追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル

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18、元聖女、無意識に煽る?


「ルイーズ。姪のこと、大丈夫か?」
「え、ええ。気遣ってくれてありがとう」


 正直なぜって気持ちはあるけど、恨まれているのなら、その事実を受け止めなきゃいけない。


「大丈夫。
 もし今後ヨランディアと戦うことになっても、私はグライシードを守るわ」


 いまの私はウィルフレッドの妻で、グライシード王国の王妃。
 もしメアリーが私への恨みでグライシード王国やウィルフレッドに何か良からぬことを……敵国への協力などするなら、私はメアリーとも闘わないといけない。
 できれば避けたいから、そうならないことは祈るけど。


「俺は、おまえを傷つけた人間を許したくはない」


 私の気持ちを見抜いてか、そう、ウィルフレッドは言う。


「あいつらが追放したから俺がルイーズと結婚できた。
 それはわかっているが、後追いで呪いまでかけるなんて、15年間尽くしてきた身内にすることか」

「私なら平気よ?
 別に結界がなくても」

「確かにおまえには大抵の魔法攻撃はきかない。
 だが、悪意を向けられたこと自体に怒っていいんだぞ?」


 うまく言えないけど、私の代わりにメアリーに対して怒ってくれているウィルフレッドに、なぜか私は癒された。


「…………どうした?」
「ううん。やっぱり、ウィルフレッドは良い友人だと思ったのよ」
「……良い友人、か。そこで言うのは良い夫、じゃないのか?」
「自分で言う?」


 笑おうとして、ウィルフレッドの目が笑ってないことに気づいて私は口をつぐむ。

 また何か間違った言い方をしてしまったらしい。
 ただ『ありがとう』と言えばよかったのに、時々学生時代のノリでつい照れ隠しな言い回しをしてしまうのだ。


(でも、そういうの、大人としては良くなかったわね……)


 ウィルフレッドと私は、一度私室に戻る。

 そういえば、ひとつ、確かめたいことがあった。
 2人きりになったときを見計らい、私は彼に声をかける。


「あのねウィルフレッド。
 ちょっと私のことをギュってしてみてくれない?」

「……は? どういう風の吹き回しだ?」

「いいから、ちょっとだけやってみて」


 珍しく彼が戸惑っている。
 私からハグを求めることなんて普段全然ないものね。
 ウィルフレッドは正面に立ち、私を抱きしめた。
 温かく、服の上からの印象よりたくましい、ウィルフレッドの身体。


(やっぱり……)


 触れられたときの感触が、エドワードやダグラスと全然違う?


(ウィルフレッドと2人の違いだけじゃない、これ)


 さっき、学生時代と同じような感覚で2人のハグを何気なく受けたけれど、その時何か、学生時代にはなかった違和感があった。

 たぶん、エドワードやダグラスが何か悪いことをしたわけじゃない。


(これは、私の変化だわ)


 15年経過したからか、結婚したせいか、学生の頃の私といまの私とでは、男性の友人と触れあった時の感覚が大きく違っているみたいだ。
 昔のようには気軽に触れ合うことができなくなっている。
 
 思わずウィルフレッドの手を取り、自分の頬に当てる。
 ドキドキするのと安心するのと心地良いのと。
 たぶん、私にこの感触が与えられるのは、この世でウィルフレッドの手だけなんだろう……。

 不意に、ウィルフレッドがその手を引いた。
 そのまま壁に押し付けられるようにくちづけられる。


(……?)


 妙に激しい。
 疑問に思った私の耳に、ウィルフレッドが低くささやいた。


「俺を煽っているのか?」
「……そういうわけじゃ?」
「だったら何だ。俺とあいつらは、同じ『友人』か?」
「え、だって同じ学友……」


 言いかけて口をつぐむ。
 ウィルフレッドの目が、少し恐い。


「ごめんなさい、違うわね。『夫』よ」
「そうだろう? 毎晩『友人』じゃできないことをしているよな?」
「うんわかった。わかったから」


 私はガッとウィルフレッドの顎を掴み上げた。


「……理由なく機嫌悪くなるのやめてって、言ったでしょうが!」
イダだッ!! 何をする!!」
「それはこっちのセリフです!!」


 ちなみに私は、女としてはわりと握力が強いほうである。
 私たちはしばし、至近距離でにらみ合う。


「……理由なく、か」

「少なくとも私には、あなたが今怒っている理由がわからないわよ。
 そういうの、何の解決にもつながらないから。
 気に入らないことがあったなら私だって改善するから、言葉で言ってよ。
 友人になってどれだけ長いと思ってるのよ」

「俺は────おまえのことを友人だなんて思ったことは一度もない」

「え?」


 ハッとしてウィルフレッドは口を押さえ「……いや、何でもない」言いながら数歩、後ずさる。


「そうだよな。
 いつだっておまえには、悪気はない。
 そういうつもりじゃないんだよな」

「いや、1人で納得しないで」

「……少し、

「え?」

「しばらく執務室で頭を冷やす。1人にしてくれ」

「ウィルフレッド?」


 少しフラフラした様子で、ウィルフレッドは、部屋を出ていく。
 その背を見送りながら、私はどう声をかけていいのかわからなかった。


     ***
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