、なめんじゃないわよ」
お酒のせいでふらつきながら、私は立ち上がる。
「わかったわよ、ウィルフレッド・オブシディアン・グライシード。
その求婚、受けてたってやるわ」
ウィルフレッドに指を突きつけてそう宣言したとたん、一気に気持ち悪くなって私はテーブルに突っ伏してしまった。
「受けてたつ、って……勝負かよ」
昔みたいな砕けた物言いで笑いながら、ウィルフレッドは水差しの水を注いでくれる。
「受けてたって……やるわよ……。
あなたの子だって……産んでやるんだから……」
15年ぶりのお酒は身体にきつくて、もはや自分で何を言っているのかわからないまま、私はうわごとのように呟いていた。
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「……だからさぁ……なぜまた求婚……」
「そういう役職なら受けると言っただろう?
王妃という役職のオファーをいまおまえにしている」
「15年たつとずいぶん求婚もドライになるのね(求婚の言葉はあんまり進化してないけど)」
求婚後、そのまま私は、ウィルフレッドの私室に連れてこられていた。
彼のプライベートな空間に入るのは初めてじゃない。学生寮の部屋には入ったことがある。
でも、当たり前だけど一学生としての寮の部屋はあくまで画一的なものだ。
国王としての彼の部屋は、重厚さもありながら調度品に彼の好みが出ていて、何だかとても新鮮だった。
ちなみに、私の前に出されているのは昨今流行りの紅茶などではなく、私たちが学生時代好きだったお酒。
いや、覚えててくれたのは嬉しいけどさ。
そういうわけで国王と元聖女、15年ぶりの一対一飲みしています。
「いざという時に王の代わりを務めるのは誰だ?」
「そりゃ、王太子か、王の配偶者……って、教会から独立した王直属の祭祀専門の役職だっていいでしょ? っていうか……」
ウィルフレッドの言葉につい乗りそうになったのをぎりぎりで踏ん張って、私は疑問に思っていたことを問い返した。
「国王なのに、なんでまだ結婚してなかったの」
「15年間忙しかった。死ぬほどな」
「…………まぁ、人が結婚していない理由なんて大体そんなもんよね」
「15年前に誰かが受けてくれていたら違ったろうけどな?」
「じんわり、人の罪悪感を突いてくるわね……」
国王がやっていいことですか、それ。
(まだ私のことが好きっていうわけでは……ないわよね? 15年もたっているし、さすがにそれはない、はず)
「でも、その、跡継ぎとか……必要なんだし。
もっと若い子のほうが良いでしょ?」
「ほぉ? 俺の記憶によれば、学生時代のルイーズは、貴族制の中で若い女が子どもを産む道具のように扱われることを憤っていたように思うが」
「……よく覚えてるじゃない」
「俺も、子を産ませるためだけの王妃なら迎える気はない。跡継ぎは王族からの養子で良い。
それより、グライシードは俺の代になってから、先々代・先代の時に他国に奪われた領土をすべて取り返した。
これから先しばらくは、しっかり防衛と内政を固めるのに重要な時期だ。
だからこそ」
不意にウィルフレッドが私を見る。
まるでその眼に、射抜かれた気がした。
「今の俺に必要なのは、国を動かし守る力がある、信頼できる相棒だ。
それこそ、誰でもいいわけじゃない。
この世でおまえだけだ、ルイーズ」
最後の言葉にドキリとしてしまって、あわててお酒をくいっと一気にあおる。
……急に、酔いが回った。
馬鹿ね。あのとき、恋愛感情を抱かれてショック受けてたのは私自身じゃない。
なんで15年もたって、今さらその相手にドキドキしているのよ。
(……そうよ。
ウィルフレッドは私の経歴とか力とか……そういうものを信頼してこの話を持ちかけているのよ。
女扱いしないでくれている。
それって、15年前の私が望んだ通りでしょ。
それに、もし私が断ったら、きっと今度こそ他に誰もいない……)
資源豊かなグライシード王国は、各国にそれを狙われ、先々代と先代の国王の時に多くの領土を奪われていた。
取り戻した後だからこそ、ウィルフレッドがしっかり守りたいのはわかる。
そんな中で、信頼できない人間に権力を持たせたくないことも、経験不足の王妃では駄目だというのもよくわかる。
たぶん彼の求める人材は、私しかいない。
「どうした。俺より酒に強かったくせにずいぶんフラフラしているな。弱くなったか」
「悪かったわね。
聖職者だったから15年間一滴も飲んでないのよ。
……男の人とだって付き合ったことない。
どうせあなたは、どっちも達者なんでしょうけど」
「いまさら男とそういう関係になるのが恐いのか?」
ええ、図星ですとも。
それが大事な友人のあなたなら、なおさら。
「だったら『白い結婚』にしてやっても良いぞ?」
「…………あなたは私のことよく覚えてくれてるわよね。
でも、私だって、覚えてることあるのよ」
「ん?」
「何でもないわよ!
そっちこそ、簡単に『白い結婚』でも良いとか言わないでよ。
跡継ぎ問題の厄介さ、なめんじゃないわよ」
お酒のせいでふらつきながら、私は立ち上がる。
「わかったわよ、ウィルフレッド・オブシディアン・グライシード。
その求婚、受けてたってやるわ」
ウィルフレッドに指を突きつけてそう宣言したとたん、一気に気持ち悪くなって私はテーブルに突っ伏してしまった。
「受けてたつ、って……勝負かよ」
昔みたいな砕けた物言いで笑いながら、ウィルフレッドは水差しの水を注いでくれる。
「受けてたって……やるわよ……。
あなたの子だって……産んでやるんだから……」
15年ぶりのお酒は身体にきつくて、もはや自分で何を言っているのかわからないまま、私はうわごとのように呟いていた。
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