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「あっ、お、はよう…」
「……おはよう」
私の朝はこれで始まると言ってもいい。バスケ部所属の彼が朝練から帰ってくるのを見計らって、廊下に出る。そして、目が合い、朝の挨拶をするのだ。
これでノルマ達成。こうして一日に一言交わせれば、私としては何もない。クラスの人全員と言葉を一言でも交わすことを目標としている私にとって、挨拶は欠かせない。
「待って」
不意に制服の裾を引かれ、振り返る。彼とは小学校から今の高校まで一緒だ。元々、ここが離島だからということもあり、学校は殆どが見知れた顔触れである。
小学校までは私が高かったのに、いつのまにか抜かれて、見上げなければならなくなった。
その事に不便さを感じながら、首を傾げる。
「……あの、シャーペンと消しゴム二つ持ってない?忘れちゃって」
自分の顔が良いことを自覚しているのか、していないのか、さっぱり分からないけれど、この顔をされると弱い。女子の私より可愛いとか、ズルくないだろうか。
「あー、持ってるよ。ついでに赤ペン貸そうか?」
きっと、赤ペンも持ってないだろうから。ゲルインクのペンは消費早いけど、仕方ない。
「本当?ありがとう!」
ふわりという効果音が付きそうなほど眩しい笑顔。やっぱり、こういうドジやらかした彼は可愛い。
「……いや、いいよ。あとで持っていく」
「ごめん!本当にありがとう!」
そう言った彼はジャージから制服に着替えるために更衣室へと走っていった。
「ふぅ…」
シャーペン諸々を渡しに行った後、自習をするために教科書を開く。こうしていると、先生からの評価が上がるかなという、淡い期待をしている。
「ねぇねぇ、さっきのって、やっぱり好きなの?」
ニヤつきながら友人である由利が話しかけてきた。彼女は中学時代から私が彼のことを好きだと言い続けている。確かに、彼は可愛い。格好良い。性格も優しいし、私にも話しかけてくれる。
「……いや、好きな人いるじゃん」
けれど、その一言でいつも片付けてしまう。
彼の好きな人はきっと、この由利だと感じている。いつも視線を感じるし、彼女みたいな可愛い子が好きなんだろうなと。それに、あんなに素敵な人が私みたいな雑草を好きになってくれる筈がない。
「いっつも、それ言うよね。そんなに好きが漏れてるのにさぁ。好きなんでしょ?」
「うーん。…じゃあさ、授業中にチラチラその人見たり、恋愛系の小説とかアドバイスの動画とかサイトを漁って、好きな人って聞いたらその人の事がすぐに浮かぶのって、恋?」
「恋だよ!」
息巻いて、猪のように荒ぶる彼女は可愛い。…ほら、女子は何でも可愛いって思うから。彼のこともそういうのだと思ってたんだけど。…やっぱり、好きなのかな。
「……好きな人いるのに。負け確じゃん」
しかも、自分の友人とか。キツいだけ。
「でも、確かな情報はないでしょ?聞き出してみれば?」
「あはっ。面白いね。人の恋バナ好きだわ」
「誰の恋だと思ってんの」
こうして、彼への一言は挨拶以外にも。
「……おはよう」
私の朝はこれで始まると言ってもいい。バスケ部所属の彼が朝練から帰ってくるのを見計らって、廊下に出る。そして、目が合い、朝の挨拶をするのだ。
これでノルマ達成。こうして一日に一言交わせれば、私としては何もない。クラスの人全員と言葉を一言でも交わすことを目標としている私にとって、挨拶は欠かせない。
「待って」
不意に制服の裾を引かれ、振り返る。彼とは小学校から今の高校まで一緒だ。元々、ここが離島だからということもあり、学校は殆どが見知れた顔触れである。
小学校までは私が高かったのに、いつのまにか抜かれて、見上げなければならなくなった。
その事に不便さを感じながら、首を傾げる。
「……あの、シャーペンと消しゴム二つ持ってない?忘れちゃって」
自分の顔が良いことを自覚しているのか、していないのか、さっぱり分からないけれど、この顔をされると弱い。女子の私より可愛いとか、ズルくないだろうか。
「あー、持ってるよ。ついでに赤ペン貸そうか?」
きっと、赤ペンも持ってないだろうから。ゲルインクのペンは消費早いけど、仕方ない。
「本当?ありがとう!」
ふわりという効果音が付きそうなほど眩しい笑顔。やっぱり、こういうドジやらかした彼は可愛い。
「……いや、いいよ。あとで持っていく」
「ごめん!本当にありがとう!」
そう言った彼はジャージから制服に着替えるために更衣室へと走っていった。
「ふぅ…」
シャーペン諸々を渡しに行った後、自習をするために教科書を開く。こうしていると、先生からの評価が上がるかなという、淡い期待をしている。
「ねぇねぇ、さっきのって、やっぱり好きなの?」
ニヤつきながら友人である由利が話しかけてきた。彼女は中学時代から私が彼のことを好きだと言い続けている。確かに、彼は可愛い。格好良い。性格も優しいし、私にも話しかけてくれる。
「……いや、好きな人いるじゃん」
けれど、その一言でいつも片付けてしまう。
彼の好きな人はきっと、この由利だと感じている。いつも視線を感じるし、彼女みたいな可愛い子が好きなんだろうなと。それに、あんなに素敵な人が私みたいな雑草を好きになってくれる筈がない。
「いっつも、それ言うよね。そんなに好きが漏れてるのにさぁ。好きなんでしょ?」
「うーん。…じゃあさ、授業中にチラチラその人見たり、恋愛系の小説とかアドバイスの動画とかサイトを漁って、好きな人って聞いたらその人の事がすぐに浮かぶのって、恋?」
「恋だよ!」
息巻いて、猪のように荒ぶる彼女は可愛い。…ほら、女子は何でも可愛いって思うから。彼のこともそういうのだと思ってたんだけど。…やっぱり、好きなのかな。
「……好きな人いるのに。負け確じゃん」
しかも、自分の友人とか。キツいだけ。
「でも、確かな情報はないでしょ?聞き出してみれば?」
「あはっ。面白いね。人の恋バナ好きだわ」
「誰の恋だと思ってんの」
こうして、彼への一言は挨拶以外にも。
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