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第2章 地獄編 第1階層 鬼神島〜運命の糸編 まで
第4話 葛藤
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葛藤
村に着くと男は俺たちにこう言った。
「あまり大きな村ではありませんが地獄で出会った人たちと協力して村を構築しているのです。あと私は嬉しいことに生前から共にしている家族と暮らしています。これから私の家に連れて行きますね。きっと家族も歓迎してくれます」
そう言うと、男は彼の家まで案内してくれた。村の中には人とは思えない姿をした生き物がたくさんいた。そんな環境下で、人間であるこの人はよく今まで共存できたと思う。春子さんならいけそうだが、俺だったら多分一日で殺されているかもしれない……。春子さんはというと、依然としてその長い前髪で顔を隠している。本人のプライバシーだから仕方ないけどもう少し顔を見せてくれると嬉しいなって思ってしまう。だが俺も生前、コミュ障で大変な思いをしたから前髪で顔を隠すという気持ちは少しわかる。
俺も中学、高校時代、、、そうだったから……
そんなことを考えている間に遂に男の人の家にたどり着いた。「お二人とも長旅お疲れ様でした。ここが我が家です。どうぞお入りください」そう言って男の人は俺たちを彼の家に入れてくれた。
家にお邪魔するとそこには衝撃的な光景が広がっていた。
家の中には11,12歳ぐらいの少年がいた。だがただの少年ではない。なんとお尻に尻尾があるのだ。あと、頭に狐の耳が付いている。この少年はいわゆる妖狐と呼ばれる生き物だろうか?
「すいません。申し遅れました。私の名前は
ジェバラと言います。こっちは息子のムスカと言います。私たちは狐族(きつねぞく)です」
え?………
地獄とは一体どうなっているんだ? まともな人間がいないのだろうか? 開始早々、鬼に出会ってその次はヤバい幽霊。そして今度は……狐族? はい? 俺の頭はパンクしそうだった。少しばかりでもこの男の人を人間だと認識していたのは完全に俺の思い込みだったのだ……
そのあと、ジェバラさんは奥さんと思われる女の人の写真が置いてある仏壇に手を合わせて1礼すると、俺と春子さんに美味しいお茶を持ってきてくれた。
それからというものジェバラさんは俺たちに色々と教えてくれた。まず狐族というのは妖怪の一種で、人よりも遥かに脚力が優れているらしい。あと観察眼を持っており数キロまでなら観察できるとのこと。数年前からこの村で他の妖怪達と仲良くやっていたらしいのだが、ほんの1年前にあの鬼達が襲ってきた。ひどいことに村の人数は半分にまで減り、今はなんとか他の妖怪の気消術(きけしじゅつ)で村の気配を消し、鬼から逃げているがそれも時間の問題。それらを解決するためにジェルバさん率いる戦闘隊員らは鬼の本拠地"鬼神島(おにがみしま)"に行くも全滅。ジェルバさんも深傷を負い、絶体絶命の時に俺たちと出会ったという状況だった。
「そこで春樹様と春子様にお願いがあるのですが………」
ジェバラさんは急に頭を下げた。
そして大きな声で
「どうか、、、この村をお救い願えないでしょうか? このままいけばこの村は確実に鬼によって破滅します。お二人には多大なる迷惑ですが、私と一緒に鬼神島に行って、鬼を倒してくれないでしょうか? もうあなた方しかいないのです!! お願い、お願い、お願いたします」それはまるで借金取りに追われた誰かに似ていた。そして俺が生前、受験に敗れて死に幸を祈る昔の自分にもどこか通ずるものがあった。
すると突然、春子さんが急に喋り出した。
「私がジェバラさんに案内されて通ってきた村の道は、幸せな雰囲気が漂っていました。まさに平和そのものでした。もしそれをあの鬼達が壊すというのなら私は許しません!!絶対に!!」
春子さんはいつもの優しい控えめな性格とは違い、ものすごい気迫で満ちていた。俺もその気迫に圧倒され
「俺も絶対に許せないです。是非鬼を倒しましょう」と言ってしまった。だが、俺はただの人間だから春子さんみたいに強くない。だから少し鬼は怖いし、あと今まで春子さんの力ばっか頼ってきた俺に何かやれることはあるのか? と考えると即答しづらかったら。
そんな俺の弱気な心を見透かしたかのようにジェバラの隣にいた少年ムスカは俺にこう言った。
「ねぇ 父さん。こんなやつに頭なんて下げんなよ。あのお姉ちゃんは強そうだけど、この男はただ人間だよ。こんな部外者に頼らないで俺が全部ぶっ倒してやるよ!!」
「何を言ってるのムスカ。お前はまだ子供だろ。お前は何も心配しなくていいから」
「は?父さん、俺を子供扱いしてるの? 馬鹿にしやがって、生きてる年数はこの男よりも長いよ」
「すぐ屁理屈言わないの!!」
「うっせぇなぁぁぁ。もういいよ!!」
ムスカ少年は怒鳴った口調でそう言うと家を飛び出してしまった。
「すいません。うちのムスカが……」ジェバラは申し訳なさそうに言った。
それから俺たちはジェルバさんの家でご飯を食べて風呂に入り、久々にベットで寝た。俺はその間、ずっと、自分の非力について考えていた。シェルジャが俺に言っていたことが今になってようやく理解できた。自分はただの人間で何か術を使えるわけでもなければ高くジャンプすることだってできない。いつの時代もどんな場所もそこで必要される力がなければ生きていけない。価値がない。これは現実世界でも地獄でも同じだった……
「なんて甘いことを言っていたのだろう。部外者かぁ………確かにそうだわ………」そんな戯言をぶつぶつとベットの中で言っていると急にジェルバさんが俺と春子さんの元へやってきた。
ジェルバさんは俺たちに泣きながら言った。
「息子が……ムスカがさらわれてしまいました。 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
なんとムスカ少年は鬼に連れて行かれてしまったのだった………
村に着くと男は俺たちにこう言った。
「あまり大きな村ではありませんが地獄で出会った人たちと協力して村を構築しているのです。あと私は嬉しいことに生前から共にしている家族と暮らしています。これから私の家に連れて行きますね。きっと家族も歓迎してくれます」
そう言うと、男は彼の家まで案内してくれた。村の中には人とは思えない姿をした生き物がたくさんいた。そんな環境下で、人間であるこの人はよく今まで共存できたと思う。春子さんならいけそうだが、俺だったら多分一日で殺されているかもしれない……。春子さんはというと、依然としてその長い前髪で顔を隠している。本人のプライバシーだから仕方ないけどもう少し顔を見せてくれると嬉しいなって思ってしまう。だが俺も生前、コミュ障で大変な思いをしたから前髪で顔を隠すという気持ちは少しわかる。
俺も中学、高校時代、、、そうだったから……
そんなことを考えている間に遂に男の人の家にたどり着いた。「お二人とも長旅お疲れ様でした。ここが我が家です。どうぞお入りください」そう言って男の人は俺たちを彼の家に入れてくれた。
家にお邪魔するとそこには衝撃的な光景が広がっていた。
家の中には11,12歳ぐらいの少年がいた。だがただの少年ではない。なんとお尻に尻尾があるのだ。あと、頭に狐の耳が付いている。この少年はいわゆる妖狐と呼ばれる生き物だろうか?
「すいません。申し遅れました。私の名前は
ジェバラと言います。こっちは息子のムスカと言います。私たちは狐族(きつねぞく)です」
え?………
地獄とは一体どうなっているんだ? まともな人間がいないのだろうか? 開始早々、鬼に出会ってその次はヤバい幽霊。そして今度は……狐族? はい? 俺の頭はパンクしそうだった。少しばかりでもこの男の人を人間だと認識していたのは完全に俺の思い込みだったのだ……
そのあと、ジェバラさんは奥さんと思われる女の人の写真が置いてある仏壇に手を合わせて1礼すると、俺と春子さんに美味しいお茶を持ってきてくれた。
それからというものジェバラさんは俺たちに色々と教えてくれた。まず狐族というのは妖怪の一種で、人よりも遥かに脚力が優れているらしい。あと観察眼を持っており数キロまでなら観察できるとのこと。数年前からこの村で他の妖怪達と仲良くやっていたらしいのだが、ほんの1年前にあの鬼達が襲ってきた。ひどいことに村の人数は半分にまで減り、今はなんとか他の妖怪の気消術(きけしじゅつ)で村の気配を消し、鬼から逃げているがそれも時間の問題。それらを解決するためにジェルバさん率いる戦闘隊員らは鬼の本拠地"鬼神島(おにがみしま)"に行くも全滅。ジェルバさんも深傷を負い、絶体絶命の時に俺たちと出会ったという状況だった。
「そこで春樹様と春子様にお願いがあるのですが………」
ジェバラさんは急に頭を下げた。
そして大きな声で
「どうか、、、この村をお救い願えないでしょうか? このままいけばこの村は確実に鬼によって破滅します。お二人には多大なる迷惑ですが、私と一緒に鬼神島に行って、鬼を倒してくれないでしょうか? もうあなた方しかいないのです!! お願い、お願い、お願いたします」それはまるで借金取りに追われた誰かに似ていた。そして俺が生前、受験に敗れて死に幸を祈る昔の自分にもどこか通ずるものがあった。
すると突然、春子さんが急に喋り出した。
「私がジェバラさんに案内されて通ってきた村の道は、幸せな雰囲気が漂っていました。まさに平和そのものでした。もしそれをあの鬼達が壊すというのなら私は許しません!!絶対に!!」
春子さんはいつもの優しい控えめな性格とは違い、ものすごい気迫で満ちていた。俺もその気迫に圧倒され
「俺も絶対に許せないです。是非鬼を倒しましょう」と言ってしまった。だが、俺はただの人間だから春子さんみたいに強くない。だから少し鬼は怖いし、あと今まで春子さんの力ばっか頼ってきた俺に何かやれることはあるのか? と考えると即答しづらかったら。
そんな俺の弱気な心を見透かしたかのようにジェバラの隣にいた少年ムスカは俺にこう言った。
「ねぇ 父さん。こんなやつに頭なんて下げんなよ。あのお姉ちゃんは強そうだけど、この男はただ人間だよ。こんな部外者に頼らないで俺が全部ぶっ倒してやるよ!!」
「何を言ってるのムスカ。お前はまだ子供だろ。お前は何も心配しなくていいから」
「は?父さん、俺を子供扱いしてるの? 馬鹿にしやがって、生きてる年数はこの男よりも長いよ」
「すぐ屁理屈言わないの!!」
「うっせぇなぁぁぁ。もういいよ!!」
ムスカ少年は怒鳴った口調でそう言うと家を飛び出してしまった。
「すいません。うちのムスカが……」ジェバラは申し訳なさそうに言った。
それから俺たちはジェルバさんの家でご飯を食べて風呂に入り、久々にベットで寝た。俺はその間、ずっと、自分の非力について考えていた。シェルジャが俺に言っていたことが今になってようやく理解できた。自分はただの人間で何か術を使えるわけでもなければ高くジャンプすることだってできない。いつの時代もどんな場所もそこで必要される力がなければ生きていけない。価値がない。これは現実世界でも地獄でも同じだった……
「なんて甘いことを言っていたのだろう。部外者かぁ………確かにそうだわ………」そんな戯言をぶつぶつとベットの中で言っていると急にジェルバさんが俺と春子さんの元へやってきた。
ジェルバさんは俺たちに泣きながら言った。
「息子が……ムスカがさらわれてしまいました。 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
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