17 / 36
17、元聖女、思い切り濡れ衣をかけられる
「でも今、ヨランディアは自国内で手一杯のはずよね……」
「ああ、それは間違いない。
君の追放が呼んだ内憂外患に襲われて、宰相が国を立てなおしている最中だ。
でも、それでもなおヨランディアがグライシードの敵国との接触をはかるってことは、ルイーズがらみなんじゃないかと思えてしまうんだ」
「離れているし、利害関係もそこまではないはずだし……」
ウィルフレッドから『ヨランディアを水晶玉で見るの禁止令』が出ていた私は、しばらく〈遠隔透視魔法〉を使っていなかった。
間諜から多少情報は得ていたけれど……。
「ウィルフレッド、水晶玉を借りてもいい?」
「ああ」
間もなくウィルフレッドの部屋から水晶玉が運ばれてきて、私はそれを手に持ち、みんなに見えるようにかざす。
すぐに水晶玉の中に、メアリーの姿が浮かんできた。
(……ん、んん?)
執務室で仕事している時間と思いきや……寝室?
え、女王が何しているの?
しかも頭からシーツを被っている。
(何これ、どうしたの??)
その時、顔がもう少し見えた。
メアリーの綺麗な顔に、ぼこぼこと赤茶けた大きな出来物ができて腫れ上がっている。
彼女はぼろぼろ涙をこぼして『何でよ、これぇ……』と呟いていた。
メアリーはその顔を隠して、寝室に籠っているの?
『どこまで私のこと呪うのよ……。
追放したのは私だけど、自分は王妃に収まってるんだからいいじゃない……。
もう許しなさいよ……』
「ウィルフレッド、これって、あれよね……」
「『呪い還り』を受けたときの症状のひとつだな」
「……ということは、メアリーが私に呪いをかけて、その呪いが跳ね返ってしまった?
って、なんでそんなことに?」
ダグラスが「『呪い還り』とは何だ?」と尋ねる。
「ああ、ダグラスは呪詛学の講義は受けていなかったわよね。
呪いは失敗すると呪いをかけた本人に還ってくるのよ。
それが『呪い還り』。
大抵の場合、呪いをかけられた人間が、魔術などで対抗して返してくるものなんだけど……」
「ルイーズのように魔力量が多すぎる人間に、力の差がある人間が呪いをかけると、かけられた側が気づかないほど即座に跳ね返ってしまう」
と、ウィルフレッドが補足した。
「大学で、留年した上級生が全身に腫れ物を作っていたときがあっただろう?
あれは成績で嫉妬してルイーズを呪って『呪い還り』を受けたんだ」
「ああ!
そういえば、そんなこともあったな。
何かと思っていたが……なるほど『呪い還り』だったのか」
最近だと、グライシードの一部の貴婦人(ウィルフレッドの愛人志望)も結婚式の前後に私を呪ってしまい、大変なことになって、私に泣いて謝りにきたり……なんてこともあった。
ちなみに魔法攻撃を防ぐ結界などでも跳ね返るので、メアリーの呪いは単にグライシードの国境を守る結界に阻まれたのかもしれない。
呪いとは一時の恨みで簡単にかけてはいけないものなのだ。
というか、そのあたりもメアリーには教えたはずなんだけど……。
(自分の教育力のなさを痛感するわ……)
胃が痛い。
というか、呪詛学は教えても実際の呪い方は教えてないのに、誰から聞いたのよ?
それなりに修行も必要なはずだし……誰が教えたの?
『自分は美男子の国王を夫にして優雅に暮らしているくせに、祖国は呪ってめちゃくちゃにして……。
自分が治めていた国なのに、ひどすぎるわ……! あげくに、守ろうとした私にこんな呪いをかけてきて……』
「……思い切り濡れ衣なんですけど……」
「ずいぶんヨランディアの女王は荒れているようだな」ダグラスが言う。
「まぁ、こちらからあちらは支障なく見られるのだ。
宰相の様子も含めて、水晶玉であとでゆっくり見ると良い」
「う、うん……」
ヨランディアの情報を集めていた間諜からは、宰相とメアリーが対立していると聞いていた。
グライシードの敵国に接触したのはどちら側だろう?
メアリーが私に恨みを抱いて、グライシードに何かしようとしているということなら……。
(というか、なんで私がヨランディアを呪ってると思ったの?
私の追放からこれまでに、いったい何が?)
もうヨランディアのことで動揺はしないと思っていたのに。
私は考えが整理できなくて、深く息をついた。
***
エドワードとダグラスは、王城に一泊した。
夕食では多少政治の話もしたけど、ほとんど大学時代の思い出話ばかり、でも本当に楽しかった。
……そういう話ができたから、メアリーのことも、だいぶ、気が紛れた。
2人は
「男だけで久しぶりに酒を酌み交わそう」
と散々ウィルフレッドを誘っていたようだけど、彼は断固拒否を貫いて、私たちの寝室に戻ってきた。
「しつこかった、あいつら……」
「良いの?
つもる話もあるでしょうに」
「おまえこそ良いのか?
男だけで飲むからと除け者にされると、いつも怒っていたじゃないか」
「あーうん、若い頃はね……。
まぁ、私がいたら出来ない話もあるってことでしょ?
さすがに今はわかるわ」
「そうか。
でも俺はおまえの方がいい」
そう言って私を抱きすくめる。
その言い方がなぜか何となく可愛くて、子どもをあやすように背中を撫でてしまった。
────エドワードとダグラスは翌日明け方に出立となった。
私たちは王城の玄関まで見送りに出る。
「ルイーズ!! 久しぶりに会えて、本当に嬉しかったよ」
「うん、私も……よ?」
見送りの時に何気なくエドワードのハグに応えて、一瞬私は、妙な違和感を覚えた。
「また今後も会えることを期待しているぞ!」
「う、うん? そうね?」
そのまま隣のダグラスのハグにも応え、同じ違和感があることに気づく。
「もういいだろう?」
少し苛立った様子で、ウィルフレッドが私をダグラスから引き剥がす。
(…………?)ウィルフレッドの手の感触。やっぱり違う。
エドワードとダグラスは笑いながらそれぞれの馬車に乗り、出立していった。
やれやれと、疲れた様子でウィルフレッドはため息をつく。
あなたにおすすめの小説
姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました
珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。
そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。
同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!
さこの
恋愛
婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。
婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。
100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。
追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?
たいした苦悩じゃないのよね?
ぽんぽこ狸
恋愛
シェリルは、朝の日課である魔力の奉納をおこなった。
潤沢に満ちていた魔力はあっという間に吸い出され、すっからかんになって体が酷く重たくなり、足元はふらつき気分も悪い。
それでもこれはとても重要な役目であり、体にどれだけ負担がかかろうとも唯一無二の人々を守ることができる仕事だった。
けれども婚約者であるアルバートは、体が自由に動かない苦痛もシェリルの気持ちも理解せずに、幼いころからやっているという事実を盾にして「たいしたことない癖に、大袈裟だ」と罵る。
彼の友人は、シェリルの仕事に理解を示してアルバートを窘めようとするが怒鳴り散らして聞く耳を持たない。その様子を見てやっとシェリルは彼の真意に気がついたのだった。