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20、国王、言いかける【ウィルフレッド視点】
「話は戻すけどさっきの件。
どうして様子がおかしかったのか、聞きたくて。
私のしたことが何かまずくて怒ったの?」
「あれは……その……夫として、見られていないのかと、その」
ものすごく、ざっくりとひどいまとめ方だったが、
「確かに私も、言い方が悪かったかなと思ったの。
それは謝るわ」
とルイーズは素直に返してきた。
(あいつらに、友人以上の感情はないんだよな?)と喉から出かけた問いをウィルフレッドは抑えて、別なことを尋ねる。
「おまえこそ、さっきのあの謎の行為は何だったんだ?」
「うーん……うまく言えないけど、いつまでも学生時代の友人同士の感覚ではいられなくなるのね、って思ったの」
「…………?」
「たぶんエドワードやダグラスや、他の学友にまた会っても、ハグはもうしないと思うわ。
私、ウィルフレッドの奥さんだしね」
(『奥さん』……)
思わずその言葉をウィルフレッドは脳内で反芻した。
『妻』より砕けた一言だけに、それは恐ろしいほどの破壊力を持っていて、しばし、思考が停止した。
「…………ウィルフレッド?」
「……ああ、いや、すまん俺が悪かった。
勝手に悪い方に考えてしまって。
何か冷静になれないことがあっても、少しこらえて話すべきだったな。
お互い35歳の良い大人なんだから」
ウィルフレッドにとって、ルイーズがそばにいてくれること以上の幸せはない。
それは何より痛感している。
なのに、歳を取り、青かった学生時代よりはずっと器用になったはずが、うまく行かないところはどうもうまく行かない。
「……まぁ、35歳の良い大人だから、こんなもので済んでいるのかも。
若ければうまくいったわけじゃないでしょうし」
「ルイーズ?」
珍しい。普段は彼女の方が歳を気にしたことを言いがちなのに。
「……もっと若いときの私なら。
結婚の後は結構しょっちゅう思ったし、今でもやっぱりそう思うときがある。
若ければドレスも宝石ももっと似合うし、もっと自信を持てたんじゃないかと思う。
子どもを産めるかっていう不安もきっと軽かった。
だけど、15年間私がヨランディアで積み重ねてきたことが今評価されてるって、言ってくれたのはあなたでしょう?」
「! ……ああ、そうだった」
「それ、言ってくれたあとからじわじわ考えたのよ。
その15年があったからこそ良かったことって、自分で気づけていないだけで、実は他にもあるんじゃないかって。
35にもなってこんなんじゃ情けない……とか、全然大人になれていないな……とか、思いながら、でも気づいていないところで実は成長してたみたいな」
「…………良い考え方だ」
「前向きすぎるかもだけど。
というか、それでも35歳でやると痛いなってことは変わらないっていうか……」
「そっちは歳など関係ないと言いたいが」
ルイーズを『待って』いた15年間、彼女の活躍をウィルフレッドはあらゆる手段で調べていた。
彼女の名声はいつも彼の励みになり、離れていても学生時代と同じように切磋琢磨している気持ちでがんばれた。
……今まで自分が積み重ねてきた時間を、もう少し評価しても良いのかもしれない。
「ありがとう。
今俺が聞きたかった言葉だった」
「そうなの?」
「本当に」
心の底から思う。
やっぱり自分は一生ルイーズには勝てないと。
「俺と結婚してくれてよかった」
立ち上がり、引き寄せられるようにウィルフレッドはルイーズを抱きしめる。
「え、ちょっ、ウィルフ…」
「さっきは悪かった」
「……私も、顎掴み上げてごめんなさい」
「ルイーズ。あい────」「そう言えば、さっきの言葉」2人の言葉が重なった。
「さっきの言葉?」
「うん、あの……」ルイーズが何事か話そうとしたとき、
「国王陛下!!!
火急のご用件にてご報告申し上げたく!!!」
廊下から何者かが叫ぶ声に、2人の声はかき消された。
────報告者の『火急のご用件』の報告を聞きながら我に還ったウィルフレッドは(危なかった)と心中でつぶやいた。
ルイーズが愛おしすぎて、あのまま『愛している』と口走ってしまうところだった。
冷静になれば、15年前に何をしようが関係なかっただろう。
彼女がやらなければと思っていることが目の前にあるかぎり、彼女が守ろうとしている祖国があるかぎり、愛を何度伝えたって、ルイーズは折れてくれなかっただろう。
ちょうど、ウィルフレッドがグライシード王国を背負う運命なのと同じように。
どんなに狂おしいほど愛していても、使命を持った人間を『愛』では縛れない。
だが、
『もし今後ヨランディアと戦うことになっても、私はグライシードを守るわ』
いまのルイーズはウィルフレッドにそう言ってくれた。
自分に与えられた王妃という使命を全うしようとする。
ルイーズはそういう女なのだし、だからこそいまウィルフレッドのそばにいてくれる。
それで十分だ。
自分の余計な感情を押し付けて……あの悲しい目を、二度と見たくない。
だったら言えない言葉の分、どこまでも彼女を愛して大切にしよう。
ウィルフレッドはすっかり仕事モードに戻った傍らの妻を見つめ、持て余した自分の愛情を胸にしまい込んだ。
* * *
どうして様子がおかしかったのか、聞きたくて。
私のしたことが何かまずくて怒ったの?」
「あれは……その……夫として、見られていないのかと、その」
ものすごく、ざっくりとひどいまとめ方だったが、
「確かに私も、言い方が悪かったかなと思ったの。
それは謝るわ」
とルイーズは素直に返してきた。
(あいつらに、友人以上の感情はないんだよな?)と喉から出かけた問いをウィルフレッドは抑えて、別なことを尋ねる。
「おまえこそ、さっきのあの謎の行為は何だったんだ?」
「うーん……うまく言えないけど、いつまでも学生時代の友人同士の感覚ではいられなくなるのね、って思ったの」
「…………?」
「たぶんエドワードやダグラスや、他の学友にまた会っても、ハグはもうしないと思うわ。
私、ウィルフレッドの奥さんだしね」
(『奥さん』……)
思わずその言葉をウィルフレッドは脳内で反芻した。
『妻』より砕けた一言だけに、それは恐ろしいほどの破壊力を持っていて、しばし、思考が停止した。
「…………ウィルフレッド?」
「……ああ、いや、すまん俺が悪かった。
勝手に悪い方に考えてしまって。
何か冷静になれないことがあっても、少しこらえて話すべきだったな。
お互い35歳の良い大人なんだから」
ウィルフレッドにとって、ルイーズがそばにいてくれること以上の幸せはない。
それは何より痛感している。
なのに、歳を取り、青かった学生時代よりはずっと器用になったはずが、うまく行かないところはどうもうまく行かない。
「……まぁ、35歳の良い大人だから、こんなもので済んでいるのかも。
若ければうまくいったわけじゃないでしょうし」
「ルイーズ?」
珍しい。普段は彼女の方が歳を気にしたことを言いがちなのに。
「……もっと若いときの私なら。
結婚の後は結構しょっちゅう思ったし、今でもやっぱりそう思うときがある。
若ければドレスも宝石ももっと似合うし、もっと自信を持てたんじゃないかと思う。
子どもを産めるかっていう不安もきっと軽かった。
だけど、15年間私がヨランディアで積み重ねてきたことが今評価されてるって、言ってくれたのはあなたでしょう?」
「! ……ああ、そうだった」
「それ、言ってくれたあとからじわじわ考えたのよ。
その15年があったからこそ良かったことって、自分で気づけていないだけで、実は他にもあるんじゃないかって。
35にもなってこんなんじゃ情けない……とか、全然大人になれていないな……とか、思いながら、でも気づいていないところで実は成長してたみたいな」
「…………良い考え方だ」
「前向きすぎるかもだけど。
というか、それでも35歳でやると痛いなってことは変わらないっていうか……」
「そっちは歳など関係ないと言いたいが」
ルイーズを『待って』いた15年間、彼女の活躍をウィルフレッドはあらゆる手段で調べていた。
彼女の名声はいつも彼の励みになり、離れていても学生時代と同じように切磋琢磨している気持ちでがんばれた。
……今まで自分が積み重ねてきた時間を、もう少し評価しても良いのかもしれない。
「ありがとう。
今俺が聞きたかった言葉だった」
「そうなの?」
「本当に」
心の底から思う。
やっぱり自分は一生ルイーズには勝てないと。
「俺と結婚してくれてよかった」
立ち上がり、引き寄せられるようにウィルフレッドはルイーズを抱きしめる。
「え、ちょっ、ウィルフ…」
「さっきは悪かった」
「……私も、顎掴み上げてごめんなさい」
「ルイーズ。あい────」「そう言えば、さっきの言葉」2人の言葉が重なった。
「さっきの言葉?」
「うん、あの……」ルイーズが何事か話そうとしたとき、
「国王陛下!!!
火急のご用件にてご報告申し上げたく!!!」
廊下から何者かが叫ぶ声に、2人の声はかき消された。
────報告者の『火急のご用件』の報告を聞きながら我に還ったウィルフレッドは(危なかった)と心中でつぶやいた。
ルイーズが愛おしすぎて、あのまま『愛している』と口走ってしまうところだった。
冷静になれば、15年前に何をしようが関係なかっただろう。
彼女がやらなければと思っていることが目の前にあるかぎり、彼女が守ろうとしている祖国があるかぎり、愛を何度伝えたって、ルイーズは折れてくれなかっただろう。
ちょうど、ウィルフレッドがグライシード王国を背負う運命なのと同じように。
どんなに狂おしいほど愛していても、使命を持った人間を『愛』では縛れない。
だが、
『もし今後ヨランディアと戦うことになっても、私はグライシードを守るわ』
いまのルイーズはウィルフレッドにそう言ってくれた。
自分に与えられた王妃という使命を全うしようとする。
ルイーズはそういう女なのだし、だからこそいまウィルフレッドのそばにいてくれる。
それで十分だ。
自分の余計な感情を押し付けて……あの悲しい目を、二度と見たくない。
だったら言えない言葉の分、どこまでも彼女を愛して大切にしよう。
ウィルフレッドはすっかり仕事モードに戻った傍らの妻を見つめ、持て余した自分の愛情を胸にしまい込んだ。
* * *
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