追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル

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17、元聖女、思い切り濡れ衣をかけられる


「でも今、ヨランディアは自国内で手一杯のはずよね……」

「ああ、それは間違いない。
 君の追放が呼んだ内憂外患に襲われて、宰相が国を立てなおしている最中だ。
 でも、それでもなおヨランディアがグライシードの敵国との接触をはかるってことは、ルイーズがらみなんじゃないかと思えてしまうんだ」

「離れているし、利害関係もそこまではないはずだし……」


 ウィルフレッドから『ヨランディアを水晶玉で見るの禁止令』が出ていた私は、しばらく〈遠隔透視魔法〉を使っていなかった。
 間諜から多少情報は得ていたけれど……。


「ウィルフレッド、水晶玉を借りてもいい?」
「ああ」


 間もなくウィルフレッドの部屋から水晶玉が運ばれてきて、私はそれを手に持ち、みんなに見えるようにかざす。

 すぐに水晶玉の中に、メアリーの姿が浮かんできた。


(……ん、んん?)


 執務室で仕事している時間と思いきや……寝室?
 え、女王が何しているの?
 しかも頭からシーツを被っている。


(何これ、どうしたの??)


 その時、顔がもう少し見えた。

 メアリーの綺麗な顔に、ぼこぼこと赤茶けた大きな出来物ができて腫れ上がっている。
 彼女はぼろぼろ涙をこぼして『何でよ、これぇ……』と呟いていた。
 メアリーはその顔を隠して、寝室に籠っているの?

『どこまで私のこと呪うのよ……。
 追放したのは私だけど、自分は王妃に収まってるんだからいいじゃない……。
 もう許しなさいよ……』


「ウィルフレッド、これって、あれよね……」

「『呪い還り』を受けたときの症状のひとつだな」

「……ということは、メアリーが私に呪いをかけて、その呪いが跳ね返ってしまった?
 って、なんでそんなことに?」


 ダグラスが「『呪い還り』とは何だ?」と尋ねる。


「ああ、ダグラスは呪詛学の講義は受けていなかったわよね。
 呪いは失敗すると呪いをかけた本人に還ってくるのよ。
 それが『呪い還り』。
 大抵の場合、呪いをかけられた人間が、魔術などで対抗して返してくるものなんだけど……」

「ルイーズのように魔力量が多すぎる人間に、力の差がある人間が呪いをかけると、かけられた側が気づかないほど即座に跳ね返ってしまう」

と、ウィルフレッドが補足した。


「大学で、留年した上級生が全身に腫れ物を作っていたときがあっただろう?
 あれは成績で嫉妬してルイーズを呪って『呪い還り』を受けたんだ」

「ああ!
 そういえば、そんなこともあったな。
 何かと思っていたが……なるほど『呪い還り』だったのか」


 最近だと、グライシードの一部の貴婦人(ウィルフレッドの愛人志望)も結婚式の前後に私を呪ってしまい、大変なことになって、私に泣いて謝りにきたり……なんてこともあった。

 ちなみに魔法攻撃を防ぐ結界などでも跳ね返るので、メアリーの呪いは単にグライシードの国境を守る結界に阻まれたのかもしれない。

 呪いとは一時の恨みで簡単にかけてはいけないものなのだ。
 というか、そのあたりもメアリーには教えたはずなんだけど……。


(自分の教育力のなさを痛感するわ……)


 胃が痛い。
 というか、呪詛学は教えても実際の呪い方は教えてないのに、誰から聞いたのよ?
 それなりに修行も必要なはずだし……誰が教えたの?


『自分は美男子の国王を夫にして優雅に暮らしているくせに、祖国は呪ってめちゃくちゃにして……。
 自分が治めていた国なのに、ひどすぎるわ……! あげくに、守ろうとした私にこんな呪いをかけてきて……』


「……思い切り濡れ衣なんですけど……」

「ずいぶんヨランディアの女王は荒れているようだな」ダグラスが言う。

「まぁ、こちらからあちらは支障なく見られるのだ。
 宰相の様子も含めて、水晶玉であとでゆっくり見ると良い」

「う、うん……」


 ヨランディアの情報を集めていた間諜からは、宰相とメアリーが対立していると聞いていた。
 グライシードの敵国に接触したのはどちら側だろう?
 メアリーが私に恨みを抱いて、グライシードに何かしようとしているということなら……。


(というか、なんで私がヨランディアを呪ってると思ったの?
 私の追放からこれまでに、いったい何が?)


 もうヨランディアのことで動揺はしないと思っていたのに。
 私は考えが整理できなくて、深く息をついた。


     ***


 エドワードとダグラスは、王城に一泊した。
 夕食では多少政治の話もしたけど、ほとんど大学時代の思い出話ばかり、でも本当に楽しかった。
 ……そういう話ができたから、メアリーのことも、だいぶ、気が紛れた。

 2人は
「男だけで久しぶりに酒を酌み交わそう」
と散々ウィルフレッドを誘っていたようだけど、彼は断固拒否を貫いて、私たちの寝室に戻ってきた。


「しつこかった、あいつら……」

「良いの?
 つもる話もあるでしょうに」

「おまえこそ良いのか?
 男だけで飲むからとけ者にされると、いつも怒っていたじゃないか」

「あーうん、若い頃はね……。
 まぁ、私がいたら出来ない話もあるってことでしょ?
 さすがに今はわかるわ」

「そうか。
 でも俺はおまえの方がいい」


 そう言って私を抱きすくめる。
 その言い方がなぜか何となく可愛くて、子どもをあやすように背中を撫でてしまった。


 ────エドワードとダグラスは翌日明け方に出立となった。
 私たちは王城の玄関まで見送りに出る。


「ルイーズ!! 久しぶりに会えて、本当に嬉しかったよ」
「うん、私も……よ?」


 見送りの時に何気なくエドワードのハグに応えて、一瞬私は、妙な違和感を覚えた。


「また今後も会えることを期待しているぞ!」
「う、うん? そうね?」


 そのまま隣のダグラスのハグにも応え、同じ違和感があることに気づく。


「もういいだろう?」
 少し苛立った様子で、ウィルフレッドが私をダグラスから引き剥がす。


(…………?)ウィルフレッドの手の感触。やっぱり違う。

 エドワードとダグラスは笑いながらそれぞれの馬車に乗り、出立していった。

 やれやれと、疲れた様子でウィルフレッドはため息をつく。
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