27 / 36
27、国王と元聖女【ウィルフレッド視点】
「……イヴェット」
「大丈夫よ、伯父様。
腹が立って仕方がないだけだから、全然平気。
あんな奴……ほんと、あのクソ親父が……ごめんなさい」
「気にするな。良いから、おまえたちは休め」
ごし、と、目元を袖口で拭くと、イヴェットは立ち上がり、ブリジットとともに一礼して出ていった。
ウィルフレッドは次に医師たちに目を向ける。
「おまえたちも少し席をはずせ」
「いや、しかし、国王陛下」
「王妃がついている。問題はない」
「は、はぁ……少しの間だけであれば? すぐに戻りますからな」
医師たちはそれでも心配げにこちらを見ていたが、諦めたようにそろって寝室を出ていった。
「さて、ルイーズ」
ウィルフレッドは目の前にいる妻を見つめる。
「俺からも話がある」
う、と、詰まったような声を出し、泣き腫らした目のままでルイーズは目をそらした。
「…………先に言ったのは、ウィルフレッドだからね?」
「ああ、何を?」
「だから……その…………あの……わかってて言ってるわよね?」
(かわいいな、相変わらず)
ウィルフレッドは髪に触れながら、うつむき赤らめる妻の顔を見つめる。
夢の中で聞いた、あの現実の声。
自分が言った言葉。
今それを反芻したかった。
「だって……うわ言で、普段絶対言わないこと言い出したら、なんだかすごく恐くなるじゃない。これが最期なんじゃないかって……」
「何て?」
「だから……あの……『愛してる』って……ええと、もう良くない?」
「良くない。それでおまえは何て言った?」
ルイーズは顔を隠すようにベッドに突っ伏す。
耳が真っ赤なのでまったく隠しきれていないが。
「だからね……あのね、夢中だったから、細かい言葉とか、覚えてないのよ」
「かまわん。大体でいい。聞かせてくれ」
「……死ぬかもって思ったから、必死で」
「ルイーズ」
「……………………」
根気よく頭を撫でていると、ようやく、そっとルイーズは顔を上げた。
「……友人としても夫としても好きって」
「ひとつ足りないな」
「…………男としても、好き」
「それから?」
「存在しないと嫌」
「それから?」
「……………………愛してます」
その言葉に、ウィルフレッドは笑む。
彼が笑ったのに、ルイーズはますます落ち込んだ顔をした。
「どうかしたか?」
「……だって、みんなの前で言ってしまったわ」
「落ち込むことか?」
「舞踏会が無事終わって、2人きりになったら、ゆっくり伝えようと思ってたのよ。王妃としての威厳が完全崩壊……」
「夫が死にかけてたんだ。みんな大目に見てくれるさ」
ルイーズが、怪訝そうにウィルフレッドを見る。
「……なんであなたはそんなに嬉しそうなの?
死にかけたのはあなたよ?
殺されかけたのよ?」
「そうだな。
死にかけてようやく妻に『愛してる』と言えた。
……言ったらまたおまえがいなくなってしまうんじゃないかと、恐かったんだ」
「…………どうしてそうなるの?」
「話せば長くなる。
……愛してる」
普段と違い、身体に力が入らない。
腕を伸ばし、ルイーズを引き寄せようとすると、彼女から顔を近づけてくれた。
ゆっくりと、満ち足りた気持ちでくちづける。
「……あのね、15年前求婚には応えられなかったけど、私のなかで『友人』だったあなたもすごく大事だったの。いまでも大事なの。
大学4年間、一緒に勉強して過ごしたあの時間は、私にとってかけがえのないものよ。
それは認めてくれる?」
「そうか……悪かったな」彼女の気持ちを、汲み取れていなかった。
「暗号みたいなノートも、たまに窓から投げ込んできた手紙も、屋根裏部屋から一緒に見た星も、気まぐれにあなたが遅くまで弾いていたヴィオラの音色も」
「……良く覚えているな」
「あなたほどじゃないけど」
「今は?」
「えっと……再会して、びっくりしたの。
素敵だと思って、男性としてみてしまって、ドキドキしてる自分に。
年月のせいなのか、心の変化なのか、自分でもよくわからなくて……。
それから……。
ごめん、そろそろやめましょう。
あなた、そろそろ眠った方が」
「いや、俺からも、まだおまえに言っていないことが」
「今は眠って。
傷が治ったら、たくさん話しましょう」
「どこにも行かないか?」
「行かないわ。
眠ったら様子を見ながら〈回復魔法〉をかけていくから」
ウィルフレッドはルイーズの手を握りながら、その手の感触を味わいながらゆっくりと目を閉じる。
あの時、去ってしまった彼女はここにいる。
もうどこにも行かないでくれ。
────使命感……なのでしょうか?
────あの方の場合、もう少し別のもののようにも思いますわ。
眠りに落ちる寸前、何故か宰相の言葉がウィルフレッドの耳元によみがえっていた。
***
「大丈夫よ、伯父様。
腹が立って仕方がないだけだから、全然平気。
あんな奴……ほんと、あのクソ親父が……ごめんなさい」
「気にするな。良いから、おまえたちは休め」
ごし、と、目元を袖口で拭くと、イヴェットは立ち上がり、ブリジットとともに一礼して出ていった。
ウィルフレッドは次に医師たちに目を向ける。
「おまえたちも少し席をはずせ」
「いや、しかし、国王陛下」
「王妃がついている。問題はない」
「は、はぁ……少しの間だけであれば? すぐに戻りますからな」
医師たちはそれでも心配げにこちらを見ていたが、諦めたようにそろって寝室を出ていった。
「さて、ルイーズ」
ウィルフレッドは目の前にいる妻を見つめる。
「俺からも話がある」
う、と、詰まったような声を出し、泣き腫らした目のままでルイーズは目をそらした。
「…………先に言ったのは、ウィルフレッドだからね?」
「ああ、何を?」
「だから……その…………あの……わかってて言ってるわよね?」
(かわいいな、相変わらず)
ウィルフレッドは髪に触れながら、うつむき赤らめる妻の顔を見つめる。
夢の中で聞いた、あの現実の声。
自分が言った言葉。
今それを反芻したかった。
「だって……うわ言で、普段絶対言わないこと言い出したら、なんだかすごく恐くなるじゃない。これが最期なんじゃないかって……」
「何て?」
「だから……あの……『愛してる』って……ええと、もう良くない?」
「良くない。それでおまえは何て言った?」
ルイーズは顔を隠すようにベッドに突っ伏す。
耳が真っ赤なのでまったく隠しきれていないが。
「だからね……あのね、夢中だったから、細かい言葉とか、覚えてないのよ」
「かまわん。大体でいい。聞かせてくれ」
「……死ぬかもって思ったから、必死で」
「ルイーズ」
「……………………」
根気よく頭を撫でていると、ようやく、そっとルイーズは顔を上げた。
「……友人としても夫としても好きって」
「ひとつ足りないな」
「…………男としても、好き」
「それから?」
「存在しないと嫌」
「それから?」
「……………………愛してます」
その言葉に、ウィルフレッドは笑む。
彼が笑ったのに、ルイーズはますます落ち込んだ顔をした。
「どうかしたか?」
「……だって、みんなの前で言ってしまったわ」
「落ち込むことか?」
「舞踏会が無事終わって、2人きりになったら、ゆっくり伝えようと思ってたのよ。王妃としての威厳が完全崩壊……」
「夫が死にかけてたんだ。みんな大目に見てくれるさ」
ルイーズが、怪訝そうにウィルフレッドを見る。
「……なんであなたはそんなに嬉しそうなの?
死にかけたのはあなたよ?
殺されかけたのよ?」
「そうだな。
死にかけてようやく妻に『愛してる』と言えた。
……言ったらまたおまえがいなくなってしまうんじゃないかと、恐かったんだ」
「…………どうしてそうなるの?」
「話せば長くなる。
……愛してる」
普段と違い、身体に力が入らない。
腕を伸ばし、ルイーズを引き寄せようとすると、彼女から顔を近づけてくれた。
ゆっくりと、満ち足りた気持ちでくちづける。
「……あのね、15年前求婚には応えられなかったけど、私のなかで『友人』だったあなたもすごく大事だったの。いまでも大事なの。
大学4年間、一緒に勉強して過ごしたあの時間は、私にとってかけがえのないものよ。
それは認めてくれる?」
「そうか……悪かったな」彼女の気持ちを、汲み取れていなかった。
「暗号みたいなノートも、たまに窓から投げ込んできた手紙も、屋根裏部屋から一緒に見た星も、気まぐれにあなたが遅くまで弾いていたヴィオラの音色も」
「……良く覚えているな」
「あなたほどじゃないけど」
「今は?」
「えっと……再会して、びっくりしたの。
素敵だと思って、男性としてみてしまって、ドキドキしてる自分に。
年月のせいなのか、心の変化なのか、自分でもよくわからなくて……。
それから……。
ごめん、そろそろやめましょう。
あなた、そろそろ眠った方が」
「いや、俺からも、まだおまえに言っていないことが」
「今は眠って。
傷が治ったら、たくさん話しましょう」
「どこにも行かないか?」
「行かないわ。
眠ったら様子を見ながら〈回復魔法〉をかけていくから」
ウィルフレッドはルイーズの手を握りながら、その手の感触を味わいながらゆっくりと目を閉じる。
あの時、去ってしまった彼女はここにいる。
もうどこにも行かないでくれ。
────使命感……なのでしょうか?
────あの方の場合、もう少し別のもののようにも思いますわ。
眠りに落ちる寸前、何故か宰相の言葉がウィルフレッドの耳元によみがえっていた。
***
あなたにおすすめの小説
姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました
珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。
そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。
同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!
さこの
恋愛
婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。
婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。
100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。
追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?
たいした苦悩じゃないのよね?
ぽんぽこ狸
恋愛
シェリルは、朝の日課である魔力の奉納をおこなった。
潤沢に満ちていた魔力はあっという間に吸い出され、すっからかんになって体が酷く重たくなり、足元はふらつき気分も悪い。
それでもこれはとても重要な役目であり、体にどれだけ負担がかかろうとも唯一無二の人々を守ることができる仕事だった。
けれども婚約者であるアルバートは、体が自由に動かない苦痛もシェリルの気持ちも理解せずに、幼いころからやっているという事実を盾にして「たいしたことない癖に、大袈裟だ」と罵る。
彼の友人は、シェリルの仕事に理解を示してアルバートを窘めようとするが怒鳴り散らして聞く耳を持たない。その様子を見てやっとシェリルは彼の真意に気がついたのだった。