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35、元聖女、運命の日
「────おめでとうございます。ご懐妊です」
一緒に診断結果を聞いていたウィルフレッドが、私を無言で抱きしめてくる。
私もとっさに言葉が出てこなかった。
「本当……なんですね……」
「はい」
「本当に……」
抱きしめてくれるウィルフレッドの手に触れる。
(……私の身体の中に、もう1人いるんだ。ウィルフレッドと私の血を引く子どもが、私の中に……)
その喜びは、お腹の中から熱がじんわりと広がるような不思議な感覚だった。
子どもが欲しいと思って、実際いろいろ努力したり一般的に『子作り』と言われるような行為をしてきたわけだけど…………いざお腹に宿ると、まるで神が奇跡を与えてくれたようだ。
「…………とはいえ、医師としては無事にお生まれになるかは天命によるところと言わざるを得ません」
「は、はい」
天にも昇る心地だった私を、医師の言葉が落ち着かせた。
「ですから、これからご出産までは、大変な大仕事をなされる王妃陛下ご自身のためにお身体を整えられる時間、そしてお腹の中でお子をお育てになる時間です。
我々医師も持てるだけの知識と知恵で尽力してまいります。
どうぞ、大切に挑んでまいりましょう」
「はい!」
医師はそれからさらに注意事項を続けていく。
思ったよりたくさんあるそれをうなずきつつ聞く。
私を抱きしめるウィルフレッドの腕の熱を感じる。
「…………良かった」とぽつりと呟いた彼の言葉に、つい、涙がにじんでしまった。
***
36歳になっても初めて知ることはたくさんある。
その中でも、妊娠というのは、体験してみないとわからないことが驚くほどたくさんあった。
つわりの苦しさ。それでも赤ちゃんのために食事をとらないといけないこと。
身体の変化で足に出る痛み。
初めてお腹の赤ちゃんの動きを感じた時の喜びと、その胎動がだんだん意外と痛くなっていくこと。
何より、あらゆることに個人差が大きいこと……。
身体的には苦しいことやつらいこと、痛いことが多いみたい。
自分自身の身体のつらさは何とか耐えられても、
(これってお腹の子は大丈夫なのかしら)
という不安は常につきまとう。
ウィルフレッドももちろん初めてだから、私の身体に日々起きることに動揺することも多くて。
朝起きた時や食事の時など、ことあるごとに「大丈夫か? 何か苦しいことはないか?」と気遣い、何かあったら一緒に悩んでくれる。
……一日の終わり、ベッドの上でウィルフレッドは私のお腹の子に話しかける。
「早く会いたいよ。無事に産まれてきてくれ。ああでも、あまりお母さんを苦しめるんじゃないぞ」
「それ、赤ちゃんに言っても仕方ないわよ」私は笑う。
「わからないぞ。意外と優しく産まれてきてくれるかもしれない」
「そうかしら……お腹の中でけっこう暴れるし、この子。誰に似たのかしら」
「さあな」
ウィルフレッドはそっと、私のお腹を撫でた。
「できることは見つけてやっているつもりだが、それでも実際、腹の中で子を守って育てていくのはルイーズなんだな。当たり前だが……。
俺からできることは、こんなに少ないんだな……」
「優しくしてくれているのは一番ありがたいわよ」
仕事もあるので医師の助言に全部は添えない。
だけど、その日を可能な限り万全に迎えるために。
36歳にして夫婦ふたりとも初心者な私たちは、右往左往しながら努力し続けた。
***
────そしてその日は、意外とあっという間にやってきたのだった。
明け方に産気づいた私は特設の病室へと移動した。
準備万端のつもりではあったけど、いざ臨むと不安なことだらけ。
複数の医師たちとウィルフレッドが付き添う中、数分ごしに襲ってくる、そしてどんどん強まる陣痛との格闘が始まる。
少しずつ、少しずつ、赤ちゃんの通る出口が開くのを待ちながら。
そうしてさらに、一生忘れないだろう痛み。長く、長く格闘して、ようやくどうにか産むことができた時には再び夜になっていた。
「…………ルイーズ、大丈夫か!?」
「う、うん……どうにか……生きてるわ……」
「子どもは元気だぞ。男の子だ。たぶんルイーズに似ている。よくがんばった、本当に」
そう言って、ウィルフレッドは腕に抱いた子を見せてくれて、私の胸に抱かせてくれた。
「……温かいのね」
小さな身体で全身全霊の力を奮ってこの世に産まれてきてくれた赤ちゃんは、『赤子』という言葉のとおり真っ赤だった。
ウィルフレッドと私どっちに似ているかなんてまだまだわからないじゃない、なんて思いながら、それでも愛おしくてたまらない。
ぼろぼろの身体も、恐ろしい痛みと闘った時間も、妊娠中の苦労も、授かるまでの葛藤も、全部報われる気がして、知らず知らずのうちに笑みがこぼれた。
***
一緒に診断結果を聞いていたウィルフレッドが、私を無言で抱きしめてくる。
私もとっさに言葉が出てこなかった。
「本当……なんですね……」
「はい」
「本当に……」
抱きしめてくれるウィルフレッドの手に触れる。
(……私の身体の中に、もう1人いるんだ。ウィルフレッドと私の血を引く子どもが、私の中に……)
その喜びは、お腹の中から熱がじんわりと広がるような不思議な感覚だった。
子どもが欲しいと思って、実際いろいろ努力したり一般的に『子作り』と言われるような行為をしてきたわけだけど…………いざお腹に宿ると、まるで神が奇跡を与えてくれたようだ。
「…………とはいえ、医師としては無事にお生まれになるかは天命によるところと言わざるを得ません」
「は、はい」
天にも昇る心地だった私を、医師の言葉が落ち着かせた。
「ですから、これからご出産までは、大変な大仕事をなされる王妃陛下ご自身のためにお身体を整えられる時間、そしてお腹の中でお子をお育てになる時間です。
我々医師も持てるだけの知識と知恵で尽力してまいります。
どうぞ、大切に挑んでまいりましょう」
「はい!」
医師はそれからさらに注意事項を続けていく。
思ったよりたくさんあるそれをうなずきつつ聞く。
私を抱きしめるウィルフレッドの腕の熱を感じる。
「…………良かった」とぽつりと呟いた彼の言葉に、つい、涙がにじんでしまった。
***
36歳になっても初めて知ることはたくさんある。
その中でも、妊娠というのは、体験してみないとわからないことが驚くほどたくさんあった。
つわりの苦しさ。それでも赤ちゃんのために食事をとらないといけないこと。
身体の変化で足に出る痛み。
初めてお腹の赤ちゃんの動きを感じた時の喜びと、その胎動がだんだん意外と痛くなっていくこと。
何より、あらゆることに個人差が大きいこと……。
身体的には苦しいことやつらいこと、痛いことが多いみたい。
自分自身の身体のつらさは何とか耐えられても、
(これってお腹の子は大丈夫なのかしら)
という不安は常につきまとう。
ウィルフレッドももちろん初めてだから、私の身体に日々起きることに動揺することも多くて。
朝起きた時や食事の時など、ことあるごとに「大丈夫か? 何か苦しいことはないか?」と気遣い、何かあったら一緒に悩んでくれる。
……一日の終わり、ベッドの上でウィルフレッドは私のお腹の子に話しかける。
「早く会いたいよ。無事に産まれてきてくれ。ああでも、あまりお母さんを苦しめるんじゃないぞ」
「それ、赤ちゃんに言っても仕方ないわよ」私は笑う。
「わからないぞ。意外と優しく産まれてきてくれるかもしれない」
「そうかしら……お腹の中でけっこう暴れるし、この子。誰に似たのかしら」
「さあな」
ウィルフレッドはそっと、私のお腹を撫でた。
「できることは見つけてやっているつもりだが、それでも実際、腹の中で子を守って育てていくのはルイーズなんだな。当たり前だが……。
俺からできることは、こんなに少ないんだな……」
「優しくしてくれているのは一番ありがたいわよ」
仕事もあるので医師の助言に全部は添えない。
だけど、その日を可能な限り万全に迎えるために。
36歳にして夫婦ふたりとも初心者な私たちは、右往左往しながら努力し続けた。
***
────そしてその日は、意外とあっという間にやってきたのだった。
明け方に産気づいた私は特設の病室へと移動した。
準備万端のつもりではあったけど、いざ臨むと不安なことだらけ。
複数の医師たちとウィルフレッドが付き添う中、数分ごしに襲ってくる、そしてどんどん強まる陣痛との格闘が始まる。
少しずつ、少しずつ、赤ちゃんの通る出口が開くのを待ちながら。
そうしてさらに、一生忘れないだろう痛み。長く、長く格闘して、ようやくどうにか産むことができた時には再び夜になっていた。
「…………ルイーズ、大丈夫か!?」
「う、うん……どうにか……生きてるわ……」
「子どもは元気だぞ。男の子だ。たぶんルイーズに似ている。よくがんばった、本当に」
そう言って、ウィルフレッドは腕に抱いた子を見せてくれて、私の胸に抱かせてくれた。
「……温かいのね」
小さな身体で全身全霊の力を奮ってこの世に産まれてきてくれた赤ちゃんは、『赤子』という言葉のとおり真っ赤だった。
ウィルフレッドと私どっちに似ているかなんてまだまだわからないじゃない、なんて思いながら、それでも愛おしくてたまらない。
ぼろぼろの身体も、恐ろしい痛みと闘った時間も、妊娠中の苦労も、授かるまでの葛藤も、全部報われる気がして、知らず知らずのうちに笑みがこぼれた。
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