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18、ボードゥアン4世の生きた時代
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次にハインリヒ7世に会った時、彼はもっと若くなっていた。小柄な僕より背は高いが、僕と同じ14歳くらいである。彼は茶色の作業着を着ていた。
「そなたと一緒に旅をするのもこれが最後かもしれない。誰か余と同じ病にかかりながらも、崇高な生き方をした者を知らないか」
「それならばボードゥアン4世がいい」
「ボードゥアン4世とは?」
「エルサレム王国の王様だよ。若い時に病気になったけど、崇高な生き方をした王様だったみたいだ」
「ならば最後にそこに行こう」
僕はすぐに作業着に着替えて目を閉じた。
目を開けるとそこはエルサレムの王宮のようだった。たくさんの人が王様に会うために列を作って待っていた。僕たち2人は列の後ろに並んだ。
「お前たち、なんか汚い身なりの者だな。そんな恰好で王になんの用だ?」
「え、僕たちの姿が見えるの?」
「当たり前だ。おかしなやつらだ。まあせいぜい王に失礼なこと言わないでくれよ」
そして僕たちの順番が来て、王宮の中に案内された。謁見室で玉座に腰かけているボードゥアン4世は仮面を付けている。
「そなたたちは何の用でここへ来た」
「私の名前はハインリヒ、彼はフェリペでどちらも14歳です。実は私たちはわけがあって身分を明かせないのですが、王の家臣になりたいと考え、ここまで来ました」
「どのようなわけがあるか知らないが、ハインリヒよ、そなたはかなり血筋のいい者であるな。どこか王家の血を引いているとか・・・」
「は、はい」
「それからフェリペ、そなたは庶民であるが、よい教育を受けているようだ」
「なんでわかるのですか?」
「私は人を見抜く目を持っている。だからこそ13歳で王に即位してここまでやってこれた。いいだろう。家臣としてここで暮らすがいい」
そして僕たち2人は立派な部屋に案内された。
「大変なことになった!」
「え、どうして?うまく家臣になれたのに・・・」
「今まで我々の姿は狙った相手にしか見えなかった。でも今回は違った」
「そうだね」
「それだけでない。余の手を触ってみろ」
僕は差し出された手を握った。温かくて固い。今までハインリヒ7世と手をつないだ時は夢の中のようにぼんやりとした感覚だったが、今はそうではない。
「余はそなたと同じ人間になっている」
びっくりしてハインリヒ7世の体をあちこち触った。確かに今までと感触が違う。
「余が人間になったら、もう元の世界には戻れない」
「それならそれでかまわない」
「何を言っている。戻れなくなっているんだぞ!」
「僕の生きている時代は何もかも狂っている。皇帝と教皇が争って、ローマではたくさんの市民と聖職者が殺された。宗教改革が始まって、異端審問所はよりいっそう監視を厳しくした。異端審問官は財産を没収するために、改宗したユダヤ人でも異端者にして火あぶりにしている。何も信じられない時代に、僕は父さんにも捨てられて修道院で暮らしている。元の世界に戻って殺されるより、この時代で君と一緒に生きる方がずっといい」
「馬に乗ったり剣を扱うことはできるのか?」
「僕の友達、孤児院の子だけど、傭兵になりたがっているから時々護衛の人に馬術や剣術を習っている。僕も付き合いで何度か体験した。あまりうまくないけど・・・」
「それでは困る。家臣になるということは戦いにも出ることになる」
「一生懸命練習するよ。僕はこの時代で君と一緒に生きたい。偉大な王ボードゥアン4世の家臣になって。きっと元の世界にもどるよりも素晴らしい人生だよ」
そしてすぐに戦いの日がきた。僕たちは鎧兜を身に付け、馬に乗っている。『16歳の王は400人の手勢を率いて要塞に着いたが、たちまち敵に包囲されてしまった。王は馬から降り、十字架の前にひれ伏して、涙ながらに祈りをあげた』本で読んだのと同じ光景が目の前に広がっている。違うのは僕もそこにいることだ。馬のいななき、草の匂い、すぐ隣には復活して肉体を持ったハインリヒ7世がいる。僕も神に感謝の祈りを捧げた。不幸な生涯を閉じたハインリヒ7世がもう1度この世界で生きられるなら、僕はもう何も望まない。奇跡の光景の中、僕は生きている。
「おい、大丈夫か?とにかく余から離れるな。危なくなったらすぐ余が助けに行く」
「大丈夫だよ」
馬が走り出した。僕は必死でハインリヒ7世の後を追った。1本の矢が僕に向かって飛んできたが、よけることができない。もうだめだ、と思った瞬間、ハインリヒ7世が僕の馬に飛び乗った。矢は彼の背中に刺さり、僕は意識を失った。
目を開けると僕の部屋にいた。ハインリヒ7世の体はもうほとんど消えそうになっている。
「間に合ってよかった。最後の力を振り絞ってここに戻ってきた」
「どうして僕を助けたの?君ならあの時代に生きていける・・・」
「そういうわけにはいかない。そなたは余の生まれ変わりだ!」
最後の言葉を聞いた時、彼の体はもう見えなくなっていた。
「そなたと一緒に旅をするのもこれが最後かもしれない。誰か余と同じ病にかかりながらも、崇高な生き方をした者を知らないか」
「それならばボードゥアン4世がいい」
「ボードゥアン4世とは?」
「エルサレム王国の王様だよ。若い時に病気になったけど、崇高な生き方をした王様だったみたいだ」
「ならば最後にそこに行こう」
僕はすぐに作業着に着替えて目を閉じた。
目を開けるとそこはエルサレムの王宮のようだった。たくさんの人が王様に会うために列を作って待っていた。僕たち2人は列の後ろに並んだ。
「お前たち、なんか汚い身なりの者だな。そんな恰好で王になんの用だ?」
「え、僕たちの姿が見えるの?」
「当たり前だ。おかしなやつらだ。まあせいぜい王に失礼なこと言わないでくれよ」
そして僕たちの順番が来て、王宮の中に案内された。謁見室で玉座に腰かけているボードゥアン4世は仮面を付けている。
「そなたたちは何の用でここへ来た」
「私の名前はハインリヒ、彼はフェリペでどちらも14歳です。実は私たちはわけがあって身分を明かせないのですが、王の家臣になりたいと考え、ここまで来ました」
「どのようなわけがあるか知らないが、ハインリヒよ、そなたはかなり血筋のいい者であるな。どこか王家の血を引いているとか・・・」
「は、はい」
「それからフェリペ、そなたは庶民であるが、よい教育を受けているようだ」
「なんでわかるのですか?」
「私は人を見抜く目を持っている。だからこそ13歳で王に即位してここまでやってこれた。いいだろう。家臣としてここで暮らすがいい」
そして僕たち2人は立派な部屋に案内された。
「大変なことになった!」
「え、どうして?うまく家臣になれたのに・・・」
「今まで我々の姿は狙った相手にしか見えなかった。でも今回は違った」
「そうだね」
「それだけでない。余の手を触ってみろ」
僕は差し出された手を握った。温かくて固い。今までハインリヒ7世と手をつないだ時は夢の中のようにぼんやりとした感覚だったが、今はそうではない。
「余はそなたと同じ人間になっている」
びっくりしてハインリヒ7世の体をあちこち触った。確かに今までと感触が違う。
「余が人間になったら、もう元の世界には戻れない」
「それならそれでかまわない」
「何を言っている。戻れなくなっているんだぞ!」
「僕の生きている時代は何もかも狂っている。皇帝と教皇が争って、ローマではたくさんの市民と聖職者が殺された。宗教改革が始まって、異端審問所はよりいっそう監視を厳しくした。異端審問官は財産を没収するために、改宗したユダヤ人でも異端者にして火あぶりにしている。何も信じられない時代に、僕は父さんにも捨てられて修道院で暮らしている。元の世界に戻って殺されるより、この時代で君と一緒に生きる方がずっといい」
「馬に乗ったり剣を扱うことはできるのか?」
「僕の友達、孤児院の子だけど、傭兵になりたがっているから時々護衛の人に馬術や剣術を習っている。僕も付き合いで何度か体験した。あまりうまくないけど・・・」
「それでは困る。家臣になるということは戦いにも出ることになる」
「一生懸命練習するよ。僕はこの時代で君と一緒に生きたい。偉大な王ボードゥアン4世の家臣になって。きっと元の世界にもどるよりも素晴らしい人生だよ」
そしてすぐに戦いの日がきた。僕たちは鎧兜を身に付け、馬に乗っている。『16歳の王は400人の手勢を率いて要塞に着いたが、たちまち敵に包囲されてしまった。王は馬から降り、十字架の前にひれ伏して、涙ながらに祈りをあげた』本で読んだのと同じ光景が目の前に広がっている。違うのは僕もそこにいることだ。馬のいななき、草の匂い、すぐ隣には復活して肉体を持ったハインリヒ7世がいる。僕も神に感謝の祈りを捧げた。不幸な生涯を閉じたハインリヒ7世がもう1度この世界で生きられるなら、僕はもう何も望まない。奇跡の光景の中、僕は生きている。
「おい、大丈夫か?とにかく余から離れるな。危なくなったらすぐ余が助けに行く」
「大丈夫だよ」
馬が走り出した。僕は必死でハインリヒ7世の後を追った。1本の矢が僕に向かって飛んできたが、よけることができない。もうだめだ、と思った瞬間、ハインリヒ7世が僕の馬に飛び乗った。矢は彼の背中に刺さり、僕は意識を失った。
目を開けると僕の部屋にいた。ハインリヒ7世の体はもうほとんど消えそうになっている。
「間に合ってよかった。最後の力を振り絞ってここに戻ってきた」
「どうして僕を助けたの?君ならあの時代に生きていける・・・」
「そういうわけにはいかない。そなたは余の生まれ変わりだ!」
最後の言葉を聞いた時、彼の体はもう見えなくなっていた。
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