18 / 81
第一章 地上編
第十七話 竜を仲間に
しおりを挟む
竜の拳を受け止めた剣が、日の光を反射し輝く。エメは、ギリギリのところで間に合った。
「お前は、あのときにいたゴブリンか。良く私の一撃を受け止めたな」
「こんなもん、本気じゃないだろ? もっと本気で来い!」
煽られた竜は、顔を真っ赤にし、無言で拳を振り下ろす。それをまた剣で受け止める。ガキンと大きな音がした。
「ふー、ふー。何故だ。何故剣ごとき叩き壊せないんだ」
「そっちの攻撃は終わりか? なら、俺からも攻撃してやる」
エメは剣で拳を振り払い、一瞬で右目を刺した。
「ぐぁぁ!」
「へっ、どうだ、これが俺の力だ」
エメはドヤ顔をする。しかし、すぐにまた拳が振り下ろされた。ギリギリのところで、剣で受け止めた。
「まだ片目が残ってる。前のように撤退するつもりはないぞ」
(こいつ、やっと本気を出してきたな)
右目を刺された途端、急に力強くなる。竜は必死なようだ。拳をすぐに離した竜は後ろを向き、尻尾で百烈攻撃をしてきた。オークたちが曲がり、なんとか避けた。
「ちっ、これでもダメか。ならばこれでどうだ!」
竜は羽ばたき風を発生させた。オークたちは必死に踏ん張るが、倒れてしまいそうになる。
「うっ、なんて強い風だ……」
「フハハハ! そのまま倒れて死んでしまえ!」
「お前たち、頑張れ!」
エメは下のオークたちを励ます。その効果か、向かい風に必死に逆らい元の体勢に戻っていく。それを見た竜はさらに羽ばたく。そんなイタチごっこが続き、竜はついに最大の風を発生させた。
「これを耐えられた奴は今まで一人もいない。終わりだ」
「終わりだと? 終わるのは、お前の方だ!」
「強がりだな。もはや元の形には戻れないというのに」
「お前、羽ばたくことばっかに集中してたよな。ちょっと上を見てみろよ」
「上?」
竜が上を見上げると、剣先を下に向けたラルドが降ってきた。
「な!」
「竜、トドメだ! その左目、もらったぁ!」
グサッという音とともに、竜の左目に剣が刺さった。
「ギャアアアア!」
両目を失った竜は、ゆっくりと落下していった。ラルドとエメ、オークたちも下へ戻った。目を塞ぎもがき苦しむ竜にラルドは話しかける。
「竜、まだやるか?」
「み、見事だ……。この私がここまで打ちのめされるとは。今回は白旗をあげよう」
「大人しく僕にテイムされるか?」
「仕方あるまい。ラルド、どこにいる」
「お前の前だ」
「今の私は目が見えない。手を前に出すから、手を合わせてくれ」
竜は目を塞いでいた手の片方を、前に出した。ラルドはそれに手をかざす。すると、ラルドの手の甲が輝き、竜の手の甲に紋章がついた。
「竜、名前はあるのか」
「私の名前か……。人間どもからはコクリュウと呼ばれていたな」
「自分で決めた名前は無いのか」
「そうだな。テイマーなら私に良い名前を与えてくれないか」
「うーん……ニキス、なんてのはどうだ」
「ニキスか。悪くないな。これからはそう名乗らせてもらおう。とにかく今は、目が回復するまで休ませていてくれ」
「わかった。いつ頃完治するんだ?」
「明日までには治っているだろう」
「じゃあ、また明日、ここに来るよ。目が治ったら、連れていってもらいたい場所があるんだ」
「スカイ王国か」
「ああ、そうだ。それじゃあ、明日はよろしくな」
一行はその場を後にした。と思ったら、ラルドはルビーに呼び止められた。
「ラルド、話がある。お前だけ今日一日ここにいてもらいたい」
「話ってなんだ?」
「まあ、家で話そう。勇者どもは、さっさと帰ってしまえ」
「す、すみません。今すぐ出ていきます」
ラルドとエメを除いた三人は、ベッサへ戻っていった。
ラルドとエメは、久しぶりに家へ帰ってきた。
「ただいま、で、良いのかな」
「あら、おかえりなさい。外が騒がしいと思ったら、あなたたちだったのね」
「母さん、僕は竜と戦ったんだ。うるさかったでしょ。ごめんなさい」
「まあ、竜と戦っていたのね。それじゃあいっぱい動いただろうし、お腹もすいたでしょ。何か作ってあげるわ」
「母さん、ありがとう。部屋の中で待っておくよ」
「今日は特別な日だから、奮発してたくさん作っちゃうわよ!」
ラルドとエメは、部屋の中に入った。数日間空けておいたのに、ほこり一つない。
「父さんか母さんがいつも掃除してくれてたんだな」
「飯のときに感謝しとけよ」
「わかってるって」
二人は空き時間に何をするか話し合っていた。
「魔王スゴロクでもやって、時間潰すか?」
「いや、僕はこれまでの反省会をしたい。僕は反省しなきゃいけないことがある」
「本を使っちまったことか。あるもんなんだから使った方が良いだろう」
「それはそうなんだけどな……」
ラルドは本を取り出す。
「やっぱり誰かを頼らないといけない自分を変えたいんだ。この本に頼りっきりはダメだ」
「だからって、今その本を捨てるには勇気がいるだろ。最弱テイマーって言われるのがそんなに嫌なのか?」
「嫌だ。でも、確かにこの本を捨てるのには勇気がいる。ジレンマ状態だ」
「まあ、そんな暗いことは忘れて、魔王スゴロクを楽しもうぜ。弱い弱い言いすぎると逆にウザいからな」
「魔王スゴロクか。……そうだな。やろう」
(はー、こいつの根暗っぷりをなんとか出来ないもんかな)
二人は魔王スゴロクを始めた。
「よっしゃー! 俺の勝ちだ」
「うーん、完敗だな。魔王の元にすらたどり着けなかった」
「時間は、もうないな。それじゃ、畳んじまおう」
エメは魔王スゴロクを畳み、ラルドのカバンに入れた。二人は食卓へ向かう。
「あら、二人とも、今日は早いわね。もう少しで出来あがるから、座って待ってて」
「母さん、部屋の掃除してくれてありがとう」
「なんてことはないわよ」
二人は座り、夕飯を待っている。ルビーが帰ってくる頃、夕飯が出来あがった。
「久しぶりに四人での食事ね」
「どうせならずっとこう食事したいんだがな」
ルビーはラルドを見つめる。
「ごめん父さん、僕、どうしても姉さんを見つけたいんだ」
「いや、気にしてない。竜を倒せるほど一丁前なら、簡単には死なないだろうからな。旅を続けるが良い」
「え、本当に良いのか?」
「もちろん。だが、勇者どもには気をつけろよ。いつお前を裏切るかわからないからな」
「父さんはなんでそんなにレイフ様たちを嫌ってるんだ」
「カタラから聞いたのさ。あんな下品な考え方してるのは一般人だけだと思ってたから衝撃的だった」
「そう。じゃあ、気をつけるよ」
「はーいおまたせー。今日の夕飯は大蛇の刺身よ」
「大蛇の肉、まだ余ってたんだ」
「今日のためにずっと保存していたのよ。さあみんな、食べましょ」
いただきますをして、早速食べ始める。
「久しぶりの母さんのご飯、美味しいよ」
「あら、ありがとう」
あっという間に食べ尽くしたラルドとエメはごちそうさまをした。その後すぐにキッチンへ食器を持っていった。
(そういえば、母さんは水の呪文で食器を洗っていたよな……僕にも水が出せるんじゃないか?)
「おいラルド、どうした?」
「いや、ちょっと水の呪文が使えるか試してみたくなってな。食器を洗ってみる」
「水の魔導機がこの村にあるのか」
「地図を見てみよう。……うーん、ここに届く範囲で水の呪文は使えないようだ。でも、もしそうだとしたら、母さんはどうやって食器を洗ってるんだ?」
「井戸から持ってきた水を使ってるだけなんじゃないのか。呪文とかじゃなくて」
「ああ、そうか。てっきり僕は母さんが呪文を使ってるもんだと思ってたよ」
「さあ、今日はもうさっさと寝ちまおうぜ」
「そうだな。明日にはいよいよスカイに行けるから、楽しみだ」
「果たしてサフィアはいるのかどうか」
二人は部屋へ向かい、あかりを消して横になって、そのまま眠りについた。
「お前は、あのときにいたゴブリンか。良く私の一撃を受け止めたな」
「こんなもん、本気じゃないだろ? もっと本気で来い!」
煽られた竜は、顔を真っ赤にし、無言で拳を振り下ろす。それをまた剣で受け止める。ガキンと大きな音がした。
「ふー、ふー。何故だ。何故剣ごとき叩き壊せないんだ」
「そっちの攻撃は終わりか? なら、俺からも攻撃してやる」
エメは剣で拳を振り払い、一瞬で右目を刺した。
「ぐぁぁ!」
「へっ、どうだ、これが俺の力だ」
エメはドヤ顔をする。しかし、すぐにまた拳が振り下ろされた。ギリギリのところで、剣で受け止めた。
「まだ片目が残ってる。前のように撤退するつもりはないぞ」
(こいつ、やっと本気を出してきたな)
右目を刺された途端、急に力強くなる。竜は必死なようだ。拳をすぐに離した竜は後ろを向き、尻尾で百烈攻撃をしてきた。オークたちが曲がり、なんとか避けた。
「ちっ、これでもダメか。ならばこれでどうだ!」
竜は羽ばたき風を発生させた。オークたちは必死に踏ん張るが、倒れてしまいそうになる。
「うっ、なんて強い風だ……」
「フハハハ! そのまま倒れて死んでしまえ!」
「お前たち、頑張れ!」
エメは下のオークたちを励ます。その効果か、向かい風に必死に逆らい元の体勢に戻っていく。それを見た竜はさらに羽ばたく。そんなイタチごっこが続き、竜はついに最大の風を発生させた。
「これを耐えられた奴は今まで一人もいない。終わりだ」
「終わりだと? 終わるのは、お前の方だ!」
「強がりだな。もはや元の形には戻れないというのに」
「お前、羽ばたくことばっかに集中してたよな。ちょっと上を見てみろよ」
「上?」
竜が上を見上げると、剣先を下に向けたラルドが降ってきた。
「な!」
「竜、トドメだ! その左目、もらったぁ!」
グサッという音とともに、竜の左目に剣が刺さった。
「ギャアアアア!」
両目を失った竜は、ゆっくりと落下していった。ラルドとエメ、オークたちも下へ戻った。目を塞ぎもがき苦しむ竜にラルドは話しかける。
「竜、まだやるか?」
「み、見事だ……。この私がここまで打ちのめされるとは。今回は白旗をあげよう」
「大人しく僕にテイムされるか?」
「仕方あるまい。ラルド、どこにいる」
「お前の前だ」
「今の私は目が見えない。手を前に出すから、手を合わせてくれ」
竜は目を塞いでいた手の片方を、前に出した。ラルドはそれに手をかざす。すると、ラルドの手の甲が輝き、竜の手の甲に紋章がついた。
「竜、名前はあるのか」
「私の名前か……。人間どもからはコクリュウと呼ばれていたな」
「自分で決めた名前は無いのか」
「そうだな。テイマーなら私に良い名前を与えてくれないか」
「うーん……ニキス、なんてのはどうだ」
「ニキスか。悪くないな。これからはそう名乗らせてもらおう。とにかく今は、目が回復するまで休ませていてくれ」
「わかった。いつ頃完治するんだ?」
「明日までには治っているだろう」
「じゃあ、また明日、ここに来るよ。目が治ったら、連れていってもらいたい場所があるんだ」
「スカイ王国か」
「ああ、そうだ。それじゃあ、明日はよろしくな」
一行はその場を後にした。と思ったら、ラルドはルビーに呼び止められた。
「ラルド、話がある。お前だけ今日一日ここにいてもらいたい」
「話ってなんだ?」
「まあ、家で話そう。勇者どもは、さっさと帰ってしまえ」
「す、すみません。今すぐ出ていきます」
ラルドとエメを除いた三人は、ベッサへ戻っていった。
ラルドとエメは、久しぶりに家へ帰ってきた。
「ただいま、で、良いのかな」
「あら、おかえりなさい。外が騒がしいと思ったら、あなたたちだったのね」
「母さん、僕は竜と戦ったんだ。うるさかったでしょ。ごめんなさい」
「まあ、竜と戦っていたのね。それじゃあいっぱい動いただろうし、お腹もすいたでしょ。何か作ってあげるわ」
「母さん、ありがとう。部屋の中で待っておくよ」
「今日は特別な日だから、奮発してたくさん作っちゃうわよ!」
ラルドとエメは、部屋の中に入った。数日間空けておいたのに、ほこり一つない。
「父さんか母さんがいつも掃除してくれてたんだな」
「飯のときに感謝しとけよ」
「わかってるって」
二人は空き時間に何をするか話し合っていた。
「魔王スゴロクでもやって、時間潰すか?」
「いや、僕はこれまでの反省会をしたい。僕は反省しなきゃいけないことがある」
「本を使っちまったことか。あるもんなんだから使った方が良いだろう」
「それはそうなんだけどな……」
ラルドは本を取り出す。
「やっぱり誰かを頼らないといけない自分を変えたいんだ。この本に頼りっきりはダメだ」
「だからって、今その本を捨てるには勇気がいるだろ。最弱テイマーって言われるのがそんなに嫌なのか?」
「嫌だ。でも、確かにこの本を捨てるのには勇気がいる。ジレンマ状態だ」
「まあ、そんな暗いことは忘れて、魔王スゴロクを楽しもうぜ。弱い弱い言いすぎると逆にウザいからな」
「魔王スゴロクか。……そうだな。やろう」
(はー、こいつの根暗っぷりをなんとか出来ないもんかな)
二人は魔王スゴロクを始めた。
「よっしゃー! 俺の勝ちだ」
「うーん、完敗だな。魔王の元にすらたどり着けなかった」
「時間は、もうないな。それじゃ、畳んじまおう」
エメは魔王スゴロクを畳み、ラルドのカバンに入れた。二人は食卓へ向かう。
「あら、二人とも、今日は早いわね。もう少しで出来あがるから、座って待ってて」
「母さん、部屋の掃除してくれてありがとう」
「なんてことはないわよ」
二人は座り、夕飯を待っている。ルビーが帰ってくる頃、夕飯が出来あがった。
「久しぶりに四人での食事ね」
「どうせならずっとこう食事したいんだがな」
ルビーはラルドを見つめる。
「ごめん父さん、僕、どうしても姉さんを見つけたいんだ」
「いや、気にしてない。竜を倒せるほど一丁前なら、簡単には死なないだろうからな。旅を続けるが良い」
「え、本当に良いのか?」
「もちろん。だが、勇者どもには気をつけろよ。いつお前を裏切るかわからないからな」
「父さんはなんでそんなにレイフ様たちを嫌ってるんだ」
「カタラから聞いたのさ。あんな下品な考え方してるのは一般人だけだと思ってたから衝撃的だった」
「そう。じゃあ、気をつけるよ」
「はーいおまたせー。今日の夕飯は大蛇の刺身よ」
「大蛇の肉、まだ余ってたんだ」
「今日のためにずっと保存していたのよ。さあみんな、食べましょ」
いただきますをして、早速食べ始める。
「久しぶりの母さんのご飯、美味しいよ」
「あら、ありがとう」
あっという間に食べ尽くしたラルドとエメはごちそうさまをした。その後すぐにキッチンへ食器を持っていった。
(そういえば、母さんは水の呪文で食器を洗っていたよな……僕にも水が出せるんじゃないか?)
「おいラルド、どうした?」
「いや、ちょっと水の呪文が使えるか試してみたくなってな。食器を洗ってみる」
「水の魔導機がこの村にあるのか」
「地図を見てみよう。……うーん、ここに届く範囲で水の呪文は使えないようだ。でも、もしそうだとしたら、母さんはどうやって食器を洗ってるんだ?」
「井戸から持ってきた水を使ってるだけなんじゃないのか。呪文とかじゃなくて」
「ああ、そうか。てっきり僕は母さんが呪文を使ってるもんだと思ってたよ」
「さあ、今日はもうさっさと寝ちまおうぜ」
「そうだな。明日にはいよいよスカイに行けるから、楽しみだ」
「果たしてサフィアはいるのかどうか」
二人は部屋へ向かい、あかりを消して横になって、そのまま眠りについた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
54
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる