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19、国王、反省する【ウィルフレッド視点】
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* * *
(…………全然駄目だ)
35歳の国王はここしばらくの自分を省みて、執務室で反省していた。
ウィルフレッドは、国王としての威厳や実力、余裕のある大人になったところをルイーズに見せたかった。
演じることは国王として必須のスキルだ。
もういい歳でもあり、若い頃よりもずっと自制は効くはずだった。
(ルイーズに対しても自分の感情を隠しきれる)と、ウィルフレッドは思っていたのだ。
だが、実際本物のルイーズがそばにいると駄目だ。
再会した時から思うが、美しくなったと思う。
可愛らしさに大人びた落ち着きと色気さえ加わり、なのに表情は豊かで、昔と変わっていないところと変わっているところ両方が魅力的すぎる。
近くにいるだけで、とにかく愛でたくなり、可愛がりたくなってしまう。
触れたくなる。
抱き上げたくなる。
近くで見つめたくなる。
何か反応があれば、もっと反応が見たくなる。
……どんどん、際限なく何でもしてしまいたくなる。
妬いてしまう材料があれば、理性はさらに脆くなる。
他の男の話をしていたら、それがたとえ兄であっても、俺を見ろと言いたくなってしまう。というか、昔からルイーズは兄の話をしすぎだ。
(しかし、恋愛感情を隠しているのはこちらだが……さすがに夫と友人を一緒にされると、我慢できなかった)
学友だからと、他の男とのハグまでは我慢した。
だが、ルイーズが何を確かめていたのだか知らないが、他の男どもと比べられるのにはいらだってしまった。
彼女に愛がなかったとしても、夫婦は夫婦だ。
夫は彼女にとってただ1人のはず。
毎日身体を重ねる男は、ウィルフレッドだけだ。
本当に……落ち着いて考えれば、我ながら身勝手な独占欲だ。
愛情じゃなく王妃という仕事を提示して求婚したのはウィルフレッド自身。ルイーズはそこでさらに子を産むとまで言ってくれた。
ずっと愛してきた女性が自分のそばにいて、触れられる。それだけで幸せなのに。
ルイーズの気持ちまでは求めないと誓ったはずなのに。
(────ルイーズも、なんだか昔と反応が違いすぎて……)
昔はどんなに気を引こうとしても、彼女はそれを友人としての親愛の情だと解釈してしまった。どこか余裕があって、無自覚に鉄壁だった。
だが、再会から後は……反応の一つ一つに、異性に迫られた時の恥じらいらしきものを感じる(自分の希望的観測かもしれないが。そもそも学生時代とはやってることのレベルが違うが)。
見つめたとき、一瞬時が止まったように目が合って、それから目を伏せるあの反応。
キスをした後の、頬を赤らめ目をそらす反応。
後ろから抱きしめたときに一瞬こわばる肩。
不慣れな閨ですがりついてくる腕。
一言でいえば、可愛い。
15年前に輪をかけて可愛い。
こちらの15年分の大人としての蓄積を全部無にするぐらい、可愛い……。
そんなことを考えていたら、不意に、過ぎた歳月に胸をかきむしられる。
『愛しているだの好きだの、色恋沙汰で捕まえることなんてできやしない』
『唯一あいつを縛れるものは……15年前あいつを縛ったものは、使命感だった』
そう、ミリオラ宰相に言ったのはウィルフレッド自身だ。
だけど、もしかしたら、この15年間にもっと違った選択があったのだろうか?
あの頃は、ルイーズをグライシードまでさらってしまえたらと何度思っただろう。
無理なことはわかっていた。
そして仮に自分にそんな力があったとしても、そんなことをすればルイーズを傷つけるだろうことも。
悩んで何か方法はないかと1人奔走して、結局時期を待つと決めた。
ルイーズが自ら選んだ役目から離れる時を。
それは正しかったのだろうか?
もしも15年前に戻れたら?
……なりふりかまわずにルイーズを追いかけてヨランディアまで行って、もう一度自分が求婚していたら、いや一度と言わず何度でも折れずに愛を伝えていたら……。
(どうもよくない思考のスパイラルにはまっている)
と自覚して、ウィルフレッドはため息をつく。
すると、ノックの音がした。
「……ウィルフレッド。入ってもいい?」
─────ルイーズの声だ。
「様子がおかしかったから、あんまり長い間1人にしたくないな、って思って」
率直すぎる言葉に、思わずウィルフレッドの口もとから笑みがこぼれる。
学生時代もそうだった。
1人にしてくれとウィルフレッドが仲間たちから離れても、適当なところで最初に様子を見にくるのはルイーズだった。
「入っていいぞ」
「失礼します」
入ってきたルイーズは
「もし何か私に話したいことがあるなら話さない?」
と言う。
「宰相閣下からも、言いたいことは我慢しなくていい、『陛下はそれだけの器はお持ちです』って言われているから」
「…………おまえたち、俺の知らないところで一体どんな話を?」
「そんな変な話はしていないわよ??
……ちょっと助言?を頂くぐらいだわ」
「助言?」逆に不安になる言葉なんだが。
(…………全然駄目だ)
35歳の国王はここしばらくの自分を省みて、執務室で反省していた。
ウィルフレッドは、国王としての威厳や実力、余裕のある大人になったところをルイーズに見せたかった。
演じることは国王として必須のスキルだ。
もういい歳でもあり、若い頃よりもずっと自制は効くはずだった。
(ルイーズに対しても自分の感情を隠しきれる)と、ウィルフレッドは思っていたのだ。
だが、実際本物のルイーズがそばにいると駄目だ。
再会した時から思うが、美しくなったと思う。
可愛らしさに大人びた落ち着きと色気さえ加わり、なのに表情は豊かで、昔と変わっていないところと変わっているところ両方が魅力的すぎる。
近くにいるだけで、とにかく愛でたくなり、可愛がりたくなってしまう。
触れたくなる。
抱き上げたくなる。
近くで見つめたくなる。
何か反応があれば、もっと反応が見たくなる。
……どんどん、際限なく何でもしてしまいたくなる。
妬いてしまう材料があれば、理性はさらに脆くなる。
他の男の話をしていたら、それがたとえ兄であっても、俺を見ろと言いたくなってしまう。というか、昔からルイーズは兄の話をしすぎだ。
(しかし、恋愛感情を隠しているのはこちらだが……さすがに夫と友人を一緒にされると、我慢できなかった)
学友だからと、他の男とのハグまでは我慢した。
だが、ルイーズが何を確かめていたのだか知らないが、他の男どもと比べられるのにはいらだってしまった。
彼女に愛がなかったとしても、夫婦は夫婦だ。
夫は彼女にとってただ1人のはず。
毎日身体を重ねる男は、ウィルフレッドだけだ。
本当に……落ち着いて考えれば、我ながら身勝手な独占欲だ。
愛情じゃなく王妃という仕事を提示して求婚したのはウィルフレッド自身。ルイーズはそこでさらに子を産むとまで言ってくれた。
ずっと愛してきた女性が自分のそばにいて、触れられる。それだけで幸せなのに。
ルイーズの気持ちまでは求めないと誓ったはずなのに。
(────ルイーズも、なんだか昔と反応が違いすぎて……)
昔はどんなに気を引こうとしても、彼女はそれを友人としての親愛の情だと解釈してしまった。どこか余裕があって、無自覚に鉄壁だった。
だが、再会から後は……反応の一つ一つに、異性に迫られた時の恥じらいらしきものを感じる(自分の希望的観測かもしれないが。そもそも学生時代とはやってることのレベルが違うが)。
見つめたとき、一瞬時が止まったように目が合って、それから目を伏せるあの反応。
キスをした後の、頬を赤らめ目をそらす反応。
後ろから抱きしめたときに一瞬こわばる肩。
不慣れな閨ですがりついてくる腕。
一言でいえば、可愛い。
15年前に輪をかけて可愛い。
こちらの15年分の大人としての蓄積を全部無にするぐらい、可愛い……。
そんなことを考えていたら、不意に、過ぎた歳月に胸をかきむしられる。
『愛しているだの好きだの、色恋沙汰で捕まえることなんてできやしない』
『唯一あいつを縛れるものは……15年前あいつを縛ったものは、使命感だった』
そう、ミリオラ宰相に言ったのはウィルフレッド自身だ。
だけど、もしかしたら、この15年間にもっと違った選択があったのだろうか?
あの頃は、ルイーズをグライシードまでさらってしまえたらと何度思っただろう。
無理なことはわかっていた。
そして仮に自分にそんな力があったとしても、そんなことをすればルイーズを傷つけるだろうことも。
悩んで何か方法はないかと1人奔走して、結局時期を待つと決めた。
ルイーズが自ら選んだ役目から離れる時を。
それは正しかったのだろうか?
もしも15年前に戻れたら?
……なりふりかまわずにルイーズを追いかけてヨランディアまで行って、もう一度自分が求婚していたら、いや一度と言わず何度でも折れずに愛を伝えていたら……。
(どうもよくない思考のスパイラルにはまっている)
と自覚して、ウィルフレッドはため息をつく。
すると、ノックの音がした。
「……ウィルフレッド。入ってもいい?」
─────ルイーズの声だ。
「様子がおかしかったから、あんまり長い間1人にしたくないな、って思って」
率直すぎる言葉に、思わずウィルフレッドの口もとから笑みがこぼれる。
学生時代もそうだった。
1人にしてくれとウィルフレッドが仲間たちから離れても、適当なところで最初に様子を見にくるのはルイーズだった。
「入っていいぞ」
「失礼します」
入ってきたルイーズは
「もし何か私に話したいことがあるなら話さない?」
と言う。
「宰相閣下からも、言いたいことは我慢しなくていい、『陛下はそれだけの器はお持ちです』って言われているから」
「…………おまえたち、俺の知らないところで一体どんな話を?」
「そんな変な話はしていないわよ??
……ちょっと助言?を頂くぐらいだわ」
「助言?」逆に不安になる言葉なんだが。
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