追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル

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10、新女王、怒る【メアリー視点】


『遠隔透視魔法を使える人を、連れてきて!!!』


 ……と、メアリーは簡単に命じたが、その命令は困難を極めた。

 ルイーズが簡単に使っていたから、魔力がある程度あれば簡単に使える魔法に違いない……とメアリーは思い込んでいたのだが。

 実際、簡単な魔法ではあった。
 ルイーズやウィルフレッドほどの魔力と魔法習熟度があれば。


 ────10日経過。


「……まだ見つからないの?」


 苛立ちながら、メアリーは探すよう命じていた貴族をにらみつける。


「いえ、どうにか引退した老魔術師を一人見つけてまいりました。
 が……自分の魔力量だと、遠く離れたグライシード王国までは見られない、見られても広い王国内で国王を探しだしきれない……ということですので、魔力を補助できる者をいま取り急ぎ集めており……」

「宰相には絶対に知られないように進めなさい。
 良いわね?」


 経験不足かつ、前任者を追放したせいで十分な引き継ぎを受けられなかった女王は、それが可能だと思っており、


「……はっ」


下手に臣下から助言などすればプライドを傷つけられてその場で罰など与えてくる女王の扱いに困った貴族たちは、だんだん彼女に対し『余計なこと』を言えなくなっていた。


 ────15日経過。


 どうにか準備がそろったという報告があり、メアリーは王城を出て、神殿に出向くことになった。


「……なんでこんなに大掛かりなのよ?
 あの女は自分の部屋で、小さな水晶玉でさっと見ていたわよ?」


 メアリーが咎めるように言うと、付き添っていた若き聖職者が、
「とんでもない!! 本来はこれぐらいの準備が必要な魔法なのですよ!?」
と声を上げる。


「だって、あの女は……」

「……僭越せんえつながら女王陛下。
 かの聖女猊下が、どれほどの魔力をお持ちだったか、ご存じではないのですか?」

「は……?
 何よ。今は私が女王であり聖女よ」

「それは承知の上で……。
 しかし、あの、やはり、あの方を……呼び戻されるわけには」


 メアリーは傍らの兵に「この者を牢獄に」と命じ、連行される聖職者には一瞥もくれなかった。

 そうこうしているうちに、神殿中央部にメアリーはつく。


 人の身長ほどの直径を持つ水晶玉がそこに鎮座している。
 国家が管理する門外不出の魔道具の一つだ、ということだけは、メアリーは把握している。
 待機しているのは〈遠隔透視魔法〉が使えるという、老魔術師1名。
 それから魔力の補助をする者が10名。


「恐れながら女王陛下。始めさせていただきます」


 老魔術師がうやうやしく一礼し、詠唱を始めた。

 ……長い。
 詠唱が、ものすごく長い。
 詠唱が終わった後も、何やらジッと水晶玉を見つめていて……。


(……いつまで時間がかかるの?)


 しびれを切らしてメアリーが何か言おうと思った、その時。


「あ……」水晶玉の中に、どこかの山の景色が浮かんできた。

「……さすがグライシード王国ですな。
 あちこちに厳重な結界が張られており、ほとんど跳ね返されてしまいます。
 あちらの強い魔力を頼りに国王陛下のおわす場所を探すのも、まことに一苦労でした」

「王城じゃなくて、こんな場所にいるの?」

「王城にいらっしゃれば、把握できなかったでしょうな。
 恐ろしく強固な結界で守られておりますゆえ」

「ど、どこ!
 どこにウィルフレッド国王はいるの??」


 水晶玉に映る景色が動き、やがて樹々の中にいる1人の男性を映し出した。


(ウィルフレッド国王……)


 記憶通り背が高く、黒曜石のような漆黒の髪、青みがかった瞳。
 いや、記憶以上にカッコいい。心臓を鷲掴みにされるその美貌。
 あの時はただただ素敵だとしか思えなかったが、駄々洩れの色気は反則だ。思わず息と唾を飲む。


(……彼がいい……わ)


 年上すぎるとかそんな考えはメアリーの中で消えた。

 メアリーは自分の若さと美しさを自覚している。
 今までそれを使って男性を落とそうなどとしたことはないが、彼ならそれを使っても良いと思えた。
 35歳ということは結婚に焦っている可能性もある。
 狙い時だと思った。


(ただ、肝心なのは彼が独身かどうか、ね……。
 さすがに妻がいてもこんなところまで連れてきてはいないかしら……?
 というか、なぜ山の中に?)


 不意に視点が切り替わる。
 彼の目の前に、何やら地面に書かれた、ひどく大きな落書きのようなものがある。
 その彼の隣に、一人の女が映った。


(…………!!!!????)


「おや、奥方ですかな。
 同じ指輪をなさっておられますな」


 なんと元聖女の顔も知らないらしい魔術師がのんきなことを口にしたその時、メアリーと周囲の人間たちの顔は蒼白だった。

 なぜ、ヨランディアの元聖女、ルイーズがここに映っている……?

 法衣ではなく、上質なドレスをまとったルイーズに、ウィルフレッド国王が話しかける。
 彼女の手を取り、体に触れ、一見してわかるほど親密な様子だった。
 さらに、魔術師の言葉どおり、確かにおそろいのデザインの指輪をしている。

 ルイーズが手を宙にかざすと、その落書きのようなものの中央から透明に輝く大きな宝石のようなものが地面を割って頭を出して……それからフツッ、と映像が切れた。


「な、なんで見えなくなったのよ!?」

「ふむ。壊された結界をあの女性が瞬く間に修復されたからですな。
 いや驚きました。
 グライシード王国の王妃陛下はこのような御業みわざをお使いになるのですな……。
 大変良いものを見させていただきました」

「あの女が……王妃に……」

「では、わたくしめはこれにて退出させていただきます」


 魔術師はごくごくマイペースに言って、では、と出ていく。


「グライシードでご結婚していらしたとは……」
「それではもう猊下は戻っていらっしゃらないのか……」


 暗い声でひそひそと交わされた声。
 誰が言ったのか特定できなかったメアリーは、屈辱に唇を噛んだ。
 〈遠隔透視魔法〉で見たウィルフレッド国王に一目で心を奪われたその直後、その妻?としてルイーズが現れたのだ。
 感情に支配され、結界を修復した技と魔力には目がいかないメアリーだった。


(……許せない……なんで……あんな女が……)


 ルイーズが国を呪って復讐しているのではないか、という疑いは依然メアリーの中にあった。
 その上で、大国の王妃に収まっている。


(このまま放っておくものですか、絶対)


 メアリーは透明に戻った水晶玉を睨みつけながら、そう誓い、


「さっきの魔術師を呼び戻して!!」と叫んだ。


     ***
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