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第1章 修道院での子供時代
3、影の支配する街(1)
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私は5歳くらいから孤児院ではなくカルロス先生や修道士がいる宿舎で生活していた。カルロス先生の部屋の隣の小部屋を与えられていた。夜の祈りの後、私はカルロス先生の部屋に行き、本を読んでもらうのを楽しみにしていた。時にはそのまま眠ってしまい、先生の部屋のベッドで目を覚ますことも何度かあった。月明かりが差す部屋の中、先生は椅子に腰かけて静かに祈り続けていた。ある夜、私はいつものように先生の部屋に行った。
「ミゲル。明日の朝は早く起きて出かけなければならないから、今夜は本は読めない」
修道院の生活は朝が早い。まだ暗いうちに起きて朝の祈りをした後で部屋にこもって瞑想をする。朝日が出て朝食を食べ終わるまでは祈りの言葉以外は一言もしゃべることはできなかった。
「明日特別なミサがあるのですか?」
「いや、明日は街へ行く。夜明け前に出発するから今夜のうちに準備をしておく。この袋にお前のための着替えと水を入れたボトル、それからビスケットなどを入れておいた。そして明日の朝は僧衣ではなくこの服に着替えなさい」
「どこに行くのですか?」
「遠くの街へ行く」
遠くの街と言われても当時の私は修道院の敷地から外に出たことはないのだからどのようなところなのか想像もできなかった。ただカルロス先生の様子から、どこか特別なよい場所に行くということは理解できた。
「わかりました。おやすみなさい、カルロス先生」
「おやすみ、ミゲル」
いつも通り暗い時に起き、服を着替えた。煌びやかではないが上質の布でできた青色の服で、袖やズボンの裾に金の飾りがついていた。先生が部屋に入って来た。
「ミゲル。準備はできたか?」
「はい、先生」
「おお、ちょうどぴったりだ。よく似合う。本来ならお前はこのような服を着て大切に育てられるはずだった。いやそんなことを言っている場合ではない。馬車の用意はできている。すぐに外に出なさい」
外に出て大きな馬車に乗った。カルロス先生はいつもと同じ黒い僧衣を着ている。馬車には先に護衛の人2人が乗っていた。
御者の合図で馬車は動き出した。外はまだ暗い。修道院の敷地は広いのでしばらくはその中を馬車は走った。ようやく大きな門の前に出た。門番が門を開いて待っていて、馬車は外の世界へと走り出した。まだ暗いのでよく見えないがどうやら外の世界も修道院の中とよく似ているようだった。違うのは建物が全くなく灯りが見えないことである。やがて空の色が明るくなり、太陽が顔を出した。遠くに山が見えたがそれ以外は修道院の中と変わらない景色が広がっている。葡萄畑が広がり、緑の草原となり、そして赤茶けた大地へと見える景色は変わった。カルロス先生と護衛の人は目を閉じていた。馬車の揺れが心地よく私は少しウトウトした。ぐっすり眠ってしまったかもしれない。
「ミゲル、朝食の時間だ。水とビスケットしかないが食べなさい」
私は袋に入ったボトルとビスケットを取り出した。固いしあまりおいしくない。水を飲みながら口の中でビスケットをふやかしてようやくかみ砕くことができた。カルロス先生はいつもと同じ顔でビスケットを食べ水を飲んでいる。
馬車は単調な道を走り続け突然止まった。
「前方に馬が見えた!」
御者が大声で叫んだ。私は窓の外を見たが何も見えない。護衛の1人が馬車の外に出た。
「ミゲル、心配しなくていい。盗賊の集団ではなさそうだ。万が一そうだとしても護衛は戦場で実戦の経験がある。私たちを守る力のある者を連れてきている」
「盗賊は本当にいるのですか?」
「いないわけではない。ただ神に仕える修道士の身としてはできれば殺傷はしたくない」
「カルロス先生は・・・」
「昔は騎士になろうとして剣術を習っていた」
「どうして修道士になったのですか?」
カルロス先生は何も応えずに静かに微笑んでいた。外に行った護衛が戻ってきた。
「あたりをくまなく見てまわりましたが、怪しい者は隠れていませんでした」
「それならば出発しよう。御者に伝えてくれ」
また馬車は走り出した。どれくらいの時間馬車に乗っていたのだろうか?緑の葡萄畑が多くなり、大きな建物が見えてきた。そして馬車は城門を通って大きな街の中に入った。
街は広場を中心に聖母教会と大聖堂があった。修道院の質素な礼拝堂とは比べものにならないほど大きくて豪華な教会と大聖堂、幼い私は生まれて初めて見る街の様子にワクワクしていたに違いない。だが、後に起きた怖ろしい出来事の記憶が強すぎて、美しい街の様子やそこにいたたくさんの人のことは私の記憶から消えていた。10歳の時に見た出来事とその後の悪夢に私は生涯苦しめられることになる。
街の広場にはたくさんの人が集まっていた。火刑用の柱が4本用意され、3人の異端者が柱に縛り付けられていた。うず高く積まれた薪に火がつけられ、怖ろしい叫び声が聞こえた。異端者の体を包み込んだ炎は教会や大聖堂にまで燃え広がり、やがて街全体が炎に包まれた。黒い煙が空を覆い、あたりは闇に包まれた。再び青空が見えた時、私の周りにいた人は全員黒い影となっていた。地面に重なって倒れ、ある者はまだ影となったことも気づかずにぼんやりと歩いていた。
「ミゲル。明日の朝は早く起きて出かけなければならないから、今夜は本は読めない」
修道院の生活は朝が早い。まだ暗いうちに起きて朝の祈りをした後で部屋にこもって瞑想をする。朝日が出て朝食を食べ終わるまでは祈りの言葉以外は一言もしゃべることはできなかった。
「明日特別なミサがあるのですか?」
「いや、明日は街へ行く。夜明け前に出発するから今夜のうちに準備をしておく。この袋にお前のための着替えと水を入れたボトル、それからビスケットなどを入れておいた。そして明日の朝は僧衣ではなくこの服に着替えなさい」
「どこに行くのですか?」
「遠くの街へ行く」
遠くの街と言われても当時の私は修道院の敷地から外に出たことはないのだからどのようなところなのか想像もできなかった。ただカルロス先生の様子から、どこか特別なよい場所に行くということは理解できた。
「わかりました。おやすみなさい、カルロス先生」
「おやすみ、ミゲル」
いつも通り暗い時に起き、服を着替えた。煌びやかではないが上質の布でできた青色の服で、袖やズボンの裾に金の飾りがついていた。先生が部屋に入って来た。
「ミゲル。準備はできたか?」
「はい、先生」
「おお、ちょうどぴったりだ。よく似合う。本来ならお前はこのような服を着て大切に育てられるはずだった。いやそんなことを言っている場合ではない。馬車の用意はできている。すぐに外に出なさい」
外に出て大きな馬車に乗った。カルロス先生はいつもと同じ黒い僧衣を着ている。馬車には先に護衛の人2人が乗っていた。
御者の合図で馬車は動き出した。外はまだ暗い。修道院の敷地は広いのでしばらくはその中を馬車は走った。ようやく大きな門の前に出た。門番が門を開いて待っていて、馬車は外の世界へと走り出した。まだ暗いのでよく見えないがどうやら外の世界も修道院の中とよく似ているようだった。違うのは建物が全くなく灯りが見えないことである。やがて空の色が明るくなり、太陽が顔を出した。遠くに山が見えたがそれ以外は修道院の中と変わらない景色が広がっている。葡萄畑が広がり、緑の草原となり、そして赤茶けた大地へと見える景色は変わった。カルロス先生と護衛の人は目を閉じていた。馬車の揺れが心地よく私は少しウトウトした。ぐっすり眠ってしまったかもしれない。
「ミゲル、朝食の時間だ。水とビスケットしかないが食べなさい」
私は袋に入ったボトルとビスケットを取り出した。固いしあまりおいしくない。水を飲みながら口の中でビスケットをふやかしてようやくかみ砕くことができた。カルロス先生はいつもと同じ顔でビスケットを食べ水を飲んでいる。
馬車は単調な道を走り続け突然止まった。
「前方に馬が見えた!」
御者が大声で叫んだ。私は窓の外を見たが何も見えない。護衛の1人が馬車の外に出た。
「ミゲル、心配しなくていい。盗賊の集団ではなさそうだ。万が一そうだとしても護衛は戦場で実戦の経験がある。私たちを守る力のある者を連れてきている」
「盗賊は本当にいるのですか?」
「いないわけではない。ただ神に仕える修道士の身としてはできれば殺傷はしたくない」
「カルロス先生は・・・」
「昔は騎士になろうとして剣術を習っていた」
「どうして修道士になったのですか?」
カルロス先生は何も応えずに静かに微笑んでいた。外に行った護衛が戻ってきた。
「あたりをくまなく見てまわりましたが、怪しい者は隠れていませんでした」
「それならば出発しよう。御者に伝えてくれ」
また馬車は走り出した。どれくらいの時間馬車に乗っていたのだろうか?緑の葡萄畑が多くなり、大きな建物が見えてきた。そして馬車は城門を通って大きな街の中に入った。
街は広場を中心に聖母教会と大聖堂があった。修道院の質素な礼拝堂とは比べものにならないほど大きくて豪華な教会と大聖堂、幼い私は生まれて初めて見る街の様子にワクワクしていたに違いない。だが、後に起きた怖ろしい出来事の記憶が強すぎて、美しい街の様子やそこにいたたくさんの人のことは私の記憶から消えていた。10歳の時に見た出来事とその後の悪夢に私は生涯苦しめられることになる。
街の広場にはたくさんの人が集まっていた。火刑用の柱が4本用意され、3人の異端者が柱に縛り付けられていた。うず高く積まれた薪に火がつけられ、怖ろしい叫び声が聞こえた。異端者の体を包み込んだ炎は教会や大聖堂にまで燃え広がり、やがて街全体が炎に包まれた。黒い煙が空を覆い、あたりは闇に包まれた。再び青空が見えた時、私の周りにいた人は全員黒い影となっていた。地面に重なって倒れ、ある者はまだ影となったことも気づかずにぼんやりと歩いていた。
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