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12、元聖女、国王に評価される
***
────夜。
私はどうにか夕食までに体力を回復させた。
身支度を担当する侍女たちから
「あの……どうぞ、ご無理はなさらないでくださいね?」
と心配されたり、
「王妃陛下は本当に愛されておいでですね」
「本当、文字通り溺愛という感じですわ」
と冷やかされたりして、恥ずかしい思いをしながら晩餐用のドレスに着替える。
(愛されているように、見えるわよね)
普段の政務は言わずもがな、人前に出るわけじゃない遠出でも、こんな豪華なドレスだの宝石だの準備させるのだもの。
聖職者としておしゃれとは無縁な生活を15年送ってきた私は、そのブランクのせいで、いまだに流行やファッションの良し悪しがピンとこない。
だから次から次へとウィルフレッドが見立ててくれるものを身につけるばかりで、侍女たちに
『すごく素敵です!』
『とってもお似合いです!!』
と言われても、いまいち実感がわかなかったりする。
(ここまでしなくてもいい気がするけど……私が王妃として舐められないようにってことかしら)
そんなこんなで、無事に私は食事の席に着くことができた。
私には、どうしても夕食までに体力回復したかった理由があった。
それは……
「美味しい……!!!」
「この土地でとれた猪のシチューだ。気に入ったか」
「うん、すごく美味しい……!! 濃厚なルウなのに、負けないぐらいお肉の味が濃い……!!」
グライシードに来てからというもの、用意される食事がどれもこれも、とびきり美味しいのだ。
誇張抜きで、パンのひとかけらに至るまで美味しい。しかも私の好物もなぜかたくさん出る。
15年間聖職者としてずっと粗食を心がけていたのに、すっかり毎回の食事が楽しみになってしまった。
「柔らかいけど歯ごたえを絶妙に残した煮込み加減がすごく私好み……うーん美味しい……あんまり食べると肥るとわかってるけど美味しい」
「肥ってもいいぞ。むしろ痩せた気がする」
「そうは思わないけど……(痩せたとしても誰かさんのせいでは?)。
あ、そうだ。たくさん手紙が来ていたわね」
私がベッドでぐったりしている間、ウィルフレッドはその横で仕事を処理していた。
その中に、王城から転送されたかなりの数の書簡があったのだ。
「友好関係にある国から結婚報告の返事が帰ってくる頃だからな。
おまえの亡き母君の母国ランカ王国からも、ルイーズがグライシードの王妃になったならぜひ今後関係を深めたいということだ」
「良かった。
きっとお互い利益があると思うわ」
「それに学友からのものもある。
ルイーズあてにも来ているぞ」
「ほんと! 嬉しいわ。
ついこの間までヨランディアで聖女やってたのに、追放されてウィルフレッドと結婚しましたなんて、みんなびっくりしたでしょうね」
「そうだな、どちらかというと悔しがってたか。
まぁ遅いが」
「??」
「それはともかく、ルイーズのおかげで結婚以来多くの国内の問題が解決した。
加えて、この国におまえがいることで、外交面ですでにいい影響が出ている。15年間のヨランディアでの仕事ぶりを評価されてだな」
「まぁご満足いただけているようならよかったわ。
私と結婚した意味はあった?」
「そうだな……本当に、俺と結婚してくれて良かった」
そう言ってフッと微笑むウィルフレッドの顔に、言葉に、ドキリとし、うつむく。
文脈から言えば何も不自然じゃない言葉だ。
今の私は王妃という仕事をこなしていて、国王であるウィルフレッドがその仕事ぶりに満足しているということ。
(……私、こんなチョロかったかしら)
シチューを口に運びながら考える。
学生時代も聖女時代も、男の人にそういう意味で心が動いたことなんてなかったのに。
普通の夫婦なら、相手に恋愛感情を抱いたり、異性として見ることができるのは良いことなんでしょう。
だけど、15年前ウィルフレッドに女として見られたくなかった私が、15年後の今、彼にドキドキしてしまっているのがなんだかなぁ……と、我ながら思う。
確かに?彼が歳を重ねてすごくいい男になっているのは認める、けど。
追放された時に助けてくれたのは確かだけど。大事にしてくれるのも、所作が大人っぽく洗練されているのも確かだけど。でも。
ちょっと都合よくない?と自分に突っ込みたくなる。
(この感情をウィルフレッドに気づかれたら、どう思われるかしら)
やっぱり、都合がいいと思われる?
いまさら俺の良さに気づいたかと笑われる?
それとも、あの時の私のように、ウィルフレッドは私を拒否するだろうか。
(あれ? でも、よく考えると最近はなんだか……)
「どうした? 俺の顔に何かついてるか?」
「…………いいえ?」
その時、デザートに運ばれてきたのは、クリームが添えられたくるみ入りパウンドケーキ。
あまりに美味しそうなので、ちょっと考えるのを中断した。
「この後だが……」
やっぱりとっても美味しいケーキをじっくり味わっていると、ウィルフレッドが話を変えた。
「昼は出かけられなかっただろう。
近くに星の綺麗な場所があるから行かないか?」
「!! いいわね、行くわ。どのあたり?」
「魔法陣からやや北だ。
標高が高いところに大きくて静かな湖があってな。
星空が良く見える」
「いいじゃない!
ぜひ連れて行って」
私の好きなものを覚えてくれている。さすがウィルフレッド!
ん? やっぱり私、チョロいかもしれない。
────夜。
私はどうにか夕食までに体力を回復させた。
身支度を担当する侍女たちから
「あの……どうぞ、ご無理はなさらないでくださいね?」
と心配されたり、
「王妃陛下は本当に愛されておいでですね」
「本当、文字通り溺愛という感じですわ」
と冷やかされたりして、恥ずかしい思いをしながら晩餐用のドレスに着替える。
(愛されているように、見えるわよね)
普段の政務は言わずもがな、人前に出るわけじゃない遠出でも、こんな豪華なドレスだの宝石だの準備させるのだもの。
聖職者としておしゃれとは無縁な生活を15年送ってきた私は、そのブランクのせいで、いまだに流行やファッションの良し悪しがピンとこない。
だから次から次へとウィルフレッドが見立ててくれるものを身につけるばかりで、侍女たちに
『すごく素敵です!』
『とってもお似合いです!!』
と言われても、いまいち実感がわかなかったりする。
(ここまでしなくてもいい気がするけど……私が王妃として舐められないようにってことかしら)
そんなこんなで、無事に私は食事の席に着くことができた。
私には、どうしても夕食までに体力回復したかった理由があった。
それは……
「美味しい……!!!」
「この土地でとれた猪のシチューだ。気に入ったか」
「うん、すごく美味しい……!! 濃厚なルウなのに、負けないぐらいお肉の味が濃い……!!」
グライシードに来てからというもの、用意される食事がどれもこれも、とびきり美味しいのだ。
誇張抜きで、パンのひとかけらに至るまで美味しい。しかも私の好物もなぜかたくさん出る。
15年間聖職者としてずっと粗食を心がけていたのに、すっかり毎回の食事が楽しみになってしまった。
「柔らかいけど歯ごたえを絶妙に残した煮込み加減がすごく私好み……うーん美味しい……あんまり食べると肥るとわかってるけど美味しい」
「肥ってもいいぞ。むしろ痩せた気がする」
「そうは思わないけど……(痩せたとしても誰かさんのせいでは?)。
あ、そうだ。たくさん手紙が来ていたわね」
私がベッドでぐったりしている間、ウィルフレッドはその横で仕事を処理していた。
その中に、王城から転送されたかなりの数の書簡があったのだ。
「友好関係にある国から結婚報告の返事が帰ってくる頃だからな。
おまえの亡き母君の母国ランカ王国からも、ルイーズがグライシードの王妃になったならぜひ今後関係を深めたいということだ」
「良かった。
きっとお互い利益があると思うわ」
「それに学友からのものもある。
ルイーズあてにも来ているぞ」
「ほんと! 嬉しいわ。
ついこの間までヨランディアで聖女やってたのに、追放されてウィルフレッドと結婚しましたなんて、みんなびっくりしたでしょうね」
「そうだな、どちらかというと悔しがってたか。
まぁ遅いが」
「??」
「それはともかく、ルイーズのおかげで結婚以来多くの国内の問題が解決した。
加えて、この国におまえがいることで、外交面ですでにいい影響が出ている。15年間のヨランディアでの仕事ぶりを評価されてだな」
「まぁご満足いただけているようならよかったわ。
私と結婚した意味はあった?」
「そうだな……本当に、俺と結婚してくれて良かった」
そう言ってフッと微笑むウィルフレッドの顔に、言葉に、ドキリとし、うつむく。
文脈から言えば何も不自然じゃない言葉だ。
今の私は王妃という仕事をこなしていて、国王であるウィルフレッドがその仕事ぶりに満足しているということ。
(……私、こんなチョロかったかしら)
シチューを口に運びながら考える。
学生時代も聖女時代も、男の人にそういう意味で心が動いたことなんてなかったのに。
普通の夫婦なら、相手に恋愛感情を抱いたり、異性として見ることができるのは良いことなんでしょう。
だけど、15年前ウィルフレッドに女として見られたくなかった私が、15年後の今、彼にドキドキしてしまっているのがなんだかなぁ……と、我ながら思う。
確かに?彼が歳を重ねてすごくいい男になっているのは認める、けど。
追放された時に助けてくれたのは確かだけど。大事にしてくれるのも、所作が大人っぽく洗練されているのも確かだけど。でも。
ちょっと都合よくない?と自分に突っ込みたくなる。
(この感情をウィルフレッドに気づかれたら、どう思われるかしら)
やっぱり、都合がいいと思われる?
いまさら俺の良さに気づいたかと笑われる?
それとも、あの時の私のように、ウィルフレッドは私を拒否するだろうか。
(あれ? でも、よく考えると最近はなんだか……)
「どうした? 俺の顔に何かついてるか?」
「…………いいえ?」
その時、デザートに運ばれてきたのは、クリームが添えられたくるみ入りパウンドケーキ。
あまりに美味しそうなので、ちょっと考えるのを中断した。
「この後だが……」
やっぱりとっても美味しいケーキをじっくり味わっていると、ウィルフレッドが話を変えた。
「昼は出かけられなかっただろう。
近くに星の綺麗な場所があるから行かないか?」
「!! いいわね、行くわ。どのあたり?」
「魔法陣からやや北だ。
標高が高いところに大きくて静かな湖があってな。
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「いいじゃない!
ぜひ連れて行って」
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ん? やっぱり私、チョロいかもしれない。
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