追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル

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16、元聖女、さらに再会する

     ***


 結婚して数か月が過ぎた。
 政務と祭祀は至って順調、グライシード王国の重臣たちや聖職者たちとの関係も良好だ。

 その一方で、体調に何か変化があったり、少しでも月経が遅れると、身籠ったのじゃないかと期待してしまい、そのあとがっかりするということを月一で繰り返していた。
 結婚したり、夫婦の営みをしてさえいれば子どもを授かるというものではないんだな、と実感したり。


(まだ、結婚したばかりだし……きっと他の夫婦も同じように、期待したりがっかりしたりしてるのよね?)


 なまじ王妃という立場のせいで、あまり他の貴婦人たちの話を気軽に聞いたりはできないけど、そんな風に想像して気持ちを切り替えていた。

 毎月、月のものがきたことをウィルフレッドに言うと、「そうか」といつもより優しめに抱き締められ、髪を撫でられ、月のものの痛みを気遣われる。
 知らず知らずのうちに入っていた肩の力が抜ける気がして、少し癒された。


 そんな日々の中────その日、ウィルフレッドと私は、王城に懐かしい客人たちを迎えていた。


「久しぶり!
 エドワード! ダグラス!」

「ルイーズ、直接会うのは10年ぶりだね!!」

「いきなり追放と聞いたときは驚いたぞ!
 大変だったな」


 2人とも私たちと同学年だった学友だ。

 1人は2歳年上のエドワード・ユークリッド。
 第2王子だった彼は、いまは母国の隣国、サンズ王国の王配を務めている。
 ウィルフレッドと比べるとひと回り線が細く、王配と言うよりは学者風に見える。
 ここ10年ほどは手紙のやり取りばかりだったけど、ヨランディアとはいい関係を築けていた……私の追放がなければ。

 もう1人は3歳年上のダグラス・フォース。
 ウィルフレッドよりも体が大きくガッチリしている。
 ただいま母国イーブレル皇国の海軍大将として活躍中だ。


「ルイーズ、その深いブルーのドレスいいね!
 艶やかな色味が、君の肌や髪とよく似合っている。金の刺繍も華やかでいい。
 それに昔よりずっと綺麗になったんじゃない?」

「エドワードまで……。
 さすがに25歳から35歳もだいぶ劣化が」

「劣化って(笑)
 元々華のある顔立ちだし、アカデミックガウンや法衣より絶対に華やかなドレスの方が似合うよ」

「エドワードの言うとおりだ。
 ルイーズは美しくなった」

「だろ?
 合わせている宝石のセンスもすごくいいね」

「つけている香りは乳香フランキンセンスか。
 ルイーズに似合う香りだ」

「ありがとう。
 そのあたりは全部ウィルフレッドが……」


 私が話している途中で、ウィルフレッドがグイっと私をうしろに下げた。


「おい。あまり人の妻に近づくな」

「ちょっ……」感じ悪いわよ、ウィルフレッド。

「つんけんしないで。
 久しぶりに会った同性おとこの学友でしょ?
 男同士で旧交を温めればいいじゃない」

「ルイーズは……どれぐらい会っていたんだ?」

「エドワードと会ったのは10年前の彼の結婚式、ダグラスとは7年前の条約締結交渉が最後ね。
 でも手紙は小まめにやりとりしてたわよ、ほぼ仕事だけど」

「…………手紙……」


 呟くウィルフレッド。
 そこへエドワードがにこやかに言う。


「ねぇルイーズ、本題に入る前に、僕たちウィルフレッドをちょっと借りていいかい?」

「?? いいけれど?」

「ありがとう!」


 エドワードとダグラスはむんずとウィルフレッドの腕をつかみ、ずるずると、端の方に連れて行く。
 ……な、なに?


「(何なんだい? あの時男同士で誓ったよね抜け駆けしないルイーズには手を出さない不届きな男どもからは守るって)」
「(確かに我々は立場上やむをえず結婚したが、だからと言って男同士の約束を反古ほごにするなど貴様男の風上にも置けん)」
「(っていうかさ、卒業前に求婚とかしてたんだ? へーえふーん、そういう奴だったんだウィルフレッドって)」

「………だから、それはおまえたちが勝手に決め」

「(ルイーズの追放の動きを察知していち早く助けに行ったのは誉めてあげてもいいけれど、普通に保護で良くない? 結婚までする必要ある??)」
「(そうだぞ、この卑怯な抜け駆け男めが。だいたい貴様は最初からルイーズを見る目がいやらしかったぞ)」

「なんだと!?」


 ……基本小声なので、私の耳には断片的な言葉しか聞こえないんだけど、なんだかエドワードとダグラスがウィルフレッドを笑顔で詰めている。

 これは……助けに入ったほうが良いのかしら?

 しばらくだいぶネチネチ詰められた後、カッとなった様子のウィルフレッドが
「ふざけるな! 俺はずっとルイーズのことを…!!」
と2人に何か言いかけて、私と目が合った瞬間ハッと口をつぐんだ。


「……大丈夫なの?」

「ああ、おかまいなく!
 男同士の話だから。
 ねぇウィルフレッド?」

「そうだな、ウィルフレッド?」

「…………ああ」


 3人こちらに戻ってくる。
 話している様子がすごく学生時代っぽくて懐かしかった半面、ウィルフレッドの顔が真っ赤になっているのがちょっと気になる。
 何の話をしていたんだろう。


「あ、そうだ。改めて本題。
 我々サンズ王国は、ルイーズの存在もあって、ヨランディアとは長く政治経済両面で、深い付き合いをしてきた。
 だけど今後は少し距離を置こうと思っている」

「こちらイーブレル皇国も同様だ。
 ルイーズのこれまでの外交努力からすれば、申し訳ない判断だが」

「そう……なの」

「もちろんこれは私情というわけじゃない。
 僕たちは君の学友だったからこそ君をよく知っているし、君を敵に回してはいけないと判断してきた。
 その一方で、君なしでのヨランディア王国の実力も、おそらく正確に把握している」

「というわけで、腹立たしいことながら、代わりにグライシードとの関係を深めたいという意思表示に来たのだ」


 腹立たしいとはなんだ、とウィルフレッドが文句を挟む。


「別に私、ヨランディアへの報復とか考えてないわよ?」

「うん、ルイーズはそうだろうね。
 でもヨランディア側がそうでもなさそうでね。
 グライシードに敵対する複数の国に接触を行った形跡がある」

「…………!!」


 エドワードは具体的にいくつかの国名を挙げた。
 それはウィルフレッドが領土を取り戻してきた国々と……妹君とイヴェットの奪還以降関係が悪化している、ガストラ王国の名前だった。

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