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15、元聖女、答えに困る
***
「伯母様、何にやにやしてるの?」
目の前の少女に言われ、ハッとして表情と居ずまいを正した。
王城の魔法訓練場で、私は13歳の少女と向かい合っている。
いけないいけない、また『浮かれてる』ウィルフレッドを想像してにやついてしまった。
「なぁに?
思い出し笑い?」
「そ、そういうわけじゃないのよ?
今日の分は全部終わったわね、イヴェット。
何か質問はある??」
「それは大丈夫だけど。
何かのろけたいことでもあるなら聞くわよ」
「ほんと、そういうのじゃないからっ!」
13歳だけど背が高く大人びた雰囲気のイヴェットは、中性的で、ウィルフレッドにも似ている。
騎士服を着て、艶やかな漆黒の髪を短く切っているのもあって、私は彼女を見ていると時々入学当初の彼を思い出してしまう。
彼女は次期国王候補の1人で、ウィルフレッドの妹ブリジット王女の娘だ。
ブリジット王女は、近隣の国ガストラ王国の王妃となり、国王との間にイヴェットを授かった。
だけど王宮内の権力闘争の果てに、国王は、有力貴族の娘である愛人を王妃に据えようとした。
そのため母子は父親から命を狙われ、3年前、ウィルフレッドが差し向けた手の者に助けられて、2人命からがら国を脱出してきたそうだ。
そんなイヴェットは、いまは志願して騎士団に見習いで入隊し、同時に王族としての教育を受けている。
血筋、能力、魔力、という点で、次期国王として有力視されていた。
次期国王候補の彼女にとって、国王の子を産むかもしれない王妃の私は、本来煙たい存在のはず。
なのになぜか結婚直後からイヴェットは、魔法や政治学で私に教えを乞うてきた。
私はメアリーの教育に失敗した自覚があるので、教えるということについては自信を失っていたんだけど、イヴェットとは結構気が合って楽しくやっている。
ただ、私たち夫婦の話に関心があるみたいで、しょっちゅう聞いてくる。
そういうところは年齢相応なのかな?
「まぁ、昼も夜もずっと一緒っていうのは評判だものね。
伯母様は子どもを産むつもりなのよね?」
「え!? え、えっと……」
「深い意味はないわ。
産まれたら私のライバルになるのもわかってる。
それはそれとして、伯母様自身はどう思ってるのかな、って」
13歳だけど、子どもがどうやってできるのかは……知ってるのかな?
どう答えるか迷ったあげく
「……授かれば、いいのだけどね?」
と私は答えた。
「産みたい?」
「……う、うん」
「ねぇ。その人の子どもを産みたいって思えるって、どういう気持ちなの?」
「……え」
「単に『子どもが欲しい』『自分の子どもを王にしたい』というだけなら、伯母様はヨランディアでさっさと王位について結婚していたでしょう?
でも祖国ではそうしなくて、ここでは子どもを望んでいる。
原因があるとしたら伯父様ぐらいだと思うんだけど」
え、鋭い、この子。
「私にはわからない感情なの。
ここに来るまで私がいたのは、子どもも権力闘争の道具にするような家だったわ。
伯母様は、どういう思いで伯父様の子どもを望むの?」
…………答えに困る。
彼が望んでいるから?
だからって産んであげたいと思うのはなぜ?
ううん、私が産みたいと思うのはなぜ?
「……改めて、言葉にするのが難しいわね。
私にとってウィルフレッドが大切だからというのは確かよ。
でも、それが100%彼のためというわけじゃなくて、やっぱり自分の中にも産みたいという気持ちが確かにあって、ううん……難しい……」
感情を自分で整理してみて、改めて思った。
ウィルフレッドが望んでいる(と思う)から、だけじゃなくて、私自身の中にも子を望む気持ちがある。他の誰とでもない、彼との子を。
何て説明すればいいのだろう、この気持ち。
「伯母様ぐらい賢い大人でも答えられないことってあるのね」
「……うう、言われると面目ないけど……」
「まぁでも安心したわ。
少なくとも、伯父様のことをすごく愛しているからということよね?」
「……えっと……(そう言うとその、語弊が……)」
普段、周りから言われる言葉と逆の言葉を言われ、私はますます答えに悩んだ。
***
────その夜、寝室でのウィルフレッドとの会話。
「そういうわけで……『昼も夜もずっと一緒』って言われちゃうのはイヴェットの教育に悪いんじゃないかと思うけど」
「そうか?
男女問わず、きっちり教育しておくべきことと思うが」
「性教育は必要だと思うけどね!?
そうじゃなくて範を示すべき大人の節度的なことをね!?」
「……おまえの父や兄は、そういうことはなかったと?」
「え? ええと、待って。
あんまり両親やお兄様たちの夫婦仲について考えたことがなかったから……」
「────おまえ自身は、嫌か?」
「…………それを聞く?」
「ルイーズが嫌なら、抑える」
「……………………?」
ちょっとだけ、彼の声がすがっているように聞こえて、
「……私は嫌じゃない、けど」
と答えざるを得なかった。
こんなにウィルフレッドに甘かったかしら、私。
***
「伯母様、何にやにやしてるの?」
目の前の少女に言われ、ハッとして表情と居ずまいを正した。
王城の魔法訓練場で、私は13歳の少女と向かい合っている。
いけないいけない、また『浮かれてる』ウィルフレッドを想像してにやついてしまった。
「なぁに?
思い出し笑い?」
「そ、そういうわけじゃないのよ?
今日の分は全部終わったわね、イヴェット。
何か質問はある??」
「それは大丈夫だけど。
何かのろけたいことでもあるなら聞くわよ」
「ほんと、そういうのじゃないからっ!」
13歳だけど背が高く大人びた雰囲気のイヴェットは、中性的で、ウィルフレッドにも似ている。
騎士服を着て、艶やかな漆黒の髪を短く切っているのもあって、私は彼女を見ていると時々入学当初の彼を思い出してしまう。
彼女は次期国王候補の1人で、ウィルフレッドの妹ブリジット王女の娘だ。
ブリジット王女は、近隣の国ガストラ王国の王妃となり、国王との間にイヴェットを授かった。
だけど王宮内の権力闘争の果てに、国王は、有力貴族の娘である愛人を王妃に据えようとした。
そのため母子は父親から命を狙われ、3年前、ウィルフレッドが差し向けた手の者に助けられて、2人命からがら国を脱出してきたそうだ。
そんなイヴェットは、いまは志願して騎士団に見習いで入隊し、同時に王族としての教育を受けている。
血筋、能力、魔力、という点で、次期国王として有力視されていた。
次期国王候補の彼女にとって、国王の子を産むかもしれない王妃の私は、本来煙たい存在のはず。
なのになぜか結婚直後からイヴェットは、魔法や政治学で私に教えを乞うてきた。
私はメアリーの教育に失敗した自覚があるので、教えるということについては自信を失っていたんだけど、イヴェットとは結構気が合って楽しくやっている。
ただ、私たち夫婦の話に関心があるみたいで、しょっちゅう聞いてくる。
そういうところは年齢相応なのかな?
「まぁ、昼も夜もずっと一緒っていうのは評判だものね。
伯母様は子どもを産むつもりなのよね?」
「え!? え、えっと……」
「深い意味はないわ。
産まれたら私のライバルになるのもわかってる。
それはそれとして、伯母様自身はどう思ってるのかな、って」
13歳だけど、子どもがどうやってできるのかは……知ってるのかな?
どう答えるか迷ったあげく
「……授かれば、いいのだけどね?」
と私は答えた。
「産みたい?」
「……う、うん」
「ねぇ。その人の子どもを産みたいって思えるって、どういう気持ちなの?」
「……え」
「単に『子どもが欲しい』『自分の子どもを王にしたい』というだけなら、伯母様はヨランディアでさっさと王位について結婚していたでしょう?
でも祖国ではそうしなくて、ここでは子どもを望んでいる。
原因があるとしたら伯父様ぐらいだと思うんだけど」
え、鋭い、この子。
「私にはわからない感情なの。
ここに来るまで私がいたのは、子どもも権力闘争の道具にするような家だったわ。
伯母様は、どういう思いで伯父様の子どもを望むの?」
…………答えに困る。
彼が望んでいるから?
だからって産んであげたいと思うのはなぜ?
ううん、私が産みたいと思うのはなぜ?
「……改めて、言葉にするのが難しいわね。
私にとってウィルフレッドが大切だからというのは確かよ。
でも、それが100%彼のためというわけじゃなくて、やっぱり自分の中にも産みたいという気持ちが確かにあって、ううん……難しい……」
感情を自分で整理してみて、改めて思った。
ウィルフレッドが望んでいる(と思う)から、だけじゃなくて、私自身の中にも子を望む気持ちがある。他の誰とでもない、彼との子を。
何て説明すればいいのだろう、この気持ち。
「伯母様ぐらい賢い大人でも答えられないことってあるのね」
「……うう、言われると面目ないけど……」
「まぁでも安心したわ。
少なくとも、伯父様のことをすごく愛しているからということよね?」
「……えっと……(そう言うとその、語弊が……)」
普段、周りから言われる言葉と逆の言葉を言われ、私はますます答えに悩んだ。
***
────その夜、寝室でのウィルフレッドとの会話。
「そういうわけで……『昼も夜もずっと一緒』って言われちゃうのはイヴェットの教育に悪いんじゃないかと思うけど」
「そうか?
男女問わず、きっちり教育しておくべきことと思うが」
「性教育は必要だと思うけどね!?
そうじゃなくて範を示すべき大人の節度的なことをね!?」
「……おまえの父や兄は、そういうことはなかったと?」
「え? ええと、待って。
あんまり両親やお兄様たちの夫婦仲について考えたことがなかったから……」
「────おまえ自身は、嫌か?」
「…………それを聞く?」
「ルイーズが嫌なら、抑える」
「……………………?」
ちょっとだけ、彼の声がすがっているように聞こえて、
「……私は嫌じゃない、けど」
と答えざるを得なかった。
こんなにウィルフレッドに甘かったかしら、私。
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