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18、元聖女、無意識に煽る?
「ルイーズ。姪のこと、大丈夫か?」
「え、ええ。気遣ってくれてありがとう」
正直なぜって気持ちはあるけど、恨まれているのなら、その事実を受け止めなきゃいけない。
「大丈夫。
もし今後ヨランディアと戦うことになっても、私はグライシードを守るわ」
いまの私はウィルフレッドの妻で、グライシード王国の王妃。
もしメアリーが私への恨みでグライシード王国やウィルフレッドに何か良からぬことを……敵国への協力などするなら、私はメアリーとも闘わないといけない。
できれば避けたいから、そうならないことは祈るけど。
「俺は、おまえを傷つけた人間を許したくはない」
私の気持ちを見抜いてか、そう、ウィルフレッドは言う。
「あいつらが追放したから俺がルイーズと結婚できた。
それはわかっているが、後追いで呪いまでかけるなんて、15年間尽くしてきた身内にすることか」
「私なら平気よ?
別に結界がなくても」
「確かにおまえには大抵の魔法攻撃はきかない。
だが、悪意を向けられたこと自体に怒っていいんだぞ?」
うまく言えないけど、私の代わりにメアリーに対して怒ってくれているウィルフレッドに、なぜか私は癒された。
「…………どうした?」
「ううん。やっぱり、ウィルフレッドは良い友人だと思ったのよ」
「……良い友人、か。そこで言うのは良い夫、じゃないのか?」
「自分で言う?」
笑おうとして、ウィルフレッドの目が笑ってないことに気づいて私は口をつぐむ。
また何か間違った言い方をしてしまったらしい。
ただ『ありがとう』と言えばよかったのに、時々学生時代のノリでつい照れ隠しな言い回しをしてしまうのだ。
(でも、そういうの、大人としては良くなかったわね……)
ウィルフレッドと私は、一度私室に戻る。
そういえば、ひとつ、確かめたいことがあった。
2人きりになったときを見計らい、私は彼に声をかける。
「あのねウィルフレッド。
ちょっと私のことをギュってしてみてくれない?」
「……は? どういう風の吹き回しだ?」
「いいから、ちょっとだけやってみて」
珍しく彼が戸惑っている。
私からハグを求めることなんて普段全然ないものね。
ウィルフレッドは正面に立ち、私を抱きしめた。
温かく、服の上からの印象よりたくましい、ウィルフレッドの身体。
(やっぱり……)
触れられたときの感触が、エドワードやダグラスと全然違う?
(ウィルフレッドと2人の違いだけじゃない、これ)
さっき、学生時代と同じような感覚で2人のハグを何気なく受けたけれど、その時何か、学生時代にはなかった違和感があった。
たぶん、エドワードやダグラスが何か悪いことをしたわけじゃない。
(これは、私の変化だわ)
15年経過したからか、結婚したせいか、学生の頃の私といまの私とでは、男性の友人と触れあった時の感覚が大きく違っているみたいだ。
昔のようには気軽に触れ合うことができなくなっている。
思わずウィルフレッドの手を取り、自分の頬に当てる。
ドキドキするのと安心するのと心地良いのと。
たぶん、私にこの感触が与えられるのは、この世でウィルフレッドの手だけなんだろう……。
不意に、ウィルフレッドがその手を引いた。
そのまま壁に押し付けられるようにくちづけられる。
(……?)
妙に激しい。
疑問に思った私の耳に、ウィルフレッドが低くささやいた。
「俺を煽っているのか?」
「……そういうわけじゃ?」
「だったら何だ。俺とあいつらは、同じ『友人』か?」
「え、だって同じ学友……」
言いかけて口をつぐむ。
ウィルフレッドの目が、少し恐い。
「ごめんなさい、違うわね。『夫』よ」
「そうだろう? 毎晩『友人』じゃできないことをしているよな?」
「うんわかった。わかったから」
私はガッとウィルフレッドの顎を掴み上げた。
「……理由なく機嫌悪くなるのやめてって、言ったでしょうが!」
「痛だッ!! 何をする!!」
「それはこっちのセリフです!!」
ちなみに私は、女としてはわりと握力が強いほうである。
私たちはしばし、至近距離でにらみ合う。
「……理由なく、か」
「少なくとも私には、あなたが今怒っている理由がわからないわよ。
そういうの、何の解決にもつながらないから。
気に入らないことがあったなら私だって改善するから、言葉で言ってよ。
友人になってどれだけ長いと思ってるのよ」
「俺は────おまえのことを友人だなんて思ったことは一度もない」
「え?」
ハッとしてウィルフレッドは口を押さえ「……いや、何でもない」言いながら数歩、後ずさる。
「そうだよな。
いつだっておまえには、悪気はない。
そういうつもりじゃないんだよな」
「いや、1人で納得しないで」
「……少し、抑える」
「え?」
「しばらく執務室で頭を冷やす。1人にしてくれ」
「ウィルフレッド?」
少しフラフラした様子で、ウィルフレッドは、部屋を出ていく。
その背を見送りながら、私はどう声をかけていいのかわからなかった。
***
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