追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル

文字の大きさ
24 / 36

24、元聖女、踊る


 貴婦人たちの挨拶が終わり、私は控え室に戻ってドレスを着替え髪型を変える。


「今日はあなたたちも大変ね」


 朝から無双の大活躍中の凄腕侍女たちに声をかけると、
 
「今日こそは私たちの腕の見せ場ですから!」
「せっかくですもの。一番お美しい王妃陛下を皆に見せます!」
と、頼もしく笑う。

 ぐっと華やかなドレスをまとった私は、ウィルフレッドに手を取られ朝とは逆側のバルコニーに出る。
 その光景が目に飛び込んできた瞬間、私は息を呑んだ。


 堀を挟んで、見渡す限りまさに老若男女、何千、もしかしたら何万という人たちが集まって、こちらを見ている。


「壮観だろう?」
「に、人気があるのね、ウィルフレッド」
「もちろんおまえにだ。おまえの誕生日祝いなんだから」


 深呼吸し、ゆったりと手を振って見せると、わああああっっ……と歓声が上がった。

 いったいどれだけの人の声が合わさって、この全身震わせるような声の波を生み出しているんだろう。
 考えていると、また目頭が熱くなってきた。


 ────王妃として認められている。


 そう、実感して。


「ウィルフレッドは……私にこれを見せたかったの?」

「ああ。グライシードからの正当な評価だ」

「…………わさわざ自分の身が危ないのに、リスクを犯してまで、こんなこと」


 大切に思っていた姪に疑われ、裏切られた。
 年増聖女だと、聖女の名にふさわしくないと言って追い出された。
 周囲の企みに気づかず止められなかった。

 意識していなかったけど、思った以上に私、自信を失っていたみたい。
 それをウィルフレッドは見抜いていた?


「…………この国に来て良かった」


 国民たちの前から城の中に下がり、ぽつり呟いた
私は、ウィルフレッドの前で少し、泣いた。


     ***


「……ブランクは埋まったか?」

「さすがに、ちゃんと踊って見せるわよ。王妃ですから」


 からかうようなウィルフレッドの言葉に、私は言い返す。
 さすがに他の人に涙を見せるようなことはしない。
 誕生日の祝宴はいよいよ、最後の舞踏会を残すばかりになっていた。

 ドレスは艶のあるワインレッド、大粒のダイヤモンドのネックレスにイヤリング、そして輝くプラチナとダイヤのティアラ。


 ────聖職者だった15年間、私は一切ダンスをしていない。
 その長いブランクを埋めるため、結婚してから、ウィルフレッドを相手に少しずつ練習していた。

 学生時代は私がウィルフレッドに教える側だったのに
『俺が教える側になったな』
と笑われたのは、ちょっと悔しかった。


(あなたは立場が立場だし。
 15年間、いろんな女性と踊っていたわよね、たぶん)


 次々に私の見知らぬ綺麗な女性と優雅に踊るウィルフレッドを想像したら、ちょっとだけムカっとしたものだ。
 それでも、今は十分勘が戻った。
 ウィルフレッドに恥をかかせない程度のダンスはできるだろう。


 煌びやかに飾り立てられたフロア。
 ゆったりと奏でられる音楽。


 人々の注目の中心に、ウィルフレッドと私は歩みだした。

 私たちが中央に出たのに合わせて、楽器の演奏が一度止まる。
 会話さえ途絶えた静寂の中、全員の視線を感じる。

 最初の曲は、彼と私国王夫妻のダンスのためだけのものだ。
 ヒールの高い靴のおかげで、いつもよりウィルフレッドの顔が近い。


 ────曲が始まった。

 ウィルフレッドにしっかりホールドされ、リードに乗りながら、力を抜いてステップを踏む。

 ドレスの裾がふわりと宙を踊り、まるで体重がなくなったように身体が舞う。

 悔しいけれど15年分、彼はダンスが上手くなった。
 我を忘れて、楽しく踊ってしまうほど。


(……大学の時とは全然違うわね)


 大学ではダンスの機会もあり、卒業式後にも、ダンスパーティーがあった。
 ただし女子学生はほぼいなかったので、多くは主に卒業生がその婚約者を招待して踊っていたのだ。

 私は自分の卒業式には出られなかったけど、先輩方の卒業パーティーでは、後輩たちもダンスできたから、よくウィルフレッドの相手になって踊った。
 あの時の、ダンス下手ながら懸命に踊る彼を懐かしいと思いながら、戻れない時代の記憶に浸る。


『ダメよ、いくら男性がリードすると言っても無理に引き寄せちゃ。男性側がこう構えて、迎え入れるの』
『……こう……こうか?』
『そうよ。そしたら、女性側がこう動くから……ちょっと、力入りすぎよ。もう少し……』


 記憶のなかで一生懸命練習する10代の彼と、別人のように上手く踊る、目の前の35歳の彼。


(本当に……あの4年間は私にとって大切な日々だったんだわ。
 友人としてのウィルフレッドも)


 ああ、そうか。

 私が『愛してる』という言葉に引っかかってしまったのは、そこだ。

 あの時の思い出を、今の『愛してる』で塗りつぶしたくなかったのだ。


(そう……今は私、『愛してる』わ。
 だけど感情の種類は違っても、どっちのウィルフレッドも私にとって大切なのよ)


 自分の中で、答えが出ると、じわじわと愛おしさが込み上げてくる。

 曲が終盤に入ってきた。
 名残惜しいような気持ちになりながら、私はステップを踏み続ける。
 永遠に続いて欲しい。
 でもダンスはいつか終わるもの。

 ────曲が終わった。

 拍手が広がっていく。

 皆の注目が集まっていたことも、すっかり忘れていた。
 頭にあったのは、ウィルフレッドのことばかり。

 私たちは飲み物で喉を潤したあと、会場に用意された国王と王妃用の席に座る。
 やがて次の曲が始まり、華やかに着飾った男女が麗しく踊り始めた。


「あのね、ウィルフレッド」
「ん?」
「舞踏会が終わったら、少し話があるの」
感想 5

あなたにおすすめの小説

姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました

珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。 そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。 同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~

夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」 婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。 「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」 オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。 傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。 オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。 国は困ることになるだろう。 だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。 警告を無視して、オフェリアを国外追放した。 国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。 ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。 一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!

さこの
恋愛
 婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。  婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。  100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。  追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?

たいした苦悩じゃないのよね?

ぽんぽこ狸
恋愛
 シェリルは、朝の日課である魔力の奉納をおこなった。    潤沢に満ちていた魔力はあっという間に吸い出され、すっからかんになって体が酷く重たくなり、足元はふらつき気分も悪い。  それでもこれはとても重要な役目であり、体にどれだけ負担がかかろうとも唯一無二の人々を守ることができる仕事だった。  けれども婚約者であるアルバートは、体が自由に動かない苦痛もシェリルの気持ちも理解せずに、幼いころからやっているという事実を盾にして「たいしたことない癖に、大袈裟だ」と罵る。  彼の友人は、シェリルの仕事に理解を示してアルバートを窘めようとするが怒鳴り散らして聞く耳を持たない。その様子を見てやっとシェリルは彼の真意に気がついたのだった。