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25、元聖女、襲撃される
しおりを挟む『ご遠慮なさらず思うことや気になることはどんどんおっしゃっていただければ幸いですわ。
陛下は、それだけの器はお持ちです』
ミリオラ宰相のその言葉を、私は思い出していた。
騒がしい中でじゃなく、2人きりの静かな場所で、ゆっくり整理して、彼への気持ちを伝えてみたい。
本音を全部伝えれば、彼も本当の思いを言ってくれるんじゃないだろうか。
舞踏会は盛況で、貴族・貴婦人たちは次々と踊る。
だけど私の誕生日だからだろうか、それ以降ウィルフレッドは私以外の誰とも踊らなかった。
それが周りに許容されているのも不思議だけど、嬉しいと思ってしまう私もそろそろ重症だ。
舞踏会も残りはあと1曲。
「最後も踊ろう」と立ち上がるウィルフレッドにつられ、私も立った。
最後のダンスも、素敵な思い出になるはずと思った、その時の私は浮かれて……本当に油断していたのだろう。
「!」
急にウィルフレッドが防御魔法を展開した次の瞬間、
────ドォォン!!!!
(……!?)
弾かれたのは明らかにウィルフレッドに向けられた爆音と火薬の臭い。続けて会場の外でも爆発音が響く。
その場は突如混乱の坩堝に変わった。
逃げようとする貴族たち、逃げようとしてもドレスに足をとられる貴婦人たち。
「静まれ!!!」
ウィルフレッドが一喝し、貴族たちは我に還ったように国王を見る。
給仕に紛れて侵入したらしい刺客はすでに待機していた衛兵に取り押さえられている。
刺客の手から取り上げられたのは、やや古風なハンドカノンだった。
着火から発射までに若干のタイムラグがある武器だ。
だからウィルフレッドがとっさに気づいての物理防御魔法がギリギリで間に合った。
────これが、もっと瞬時に撃てる火薬武器だったなら、防御魔法も間に合わなかったのでは……その想像にゾッとした。
「────〈全方位防御〉」
第二撃に備え、私は周りに防御魔法を展開する。衛兵たちが私たちの周りに集まり人の壁を作る。
ウィルフレッドはなおも指示を出す。
「会場の外の安全を確認しろ。退出はその後だ」
「……国王陛下!!」
警備に回っていた数人の騎士が会場に入ってくる。
「会場外で爆破を行った犯人を取り押さえました!!
事前の緊急時プランその4に合わせ、皆様の安全な避難ルートを衛兵により確保しております!!」
貴族たちからホッと、吐息が漏れた。
「入り口に近い者から、必ずすべて衛兵の指示にしたがって退出しろ。
……ルイーズ。警護の衛兵が迎えに来たらおまえも先に行け」
「他に刺客がいるかも。あなたも先に出ないと」
「普通ならな。だが人が集まっている場所は混乱で大事故が起きうる。いざという時のため俺が最後まで残るべきだ」
確かに、貴族たちの中には騎士や衛兵の言うことに逆らう人は出そう、だけど……。
「何か話があると言っていたな。後で話そう」
「え、ええ」
悔しいけれど、舞踏会用のドレスでは走ることもできない。
何かの時にウィルフレッドの足手まといになってしまうかも。
私は彼の周囲に防御魔法を展開させながら、後ろ髪を引かれる思いで離れた。
誘導する衛兵たちが私を囲もうとする。
────その刹那。
窓硝子が砕け、上から飛び込んできた何者かが私に金属の筒のようなものを向けた。
「!!」
「ルイーズ!!!」
事態を認識する前に視界が塞がれ、響くのは、恐ろしい破裂音。
「…………ウィルフレッド?」
ついさっき離れたはずの彼が、なぜか私に覆い被さり抱き締めている。
私の手に、べったりと温かな血が付く。この傷は。
(────散弾銃……だわ)
執念のように私を抱き締めたまま、彼の意識はなくなっていて、私の口から私のものと思えない悲鳴が上がった。
***
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